いざとなったら人ってのは案外もろいものなのかもしれない。
普段なら、こんな相手に苦戦しないだろうに……
「ぐぅうう……」
「ガアアアア!」
そこにあるのは明確な殺意だけ。でも、このインベスが元は人であるという事実が僕の攻撃を鈍らせてしまう。束も援護をしてくれているから、致命的なダメージは受けていないけど……精神的な消耗が激しい。
遠距離からの束の支援のおかげで、相手の癖や攻撃パターンは読めた。硬い身体と右手の強靭な爪だけ。特殊な攻撃は一切ないという上級インベスには珍しいタイプのようだ。
「……どうする、どうする」
やるしかないのか? でも――僕には明確に人を殺すという経験はない。それが、攻撃の手をゆるませてしまっている。
束も、どうしたらいいのかわからない顔をしていて、狙いがうまくつけられていない。
「…………ねえ、英……大丈夫なの?」
「……正直、強さよりも精神的にキツイ。いつかは通る道なんだってわかってた。でも、相手が自分を殺すために、インベスになると分かっていながら果実を食べたと知っているのに、僕は……」
あいつを殺す覚悟が生まれない。
頭では分かっているのに、体は動いてくれない。どうすればいい? ここで倒さなければ、町に出て被害が広がるかもしれない。研究所に乗り込んで、惨劇が生まれるかもしれない。
……それでは殺すのか? それは臭いものにふたをするだけではないのか?
わかっている。そういう話ではないんだって分かっているんだ。
「クソッ」
どうしたらいいのかわからない。今まで、こんな事はなかった。
僕はどうしたらいいのだろうか?
◇◇◇◇◇
今この時、彼らの戦いを見ているものがいた。そのものは誰に気づかれることなく、静かに戦いの様子を眺めていた。
森の中、木の上にその存在は腰かけていたのだ。戦いが始まってからずっと。
「……期待外れかねぇ…………蒼の血統だから期待していたんだが、まだまだガキだな」
体はすっぽりと布に覆われていて、頭だけでている服装――ポンチョを着て、神はもみあげが三つ編みになっている。鼻は極端に低く、耳も小さい。瞳は鋭く、にらまれただけで萎縮してしまいそうだ。
まるで、ヘビのような顔立ちの男。いや、男とも女ともつかない謎の存在。
「…………カラットは惜しいところまで行ったんだがなぁ……インベスになっても殺意だけは持ち続けるとは、いやらしい粘着質な奴でも貫き通せばここまでいけるのか。いやぁ、人間の可能性ってのはバカにはできないねぇ……もっとも、それだけしか残らなかったらしいが。ま、アイツの限界はそこだったってだけさね」
その存在は評価をつけるだけつけると、カラット自身には興味をもう抱いてないかのように戦いを再びながめ始める。インベスと戦う、二人を。
「運命ってのは自分じゃどうにもならない。だけども、自分で変えることはできる。さあて、俺も行動を再開するかね」
それだけ言うと、その存在は再び姿をくらませた。いや、正確には体がみるみると細くなっていき、本当にヘビになったのだ。
そして、そのヘビは森の中へと消えていった。
もう、何の気配も残っておらず、そこに誰かいた形跡もない。
◇◇◇◇◇
くそっ……どうする? どうすればいい?
「ハァ、ハァ……ふぅ」
一度、息を吐く。
落ち着け。アレはもうインベスだ。だったら、僕のやることは一つのはずだ。
思い出せ、花蓮さんの時のことを。思い出せ、花村の最期を。思い出せ、思い出せ!
「……束…………下がってろ」
「英、でも」
「大丈夫だ。もう大丈夫」
ソニックアローを構えて、走り出す。インベスの肩から腰にかけて、一振りし、切り付ける――が、予想以上の硬さではじかれる。
「ガァッ!」
「ハァアアア!」
その隙に爪で引き裂かれそうになるも、弾かれた無双セイバーをひじのあたりにぶつけて軌道をそらす。
そして、口の中に無双セイバーをつっこんでインベスを横転させる。そういえば、ジンバーアームズなら無双セイバーも展開できるようだ。この場面で手数が増えたのはありがたい。
「いくぞ……」
【シルバーオーレ! ジンバーレモンオーレ!】
二回ブレードを叩き、矢の先端にエネルギーを収束させる。
球状のエネルギー体が形成されていき、蒼と黄色の光が集まっていく。
「……」
「グ、グルゥゥゥゥ…………」
ためらうな。弓を引け。
自分にそう言い聞かせて、矢を放とうとした瞬間だった。
「…………タスケテ」
そんな声が聞こえたのは。
「あ、ああ……」
ダメだ、僕には射抜けな――ッ!?
「す、英ッ!?」
一瞬、何が起こったのかわからなかった。
気がついたら地面に倒れていて、胸のあたりが凄く熱くなっている。
「あ、アガアアアアアアア!?」
体を引き裂かれるような痛み――いや、本当に引き裂かれたんだ。
予想以上の切れ味を持つ爪で、僕は切られた。
だけどどうして――インベスを見て僕は驚愕した。
「アガ、アガガガ、アガガガーガッガッ!」
嗤っている。あんなインベス見たことない……
僕はとんだ思い違いをしていた。アイツは、人間であって人間じゃなかった。最初から、人間性なんてない。自分の欲を満たすために人を殺す存在だ。もう、その精神が人間とは呼べない。きっと、インベスになる前から。
彼女がどこで間違えたのかは分からない。もしかしたら、僕が修学旅行の時に倒したせいなのかもしれないが、だからと言ってここまで畜生に落ちるなんて……
考えるのは後だ、痛みが体を駆け巡っているが、あのインベスは束も狙っている。僕に駆け寄っているから束は無防備だ……束があの爪にやられる? それだけは嫌だ。
体は動かない? バカを言え。これぐらい黄金の騎士の分身体と戦ったときに比べればへのカッパだろ。
痛み? それこそこの程度、ホオズキアームズを使った後に比べればどうってことない。
心が重い? 花蓮さんや花村が死んだときはもっとつらかった。僕は聖人君子じゃない。すべてを救うなんて無理だ。だったらためらうな。いや、うじうじ悩んでんじゃねぇよ蜂矢英――仮面ライダー冠!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ」
「あ、アガアアアアアアア!?」
「英!?」
ソニックアローはまだ手に握られていた。渾身の一撃を、相手の腹に食らわせて吹き飛ばす。
案外、なんとかなるもんだな……
「束……もう大丈夫だ」
「でも体が」
「大丈夫……覚悟できた」
さあ……長い長いAメロは終わった。ここからは、サビに突入だ。
「う、ウグウウウウ……チカラ、チカラァアアアアアア!」
倒れていたインベスは、落ちている何かをかき集めるとそれを口へと運んでいく――あれは、量産型が使っていたイチゴロックシード!?
しまった……回収していなかったから落ちたままだった。これはもう一つ覚悟するべきか……
「束、マジで下がってろ。たぶんデカいの来るぞ」
「……大丈夫。束さんももう逃げないって決めたから。それに、英――信じてるよ」
「…………ああ」
不思議だな。その言葉だけで力が湧いてい来る。
インベスはみるみる巨大になっていき、馬にも鹿にも、獅子にも似た怪物へと変化していく。巨大な角と、長い四肢。鬣のように生えた毛。そして、額の部分には女性の形をしたナニカ。
巨大なインベス――ヘキジャインベス外道体――は咆哮を上げると、こちらへと突進してくる。
「危ないッ!」
「ひゃっ!?」
束を抱きかかえて、インベスの突進をかわす。
それほど知能は高くないのか、倉持技研を取り囲む壁に激突して動かなくなる。いや、すぐに動き始めるだろう……なにかアイツに対抗できる手段を考えないと。
ジンバーアームズの防御力でさえ、通常時に突破されているんだ。ただでさえダメージは溜まっているのに……ジンバーホオズキはダメだ。防御力が低い。
このまま戦う? 無理だ。あの巨体相手にソニックアローは分が悪い。しかも、この痛みで狙いが定まらない。
……パインやマンゴーのパワー系ならチャンスはあるが、時間がかかるな。
スイカならどうだ? いや、イチゴロックシードを五つも食らったアイツ相手にそれは――
「…………束、下がっていてくれ。少しばかり無茶するから、終わったら頼むわ」
「ちょっ英!? なんだよ無茶って!?」
「前々から、理論上はできるかもって話はしていただろ」
「……あれをやるの!? でも負担とか相性とか諸々あるし、成功するかどうかなんて――」
「んなもんやってみなきゃわからないだろ。正直、あのインベスは今までのとは別格っぽいし、これしか手がないんだよ」
「……一つ約束して」
「なんだよ?」
「…………今年のクリスマスは二人きりがいい」
「わかったよ。約束だ」
約束したからには、絶対に負けられないし、死ねないな。
だって、それが男だろ?
「いくぜ……こっからは僕のライブだ!」
【スイカ! ホオズキエナジー!】
空中に浮かぶ巨大なスイカと、その隣に浮いているホオズキ。理論上は可能というだけで、実際には使わなかった禁断のアームズ。
ホオズキエナジーがブラッドオレンジとしかミックスできなかったのは、試作品ゆえの不安定さからくるものだった。元が強力なブラッドオレンジならホオズキエナジーの力にも耐えられるからこそ使えたわけである。
ならば、他のロックシードでは無理なのか? いや、一つだけあったのだ。スイカロックシードはエナジーロックシードに匹敵するポテンシャルを持っている。だからこそ――
【ミックス! スイカアームズ! 大玉ビッグバン! ジンバーホオズキ! ハハーッ!】
――この二つを融合させることができるのだ。
もっとも無茶であることには変わりないから、ドライバーからかなりヤバい音が聞こえるけど……ガガガ、とかビガガとか……体中に痛みも走りだして、自分の口から苦痛の声が響きだす。それをどこか遠いところで見ているかのような不思議な感覚がする。
「あ、アガアアア――グゥ、ま、負けるかアアアアア!」
赤い光に包まれて巨大な球体になり、光の周りをツタが踊る。そして、光が収まりツタも消え去るとアームズの展開は完了していた。
新たなアームズはベースはスイカアームズ。だが、胸部など一部の装甲がジンバーの時のものになっている。そして何といっても鎧が全部黒一色になっているのだ。スイカ双刃刀などの赤い部分はそのままだが。
「いくぜ……ジンバーホオズキ・エクステンドだ」
巨大なインベスに向かって駆け出す。スピードはあまり変わらないけど、感じる。パワーは以前の数段上。
そのまま拳を振りかぶり、インベスの頭に叩き込む!
「アガアアアア!?」
「デリャアアア!」
もう片方の腕で、アッパーを喰らわせて弾き飛ばす。これでもまだ皮膚は砕けていないようだ……予想以上に堅い。これはキツイぞ……
「グウウアアアア!」
「ふんッ」
突進を繰り出してきたインベス。しかし、 僕はそれを受け止める。
通常のスイカアームズなら押されていただろうけど、なんとか拮抗できている。しかし肩や、足のあたりから火花が出ている――あまり時間はない。結構無茶なアームズだからそんなに長い間使っていられない。
「ハアアアアアアア……ゼリャアアアア!」
右足に貯めたエネルギーを一気に解放し、渾身のサマーソルトで巨大インベスを打ち上げる。
押し合いの体勢から、こんな攻撃がくるとは予想外だったのか、インベスは目を白黒させていた。いや、頭の女性かな? ……正直、気は重いし胃袋の中身逆流しそうだ。
……でも、アイツは超えてはならない一線を越えたんだ。
【スイカスカッシュ! ジンバーホオズキスカッシュ!】
再び右足に充填されるエネルギー。そして、下から飛び上がってインベスめがけてその蹴りを炸裂させる。
「あ、あああああああああああああああ!?」
「これで終わりだァアアアアアア!」
空高く飛んでいったインベスは――そのまま大爆発して消え去った。
……空に飛ばしてよかった…………あんな爆発、普通に地面で起こさせるわけにはいかないって。
そして僕は落ちていき、地面に激突したショックで変身が解除された。
◇◇◇◇◇
「英、英ッ!」
まったく無茶ばかりするんだから……少しは束さんの気持ちにもなってよ。
英は安心したような、泣き出しそうな、複雑な表情で眠っている。脈拍、体の傷とか調べたけど異常はないみたいでよかった。
救急車も来ているようだし、後は病院に運んで調べないといけないかな……とりあえず、ドライバーは預かっておこう。
幸い、これと言ったけが人はいなかったようで、被害にしては奇跡的であった。ただ、英は疲労とダメージからしばらくは動けそうにないみたいだけど。
更識さんが駆けつけて、事後処理してくれたおかげで英が仮面ライダーだってバレずにすんだし、よかった……私は英の付き添いで救急車にのって一緒に病院に行くことになったんだけど……
「……これ、どうしよう」
すでに日は落ちて、あたりは暗くなっている。
治療の邪魔になるからと、英の腕輪を預かることになった。一応、彼の母の形見であることを説明したから雑には扱われなかったし、私に預けられたんだけど…………
「後で返せばいいか」
英が目を覚ましたら渡そう。そう思って、私は腕輪を持って帰ることにした。
……だけど、ちょっと魔が差してしまい――私はその腕輪をつけた。英の話じゃ、英と彼の母以外がつけても何も反応しないらしいからと油断していたんだと思う。
「ふぇ?」
いきなり視界がぶれて、体が動かなくなる。
何が何だかわからない。幸い、自分の部屋だったから良かったけど……私は倒れて動かなくなってしまったのだ。
戦いは終わりましたが、まだ謎は残されたッ
というより残したね作者が。
あとは倉持技研編はまだ終わっていないということもありますね。
暮桜は完成しましたが、まだやることはあります。
まさかの展開にびっくりした人もおおいのかな?
結局デュークの新アームズはリンゴ系なのかドラゴンフルーツなのか。
どちらにしても、ネタにしにくい果実が増えた……