仮面ライダー冠 インフィニット・ライジング   作:アドゥラ

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アリスシリーズは批判覚悟だった。ついでに今回も。



EP26.鏡の国の

 結局、あの事件は事故として処理された。現場にいた人には緘口令が言い渡されたんだけど……まあそれもあまり意味はないだろうな。外からも見えていたし、何が起きたのかは大勢の人が知っている。

 僕も体がぼろぼろでしばらくは入院することになってしまった。回復力が速すぎて医者にはものすごい驚かれたけど……

 ドライバーは先生に預かってもらって、なんとか見つからずに済んだ。篠ノ之も、僕が仮面ライダーだってことは言っていないらしい。目撃者も先生と篠ノ之と……あとは謎のライダー二人とIS操縦者が一人、こっちは見たかわからないか。

 …………花村の死は事故として処理された。見舞いに来た工藤先生たちがそう言っていた。逃げる途中、巻き込まれて、不幸な事故だと……正直、今ほど真実を話したいと思ったことはない。

 織斑も何が起きたのか詳しいことは知らない。ただ、真耶ちゃんや会場の人を守るのに必死で、気が付いたときにはすべてが終わっていて……篠ノ之が、食事もとらないありさまだというのには終わってから気が付いたと、悔やんでいた。

 自分でも何が何だかわからない。どうするかなぁ……どこから手を付けたもんか、そんなことを考えて病院の中庭のベンチに腰を下ろす。一応入院はしたけど……正直、この回復スピードなら必要なかったかも。

 アレコレ悩んでいると年配の男女が二人、こちらへやってきた……顔を見ると、なんだか見覚えがあるような気がする。

 

「蜂矢、英君でいいかな?」

「はいそうですけど……えっと、僕に何か用ですか?」

「私、花村花梨の父の花村一郎と申します」

 

 隣にいるのは、彼の奥さん……つまり、花村さんの母か。

 でもなんで僕に用があるんだろうか……篠ノ之のところへ行くのならわかるが、なぜ僕に?

 

「実は先ほど篠ノ之さんのところにも行ったのですが……正直、何か悪いことをしてしまったのではないかと」

「どういうことですか?」

「……娘のことは、佐々木さんから聞いています」

 

 僕が仮面ライダーだということや、インベスについての詳しい話はしなかったようだが、彼女の死因については佐々木先生が話したらしい。だから篠ノ之に対して恨み言でも言ったのかと思った。だけど、彼らは違った。むしろこっちが驚くような話だった。

 なんと、篠ノ之に対しては何も恨み言を言わなかったらしい。むしろ、ありがとうとまで言ったそうだ。

 

「なんで、娘が死んだのにそんなことを?」

「……私たちは娘とはうまくいっていませんでした。それどころか、あの子が心の底から笑った顔なんて、一度も…………」

 

 話を聞くと、ベクトルこそ違えどまるで篠ノ之の生い立ちだった。元々頭もよく、何でもそつなくこなした幼少時代。興味を抱いたのは音楽の道。将来は天才音楽家になるんじゃないか? そうまで言われていたけど……両親は厳しく育てるだけで、褒めたことは一度もなかった。それに気が付いたのが彼女が死んでからなんて、なんて情けないんだと……

 だんだんと、自分たちの言うことを聞かなくなった娘、素行が悪くなって……そして、まるで物を見るかのように人を見ていた。そんな日々が続いて、彼女がいじめにあっていることも知った。いつの間にか、音楽のことなんて見向きもしないで忘れ去っていたことも。

 でも、そんなある日誰かと一緒にいることが増えたという……それも長くは続かなくて、一緒にいた誰かは交通事故で死んだらしいと、後々聞いたとか。娘が突然笑顔でいることが増えたから喜んでいただけで、何も聞こうとしなかった……

 

「そして、あの子が……死んだあの子が、今まで見たことない笑顔で……」

 

 正直、あの除草剤を使ったことを後悔している。アレは、ちょっとした偶然から生まれたもので、クラックから入ってきた植物を消すために作ったものなんだけど……こんな両親のもとに彼女を返すために使ったのだと思うと、少し腹が立ってきた。

 

「それで、篠ノ之にありがとうだって……ふざけんなよ」

「え……」

「あんた等はただ一言、娘を返してとか、責任を取ってよとか……そうやって怒れば良かったんだ。あんた等は結局自分のためじゃないか。篠ノ之につらい思いをさせないためって言うつもりなら軽蔑する。見くびるなよ、それぐらい背負えないほど弱くない。むしろ、篠ノ之を理由にしてアンタらが背負うことから逃げているだけじゃないか。本当に篠ノ之に悪いと思ったのなら、アンタらは彼女に一言でも、恨みをぶつけるべきだった。本当に娘を愛していたのなら、怒るべきだった」

 

 なるほど、話を聞けば聞くほど花村は篠ノ之に似ている。でも人との出会いが篠ノ之よりも悪かった。両親は何を間違えたのかこんな人だし……織斑みたいな親友にも出会えなかった。大切な人――おそらく男性――と出会えたのは良かったが、彼はいなくなった。だから笑って死んだんだ。その彼の元へ行けるから。

 篠ノ之によく絡んでいたのは、自分に似ていると思ったからか……たぶん自分が何を間違えたのかとか、わかっていたんだろう。だから自分と同じ道を進んでほしくなくて彼女は……いや推測にすぎない。死者の言葉を語ることはできない。なら僕は今を生きている人のところへ行かなくちゃならない。

 

「たぶん、篠ノ之も一言恨みを言ってほしかったはずだ。きっと、今頃無表情になってうつむいてるよ」

「そ、それは……」

「そうだろ? それに……花村言ってたぞ、一言謝りたかったって」

 

 ゆっくりとうなずくけど、顔はくしゃくしゃで、こらえきれなくなっている……奥さんも顔を青くして、ガタガタと震えている。

 この人たちは褒めるべき時と怒るべき時を間違えた……花村も、言うべきことを言えなかった……きっと、すべて巡り合わせが悪かっただけなのだ。

 でも、まだあの子は間に合う。僕がするべきことは分かった。死者に対しては何もできないし、何も知れない。願わくば、あの空の向こうで大切な人と再会していて欲しいものだ。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 篠ノ之の病室には箒ちゃんや篠ノ之夫妻がいた。織斑や一夏君も一緒にいるけど……それでも、篠ノ之に表情は無い。まるで空っぽだ。

 

「……失礼します」

「蜂矢……スマン、私たちにはどうすることも」

「まあ、そうだよな……柳韻さん、失礼ですけど誰かの死に立ち会った経験は?」

「…………父と母ぐらいだな、どちらも寿命を迎えてだったが」

「じゃあ、わからないか……あとは僕が何とかしますよ」

 

 これは、経験したものにしかわからない。目の前で人が死ぬ、それも避けられたかもしれなかったり、受け入れがたい、突然の死は苦すぎるものだ。

 だから……花蓮さんの死を飲み込んだ僕にしかできないことだ。

 柳韻さんと奥さんは一夏たちを連れて廊下へ出ていく……織斑がまだ残っているけど、これは一言ぐらい言った方が良いかな?

 

「織斑、千円やるから一夏君たちにジュースでも買ってあげな」

「……悪いな、あとを頼んだ」

「まかせろ。こういうのは男の役目だってな」

「…………お前、本当は分かっていてスルーしていたんじゃないか?」

「何のことだか……でも、篠ノ之だって成長しなきゃいけないんだ。誰かに手を借りてちゃいけないだろ」

「それもそうだが……後悔は?」

「しているに決まってんだろ……」

 

 僕はいつだって後悔してきた。母親が死んだ。父親も僕の知らないところでいなくなった。花蓮さんを助けられなかった。それだけじゃない。もっといい方法があったはずだと、今でもたくさんの後悔を背負っている。今回だって、回避できたかもしれないことだった。

 だけど…………後悔することは悪いことじゃない。その悔しさは次につなげるのだ。インベスや黄金の騎士との戦いを選んだ時から、後悔をすることは分かっている。でも自分で選んだんだ。

 

「僕が別の選択肢を選んだのならば、こんなことにはならなかったかもしれない。でもな……この選択肢を選んだことだけは後悔しないんだ。それだけはしちゃいけないことなんだよ……お前らだってそうだろ? 騎士様」

「……ああそうだな。束を頼んだぞ、王子様?」

「んじゃ、王子は姫を助けますかね」

 

 一言どころか色々言っちゃったけど、まあいいか……正直、こういうのは苦手なんだが…………仕方がない。

 織斑も病室から出ていき、残ったのは僕と篠ノ之だけ。篠ノ之はまだうつむいていて、点滴だけが動いている。

 何から話したもんかなぁ…………

 

 まずは彼女、花村さんの生い立ちを知っている限り話そう。たぶん、それなら聞こえそうだし。

 といってもさっき両親から聞いた話と、病室から出れなかったときに佐々木先生や工藤先生、クラスメイト達に聞いた話をまとめたものだけど……

 幼少期は天才ピアニストにしてバイオリンもこなすと評判だった。他にも音楽の才能は高く、将来を期待されていたけど……両親が厳しくて、反発していき、才能をねたんだいじめもあった。それで音楽には全く見向きもしなくなって……友達もいなかった。というより一人で生きていこうとしていたんだけど……たぶん、ソレは無理だったんだろう。色々と矛盾した言動をするようになる。でも、誰か大切な人ができて変わり始めた――結局、変わり始めた段階でその人はいなくなって、今みたいになる。そう、誰にでも笑顔で接する、明るい子に。結局はそれは仮面だったんだろうね……僕も見た、まるで別人のような聡明な女性、彼女が本来の花村花梨……まるで、もう一人の篠ノ之…………

 

「まさに、鏡合わせ……お前が人のつながりを得たけど、一人になる道を選んだのに対して……花村は繋がりを得なかったけど、一人じゃない道を選んだ……結局はこうなったわけだけど」

「……じゃあ、アイツは間違ってたんだ」

「いいや? 別にそうは言ってないだろ」

「じゃあなんで!? なんでアイツは死んだんだよ!」

「…………そんなの決まってんだろ、自分で選んだからだよ。お前みたいにな」

「ッ――」

「そう、それで満足したから笑って逝ったんだ。だからな、こんなところで俯いてんじゃねぇよ、自分で選んだんだろ? 例えどうなっても、ISを完成させるって自分で決めたんだろうが……そんなお前だから花村も友達になりたがっていたんだろッ! くよくよ悩んでいるんじゃねぇ! ここで立ち止まったらそれこそ花村を泣かせるだろうがッ! あいつはなんて言ってたんだ? 自分のために泣いてなんて言ったのかよ!」

「――ない」

「……」

「――ってない」

「……」

「言ってないッ」

「なら、わかってんだろ……」

「でもっ! こんなのわけがわからないんだよ! 私は突き放したのに! 私はっ私はっ」

「……人の心なんて誰にもどうすることもできない。変わらないなんてことは無いんだ。自分じゃ気づかないことだってあるしな……」

「なんで、なんでっ」

「でもな……お前はこんなところで立ち止まる奴じゃないだろ。僕が見てきた篠ノ之束はいつだって前を向いていて、自分で道を切り開いて……突き進んでいく奴だよ」

「でもこんなに涙があふれてくるんだよッ! なんで人が死ぬのってこんなにつらいんだよッ!」

「そんなの、当たり前だろ。それが生きているってことだし、人として当たり前の感情だからだ……別にお前が弱くなったわけじゃない。大丈夫、僕の知っている……いつも通りの篠ノ之束だよお前は」

「……わかってる、わかってるけど…………今だけは、お願い」

 

 それだけ言うと、篠ノ之は僕の胸に顔を当てる。ただ、頭に手をのせてゆっくりとなでてやる。

 ここで吐き出させてあげないと、彼女はきっとねじ曲がってしまう。今僕にできること、するべきことは彼女の感情をぶつけられる相手になることだ。

 …………そろそろ、見て見ぬ振りもできなくなったなぁ……奇想天外だけど、まっすぐ進んでいく様を見るのは気持ちが良くて、天真爛漫とも言うべき彼女のことが、僕はいつの間にか――好きになっていた。

 それに気が付いたのは、いつだっただろうか?

 今はまだ言うつもりはないけど……こっちの覚悟も決めないとな…………

 

 ◇◇◇◇◇

 

「それじゃあ、みんなを呼んでくるけど……大丈夫か?」

「うん……あとさっきのは忘れて」

「分かってるよ……またな、束」

「……英もね」

 

 言葉に出さなくても伝わることもあるのかもしれない。

 だって、鏡は見たままを伝えてくれる。

 ただ今は色々なことを飲み込む時間が必要なんだ。前に進むのだって、少し位休まないといけない。じゃないと途中で息が続かなくなる。

 眠るのは記憶を整理するため。そんな風に、感情を整理する時間だって必要なんだ。

 




なんか主人公カッコつけすぎたかなぁ……
前々から決めていましたが、主人公の鈍感ははがないの小鷹に近い。気づいているけど、何かのために見て見ぬふりをする。
ようやく向き合わせることができました。

花梨はのほほんさんをイメージした皮をかぶった、もう一人の篠ノ之束というイメージで作りました。普段はあんな感じの子だけど、本質は全く違う。
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