残り何話程度になるかわかりませんが、最後までお付き合いください。
EP185.氷の女王
空に登りながら、ゆっくりと目標まで船は動き出した。
中には私物と呼べるものはほとんど残っておらず、すでに運び出されている。移動させることが難しかった、英の育てていた木のみが生活感を残している。
そして、IS学園からすぐに移動しようとして――船体が、凍り付いた。
「なっ!? 何が起こっているんだ!?」
「9時の方向……オーバーロードがいます!」
巨大な氷の腕が彼らの行く手を阻もうとしているのだ。ここまで強力な氷の力を持つオーバーロードなど一人しか存在しない。
その結論に達するや否や、英はすぐさま外に出ようとして――
「おっと、俺に任せてもらうぜ」
「信二!? だけど、アイツは別格だぞ!」
「だからこそだよ。お前はマルスとの戦いのために体力を温存するべきだ。露払いは任せろ」
――トンッ、と軽く英の体を押して、その反動で自分は外へと飛び出す。
まだ空中だが、この場所で自分は戦っていた。飛行能力を持たせるために開発されたロックシード。信二が一番よく使っているのは、このロックシードだ。
「変身!」
「一人だけか――舐めるなよ!!」
女性型のオーバーロード――鎧をまとった姿は、まるで騎士のようだ――シャーベット。
氷の雨が降るように信二の体を襲う。
逃げ場がない状況で、絶体絶命ともとれるが――それでも信二は全てを見きって見せた。
「なに!?」
「空中戦で一番怖いのは、前から迫ってくるものとの激突! だったら、こういう攻撃ぐらい躱しきってみせるさ!!」
【ソーダ! ココナッツエナジーアームズ!】
翼を広げるように――天を舞う仮面ライダーが再びその姿を現した。
早々に最後までついていけなくなってしまったが――
「みんなの邪魔はさせないさ。それに、お前をこのままにしておくと多くの人を巻き込みかねない!」
「この――私を舐めるなよ、人間!!」
「そっちこそ、人間を舐めるなよ!」
シャーベットは氷で作った翼で、信二はココナッツエナジーアームズの翼でそれぞれ空を翔ける。周囲に氷の弾丸を展開し、面制圧と言う意味でなら圧倒的に有利であるシャーベット。
しかし信二も最低限の動きと、ソニックアローをぶつけることで氷の軌道をずらして安全地帯を作り出して見せる。互いに持てる技量をすべて注いで隙を伺っているのだ。
(能力も強さも、応用性の高さもアイツの方が上だ……俺が秀でていることなんて、空中戦になれていることだけ。だけど、その引き出しだけで戦わなくちゃならない――やって見せろよ中沢信二! 惚れた女が下にいるんだろ、ここで勝たなくてどうするよ!!)
翼を体に巻き付けて弾丸のような姿になり、一気に加速する。
【ココナッツエナジースパーキング!】
体を回転させることで更に威力を増加し、右足にすべてのエネルギーを集中させていく。
オーバーロードといえど倒せないわけではない。必ず突破口はあるのだ。
「――――ッ!?」
「スピードは、俺の方が上だったみたいだなッ!!」
「この――――アアアアア!?」
流星のように、光輝きながらの一撃はオーバーロードと言えど大きなダメージを残したことだろう。
精神的にも摩耗させることができるであろう一撃は――この女でなければそのままトドメとなっていた。
「舐めるなと言ったはずだ!! 私は、生半可な気持ちでオーバーロードになったわけではないッ!!」
まるで、星の爆発――氷がはじけ飛ぶように爆発し、信二ごと周囲の空間を吹き飛ばしてしまう。
流石にその一撃は防ぐことができない――いや、全ての力を一撃に籠めていたせいで信二はグルグルと体を回転させて地面に激突した。受け身も取れずに、体中が悲鳴を上げ続けて。
「あああああああ!?」
「ハァ……ハァ……何の才能もないようだがその胆力と努力は評価しよう…………私に、この姿になるほど追いつめたのだから」
増幅された一撃は、硬度に自信のあるオーバーロードと言えど危なかっただろう。それほどまでに、強力な一撃だったのだ。
だが、それを防ぐことができた理由はただ一つ。硬さが足りないのなら衝撃で相殺すればいい。
体の内部を爆発させるようにエネルギーの解放を行い、その姿を変貌させた。その時の余波を使って防いだのだ。しかし、それも諸刃の剣。
「こちらも体力は残り少ないが――先ほどまでの私と思うなよ」
「ッ……俺、だって…………負けるつもりなんかねえよ」
そうは言うものの、体はふらふらで目の焦点もずれてしまっている。
シャーベットの姿は、騎士のような姿から変貌を遂げて細身で力などないようにも見える。体も透き通るような見た目で、氷のマネキンと言った方がいいとさえ思うほどだが……周囲のものが凍り続けているのを見て、彼女を危険と思わない人間などいないだろう。
それに、細身であることがイコール弱いとは限らない。
「今の私に、ついてこれるか?」
「ついていって――見せるさ!!」
火花を散らしながら二人の拳はぶつかり合う。まずは牽制、続いて手に持った武器がぶつかり合うが――ソニックアローはまるでバターのように切り裂かれてしまった。
驚く暇もなく、すぐに後方に下がるものの鎧も少し斬られてしまう。エネルギーがその部位から漏れ出して力が抜けそうになるがどんな能力か見極めないといけない――意識を強く保って信二が見たものは、氷の刀。
それが、超高速で振動しているではないか。光を乱反射して目に痛いほどに。
「……振動で威力を上げているってところか…………つーか氷で自作できるってチート過ぎるだろ」
「蜂矢英の倒した須郷猛はもっと恐ろしいことができたわよ。アイツは色々と別格だったんだけどね……まあ、今となっちゃ詮無きこと――――ここで死んでもらうわよ」
眼前に迫る氷の刃、だけど信二だってこの場で死ぬことはできない。死ねない、死にたくない。
(なんつーかさ……まだ何も言っていないんだよ。全部終わったら気持ちを伝えようかと思っていたけど……やっぱ言っておくべきだったかなぁ)
彼女を好きになった理由がこれと言ってあるわけではない。頑張る彼女を見ていたら、いつの間にかという感じだった。
凛々しいという言葉が似合うが、どこかぬけているところがあったり、よく見ると愛嬌のある人だと気づいたときにウは目が離せなくなっていた。
彼女の周囲が劇的に変化していく中、自分も彼女の力になりたいのになれなかったのが歯がゆいと感じたことも多い。
力を手に入れて、彼女が見ていないとしても何かできているということが自分に自信を与えてくれた。
彼女が見ていないとしても――この思いがある限り、膝をつくことはない。
「オオオオオオオオオオオ!!」
「コイツ――だが、真正面からじゃ――――!?」
そこで、シャーベットはその姿に気が付いた。かつて人間だった自分を打ち負かした存在。忘れることはなかったあの苦い思い出。偶然に助けられなければ、あの場で捕まっていたであろう戦い。
あれから何年も過ぎたが――再び、彼女の技に阻まれるとは思ってもみなかった。いや、油断していた。瞬時加速。織斑千冬の得意技。そして、暮桜の零落白夜。
もしもの時のために、クロエがIS学園で行っていた暮桜の解凍作業は完了し、整備も終わっていたのだ。その情報を知らなかったことがここで命運を分けた。
「織斑、千冬ゥウウウウウウ!」
「信二――しっかり決めろッ!!」
刀ごと腕を斬られたシャーベットが千冬を殺そうと――もう片方の腕をまるで鎌みたいに変形させて振り下ろそうとするも、一発の銃弾がその一撃を阻む。
「ッ!?」
遠く、IS学園の屋上から狙撃して見せた者がいる。
みると上空からも包囲するようにISが飛んできているではないか。
「ば、バカな!? ISでは我々の格好の獲物なのだぞ!? なのに、何故前線に出てくるのだ!?」
「理屈じゃねぇよ……あの場所に守りたいものがあって、守りたい人がいて――譲れない思いがあるから立ち上がるんだ……」
「――――この、せめてお前だけでもッ!!」
「それに――俺の勝利の女神が見てんだ……負けるわけにはいかねぇだろ」
一回。ハンドルを動かして体を前に倒すように動く。対してシャーベットは全身の力をすべて解放して信二を殺そうとしていた。自身の気持ちを汲むのなら、織斑千冬こそを狙うべきだろう。今、彼女は久しく動かしていなかった暮桜とのシンクロがうまくいっておらず狙うチャンスがある。
だが――そうしなかったのは、彼女の立場によるものだ。
ここで一人でもゲネシスライダーをつぶしておかねば後々が面倒になる。私情を捨ててかからねばならない相手だからこそここで倒さねば――――しかし、その迷いが彼女の動きを一歩遅くしてしまう。
「もう一回だッ!!」
「なっ!?」
さらにハンドルを動かして――信二の全身が太陽のように輝きだす。
まるで、世間で呼ばれる彼の呼び名のように。
【ココナッツエナジースカッシュ! スパーキング!!】
いつか英が行ったような裏技。本来の仕様とは異なる挙動をすることで爆発的に性能を引き上げるが、肉体に多大な負担をかける諸刃の剣。
筋肉が断線するような音が響き、骨が砕けるような音すらも聞こえてくる。
意識が遠のいて信二は体を何かがむしばんでいくような錯覚すら覚えるが――もう止まらない。
「なぜだ、なぜそこまで――」
「理屈じゃねえって言っただろうがッ!! 俺は、織斑千冬って女性が好きだから!! だから、その周りの世界を守るためならどこまでだって頑張れるし、戦える!! 俺のこの5年間を舐めるんじゃねぇ!!」
才能は無い。ただ努力するしかなかった。それこそ血反吐を吐いてまで何度も何度も。
ゲネシスドライバーの負担で体にダメージが残ることなんて数えることすら馬鹿馬鹿しい。
だけど――今までの努力があったからこそ、信二は倒れない。
「この程度の痛みは慣れてんだよ――英ほどじゃねえが、俺だって無茶を通してきたんだ!!」
地面が割れるほどに、足を踏ん張り、拳を握り、シャーベットの顔面にその一撃を叩き込んだ。
骨が外れ、力が抜けそうになるがそれすらも上から押さえつけるように前に進む。
ロックシードのエネルギーで体を無理やり動かして無事で済むはずもない。それでも――信二には勝利の光景しか見えていなかった。
「デリャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
「――――」
一瞬の空白ののち、シャーベットはその体が宙に舞っていたことに気が付く。
武骨で、愚直で、がむしゃらに前に突き進んだだけの男だというのに――
(――そんなテンプレートな思いに負けるとはな……だが、それも悪くはないか)
彼女の体は地面に激突し――そして、砕け散った。
まるで氷が砕けるように、シャーベットという名のオーバーロードは消えてしまったのだ。
信二の意識が浮上したとき、頭に妙な感触があった。
(なんだ? なんか柔らかい感触が……)
「まったく、無茶をしおって」
(って、これって織斑さんのひざまくら? え、なんで…………っていうか体が動かない)
「……返事は、全部終わってから改めてお前の口からその言葉を聞いた時だ。しっかり体を治せよ」
(なんだかよくわからないけど……眠くなってきて…………)
遠くで、オーバーロード撃破の報告を入れているのが聞こえたが、英たちは大丈夫なのだろうかと考えてしまう。いや、信じるしかない。
だけどその体は休息を求めていて、信二の意識は再び眠りについた。
場所は変わってスレイプニル船内。
「信二がシャーベットを撃破した。IS学園から連絡が入ったぞ」
「本当ですか!?」
「ああ……信二もボロボロだけど命に別状はないって…………」
良かったと、皆言葉に出す。
一つ懸念材料がなくなったのだ。安心もするだろう。しかし、まだオーバーロードは残っているのも事実だ。
後どれほどいるのかわからないが……オーバーロードでなくとも厄介な存在もいる。
「これから先、本当に引き返すことはできないけどそれでもいいんだな?」
「だから野暮ってものですよ」
「ここまで来たら最後まで行くわよ」
「セシリアたちに託された分まで、頑張るよ」
「私は軍人だ。こういう事態が来たら戦うのが私の仕事だ」
「乗り掛かった舟だしな」
「英さん、わたくしは最後までついていきますわ」
「いまさら怖気づいた?」
「……まさか。行くぞ――――スレイプニル、突撃!!」
エネルギーフィールドを展開し、ムーに突っ込んでいく。
電気の放出のような現象によりあたりに轟音が鳴り響くが、それでも止まらない。
「全員、何かにつかまれよ!!」
「言うの遅いですよ! つかまっていますけど!!」
「だったら大丈夫! 一気に本拠地に行くぞ!!」
ガラスが割れるどころではない甲高い音があたりに響いたかと思えば、見えない壁を突き破ってスレイプニルは大陸に突入した。
目指すは、マルスのいる居城。
気が付いた人もいると思いますが、章ごとに分けました。
まずはシャインVSシャーベット。
色々英に言っていた割にはこいつもかなり無茶していますね。