一瞬、何が起きたのかわからなかった。ドングリアームズを使っているライダーを壁に押し込んで、急いで戻ろうとしたら、篠ノ之をかばって前に出た花村さんがライオンインベスの爪に貫かれていた。頭の中で、プッツンと何かが切れる音が聞こる。
「あーあ、ありゃもう助からな――」
何を言っているのかわからなかったが、ドングリ野郎を拳で吹き飛ばす。鎧にはひびが入っており、火花が飛び散っている。
「な、なんだこのパワーは!? この前の戦闘データにはないぞ!?」
「お前にかまっているヒマはない! とっとと決めて――」
「あいにくだけど、それは困るのよね」
「――ウグッ!?」
ドリノコが、腹に叩き込まれた。結構な威力を持った一撃で、今度は僕が吹き飛ばされてしまった。
「ハロー、仮面ライダー冠……お久しぶりね」
「てめぇはこの前の……さっきは外に吹き飛ばされたみたいだけど……どうせこの前のISがいるんだろ」
「ご明察」
どうする? 二体一、状況は不利……急いで花村さんの状態を…………花蓮さんの最期を思い出す。インベスの攻撃をあそこまで深く食らったならどうなるのか? それは分かっている。対処法もわからない。だけど、まだ可能性はある以上……こいつらを早いところ片付けないと……
後ろを少し見ると、先生が花村さんの傷の手当てをしているのが見えた……でも、首を横に振っていて…………篠ノ之が座り込んで、動かない。
「どうやら、無駄みたいね……まあインベスに貫かれたら当然だけど」
「そりゃそうですよ……今までの実験忘れたんですか?」
「そうねー、紛争地域とかテロリズムに駆られた奴らはいい実験材料だったけど、データ収集が面倒だからストレスたまって嫌だったわ」
「そっちですか……」
なんだ、このくだらない会話は……まるで、人を人と思わない言動。昔の篠ノ之だって人体実験みたいなことはしていない。むしろ、シミュレートを重ねることで、ようやく人が使うなどマウス実験すら嫌う傾向があった。でも、こいつらは今、この会場で起きた死を何とも思っていない。
「誰のせいで……誰のせいで花村がああなったと思っているんだよ」
「あなたたちのせいじゃないの? インベスの制御範囲外まで二人とも吹き飛ばされちゃったんだし」
「なっ!? ……てめぇら覚悟はいいんだろうな?」
もう我慢の限界だ。こいつらはここでぶっ潰す! ブラッドオレンジアームズへ切り替えて、二人に切りかかる。
「さて、最後になるだろうけどあなたにちなんで名乗ってあげるわ。仮面ライダーブラーボ、よろしくね」
「同じく、グリドン。まあ覚えなくてもいいよ。どうせ死ぬんだし……事件材料にはしてあげる」
ぶつかり合う武器、身体スペックはこっちの方が上だったが、頭に血が上って冷静な判断能力がなくなったうえに、相手のコンビプレイは練度が高く、こっちの攻撃が決まらない。
「クソッ!」
【ブラッドオレンジスカッシュ!】
「あらら、短気は損気よ」
【ドリアンスカッシュ!】
「子供だねぇ」
【ドングリスカッシュ!】
ぶつかり合う、果実の力たち……でも、二つの力をうまく合わせて放たれた技に、僕は負けて篠ノ之たちがいるあたりまで吹き飛ばされた。
「あがあああああ!?」
防御力の限界を超えたのか、それとも想定外の攻撃だったからなのか、変身は解除されてしまう。
「蜂矢君!?」
先生の声が聞こえる。篠ノ之は……顔をうつむかせて、そこにあるのは――――
◇◇◇◇◇
目の前で、あの女が貫かれた。何が起こったのかわからない。シールドを破られて、あとは死ぬだけだった私がなんで生きているんだ? なんで私じゃなくて彼女が貫かれているんだ?
「……なんで、ねぇなんで……」
「…………だって、友達に、なりた、かった、から」
ブツ切れに口から吐き出されるのは、そんな言葉。そんなことのために、こんなことをしたの? 私にはわからないよ……
「そん、なことないよ……だって、私そっくり……だもん」
「どこがだよ……束さんとは似てもいないじゃないか」
「ううん……私ね、昔いじめられっ子だったんだ」
目がうつろになってきた彼女が最期に語るのは、自分の過去。
いじめられっ子で、色々酷いことをされたこと。それでもみんなを平坦な瞳で見ていたから気味悪がられたこと。ある人と出会って、自分が寂しかっただけでどうしたらいいのかわからないから、みんなと仲良くするのが怖いから気味悪がられればそれで無視されないから、そんな理由で状況を改善しようとしなかったこと。
寂しいけど、突き放す。誰かと一緒にいたいのに、手を伸ばさない。そんな矛盾だらけの子供。それが自分だった。
でも、ある人と別れて……やっぱり寂しいから一歩を踏み出したこと。そしたら世界が変わった。
「でも、本当に笑ったことなんてなかったかなぁ……だって、同じ気持ちを知っている人はいなかったもん」
「……」
「そんなときにね、束ちゃんが私とおんなじ瞳をしていたんだ」
違う、束さんはそんな人じゃない。私は、違う……でも、私の中で彼女の言っていることを否定できないのに気づかされる。
他人に興味ないと言っておきながら、周りを気にして行動していたのは誰だ?
一人で良いと言っておきながら、大切な人を求めるのはなぜだ?
苦労やしがらみが増えたのに、新しいつながりができたことに喜びを覚えたのは……もう、否定できない。
「好きなものは好きだし、変わらない人なんていない。人間だもの……当たり前だよ」
「でも、でも……」
なんで、涙があふれてくるんだ? 私はこんなに弱かったっけ?
細胞レベルでオーバースペックなのに、世界を変えれる天才なのに……なんで、なんで……人一人助けられないんだよ……
傷口から植物が生えるなんて現象知らない。医療知識はあっても実践するスキルがない。そもそも、こんな私が人を助けるなんて……
「大丈夫、束ちゃんはまだ、大切な人がいるでしょ……」
「でも、あなたは……」
「………………花梨」
「……か、かりん、ちゃん」
「……ありがとう――」
そう言って、彼女は――――
「う、うわあああああああああああああああああああああ!?」
頭を抱える、何が何だかわからない。もう、どうしていいのか見当もつかない。
どこかで見たことのある女が花梨ちゃんに近づく。傷を見ているようだから、医療の知識があるようだけど……首を横に振った。彼女でもどうにもならない。
なら本職は? 本業の医者なら――無駄だ、こんな症状は今まで確認されたことがない。治すすべはない。
腰が抜ける。力が入らない。何もわからない……ただ一つ、わかったのは……仮面ライダー冠の姿が人になり……よく見知った男、蜂矢英になったことだけだった。
そこから先はよくわからない。
◇◇◇◇◇
胃のあたりが痛い、強制解除されたことでかなりのダメージが入ったみたいだ……でも、篠ノ之たちの近くに来たのは都合がいいか?
花村は……まだ息はあるけど、これは…………頭に血が上りそうなるのを、必死に抑える。ダメだ、ここで冷静さを失えば篠ノ之だけじゃない。先生だって危ないし、他にもたくさん……
「先生、花村は?」
「……残念だけど、私にはどうすることも……第一、出血し過ぎているの」
「…………」
どこまで効果があるかわからないけど、僕は懐から一つビンを取り出した。
それを先生に渡すと、先生はこれは? という視線をぶつけてくる。
「これは、その植物の除草剤みたいなものです……傷を焼ふさぐみたいに血を止めることもできます」
「なっ!? そんなものがあるなら……」
「でも、毒性が高い……これで出来るのは、彼女の遺体を親の元へ返すことだけ……植物を消さないと、体が風化して消えます」
「そ、そんな……」
それに、考えているヒマは僕にはないんだ……
「篠ノ之、一言だけ言っておくぞ」
「……」
「お前が選んだ道はこれから先、もっとつらいことがある。覚悟がないなら逃げろ」
「……なんで、そんなことが言えるんだよお前は」
「とっくに覚悟してるからだよ……」
「…………わけ、わかんない」
それだけ言うと、篠ノ之はうつむいて何も言わなくなった。
さてと、そろそろ行くか……もう使わないつもりだったのに、これを使うことになるとは思わなかった。
「あら? もういいのかしら?」
「今はお前らを倒す方が先だろ……状況はかなり不利みたいだけどね」
外での決着がついたのか、ISが飛んでくる。どうやら本当に死ぬ気で戦わないと厳しい状況になってしまったらしい。この前戦った女だ。IS一機とライダー二人……インベスがたくさんか。
「あはははははははは!」
「なに? 気がおかしくなったのかしら?」
「いやぁ……なんつーかついてねーなお前ら」
「どこが? 後ろにはお荷物、周りは敵だらけ。あなたの方が不運じゃないのよ」
「いいや、お前らほどじゃないぜ……なんたってな、この僕を本気にさせちまったんだからよ。覚悟はできてるんだよな? こっから先は、僕のライブだ!」
【ホオズキエナジー!】
戦極ドライバーによるエナジーロックシードの使用からくる体への負担の高さから、使うのをやめようと思っていたホオズキエナジーロックシード。だけど、今回ばかりはそうも言っていられない。
「そんなロックシードデータには――」
「父さんだけしか知らなかったからな、お前らの後ろにいる黄金の騎士だって知らないだろうぜ」
「!? な、なぜそれを」
「こっちだって何もしてないわけじゃないんだよ!」
【ホオズキエナジーアームズ! 一刀両断!】
他のアームズと違い、まるで布のような質感。むしろ服と言った方が正しい。
ただ、手に持った剣が禍々しい力を放っている。まるで血を吸って赤くなった骨の剣。
体への負担が大きくて、思わずよろめきそうになる。でも、ここは倒れることができない。
「いくぜぇええええええええええええええ!」
一瞬、相手の動きが止まったように見えた。いや、僕が速すぎて周りの時間が止まって見えるだけだ。
インベスを次々に切り裂いていく。動きの速いものから順に動き出すも、遅い。遅すぎる。
動き出した奴から次々に引き裂いていく。ISはハイパーセンサーと呼ばれるシステムを搭載しているからか、ライダーたちよりも早く動き出した。でも、僕に比べたら遅すぎる。あの黄金の騎士との戦いでも感じたが、とても強い力を秘めたロックシードだ。危険すぎるほどに。
IS操縦者は何が起きているのかわからない表情だった。でも、気が付いたときに彼女は地面に倒れていた。あとは、二人。
「は、速すぎるでしょう!? なんなのあのアームズは!?」
「データにないどころじゃない。これがマルス様の言っていた、極力手を出すなという意味か……」
腰に、鬼灯刀を構える。居合のように、相手を見据えてただ、振りぬく。一瞬で足の裏に力を込めてとびかかる。瞬動と呼ばれる、歩法。フィクションの中だけで、成功するとは思っていなかったけど……ホオズキエナジーの力と、身軽さならそれも可能だった。
「あがあああああああああああああああ!?」
「くっ……ここはいったんお預けよ、バーイ!」
ドリアン……ブラーボには当たらなかったか…………まだ、改良の余地が――マズイ、力が入らなくなる。倒れるわけにはいかないと、踏ん張る。
敵がいなくなったのを見届けてから、変身を解除する。同時に、口からあふれ出す血液。
「ガホッ!?」
「は、蜂矢君!?」
先生が駆け寄ってくる。それでも、倒れるわけにはいかない。まだ、やることがある。
僕は先生の肩を借りて篠ノ之のそばまで近づいていく。まだ、花村のそばでうずくまっているけどそれも仕方がないか……
「……蜂矢君が、仮面、ライダーだったんだね」
「花村?」
篠ノ之も驚いて顔を上げた。花村を見ると、植物が枯れていることから先生が薬を使ったのだろう――世界樹の苗木の果実から作った、除草剤を――あの薬は、ヘルヘイムの森の果実に近い成分だが、一部の物質の違いが中和をする働きを見せる。ただし、その際に皮膚にやけどの様な症状をもたらしたり、元々ある毒性も危険だが。
「すごいね……近くに有名人が、こんなにいっぱいだよ」
「もうしゃべるな……すぐに病院に――」
「良いんだよ、もうダメだってわかってる……でも、親とは仲悪いし、一言謝りたかったな……束ちゃんは親とは仲良くするんだよ?」
「うん……」
「あと、素直になること……本当は分かってるんでしょ?」
「うん……」
「よろしい……最後に、もう一度名前を呼んでくれる?」
「最後なんて、言わないでよ……何度でも呼ぶから、死なないでよ――花梨ちゃん」
「ありがとう束ちゃん……ああ、これで、あの人のところに――――」
そう言って、花村花梨はこの世を去った……苦い、苦すぎる最期だった。
「……ずるいよ、そんなの、ずるすぎる…………うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん――」
篠ノ之は救助隊が来るまで泣き続けたまま、涙も枯れるほど声を上げ続けた。
対して花村はどこかスッキリした笑顔で、本当ずるいやつ……
こうして僕たちとアイツらの戦いはとても苦い敗北で幕を閉じた。
アリスは束さんのことではなく花梨を指していたという話。
今回は多くを語りません。