「それだけの量のエネルギー、留めておくだけでお前の体は崩壊するはず。なのに、何故立っていられる!?」
「……一人だけじゃダメだったさ…………ヒーローは一人だけじゃ成り立たない。僕の背中を支えてくれるみんながいるから、守りたい人たちがいるから、どんなことがあっても戦えるんだ」
ゆっくりと、歩いていく。黒い空間の中を確かな足取りで。
手に武器は無い。だがそれも見かけだけだろう。
ありとあらゆるアームズがその中に内包されている。70億近くの人の想いの結晶であるフルーツアームズはただ思い浮かべるだけでその手にアームズウエポンを出現させることができる。
だが、英が呼び出したのは一振りの刀――無双セイバーだ。
「何のつもりだ……物量で来ればいいものを、そんな刀一つだけだと? 笑わせるな!!」
「……これだけで十分だ。考えてみれば、こいつを一番使い込んでいるからな…………僕はどのアームズでもこいつを使えるし」
ドライバーのアップデートをしていき、アームズによっては形成されないような設定もできるようにしていたが、英は基本的にこの武器を装備していた。
いざというときに腰にあると落ち着くし、なんどもピンチを切り抜けてきた。
「まずは基本に立ち返ろうってね……こいよ伯父さん。大仰な格好になっても、何も変わんないよ……人の身に余る力に振り回されて、世界中を巻き込んで…………そんなことをしていても、母さんは喜ばない」
「黙れッ!! あるべき世界を取り戻す――我が目的を果たすまで――私は、止まらない!」
フルーツアームズになったことで英にはわかっていた。
本来の黄金の果実を取り込んだ人造黄金の果実が自我のようなものを獲得し、世界を呑みこむという目的のために動いていることを。
今現在、英に力を与えているのは人々の想いが集まったことで一時的に黄金の果実と同様の物体となったロックシード。ゆえに、同種の存在であるマルスのロックシードがなんなのか理解できる。
(最初は、病弱な母さんを救いたいってところから始まったのかもしれない)
エネルギー問題やらを解決する、っていう話もあったけど……おそらく始まりはそこなのだ。
自分の大切な人を救いたい。父と伯父が一緒に研究していて、なおかつ共通項となる存在は一人。
(でも、母さんが死んでから狂ったのか……それとも元々、危ういところがあったのか)
伯父と直接会ったことは、前回の作戦までなかったのだ。
その部分から察するに……会わせようとしていなかったのか。
(だけどさ……やっぱり、この人は僕に残った最後の肉親だから)
ここで止めて見せる。もう取り返しのつかないところまで来ていたのだとしても。
家族ならば止めるべきなんだから。
「行くぞッ!!」
「――ここで、終わらせる!!」
ケンタウロス型となったマルスの脚力はすさまじい。
一度の跳躍で、英の後ろに回り込み巨大な炎の大剣を振り下ろしてきたのだ。
【フルーツオーレ!!】
その攻撃に合わせるように、左手をかざす。右手ではブレードを動かした上でだ。
それにより手のひらからキラキラと輝く粒子が噴き出していく。まるで、花弁のように。
「小癪なぁッ!!」
「流石に――重いッ」
左腕の腕輪の力も増幅されているらしく、先ほどからまばゆいばかりの閃光を放っている。
かつては封印のために使われたものらしいが、英はこれを使うつもりはない。
(それじゃあかつての焼き直しッ! だったら僕がすべきことはただ一つ!)
「人は今こそ進化する時なのだ! 貴様がやっているのは停滞という名の衰退へ人類を導く行為だぞ! それがわからないのか!?」
「ああわからないね! こうして人の心が明日への希望を生み出したんだ! 僕は、人間を信じている――進化なんかしなくたって、前に進めるってことを!!」
別に無理に変わる必要なんかない。
劇的な変化なんて無くても、人はちゃんと前に歩いていける。
少しずつでもいい。一日一歩。ちょっとずつ進んでいけばいいんだ。
「長い地球の歴史の中で、人間は急ぎ過ぎているよ……進化なんかする必要なんてない。不完全なままでもいい。人は助け合うことで歴史を紡いできたんだから、少し位弱い方がちょうどいい」
「戯言だ。個人の力が弱くてはいつか滅びる時が来る!!」
「たしかに、この先そんな時が来ない保証なんかないさ――でも、必ず滅びると誰が決めた!」
盾で押し返して、英は体勢を低くして懐に飛び込む。
マルスの下半身――馬のような形状の後ろ部分へと回り込み、刀を腰に当てて狙いを定める。まるで、居合抜きのような体勢で。
「この先滅びへと進むか、それとも違う道へ進むか。それこそ無限の可能性がある! お前がやろうとしていることこそ進化という名の袋小路への誘導だ! 限られた存在のみが人であることを捨てて生き残り、後の人は自分の心さえ失う! そんなものに何の意味がある!」
マルスも盾で防御をしようとするが――英は構わずに刀を振り上げた。
【フルーツスパーキング!!】
虹色に輝きだしながら、盾と激突する刀。いや、激突なんてものではない。まるでバターを斬るかのように盾が切り裂かれ、そのままマルスの下半身も切り払われる。
その表情を驚愕にそめるマルスだが、英の行動はそこで止まらない。
「まだ――まだだぁああああああああああああ!!」
「ふざけるなぁあああああああああ!!」
盾の残った部分を炎の塊にして殴りかかるマルスだが、英はそれをトリガーを引いて弾く。無双セイバーには銃口が存在しており、弾丸を発射できる。
英はあまり使わなかった機構だが、今のパワーならば拳をそらすことなどたやすい。
「――――な、に」
「それがお前の限界だ! 勝手に限界を決めつけているお前には何でもできる力があっても何もできない!」
共に使っている黄金の果実の力は同等。英は全開にして使うのではなく本当になすべきことのためにしか使っていないが、マルスはそんなことを考えなくてもいいはずなのだ。
それこそ、今この場でヘルヘイムの侵食を行うことすらできるハズなのに。
「勝手にあきらめているお前じゃ、その力の半分も出し切れていないんだよ!!」
「ッ――わかったような口をきくなァアアアアアア!!」
瞬間的にだが、力が増した。しかしマルスの力が増幅しただけで大きな力となった様子はない。
炎の槍と化した剣が英へと伸びていく。だが、その一撃すら受け流しきって見せた。
一点に集中し過ぎたために、もはやマルスの身を守るのはその鎧だけ。
「――――こ、この」
「母さんは最期まで笑っていたよ……死んだあとだって、笑っているような人だ。そんな人が、自分が生き返ってしまうような世の中を喜ぶと思うか!?」
一度だけ、帰ってきたが――結局、言いたいことだけ言って帰って行った。
しかしその中でもわかったことはあるのだ。
「伯父さんのことを心配していた――バカなことをやっているって思っていたみたいだけど、心配していたように聞こえたんだよ!!」
一度しか来れないであろうに、自分たちに言葉を伝えたい一心で帰ってきたのだ。
本当はもっと触れ合いたかっただろう。もっと言葉にしたかった思いがあるだろう。それでも、一度だけ。そのたった一度にすべてをこめた。
「その思いを踏みにじるなよ……家族の思いを、裏切るなよ!!」
刀を振り上げて――鎧を切り刻む。手首を切り裂くことで剣ごと落とす。炎の糸のようなものが切断面同士でつながっているあたり、再生能力もあるようだ。
それでも、今のマルスは完全に無防備。
「でりゃあぁあああああああ!」
「ガハッ!? こ、こんなところで……終わるわけには、まだ、何も成し遂げて――」
「いいや終わりだよ――――黄金の果実。お前が狂わせたんだろう」
いっそ底冷えするような声。英は先ほどまで話しかけていた伯父にではなく、黄金の果実の方に話しかけている。簪の解読から察するに、本来の黄金の果実と人造の黄金の果実が融合したことにより何度もよみがえるような存在へと変貌した。
質の悪いことに悪質な自我を獲得して。
「無視しても無駄だよ――今の僕にならお前がどういう存在なのかは理解できる。元々は何かを守るために作られたもの。それがいつの間にか世界を呑みこもうとしている怪物になった」
「――――ハハハ、それでどうするというのだ――たとえこの果実を破壊したところで再びよみがえる! 貴様も見ていたであろう! 黄金の果実の欠片を!」
「ああ……確かにお前は長い時間をかければ復活してしまう…………」
元々が使用者に莫大な力を与え、願いをかなえるような代物。それに人工的につくられた黄金の果実が融合してしまったことで世界を呑みこむまで止まらないモノになってしまったのだ。
だが――それでも絶対ではない。
「だったら、同種の力を逆波形でぶつければ消滅するんじゃないか? 同じぐらいのエネルギーで」
「――――ま、まさか……」
「元々のシルバーアームズの力だってここにある。今にして思えば、銀のリンゴはお前を止めるための安全装置ってところなんだろう……ロックシードの力の逆波形のエネルギー。対ロックシード用ロックシード。いや、お前ぐらい強い力ならその反動みたいなものも強力なもの……それがこの銀のリンゴなんだろ」
全てがそうとは言い切れないが――銀のリンゴは金のリンゴを止めるためのもの。
だったらその力は今使わずしていつ使うというのだ。
「や、ヤメロ――消えたくない! 砕かれてもまたよみがえり、必ず世界をこの手にする日まで止まるわけにはいかないのだ――それが私の存在理由だ!!」
「その勝手な理由で何人の人が犠牲になったと思っているんだ!! 人間は、お前のおもちゃなんかじゃない!! お前の願いをかなえるための道具じゃない! お前は人間が黄金の果実の力に引き寄せられて、力に振り回されているように感じたのかもしれないが――振り回されているのはお前自身だ!!」
ブレードを一回。そして、跳躍する。
何度も放った技だ。それこそどんなアームズであってもこの技だけは使い続けていた。
派生形もいくつか存在しているが、最もシンプルで強力な一撃。
【フルーツスカッシュ!!】
「さあ、カーテンコールの時間だよ――――でりゃあああああああああああああああ!!」
「――――消えていく、体が……魂が、消えて――――――」
金のリンゴのロックシードが砕け、マルスの鎧が消えていく。
その姿は白衣をまとった男のものとなり、金色の騎士はこの世から消える。
「……形あるものなら、死は避けられない――それは、変えられない事実だ」
どさりと、黒い空間に男が落ち、英は彼の下へ駆け寄った。
英の体からも光が抜けてフルーツアームズからシルバーアームズへと変貌していく。いや、エネルギーが尽きたのか変身が解けて人の姿へと戻っていた。
そして、男の傍らに腰を落とす。
「……伯父さん」
「…………まだ、私を伯父と呼ぶか」
「いくら許せないことをしようとも、あなたが僕の伯父であることには変わりないから」
「……やはり君は、妹に似ている…………どこで間違えたのだろうかな………………今となっては、詮無きことだが」
弱弱しく、その言葉が紡がれる。英も何か言おうとするが――突然、異変は起こった。
「なんだ!?」
「……どうやら、お別れの時間らしい」
「なんだよお別れって!!」
「この場所は、無理やり空間を歪めることで出来た、次元の裂け目だ。支えていた力がなくなったのだから崩壊するのも当然だろう……しかも、強大な力が二つもあったのだ。その揺り戻しは大きい」
「なっ!?」
「もう、私も長くない――――さらばだ、甥よ。家族を大切にしろよ……お前の作る、家族を」
それだけ言い残すと、彼は虚空へと消えていった。
急に下に落ちていきそのまま暗闇の中へ。
「――――空間が壊れて、引きずり込まれている!?」
このままでは自分もマズイ。
急いで脱出を図ろうとするが、体が思うように動かないのだ。
「やべ、力を使いすぎて……」
力が抜けていく。
全て終わったと思って、気を抜き過ぎた――全身に力が入らない。まっさかさまに落ちていき、そのまま沈んでいく。このままでは二度と帰ってこれないだろう。
約束したのに、最後の最後でのミス。
「ペース配分、間違えたかな……これ、どうするべきか…………」
意識も闇の中にとらわれそうになったとき――そんな、時だった。
「英ぅううううううううううううううう!!」
大好きな人の声が聞こえたのは。
「やっぱ、まだ……諦められるかよおおおおおおおおおお!!」
体に力を入れる。無茶なんて自分の十八番。
不可能なことを覆してきた人生だ。だったら、こんな逆境ぐらいはねのけて見せる。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
その思いに応えたのか、懐にしまってあったISコアが輝き始めた。コアによる共鳴が英に声を届けた。そして、そのコアは英の右腕にはめられていた腕輪と融合していく。
元々ISの技術を流用していただけに、その親和性は高く――腕輪から機械の翼が生えた。
「ッ!? な、ISが起動して――――うわああああああああ!?」
勝手に飛んでいき、黒い空間の端へとぶつかる。
しかし、とんでもなく硬いようで突破できない。
「――――足になってくれたんだ。拳は、僕の役目だろ!!」
左手を一気に突き出し――左の腕輪の力で空間を穿つ。
ガラスの割れるような音共に英は空に飛び出す――そして、誰かに抱き留められた。いや、誰かじゃない――
「……ただいま、束」
「もう――このバカ!!」
「あはは……ごめん。でも、ちゃんと約束は守ったから」
ゆっくりと地上に降りてくると、みんなが集まってくる。しかし、この場は危険だ。
どうやら世界の崩壊は止まらないらしく、それに合わせてヘルヘイムの植物が蠢きだしている。
周囲の空間も瞬くように地球と、ヘルヘイムの風景が切り替わっているのだ。
「……こりゃ、マズいぞ」
「一体何が起きているんですか!?」
「黄金の果実はある意味ヘルヘイムを支えていた力だ。ここまで不安定じゃなければよかったんだけど……予想以上に空間に負担をかけていたらしい。このままじゃ一気に地球とヘルヘイムが融合してとんでもないことが起こるかもしれない」
「ちょ、どうするのよそれ!!」
「今考えている――――でも、正直これは――ッ!?」
その時、彼らは見た。
自分たちの乗ってきた船が光り輝いているのを。
「スレイプニルが――いや、あれはスレイプニル内部のISコア!?」
「凄い……コアたちが、一気に活性化している。操縦者もなしに二次移行、三次移行――ううん、それ以上だよ!?」
まるで、彼女たちが世界を救おうとしているかのように――いや、ようにじゃない。
彼女たちも世界を救おうとしているのだ。復活したコアネットワークによる共鳴。
限られた通信しかできなかった今までとは違い、十全にその力を発揮できる。
一つのコアが計算し、別のコアが道筋を作る。この場においての最適解をコアたちが導き出しているのだ。
「――――綺麗」
「世界中のISたちが飛んできているんだ……」
まるで、空を舞う天使たちだ――スレイプニルの上空でISたちは踊る。円を描くように、緩やかなダンスを。
そして――その中心から空に向かって光が伸びた。その上空には――月。
嵐が吹き荒れるかのような突風と共にヘルヘイムの姿が消えていく。いや、光と共に上昇しているのだ。その中心に存在しているのは――急速に成長している英の育てていた植物。世界樹の苗木と呼ばれていたもの。
「――――風が、やんだ?」
「うう……いったいなんだっていうのよ」
「全員無事かー?」
「私たちは大丈夫だ」
「うう、口の中がじゃりじゃりしますわ……」
気が付くと、異変は収まっていた――あたりの植物は毒々しいものではなく、穏やかな色合いのモノ。
巨大な大木が見えているだけで、それほどおかしくもない風景が広がっていた――いや、一つだけおかしなものが見えている。
「……月が、緑色だ」
ヘルヘイムそのものはどうあっても消し去ることはできない。
それ故に、ISたちは自分たちの力でその森を別の場所に移したのだ。ずれた空間が元に戻るために起こる災害を防ぐため、ヘルヘイムを月に送ったのである。
「……なんつーか、やるべきことは色々残っちまったかなぁ」
「だね……でも、お疲れ様」
「…………そうだな……それじゃあ、みんな――帰ろう! 待っている人たちがいるんだから!!」
こうして戦いは終わった。一人の少年の家族にまつわる物語はひとまずの幕を閉じたのである。
父から託され、母の思いを受け、伯父の暴走を止めた少年――いや、青年の物語は。
それですべてがきれいに終わったわけではないだろう。なぜならば彼の人生にはまだ様々な出来事が待ち受けているからだ。
それでも、彼の……蜂矢英の家族の物語はこれで幕を下ろした。
まだエピローグなどを残しておりますので、完結ではありません。
それに残った謎もありますので、後日談などで補完する予定です。
というわけで、今だから言えることですがこの物語の根幹のテーマに「家族」というものがあります。
原作名がISになっているのも、家族をテーマにして扱っているからです。
原作はキャラばかりで中身が無いなどとも言われることがありますが、私はメインキャラクターに共通して家族についての話が存在していると思っております。
原作にもなにかテーマがあるとするのならば、家族なのではないか。そう考えているのです。
マルスがラスボスで終るのは英にとっての決着は唯一の肉親となった伯父との戦いであると考えていたからです。