結局のところ、ものすごい速さでけがは治って退院することができた。
今回も医者が凄い目で見ていたのが怖かったんだけど……隣でものすごく不機嫌な束がいたから医者も近寄ってこないのが幸いだった。うん、幸いだったんだ。
「……束さんが不機嫌な理由わかるよね?」
「…………」
「ああいう女には一度、ガツンと言わなきゃダメなんだよわかる?」
「はい、おっしゃる通りです」
まあ言わなくてもわかるだろうけど一応言っておく。あのお嬢様が連日見舞いにやってきたからである。その度に束と喧嘩するもんだから僕が看護師さんたちに怒られたよ。
っていうか、なんだよ期待した目で見るなよ……看護師さん頭の中腐ってるだろ。知ってるんだぞ? 隠れて薄い本読んでいるの知っているんだぞ。
とまあ、そんなこんなでようやく退院できるわけだけど……正直、色々疲れた。
「私としては、ナチュラルに付き添いが束なところにツッコミたい」
「なんだよ織斑、突然……っていうかどっから出てきた」
「そろそろ各研究所のISが完成してきたころだからな……来月にアリーナで模擬戦が決まったぞ」
「そうか……」
「ちーちゃん、アリーナってIS学園建設予定地に作っているあれ?」
IS学園。まだISは世界に広まってから数年しかたっていないため、優秀な操縦者を育成する機関は世界のどこにもない。そのため、開発者である束がいる日本に白羽の矢がたってしまい、日本政府の資金で運営される学園を作ることになってしまったのだ。
……まあ、日本にとってはそれでも旨みはあるらしいって、この前見舞いに来た楯無さんが教えてくれた。極秘にだけど、政府と話をつけてくれたし……あとは、暮桜の完成と織斑を代表にして、北欧へ行く準備も終わらせて……年内にやること結構残っているな。
「しかし、束は日本政府に嫌われたのではないか?」
「大丈夫だよ。必然的に多くのISが日本国内に存在することになるんだし、防衛力は世界一になるからこそ日本も学園建設を承諾したんでしょ。戦争しないって言っているくせに、軍事力は世界一になったわけだから……色々な意味で凄いよねこの国」
「冷静に考えると、ものすごく変な国なわけだ」
「…………たしかにそうだが」
宗教観が薄いから、色々な宗教がごったになっているんだし……ごった?
そこで、思わぬ天啓を得た気分だった。どうして気が付かなかったのだろう。神話は創作である。しかし、元になった話もあるのだ。そして、過去さまざまな宗教はぶつかりあって、消えたり混ざったりした。
僕は北欧神話にしか目を向けていなかったけど……ほかの宗教にだって黄金の果実に近いものは存在するのだ。禁断の果実、アンブロシアの実、普通に存在している果実だって伝説で登場することもある。
各地の神話にはそういった果物が数多く存在している。それが元は一つだったら? バラバラに散った黄金の果実……
「……もう一度、詳しく調べる必要があるな」
「どうしたのだ? いきなり怖い顔をして」
「いや、織斑には関係ない――あ」
そういえば、織斑にも説明しないと……さすがに仮面ライダーだってバレただろうし…………あれ? そういえば、何回か見舞いに来たけど、こいつ一度もその話しなかったよな?
……まさかとは思うけど、でも一夏君の姉だしもしかしたら…………
「な、なあ織斑――仮面ライダーのことだけどさ」
「ああ……凄かったな。一度手合せしてみたいものだ。しかし残念だったな、蜂矢は怪我をして動けなかったから見ていないんだろう?」
「う、うん」
確かに見ていないよ。だって僕だもん。というか織斑……気づいていないの?
束を見ると、どこか遠い目をしていた。ああ、マジで気づいていないんだ……織斑、さすが一夏君のお姉さんだよ、かなりの鈍感だよ。それこそ、動きの癖とかで見抜けよ……
「どうしたのだ二人とも?」
「なんでもない、なんでもないんだ」
ヤメロ……耐えるんだ。耐えろ蜂矢英。笑ってはいけない。織斑の顔見ただけで笑いそうになるけど、割ってはいけないんだ。だから、だから耐えてくれッ……
その戦いは、今までのどの戦いよりもつらかった。二人の姉弟の生活を守るためにも隠し通せるのなら画すべきだ。だから、耐えるしかなかった。それがどんなにつらいことでも、笑ってはいけないのだッ!
◇◇◇◇◇
何とか耐え抜いて、久々の我が家に帰ってこれた……ヤバい、腹筋がヤバい。
「疲れたぁ……なんで織斑は気が付いていないんだよ」
「ちーちゃんだし……正直将来が心配になってきたよ。悪い男に引っかかったりしないかな?」
「それは大丈夫だろ……そんな奴が織斑に勝てると思うか?」
「無理だね」
「だろう」
第一条件、織斑より強いだからな……第二条件、一夏君並の家事の腕。うん、無理。
というかモンドグロッソで優勝したらそれこそ――考えないようにしよう。
「……とりあえず、今分かっていることとかをまとめるか。またしばらくは暮桜の調整とかで忙しくなるんだし、学校も行かないといけないしな」
「だねぇ……」
とりあえず、わかりやすいように画用紙を取り出して図を描くことにした。
まず僕たちの最終目的。
「ゴール地点は、黄金の騎士の討伐――研究員の一人だろうから、ドライバーを作れるのはこいつの知識のおかげってのは間違いないと思う」
「製作者本人なら、量産までいけるだろうしね……で、黄金の騎士は亡国機業っていう連中と関わりがあるか、その一員ってことだね」
「ああ……今までのアイツらの言動からするにはな。まあこれはあくまで最終目的。黄金の騎士には今のところ勝ち目はないし、弱点や対策がわからないかも含めて目先の目的があるわけだ」
ヘルヘイムの森が存在している以上、人類は今も滅亡の危機の寸前である。いや、人類だけじゃなくて地球生物すべてがだけど。
クラックについてや、向こうの世界とこっちの世界の関わりとか色々調べないと、たとえ黄金の騎士を倒したところですべてが終わったわけにはならないのだ。
「黄金の果実についてもよくわかっていないし……謎もまだ数多いわけだな」
「今分かっていることって、どれくらいあるの?」
「うーん、黒幕というかそもそもの原因である黄金の果実自体が謎なんだよな……やっぱり北欧で手掛かりでも見つけられたらいいんだけど……あとはあの夢だな」
「大雨が降っているっていうか、まるで旧約聖書のノアの箱舟みたいな風景だったね」
「そうなんだよ……たぶん、あの出来事がその話のモデルなんだ」
仮説の域を出ないけど、世界中にある神話などは太古にあった何かがモデルになっているんだと思う。
各地の神話の共通点などから推察するに、アレは……
「たぶん、ヘルヘイムの森の誕生した瞬間なんだろうな」
「誕生した、瞬間?」
「ああ……僕が見た光景では、地球が二つに分裂するような場面があった。ヘルヘイムの森と地球が同一空間の違う次元に存在するのは、元は一つだったからじゃないのかな」
「……なるほど、何かの要因で次元が歪んだんだね」
「ああ…………完全に分かれたわけじゃないから、世界各地につながっている場所とかはあると思う」
「つながっている場所?」
「有名どころだと、バミューダとかか?」
「なるほどね、飛行機や船が消えたって話はクラックに飲まれて向こうに行ったってわけか…………そういえば、束さんもコアネットワークを使って調べていたんだけど、亡国機業はヘルヘイムの向こう側に本拠地があるみたいだね」
「黄金の騎士と接触したから向こうに行ったのか、それとも最初から知っていたのか……そこは分からないけどな」
最終的な目的は、ヘルヘイム植物がこちらに侵食しないようにすること。どういう形であれそうすることが僕たちのゴールなわけだ。
で、目先の目的は必要な情報を集めること。まずは、ヘルヘイムの森そのものについて。
「ヘルヘイム……死者の国の森ね」
あの黒い世界に、死んだ人たち。これは何か関係があるのか?
なんというかオカルトチックになってきた……
「……ヘルヘイムの森が本物の死者の国とかないよね?」
「いや、あくまで当時の出来事が今の伝承としてのこっているだけだから、ヘルヘイムの森もヘルの治めていた国の森って意味なんじゃ――ヘル?」
「――あ」
「束も気づいたか?」
「うん、あの黒い女王って……」
「いやすでに討伐された以上、それは過去の話なんだろう」
束から聞いた黒い女王の話。仮に彼女が北欧神話のヘルのモデルであったとして、今現在も生きているとは到底思えない。
というか、黄金の果実自体地球に生えて――まて、地球に生えて?
「……僕はとんだ思い違いをしていたのかもしれない」
「どうしたの?」
「そもそも黄金の果実ってのがどういうものなのか、それは分かるか?」
「えーっと不老不死になったり、神様になれたりって感じのものじゃないの?」
「そうだ。おそらくそのレベルに凄いものなんだろう……でも、父さんたちは一度それを手に入れているんだぞ」
「――――あ」
「……なのに、何も起こらなかったどころか、ロックシードに加工できているんだぞ!?」
「それじゃあ――」
「――最初から、黄金の果実……いや、願いをかなえたりとかそういう伝承通りのものって意味で、それは存在しないんだ」
そもそも加工する必要なんかないものなのに、何故ロックシードにしたのかという時点で気が付くべきだった。
地球で発見されたのだ。不完全な代物なのか偽物なのか、はたまた別の要因か。強大な力は有しているけどそれは黄金の果実という伝説の果実ではない。
「……今まで正しいと思っていた認識は、改めた方がいいな…………たしかにとんでもない力は持っている。でも、黄金の果実は既に砕かれているんだ……」
「もしかして……欠片、なのかも」
「……可能性はある」
飛び散った欠片。地球とヘルヘイムの森に散らばったというのならアイツらの目的はもしかして――あ、篠ノ之道場…………
「束、おまえんちの裏にあるご神木、今から見に行くぞ」
「え!?」
「僕の仮説が正しければ……あれは世界樹の苗木とおなじヘルヘイム植物が地球環境に適応した亜種だ!」
◇◇◇◇◇
急いで篠ノ之道場に向かい、束と木の細胞サンプルを採取して調べてみる。世界樹の苗木も一緒に持ってきて見比べてみるけど……種類自体は違う。
だけど、細胞は似通っていた……
「柑橘系の大木ってだけでおかしいのに、ヘルヘイム植物の特徴?」
「篠ノ之神社はこれを守るために建てられたんだと思う……どういうわけがあって守っていたのかはわからないけど」
もしかしたら、世界中にそういう植物が散らばっているのかもしれない。
ゲインクロイムがギアナ高地に存在していた木を守る一族だったように、篠ノ之家はこの木を守る一族だった。
この町に野良インベスが集中していたのも、これがあるからなのかもしれない。時空のゆがみのポイントが、これである可能性が高い。しかも、下手に除去したりできないものだし、そんなことをしてバランスが狂って余計におかしなことになる可能性だってあるのだ。
「大昔過ぎて、調べられないのが痛いな……」
「なんだか、いろいろあり過ぎてパニックだよ」
「僕だってわからないことだらけだよ。束に腕輪が反応したのは、この木に関係したなにかだと思うけど……」
これだけじゃない。他に何か重要な何かがあるはずなんだ。
隣を見ると、束は少し青ざめている……そうだ、束の家に関係することなら妹の箒ちゃんにも関係する可能性があるのだ。
「束、大丈夫だ。まだ確定じゃないし、まだ手の打ちようはある」
「……わかっているけど、このことを家族には――」
「黙っていよう。確証がないし、箒ちゃんに聞かせるには早すぎる」
僕だって、最初知ったときは色々と悩んだよ。インベスみたいな怪物と自分が何か関係があるなんて。
今はインベスが人類の脅威として認知されてきているから、さらにパニックを起こすだろうし……
「本当、謎が謎を呼び過ぎなんだよ」
山々が赤や黄色に彩られる季節、僕たちはなにかとても恐ろしいものに直面しようとしていた。
きっと、もう後戻りはできない。
映画見た人ならたぶん、最初から予想ついていたんでしょうね。
誰が本物の黄金の果実があると言ったッ
この物語は、原作とは根本的な部分で分岐しているのだッ