篠ノ之が狙われてから、数日が過ぎた。あれから篠ノ之は織斑とは口をきいていない。織斑の話では、自分の作ったものが人に好き勝手されて何もできないってこと自体初めての経験であり、篠ノ之自身もあんな風に襲われたこともない……つまり、彼女にとっては未知の状況であり、それは精神に大きなダメージを与えてしまったということらしい……まあ、大分ぼかされているのを自分が知っていることで補完したからあってるかどうか……
篠ノ之を狙う奴が、僕にとってもかかわりのある相手である以上、篠ノ之から目が離せないけど……僕自身も避けられている節がある。
というより、今はだれも近づけようとしていない。それでも、インベス相手にはさすがの篠ノ之も危険すぎるのだが……とりあえず、近くで大丈夫か見ていたんだけど、さすがに精神的に追い詰められ過ぎたのか、篠ノ之は僕に向かって、殺すような視線をぶつけてきた。
「ねぇ、いつまでストーカーするつもりなの?」
「少なくともお前が護衛でも雇ったりしない限りは一人にするわけにもいかないでしょ」
「……いい加減にしてよ」
さすがに、マズイと思ったのだけど……遅かった。
「なんでいつもいつもお前はそうやって簡単に入ってくるんだッ!」
「入ってくる?」
てっきり、鬱陶しいとか、邪魔だとか、目障りとか言われると思ったんだが、そんな暴言は一度もはいてこない。それでも、要領を得なかったがいつの間にかいるとか、なんでそこにいるんだとか、よくわからない言葉を投げつけてくる。
……怒られているように聞こえないんだけど…………
「大体ッ! いつもいつもそんな腕輪して中二病かッ!」
「オメェにだけは言われたくねぇよ!? なんだよあの私服ッ! 一人アリスってなんなんだ!? 不思議の国か!? 鏡の国か!?」
「か、鏡? わ、わけのわからないことを言うなッ!」
「アリステーマなら知っておこうぜ続編もよぉ!」
「えっと、ごめんなさい……じゃなくて、そんなウソには騙されないからね!」
「いや本当にあるぞ」
「…………こ、これで勝ったと思うなよ覚えてろよー!」
篠ノ之は、そのまま走り去って……さすがにマズイかなぁと思ってイチゴロックシードを使い変身する。
見た目通り、忍者みたいなこともできるので結構重宝しているんだよなぁ……このアームズ。
◇◇◇◇◇
気が付いたら、海岸まで走って来てしまっていた。そういえばこの海岸はあの仮面ライダーとかいうのが結構目撃されている場所である。
……す――青色を思い出してしまった。アイツはインベスとかいう怪物や仮面ライダーについて何か知っているんだろうけど、それを自分から聞いたらアイツに負けた感じがして嫌だ。
いつからだろう。アイツが一緒にいるのが当たり前と感じるようになったのは。
箒ちゃんとちーちゃんといっくんたちだけがいればいいと思っていた世界が、少し色づいて見えるようになったのはいつからだろう。気が付けば、少しだけ両親とも話すようになっていた。
ISを作ったのはいいけど、どうしようか悩んで……そもそもなんで悩むようになったんだろう。その結果が、あんな糞みたいな学会だけど。
なんで、アイツは危険なことをしようとしているのにもかかわらず、背中を押したりしたんだろう。
あいつとの関係は最初はいちいちうるさい委員長と不良生徒……なんでこの私が不良生徒なんだ? 校則には違反……してたけど、それでも文句を言われる筋合いは……あったけどもっ。
「というかなんで束さんが反省なんかしてるんだよ。おかしいぞ、おかしい。最近の私はおかしい」
ひたすらに自問自答を繰り返す。思い出せ。なにがどうしてこうなった? どこで間違えた?
いやそもそもこれはこれでいいんだから間違――いや間違っているんだ!
自分でも考えがまとまらなくなっている。こんなことは今までなかった。唯我独尊、この束さんが悩むなどあってはいけないんだ。よし、大丈夫落ち着いた。
そもそもアイツと出会ったのは……中学の入学式の直前、ちょっとふざけたときにちーちゃんにジャイアントスイングで投げ飛ばされて彼に激突したときだった。まあ、ちーちゃんはそのことを忘れているんだけどね……結構よくあったことだし。というか、そういう衝撃的な出会いなのにちーちゃん……なんでクラスメイトって印象しかないんだよ……束さんでも覚えているってのに……まあおかげで自ら折ってるわけだから助かって――よし、変なこと考えるな私。そのロジックは束さんには存在しない、オーケー? オーケー。
で、そのあとはちーちゃんがアイツになんか相談するようになって嫉妬したんだ。もちろん、ちーちゃんがとられるのが嫌だったからだけど……こともあろうに私をスルーとか舐め腐ったマネを……しかも、あの変な腕輪のせいでこの私の発明がことごとく無力化――じゃなくて、妨害、でもなくて……邪魔、そう邪魔されてプンプンなんだよ。
どこからかハリセンをとりだして叩いてくるし……
「まったく、女の子をいきなり叩くとかどういうことなんだよ……ちょっと気持ち――さて、その危ない考えは即刻破棄。うんその方が良い」
で、いつの間にか会えばちょっと喧嘩する感じになっていて……これじゃまるで喧嘩友達――ヤバい、それはヤバい。でも客観的にみるとなんだろう……トムジェリ? ……いいだろう。認めてやろう。その事実を。だけど、負けない屈しない!
いい加減、私自身何と戦っているのかわからなくなってきたが……
「なんだかむかむかする……変な手紙出しやがるし……一瞬、ラブレターかと……あんなむかつく文章だとは思わなかったけどね……ちーちゃんまでグルになって……でも、美少女かぁ……美少女かぁ……」
なんでだろう、言われなれているのに妙に頭に残っている。何なんだろう、これ。
「……そして、ISの設計図を見ただけで大体のことを理解した。この束さんに匹敵するかもしれない頭脳。うん、そこは認めてもいいかもしれないけど……でも、いきなりあそこまで変化するってどういうことなんだろう?」
なんだか、知ってはいけないような……知らなくてはいけないような……よくわからないモヤモヤした感情が湧いてくる。
アレコレ悩むものの、湧いてくるのはアイツと一緒にいたときの思い出。ちーちゃんに笑顔が増えて、ISを作って少し離れてしまうと思った箒ちゃんに手料理を作ってもらえて……両親にも目を向けるきっかけを貰って……思えば、私たちはアイツに良い影響を与えられている。何でも作れたけど、その代りに何かを壊してしまう私と違って、私が壊してしまうものを治したり、生み出している……ある意味で彼と私は似ている。でも、決定的に逆の存在。だからこそ気になるのだろうか?
ふと、思った。彼は何を代償としてしまったのだろうか? 有史以来、人間が平等であったためしはない。だけど、すべてを手に入れる人間も存在しない。
「……バカらしい。帰ろう」
一時の気の迷いだ。こんなのは、私の考えることではない。今私が優先すべきことはISだ。アイツにそそのかされて高校に入学したのはいいけど、よく考えればいる意味なんて……
「えっと、もう大丈夫?」
「……誰?」
考え事に夢中になり過ぎて、近くに人がいるのに気が付かなかった。バカか? 変な奴らに狙われているのに……ああもう、アイツらも私のISに好き勝手しやがって、いつか絶対痛い目見せてやる。
まあ、それよりも今は目の前のこの女だ。どっかで見た記憶があるんだけど……どこだ?
「同じクラスの花村花梨だよー」
「あいにく、私は人の顔を覚える趣味はないから」
「それを趣味にする人はいないかなー」
なんだろうこのポヤポヤした生き物は。ちーちゃんに怒られたから、無視はしないけどできればどこかに行ってほしい。なんなんだ? なんでさっきからお花のエフェクトを散らしながら私に近寄ってくるんだ?
「で、この束さんに何か用?」
「んー? なんか、悩んでいたみたいだったからー」
「別にお前に心配されるようなことじゃない」
「ズバリ、恋の悩みだねー!」
「違うしッ! というか人の話聞けよッ!」
「大丈夫ー! これでも相談に乗るのは得意なんだよー!」
「ああもうやりにくい!」
なんなのこの子!? いったい何が目的!? お金? IS? それとも私!?
「いったい何が目的でこの束さんに近づいた!」
「だからー、なんか頭抱えて悩んでいたからー」
「……いやいやそんなわけないだろ。人が悩みを聞くと言い出したら、それは見返りを求めるからであって」
「しいて言うなら、なんか頭抱えているのが可愛くてー」
「か、可愛ッ!? ハッ! この束さんそのものが目的かッ!」
思わず自分の体を抱きしめて後ずさる。 だけど、女は頭の上にはてなを浮かせているだけだった。
「? えっと、友達が困っているなら助けるなら当たり前だよ?」
「誰と誰が友達だ!」
「? クラスメイトならみんな友達でしょ?」
「それは絶対に違うだろッ!」
「!」
わかってくれたようだ。さすがに、そんなメルヘンなことを言い出すような奴ではないはず。というか、どんな目的なのか言葉の裏を探らなければ――
「うんっ! 一期一会。人類みな兄弟。出会いは大切に。そういうことだね束ちゃん!」
「ちがうー! 私の言いたかったこと違うー!」
わけが、わからないッ……この子頭の中どんだけメルヘンなんだッ!
「もうお前――」
「花梨」
「……だからお前は――」
「花梨」
「……」
「……」
仕方ない、逃げるか――だが、回り込まれた――くそっ!
「なんで邪魔をするんだよ!」
「束ちゃんが名前で呼んでくれないから!」
「名前を呼べば友達だというのは幻想なんだッ! だから離せ!」
「嫌だ! 束ちゃんが私の名前を呼ぶまでこうやってつかんで離さないから!」
「ちくしょぉぉぉ!」
結局、私は負けてしまった。屈辱だった……もう、明日から学校休もうかなぁ…………休んだら休んだでプリント届けにやってきたため家の場所を知られて逃げ場がなくなった。もうやだぁ……
◇◇◇◇◇
篠ノ之が花村さんに絡まれているのをみて、助けようかと思ったけど……なんだかややこしいことになりそうだったから見ているだけだった日の二日後。
昨日は篠ノ之は疲れ果てたのか休んでしまい、プリントを届ける役目を誰にするかでもめたんだが……花村さんが自分から行くと言い出すとは……掃除当番がなければなければ行けたんだが……すまん篠ノ之。お前の受難は続くようだ。まあ、これで対人スキルが上がれば織斑とも仲直りできるだろう……出来ると、良いな。逆に人間恐怖症にならないか不安なのがなぁ……
もっとも、この出会いがアイツの運命を変えたなんて、誰一人として思わなかったわけなんだけど。
束メインのアリスシリーズが始まりました。
束視点がメインに来るので、冠の活躍は減るかも……
いくら天災と呼ばれるようになる人間でも、彼女は人間。今現在の彼女は天才のままかもしれないし、逆に普通以下になるかもしれない。それとも別の何かになるか。
中学、高校というのは将来への方向性が大きくぶれる時期です。特に彼女は内面は子供の要素が強い人なので、自分の知らないことに直面して大きくぶれました。
まあぶれるようになってしまったのはうちの主人公が原因なんですけどね。