束の家でご飯を食べた後、道場の方で軽く体を動かしていると織斑がやってきた……何だか、荒れてるけどどうしたんだ?
「織斑、なんか顔が怖いけどどうした?」
「ああ……少し、な」
それだけ言うと正座して目を瞑り……瞑想を始めてしまった。なんか邪魔するのも悪いし、外に出ているか。
しかし、雨も上がってこれから暑くなりそうだ……夏も近いし。
「英ー、ちょっときてー」
「分かった」
そういえば、詳しい説明とか聞いていなかったな……束の部屋は意外と少女趣味で、ぬいぐるみが数多く存在している。いや、私服のセンスからして意外でもないんだけど、束をよく知らない人から見たら驚かれるだろう……一応、世間じゃ美少女博士で通っているし、他人に対して興味を抱かなかったのがクールに見えていたらしいし。
「で、話があるんだよな?」
「うん。まず預かっていたドライバーとゲネシスコアを調べていて分かったんだけど……フェイスプレートを取り外せたのは分かったよね?」
「ああ、壊したらまずいし下手にいじれなかったから知らなかったけど……外しても大丈夫なのか」
「使用時に外れたままだとダメだけどね。で、そこの部分にゲネシスコアをはめられるように互換性が持たされていたんだよ」
なるほど、父さんは最初から色々と見越していたみたいだな……用心深いあの人らしいけど、かなり綱渡りなあたり、うっかり性質もあるからなぁ……見落としがないか気になってきた。
「戦極ドライバーとつなげられたおかげで、今まで解析しきれなかったゲネシスコアもある程度調べられたし……データだけ見つかったエナジーロックシードももしかしたら作れるかも」
「本当か!?」
「うん、正規品の一つ目のエナジーロックシード、レモンエナジーロックシード……ただ、果実をそのままで入手しないといけないんだよね……」
「あーその問題があるか……まてよ、世界樹の苗木から取れる果実ならいけるんじゃないか?」
「そうなんだけど……向こうの果実も一度調べてみないと、微妙な違いからバグを起こしたら危険だし」
「……確かに、そうか」
「それでジンバーアームズなんだけど……スペックはゲネシスドライバーを使用した状態より強いわけじゃないんだよね」
「どういうこと?」
「うーん、確かにエナジーロックシードとの互換を持たせられるんだけど、ジンバーアームズはロックシード側のアームズの強化なんだよ」
「なるほど、エナジーロックシードを強化パーツとして使用するわけか……」
「元々私の専門とは違うから、ここまで調べるのに時間はかかったけどね」
「それでも十分過ぎるほど早いって……でもおかげで助かった。ありがとうな」
「……そういうのをさらっと言うから反則なんだよ」
そう言うセリフを返されるのも、反応に困るんですが。
「あ、もう一つ言うと、ゲネシスドライバーの設計図も見つかったよ」
「マジで!?」
それこそ大収穫じゃないか!
「でも材料集めるのに時間かかるし、IS作るのよりも厳しいものがあるんだよね……果実のサンプルが必要なのには変わりないし……」
「どうやってロックシードにしないで触れるか、だよなぁ…………いっそのことドライバーつけたままでも変化しないようにできればいいんだけど」
「基盤から分解しないと無理だよ。なんか方法ないの?」
「うーん……待てよ、触ると変化するなら触らなければいいじゃないか」
「え?」
「だから、布かなんかを間に挟んだり、いっそのことロボットアームでも使えばいいじゃないか。束なら持ってるだろ?」
「……あ」
さっそく行こうと思ったが、日も傾き始めたのでその日はいったん帰宅して準備を整えてからということにした。のだけど……ある人物に捕まってしまった。
「えっと、織斑? 僕はもう帰りたいんだけど……」
「すまない、私の都合に巻き込むようだが……我慢できないんだ」
「ちーちゃん、なんか目が怖いんだけど……どうしたの?」
「…………黙って本気でかかってきてくれ。ただそれだけで良い」
なんというか、いつにもまして鋭い雰囲気がある。剣道の試合は好調で別に悩む要素なんてなかったと思うんだけど……
いったい何があったんだろうか……束も知らないみたいだし。
「本気で良いんだよな?」
「ああ……やはり、防具はつけないのだな」
「必要ないよ。むしろ動きが鈍る方がやりにくい。織斑はつけて……いや、言っても無駄か。束、軟膏かなんか準備しておいてくれ。なるべく怪我しないようにやるけど、一応な」
「わ、わかった!」
変な空気を感じ取ったのか、僕らの会話が聞こえたのか柳韻さんや箒ちゃん、まだ残っていた門下生が集まってくる。
見物客が入ってくるけどいいのだろうか?
「私は構わない」
「そうですか……それじゃあちょうどいいし、柳韻さん危ないと思ったら止めてください」
「ああ……だが、その構えは」
僕は長い竹刀と短い竹刀をだらりと下げて構えている。到底、戦うような体勢には見えないだろう。
でも、織斑は体がこわばっている。
「さすが、わかるのか」
「…………実戦慣れしている。やはり、戦闘経験という面では私より上だな」
「まあね……これでも忙しい身だし」
束が戻ってきたことを合図にお互いが動き出す。織斑はまるで居合のように竹刀を下から切り上げる。しかし、僕はそれを左手に持った短い竹刀で受け止めて体の力を抜いて受け流しつつ、後ろへ飛ぶ。
「よくそんなかわし方ができるな……」
「最近、僕も人外染みているとは思っているんだけどね……」
ロックシードの悪影響とかないか結構心配なんだよ。傷の治りが速すぎるし。
「じゃあ今度はこっちから……ハァッ!」
二刀流というのは両手持ちの一刀に比べて、一刀分の使える筋力は少ない。だけども手数が多いため、相手に攻撃の隙を与えない戦法も可能である。そして、僕の使う変則二刀流はオレンジアームズ系統と先ほどのジンバーホオズキの経験からくる実戦と、この篠ノ之道場で磨いた対人戦闘用に編み出した我流。型がないため、実際の剣道や剣術とはそもそも根本が違う。試合で使うための織斑と比べて、僕のは敵を倒すために磨いたものだ。
「なんだ、この重さはッ」
「これぐらいできないと色々と危険なんで、ねッ!」
二つの竹刀の鍔付近で織斑の竹刀を挟み込んでねじる。体勢が崩れた――いまだッ! 二つの竹刀を同時に上へ切り上げて、織斑の竹刀を弾き飛ばす。
最初、あっけにとられていた織斑だったが……それを見ると、ああとだけ呟いた。
「……勝負あり、かな?」
「ああ……完敗だ」
負けたのに、妙にスッキリした顔で織斑は床に座りこんだ。
「やはり、私は蜂矢に名前で呼ばれる資格はないのか……」
「……はい?」
なんだ? なんの話だ?
「日本政府にも断りの連絡を入れるか……こんなにあっさり負けるようでは、私もまだまだだ」
「いや、なんの話だか分からないんだけど……」
織斑の頭の中ではどういう風な出来事が起きているんだ? わけがわからない……束も、他のみんなも何だか困惑しているし。
「ことの始まりはそうだな――」
「いや聞けよ」
「――日本政府からある打診があったことだ」
ああうん、やっぱり束の親友だわ。どこかズレているし人の話を聞かないで暴走するところとかそっくりだわ。
「来年、IS操縦者による競技大会が開かれることは知っているな?」
「まあ話には聞いたけど……束は?」
「一応話は聞いているけど……ルールとかは向こうで作るらしいよ」
ああなんか国際IS機関とかなんとかいう奴だっけ? 詳しいことは知らないけど。
「第一回は各国の優秀な若い人物から候補を選んでいて、束とも仲が良くIS操縦経験が多い上に剣道でも有名であった私が第一候補ということなんだ」
「妥当どころか当然の帰結だろ」
「むしろちーちゃん以外に誰がいるんだよ」
「だがな、私は思ったのだ……まだ柳韻さんには勝てない私が出てもいいのかと」
「いやなんで?」
「ちーちゃん、一応お父さん相手は私でも勝てないし、それこそ達人クラスなんだよ……目標が高すぎる」
日本どころか世界中の若者で勝てる人はあまりいないと思う……僕も無理だし。
「それにな蜂矢にも勝てないんだ。しかもまだ認められていないような私が出たところで――」
「えっと、だからそれがよくわからない」
「――だから、お前は私がまだ名前で呼ぶに値する強さじゃないからいまだに苗字で呼んでいるんだろ?」
「……」
「……」
「……」
そのとき、その場にいるものは全員あいた口がふさがらなかった。
この子、どんだけ堅物なんだ、と。
「いやいやいやいや、苗字で呼ぶのが定着しただけだし、元々人の下の名前で呼ぶタイプじゃないだけだから!」
「ならばなぜ束は呼び捨てなのだ! ズルいではないか! 私は友達ですらないのか!?」
「めんどくさッ!? この子ひどくめんどうだよ!?」
なんだこのネガティブちーちゃん……体育座りでのの字を書き始めるし……どうしようかと周りを見渡すと、束は目をそらした。おいこらお前の親友だろ? え、そんなの私の知ってるちーちゃんじゃないって? 僕もだよ。むしろ今までのイメージが全部ぶっ壊れたよ。
箒ちゃんなんか今までのカッコイイ織斑のイメージがブチ壊れて白目向いてるじゃないか……あ、倒れた。
柳韻さん……っていなくなってる!?
一夏君……そもそも今日は来ていないしッ
門下生のみなさん……あ、だめだ。ギャップにやられてる…………男女関係なく。というかアンタらはこれのどこがいいんだ!? 何だろう、お前には言われたくない的な視線を感じた。
「……あー、それでまだ自分は未熟だからその代表の話を断ると?」
「ああ……今日は、いい機会だと思い勝負を挑んで私が勝てば話を受けようと思ったのだが……」
「…………」
重いよ、そういうのは先に話してよ……そういえば、こいつも親がいないんだっけ。蒸発したって聞いたけど……弟の一夏君の面倒を見ないといけないし、色々溜まっていたんだろうなぁ……
「僕が束のことを名前で呼ぶようになったのは自分の心境の変化からだし、別に呼び方で優劣があるわけじゃないって……というか意外とそういうところ気にしていたんだな」
「……お前にわかるか、お姉さまとか呼ばれる気持ちが。高校ではその呼び方から解放されると思ったら上級生にまでそう呼ばれたんだぞ! この気持ちがわかるかッ!?」
「ごめん。マジで悪かった」
まさかそこまで面白怖いことになっているとは……束、そういうフォローは……無理だよな。というかおなかを抱えて地面にうずくまるな。僕だって笑いたいの我慢してんだよ。
とりあえず……代表の話は断らせない方が良い。両親のいない織斑はこれがどういう風に有利なのかわかっていない。
「なあ織斑……そういう大会なら優勝賞金っていくらくらいなんだろうな?」
「…………」
「一夏君におもちゃを買ってあげて、ありがとうお姉ちゃんとか言われたくないか? いや優勝したのなら一夏君も褒めてくれるだろうし、きっと憧れの視線を――」
「今すぐ承諾の連絡を入れてくる!」
なんかもう凄い笑顔で立ち上がって走り去ってしまう……やはりブラコンを励ますには弟を使うのが一番だ。
「……ちーちゃん、将来悪い人に騙されないか心配だよ」
「それは僕も思った……束、頑張ってフォローしろよ」
「…………正直、自信ない」
だよなぁ……
後日代表候補生を10人ほどに絞り、その中から一人選ぶことになったと織斑から話を聞いた。開発者ってことで束にリストが届いたんだけど、クレー射撃で優秀な成績を収めている真耶ちゃんがその中にいるのを見つけ、その話をしたら……真耶は良くて私はダメなのかとまた戦いを挑まれた。正直めんどうになったので僕に勝ったら呼んでやるとか言ってしまった。正直、名前で呼んであげればこじれなかったのになぁと思ったけど後の祭りである。
ちなみに、束は結局爆笑してアイアンクローで沈められた。南無。
そろそろIS側のイベントもこなさないとね……と言うわけで第一回モンドグロッソの話(前段階)です。まだ代表候補を選んだだけだけど。
山田先生はクレー射撃で有名という設定。
作中で語らなかったけど、15~20から選抜したということで。
後の話でそこらへんの詳しいことは語ります。
流石に準備期間必要だろうということで、モンドグロッソについてはちょくちょくはさみながらです。
明日は更新お休みして、明後日から再開。