あれからのことを少し語ろうか。
まず、帰って来てからが大変だったな。その後に待っている出現してそのままな大陸の調査とか、緑化した月とか色々と問題も山積みだったんだけど、個人的に大変だったことが一つ。
「英…………その、言いづらいんだけど、イメチェン?」
「いや、なにが……?」
「英さん、その……鏡をお使いください」
「なんで持っているんだよ」
「乙女の身だしなみですわ」
乙女って年齢でもないだろうと言いたかったが、そこにツッコミ入れると後が怖いから何も言わなかった。
で、鏡を見たらなんと――
「なん……なんじゃぁこりゃぁ!?」
――僕の髪の毛が銀髪になっていた。正直、かなりびっくりしたね。
後で調べて分かったんだけど、フルーツアームズも一時的にだが黄金の果実と同等の力を有していたわけで、体に何かしらの影響が出ないわけもなかった。
まあ、オーバーロードになったとかそういうわけではないから良かったけど。どうも、体に眠っている潜在能力とかが最大限まで引き出されてしまう効果みたいなのがあったようで、その影響で髪の色も銀に変わったらしい。
別に悪影響というわけでは無いから良かったんだが、千冬が爆笑したり知り合いには笑われたりで正直イラッと来た。というわけで、小さな変化はそのぐらいかな。
箒ちゃんやマドカと名乗っていた少女を連れ帰ったのはいいが……マドカって子はかなりの重傷だった。
ヨモツヘグリアームズの影響で体中の筋肉が断裂していたし、下半身は満足に動かせない。それも一生。
右目が失明してしまったし、その後の治療が難航していた。まあ命は助かったけど……結局千冬は束や僕にこの少女との関係を語ることはなかった。
ただ、マドカはIS学園で引き取るそうだ。つまり、千冬が面倒を見るということ。車イス使用ならそれなりに動けるようになったから今はIS学園の購買に監視をかねておかれている。
そうそう、箒ちゃんなんだけど……完全なオーバーロードというわけではなく、半分は人間のままだった。どうやら紅椿が箒ちゃんの体がオーバーロードにならないように頑張ってくれていたらしい。一夏たちとの戦いで絢爛舞踏を使っていたのは、自分が箒ちゃんのオーバーロード化の進行を止めるためのエネルギーの捻出もあったようだ。零落白夜をぶつけられたことでその必要もなくなって切ったようだけど。
精神面に起きていた何かも彼女が守ってくれるようになったおかげで、負のスパイラルに陥ることはなかったんだけど……やはり半分は人をやめてしまっているからか、箒ちゃんは怪我も治りきっていないのにすぐに旅立とうとしていた。いや、このままいけば良くて牢獄に入れられるか、悪くて実験動物のような扱いか……今生きている、オーバーロードにもっとも近い存在。それに目をつけない人がいないわけもない。
だからこそ、僕と束は二人で相談して決めたんだ。
箒ちゃんがみんなに何も言わずに去ろうとするとき、こっそり後をつけて彼女と話をした。
「何も言わずにいなくなるのは、どうかと思うよ」
「…………蜂矢さん、それに……姉さん」
「ねえ、箒ちゃん……昔みたいにとは言わないけど、一緒に暮らせるようには……ならないかな」
「……すみません。私のやったことは、許されることではない」
それに、もうこの体は人でもない。かといって怪物にもなりきれなかった中途半端なもの。
「だから、私は世界を自分の目で見て回ろうと思っています。結局、一夏と戦う結果になったのは私が子供だったからか……意地を張り続けたからか。どちらにしろ、武者修行の旅に出て心を一から鍛え直したい。そして、出来ることなら償いたい」
「…………ほい」
箒ちゃんに向かって、とあるものを投げ渡す。本当なら渡すべきじゃないし、使うべきものでもないのかもしれないが……
「これは……ドライバーに、ロックシード?」
「お前が歩みだした道はとても困難だし、血塗られてしまった道だ。それでも進む覚悟があるのならそいつを使え。闇よりはずっとマシだよ。案外、血塗られた道にだって希望はあるからな」
僕が渡したのは、データに残っていたブラッドオレンジロックシードから作ったレプリカ。
ドライバーも箒ちゃんの使っていたものを修理改造したものだ。
それに、と前置きしてもう一つ伝えたいことを伝える。
「人ってのは変わるもんだよ。どんな奴だって悪いやつになる可能性はあるんだ。でもな、その逆だってあるんだ。悪い人が良い人になるってのもあるんだよ。お前の姉さんだってその口だよ。だからな、一度間違えたくらいで諦めんなよ。人ってのは、変わる生き物なんだから」
いや、人間何度だって間違える生き物。だったらその度に次どうすればいいか考えて前に進めばいい。
僕たちはそうやって進んできた。
「だから、行ってこい」
「……英、さん」
「とりあえず、英には誰が元々悪い人なのか問い詰めるとして、箒ちゃん……お父さんも、お母さんも一緒に待っているから……またね」
「――――はい」
その後、箒ちゃんは旅に出た。詳しい足取りは知らないが、元気にやっている。何度か会うこともあったし、何度か篠ノ之神社にも顔をだしている。色々と大変な事件とかも起こったんだけど……元気にやっているよ。ただ、国際指名手配はされているからあまり表には出てこないようにしているんだけどね。
それと、小耳にはさんだんだけど、マフィアとかテロ組織をふらっと現れては潰しているサムライレディという都市伝説がある。まさかとは思うんだが……
そうそう、篠ノ之神社で思い出したが束の両親はマルスとの戦いから一か月たったぐらいかな。篠ノ之神社に帰ってこれたんだ。まあ、元々、全部終わったら帰ってこれるようにするって約束だったし。
先代の楯無さんたちが頑張ってくれたおかげでもあるんだけど……やはりこの場にも箒ちゃんがいてほしかった。その後、僕は直接見ていなかったが箒ちゃんは顔を出しに来たそうでほっとした。
IS学園の方も色々大変だったみたいだ。
シャルロットさんが専用機を返却していたせいで後ろ盾がなくなっていたから色々と面倒なことになっていたり、そもそも全員疲労で倒れたり。
まあシャルロットさんのほうはオルコット家で預かることになったから、とりあえずは何とかなったんだけど。結局、オルコット家でメイドとして働くことになったそうだ。
「セシリアには迷惑かけっぱなしだよね」
「別にかまいませんわ。約束は果たしてもらったようですし……それに、人でも欲しかったですから。まずは、当面のわたくしの介護の」
「あ、あはは……お手柔らかにね」
すぐにそんな一幕があったと一夏に聞いた。
まあ、特に問題もなくやれているみたいだし、心配する必要はないそうだ。
他には事後処理とかだろうか? ムーの方は新しく出来た大陸ってことでどの国の所有権にするんだという話になったんだけど……亜種とはいえヘルヘイム植物が存在しているから住むにはちょっと厳しい土地となった。
その後の話し合いでは南極みたいにどこの国にも所属しておらず、特殊な保護区として扱うことになったんだけど……割とどの国も自分の国で手いっぱいでしばらくはこの大陸のことは保留みたいなことに。
まあ、さわらぬ神にたたりなしともいうし、詳しい調査が終わるまでそのままだろうな……いっそのこと調査しないでずっとそのままにしておきたいが。調査するだけで面倒になること間違いなしだから。
月の方は……行くのも難しいから完全に保留である。まあ、スレイプニルを修理しているし他にもいく方法が無いわけではないからいけないこともないんだが……実際、僕と束は行った。
まあそのことについてのは話は長くなるから機会があれば語ることにしよう。箒ちゃんについても色々と関わってくることだし、あまり他言はできない内容だから。
とりあえず、緑化した月は大陸以上にそのままにしておいた方がいいということだけは分かった。
他に語るようなことがあると言えば、一夏と鈴ちゃんが付き合うようになったことか。いや、その話を聞いたとき、みんな付き合ってなかったのと驚いたが。
クリスマスでの告白騒動は見ていて面白かったと千冬に聞いた。千冬が許さないんじゃないかとも思っていたが、この女いつの間に信二と付き合うようになっていたのか……あの時は正直色々ムカついたよ。あのドヤ顔を殴りたいと。
ただ、ほとんど女子ばかりのIS学園でそれは目の毒だろうに――他の生徒に。
なんか怨嗟の声を時折聞くようになったからなぁ……
IS学園と言えば、一夏たちが進級したのに合わせてかおりさんが学園の教師になった。
まあスレイプニルが最後の騒動で壊れて、クルーたちもそれぞれ別の道を歩み始めたからなぁ……
元パンサーの二人はそのままパンサーに帰って、紛争地域とかで頑張っている。ジョニーやミシェルは田舎で静かに暮らすって言っていた。今でも手紙が届いていて近状を報告してくるけど……あれはミシェルが押し掛け女房になったんだな。
百花さんはグループの仕事に。まあ、結構な頻度で会っているけど……忙しいと思うんだけどなぁ…………
「わたくしに不可能はありませんわ!」
「うん、どっから出てきたの……」
「英さんがアルバムをめくり始めたときには」
「……もう何も言わないよ」
僕に気配を悟らせないとか本当に人間なのか疑わしい……口に出さなくても悶えているぐらい今日も突っ切っていますね。悪い意味で。
まあ、元気なのは間違いないよな。
IS学園についてだが、今じゃ男子生徒も通っている。
実はマルスが色々といじった上に、最後に僕を助けるためにISコアが起動したことなど色々な要因が重なってISは男でも動かせるようになったのだ。
あの時は束もびっくりしていたなぁ……「束ちゃん予想外」とか普段は言わないようなこと言っていたし。
校則とか男子寮とかの建設で実際に男子が通うようになったのは一夏たちが三年生になってからだったけど。あの時の一夏の喜びようといったら……周り女子ばかりで肩身が狭かったもんな。
だがしかし、鈴ちゃんと長い間一緒にいたせいで色々と物足りない気持ちになったと言ってきたときには手遅れだったかとおも思ってしまったが。
まあ卒業後は一緒に暮らしているし、彼女限定だったってのがわかってほっとしたけど。
そうそう、彼らの卒業式だが――なんか伝説の生徒たちとか言われていた。そりゃライダーたちがいた世代だからってのもあるんだけど、一般生徒たちも結構すごいことをしていたんだ。
最後の戦いの時に世界中で色々と大変なことが起こっていた。まあ、大陸が一つ現れたわけだし災害救助とかの作業用ISや、裏方の仕事で世界各地で生徒たちが自主的に活動していたらしい。
そんなこともあってか、彼らの卒業式はかなりすごいものだった。
卒業生代表は――まあ、アイツしかいないよな。
「えっと、みんな知っていると思うけど……俺の名前は織斑一夏。最初のIS男性操縦者だ。他の男子にも適性が現れるようになって、俺は別の学校に行くことになるのかなとも考えていたこともあるが……まあ見ての通りだ。短期間で三次移行までしておいて他の学校に行けるわけないだろって言われたよ――笑い話はここまでにして、ちょっとは真面目な話をしようか。知っての通り、最初は成り行きだった。その後も色々と大変なことがあって……あとはみんなニュースとかで知っているよな。最初の一年は事件の連続で休まる暇があったかあまり覚えていない。それでも、楽しい日常があったことも確かだ。慣れないことばかりだったし、学園を自分で受験した一年の男子とは違って、手探りだったからな。それでも、今俺がこうしてここにいられるのは――仲間たちがいたからだ。どんなに苦しいことがあっても、辛いことがあっても、助け合える仲間たちがいるから頑張れる。人ってのは一人じゃ生きていけないのを痛感したよ……でも、仲間がいれば苦しいことや辛いことと同じくらい楽しいことやうれしいことがあるんだ。それだけで、頑張っていける――あとは、目指す背中があったから頑張れたってところかな。まあ小難しい話は抜きにして――在校生たち、俺たちはいなくなる……これからはお前たちが引っ張っていく番だ。まだ色々とやるべきことは残っているだろうけど、一人でやるんじゃなくてみんなでやれば大丈夫さ」
そう言って、IS学園生徒会長織斑一夏の答辞は終わった。
本当、すっかり成長して……いつの間にか僕よりも背が高くなっていたんだよな。
それじゃあ、後はその後のみんなの進路を語ろうか。
スレイプニルのみんなについてはさっき言った通りだけど、まずはフロンとクロエについて。
フロンは僕たちと一緒に暮らしているけど、本格的に料理の道へと進んだ。
クロエはスレイプニルを引き継いで、災害救助や宇宙で起こる問題に対処している。
そういえば信二についてがまだだったな。まあ、リハビリが終わった後はグラニを改修した機体のパイロットになって宇宙や空を飛び回っている。国連とかからの仕事が多いらしくて具体的に何をやっているのかは知らないが、その後千冬と結婚した。
千冬も結婚したあとは古風だから家庭に入るかなとも思っていたが、教師を普通に続けている。
子供が生まれても元気だよなぁ……というか肉体的に衰えていないんじゃないかと思う。
千冬が信二と付き合うようになってから真耶ちゃんも連絡先を交換する男性が現れ始めて……千冬のそばにいたせいで声をかけ難かっただけなのかと、今じゃ笑い話だ。
それと、一夏たちか。
一夏は卒業してからしばらくして鈴ちゃんと結婚。彼は今じゃ警察官である。卒業までの間にあった出来事が、その道に進ませるきっかけだったそうだ。普段は子煩悩なパパだけど。
鈴ちゃんは専業主婦。ただ、時折IS学園で講師をしているみたいだ。
セシリアさんはまだ結婚していないけど、財界などでもかなりの手練れとして有名らしい。
シャルロットさんは恩人であるセシリアさんを支えている。
ラウラは千冬に宣言した通り、ドイツ軍で後進の教育の仕事に。今でも時折出回っているロックシードの回収やインベス騒ぎの対処もしているそうだ。まあ、天然なのは相変わらずで一夏をいまだに嫁と呼んでいるけど。
弾君は布仏虚さんと結婚して、五反田食堂を継いでいる。テレビで隠れた名店みたいな感じで紹介されているのをこの前みた。ドライバーやロックシードは家に飾っているらしい。
現楯無である彼女は、父から引き継いだ仕事で結構慌ただしいみたいだ。僕たちとも時折コンタクトをとってくるけど……愚痴を聞かせてくるのは勘弁してほしい。いや、大変なのはわかるんだけど。
簪ちゃんはIS開発者としての道を歩んでいる。学園の整備課を担当している教師もしていて、今じゃヒーローを目指している子供たちを導いている。今のISは災害救助などに使われることが多いから。
本音ちゃんもIS学園の教師になっている。その人柄か、当時のことをみんなが教えてくれるからか仮面ライダーの伝記を書いている。いや、僕らもいろいろ話したけど……恥ずかしいことには変わりない。
それで僕たちだけど――――
「こら、いたずらしちゃダメでしょ!」
「「だってお姉ちゃん……」」
「だってじゃないの! もう、パパたちもちゃんと叱ってよ」
「まあいいじゃないか。外で遊んだ方がいいって」
「ママは子供を叱る性格じゃないんだから、パパが言うしかないでしょうが! 神社の物壊したらどうするの」
「……仕方がないか。二人とも、遊ぶなら道場の中にしなさい」
「「はーい」」
「って違うでしょうが!」
「まあ、あそこなら暴れまわっても大丈夫。お義父さんだっているんだから」
「それもそうだけど……まあ、元気が一番か」
リリーは驚くほど普通に育ってくれた。色々と大変なことが待ち受けているかもと思っていたが、そんな心配も杞憂に終わってくれたんだ。
そして、彼女が叱っている二人の子供――僕と束の子供たちが、元気に遊びまわっている。
家族はいなくなった――でも、家族を作れないわけじゃないんだ。それに、リリーたちだって血はつながっていないけど僕の大切な家族には変わりない。
「英ー? なにしてんのー?」
「ほら、これ」
「懐かしいねぇ……あれから色々あったよねー」
「大変だったのは、やっぱムーでの時だけどな」
「そりゃそうだよ。でも、本当に色々とあったね…………ねえ英、今の世界は楽しい?」
「ああ、とっても」
「ふふ――束さんもだよ」
こうして家族が一緒にいて、何気ない日常が過ぎて行って。
この時間のために頑張ってきたんだと思える……家族がいなくなってから始まった戦いだったけど、今の僕にはこうして家族がいるんだ。
静かだけど、確かな幸せがここにある。
そういうわけで、ここでいったんアルバムをめくるのはやめようか。うちの子供たちは結構わんぱくだから、怪我をしないように見ていないといけないしね。
「なんだかんだで、英も親バカだよね」
「束もだろうが……だって、大切な家族なんだから」
「そうだね」
「そういや、何か話があったのか?」
「あ、いけないっ……お昼出来たから手を洗って来て。今日はオムライスだよー」
「おっ、いいねー。ほら、手を洗うぞー。今日はお母さん特製オムライスだ!」
「「わーい!!」」
「わたくしも食べていいですか?」
「どうせ来ていると思って作っているよ……まったく、そろそろ身を固めればいいのに」
「お見合いしてもピンときませんわ…………いいですわねー、幸せそうでー」
「そっちこそ、そんなに不幸そうに見えないよ」
「そうですわね……結構、今も楽しいですわ」
「人の幸せなんてそれぞれ――そうだろ」
ここには僕の一番欲しかったものがある。
今まで頑張ってきたことに対して何か報酬があるとするのならば、この光景こそがそれだろう。
こんなにも素晴らしいものがここにあるのだから。
空は青く澄みわたっていて、曇りひとつない青空が広がっていた。
食べ終わった後で、子供たちと外で遊ぶのもいいかも――いや、久しぶりに皆を呼んで思い出話に花を咲かせるか。子供たちも聞きたがっていたし……そうだな、最初は空から青いリンゴが落ちてくる話からかな。
仮面ライダー冠 インフィニット・ライジング
~完~
ほぼ毎日連続更新におつきあいくださった方々、ありがとうございます。
本作品はこれにて一端の区切りを迎えました。
この物語は、英という少年と家族というものについてのお話。
ゆえに、この物語はここで終わりとなります。
しかし、まだ回収していない伏線なども残っているのも事実。
次回より、その後の箒――EPISODE NEXTを展開していきます。
もしかしたら今後は不定期な更新になるかもしれません。