前回からの引きの続きです。
これは夢なのだろうか? 英の腕輪をつけた瞬間に世界が暗転した。そして私はどこか知らない場所に立っている。
「ここ、どこだろう?」
感覚としては、コアネットワークによる意識伝達とか使用したときに作られる電脳フィールドに近いけど……なんだかひどく生々しくて、寒気がする場所だ。
地面は真っ黒で、時折水文が広がっている。空も暗いけど……不思議と、空と地面の境界線は見える。
「……なんか見えるけど…………花畑?」
ずっと先に花畑が見える。誰かいるのかもしれないと、私はそこへ行こうとするが、目の前に見えない壁があるようで先に進むことができない。
なんかイライラするなぁ……タタラを展開して……あれ、持ってない? なんで?
「キーホルダー型になってつけていたはずなのに……なんで?」
わけがわからない。ここはいったいどこなんだとか、なんでつけていたはずのものがなくなっているのかとか……でも、英の腕輪はつけている。良かった、これがなくなってたらそれこそ終わってたよ。
帰ろうにも帰り道は分からないし……どうしたものだろうか。
「……え」
もう一度あたりを見渡して、花畑の方に目を向けると――そこには死んだはずの花梨ちゃんが立っていた。
――――ありえない。どういうことだ? 私の頭はパニックを起こして思考を停止させる。これは夢? だけど痛覚はある。左手に着けた腕輪のあたりが痛い。いや、熱い。腕輪は、赤い光を放ち、瞬いている。
「なんで花梨ちゃんが…………」
花梨ちゃんはだた、こっちをみて微笑んでいるだけだった。私が彼女のそばへ行こうとすると首を横に振ってダメだと伝えてくる。
いつの間にか、壁はなくなっていた。
「……あ」
目が慣れてきたのか、花梨ちゃんの横に長身の男性が立っていた。見た目はお世辞にも美男子とは言えないけど、ちーちゃんぐらいに強い目をした人だ。
……唐突に理解した。会えたんだね、と。
花梨ちゃんは縦にうなずいて、笑顔で手を振って花畑の向こうへ去る。私も手を振って見送る。なんだか、少しだけ肩の荷が下りたような気分だった。
「…………」
どれくらい、手を振っていただろうか。彼女の姿が見えなくなってから私は小さく息を吐いた。
花畑に背を向けて、歩き出す。帰ろう。なんとなくだけどこっちに行けばいい気がして。
どれくらい歩いたのかはわからないけど、花畑が見えなくなったあたりで、赤い地面が見えた。そちらへ歩いていくと……紅の色をした鎧が目についた。いや、鎧と言うよりは――インベスの皮膚。
「……」
巫女装束にも似た、姿。全身は紅で首のあたりからは髪のようなものが伸びている。あばら骨のような外骨格でおなかを守っている。シルエットは女性的で、人とは異なる外見だけど……なんだか優しそうな眼をしていた。
「……あなたは、誰?」
「――」
言葉は分からない。と言うより、聴き取れない。
何を言っているのかわからないけど、不思議と耳を傾けてしまう。
聴き取れはしない、でもなんだか心地よい音色だ。ああ、そっか。これ歌なんだ。
「――――」
歌は続く。悲しいような、どこか懐かしいようなメロディ。目を閉じて耳を傾けていると、なんだか不思議な光景が目に浮かぶ。
空には炎が広がり、大地は植物でおおわれ、雨がすべてを飲み込もうとしている。
その中で、黄金の林檎を持つ黒い女王が二人の勇者に倒されている光景。片方は蒼い色の武者のようないでたちのインベス。男性的なフォルムで、武骨な印象を受ける。もう片方は、歌っているこの人……
そして、女王は倒れ、黄金の林檎は複数の欠片に散らばって世界中に飛び散った。世界は歪み、分かれていく。
「……いまのって」
「――」
歌は終わり、女性は横を指さしている。光が差し込んでいる空間があって、穴の様な、扉の様な何かが見える。
「……出口?」
「――」
コクリとひとつ頷いた。信用していいのか悩むところだけど……なんだか、大丈夫な気がした。
不思議と、足は自然に出ている。そして私はその光を通った。
――頑張ってください、私の遠い遠い『 』たち――
最後にそんな言葉が聞こえたけど、一体?
目が覚めると、自分の部屋にいた。
空は明るくなっていて夜が明けている……アレは夢だったのか?
「……あれ?」
足を見ると……濡れている? そういえば、あそこは水文が――ッ!?
何か重要な、とても重要ななにかを見たのではないか? 腕輪を外し、急いで着替えて支度を済ませる。
英のところへ向かおうと、預かっていたままだったローズアタッカーを展開した。
「束、急いでどうしたの?」
「ごめん、英のお見舞いに行ってくるッ」
まだ彼は病院で寝ているころだろう。私は急いで彼の下へ向かった。
◇◇◇◇◇
痛い。体中が痛い…………なんていうか、今回は無茶し過ぎたかも。
「……っていうかここどこ?」
周りはあたり一面真っ暗。本気で無茶し過ぎたんだろうか……いや、ここは前に一度来たことがある。
黄金の騎士の分身体との戦いで、大怪我したときに父さんたちにあった場所だ。真っ暗というより真黒。
「…………さすがに、父さんたちはいないか」
いいや、次に会うときはずっと先にするって決めたんだし、会わない方が良かったな。
とりあえず、早く帰ろうと歩き出す。しかし、この体の痛みは結構キツイ。まあ、こんだけダメージ受けて痛みがない方が危ないんだろうし、痛むってことはまだ大丈夫なのかな。
「色が変わった?」
なんていうか青い地面になってきた。先へ進むと、人影が見えてきたので走り寄っていく――だけど、その姿は人間じゃなかった。
蒼い武人。そんな感じだ。格好としては、サムライというか、法被の様な感じの皮膚を持ったインベス。だけどもインベスとは違い、理性的というか……精神統一しているときの柳韻さんや織斑に近いものがある。
手には長い刀のようなものが握られており、左手には――腕輪をしている。
「え?」
思わず自分の左手を見ると、腕輪はしていた。青い光を放ち、輝いている。
なんで同じものが二つもあるのだ?
「…………カマエロ」
一言、一言だけそう言った武人は刀のような武器を構える。
いや構えろって言ったって……いつの間にか、僕の手には蒼銀杖が握られていた。
「夢? いやでも……仕方がない」
戦わないといけない空気だし、僕は杖を構えた。
よく見ると、彼の刀は腕輪と同じ意匠をしている。鍔の部分とか、柄の部分とか。
「……ハアッ!」
「――ッ」
思わず防いだが、強い。この男……そこらのインベスとはくらべものにならない。いや、他のライダーよりも強い上に柳韻さん以上の迫力と技術を持っている。
腕がしびれるが、僕は足を払って距離をとる。力、技術、迫力……すべて負けているけど、不思議と逃げ出したいとは思わなかった。
……ああ、なんだ。これは戦いじゃない。試合なんだ。
なんとなく既視感はあったんだけど、柳韻さんが稽古をつけてくれる時の感覚に似ている。だったら、自分の全力で打ち込むだけだ。
「ゼリャアアア!」
杖に力をためて、突く。しかし、簡単に受け流されてしまう。
相手の斬撃は、目で追うことはできず、何回も切られてしまう。しかし、打ち合うたびに体が反応するようになっていく。目で見るのではない。肌で感じろ。
体中の感覚をすべて相手に集中させるのではない。自分の手や足、武器の届く範囲に集中させろ。自分の間合いがはっきりしていく。その都度に、相手の攻撃を防ぎ、打ち合うことができるようになっていく。
そして、だんだんと相手と自分の間合いがつかめるようになってきた。
「…………これって――」
自分と相手の間合いがぶつかり、お互いの攻撃の防ぎあいになっていく。
お互いが攻撃を決めるために攻撃するのではなく、お互いの領域を奪い合う戦いだ。
結局、そのまま至近距離からの打ち合いはしばらく続き、疲れた僕が一瞬気を抜いてしまって、吹き飛ばされてしまった。
「おぐっ!?」
「……」
……力入らない。どうやら負けたようだ。
だけど、敗北したというのにすごくスッキリしている。
「…………なんだか、楽になった」
「……」
武人は僕に近づいてくると、手を伸ばしてくる。その手を握ると、引っ張り起こしてくれた。
そして、すこし後ろに下がると、姿勢を正す。僕も姿勢を正して、正面から向き合う。
言われるまでもなく、お互いが一礼した。
「……ありがとうございました」
素直にその言葉が出てきた。うん、なんだかスッキリ。
そして、気が付くと変な扉の前にいた。いや、光のゲートと言ったほうが正しいか。
「…………」
僕はその光の輪を通り、現実へ帰還する。
だけど――その間に、不思議なものを見た。
「なんだ、これ?」
地球に見えるけど……大陸が多い気がする。それにものすごい雨が降っていて、世界中が海に飲まれそうだ。
落雷が激しくなってきていて、地球の姿が二つに分離しようとしている……これは、一体?
だけど、最後まで見ることはできずに僕の意識は遠くなっていった。
◇◇◇◇◇
気が付くと、窓から陽射しが当たっている……痛い。
体を起こしてあたりを見渡すと、白い部屋にいることに気が付いた。どうやら、僕は病室にいるらしいな。
「……無茶したからなぁ…………ん?」
ドライバーがないのはいいとして、左手に違和感を感じた。
腕輪が、ない?
「あれ?」
一体どういうことなのだろうか……と、考えていたらその答えがやってきた。
少し乱暴に開かれたドアの向こうに、束が息を切らせて――っていきなり抱き着いてっ!?
「心配したよ……無茶し過ぎだよもう」
「えっと、すまん……あと、起きたばかりにそれはちょっと――」
「……ごめん」
束は顔を赤くして、離れていく。正直、色々とアブねぇ……
「そ、それよりも話したいことがあるんだけど……」
「?」
束が腕輪を預かっていて、僕に渡した後に話してくれたのは自分が見た夢の話。夢にしてはリアルであり、足は濡れていて、まるで実際にそこへ行ったかのようだったと。
彼女の話の中で、一つ心当たりが生まれた。というか、僕も見たその場所の話をする。
「……偶然にしては、出来過ぎているかな?」
「ああ……共通点が多いし、僕の見た武人の姿も束は見たんだろ」
「でも、だからって……現実かどうかなんて」
「重要なのはそこじゃない。それに、僕は二度そんな体験をしているんだ」
「二度?」
「一度目は、予知夢みたいな感じだった。黄金の騎士の姿を夢で見たんだけど……実際にあらわれた。二度目は黄金の騎士の分身体で大怪我をしたときに、今回みたいな黒い空間に立っていて両親と花蓮さんに会ったんだ」
思えば、あれも夢と言うよりは実際にあそこで立っていたような気もする。
なんというか、意識がはっきりしていたのだ。
「…………蒼と紅のインベスか……敵じゃなさそうだし、自我を持っているなんて」
「……最後になんて言ったのかわかればなぁ。肝心なところだけ聞こえなかったんだよ」
「私の遠い遠い……なんだろうな?」
うーん、まだわからないけど、黒い女王ってのも気になる。
……わからないことだらけだし、やっぱりこれは調べた方がいいんだろうな…………前途多難過ぎる。
「とりあえず、とっとと怪我治して暮桜の最終調整しておかないとな」
「そうだね、ちーちゃんも心配しているだろうし……あーちーちゃんにも説明しないとね」
「だなぁ……巻き込みたくないし、知られたくなかったんだけど」
「もう遅いよね……はぁ」
僕もため息つきたい……だけど、まさか更に厄介なのがやってくるなんてひどいよ神様。
「英様ぁああ! ご無事ですか!? 今すぐわたくしたちのお抱えの医療チームがあなたをリフレッシュさせますわッ!」
「――チッ」
「……もう勘弁してくれ」
神宮寺のお嬢様が病室に飛び込んできた。SPっぽい人たちが必死に止めようとしているけど、蹴散らしている……どんだけだよこの人。
「ああ、英様ッこんなところで死んではいけません! さあ、眠っている王子は姫の熱いベーゼでッ」
「ええい邪魔ッ! 帰れッ!」
「あらあら、いやらしいウサギさん。ここは貴女の小屋じゃありませんよ?」
「頭の中がピンクのお前には言われたくないんだよ!」
「ピンク? あなたの頭はピンクですけど……染毛に失敗したの?」
「これは地毛だッ、そしてなんでそこだけ本気で聞き返しているんだよッ!?」
話が通じない相手はかなりやりにくい。束がこの人を最初から苦手にしているのは……暴走するタイプの人だからだよなぁ……僕も苦手です。
というか、早く退院しないと色々と厳しい感じがしてきた。
「さあ英様ッ! いまこそこの姫と熱いベーゼを!」
「ええい今すぐ帰れ!」
「また邪魔をするのこの悪い魔女め!」
「わけが、わからないッ」
「今からここはわたくしと英様の子供を作る場所になるんですのよッ! 邪魔者はおかえりなさい!」
「こ、こどっ!? なななな、何を言っているんだおま、お前はッ!?」
「あら、存外うぶなんですわねぇ……お子ちゃま」
「――オイコラ、さすがの束さんもキレちまったぞオイ」
……ああ、もうやめてくれよ…………はぁ……ん?
…………子供?
――頑張ってください、私の遠い遠い『子供』たち――
……まさかね。
実は、英が死にかけたときに見たものはコレの伏線だったんだぜ。
この話は最初から考えていただけに、ようやく書けたって言う達成感があります。
謎のインベスの正体というか、どういう存在だったのかは鎧武を見ていた人なら予想つくでしょうね。というよりバレバレか。
黒い世界もどういう場所なのかはたぶんわかる人にはわかるんでしょうね……
思いっきり核心に触れましたが、肝心なところは分からず、さらに謎が――風呂敷が、広がるッ
最後に色々持って行ってくれたあの人で、落差ヒデェ……