結局のところ、進展はないと言っていい状況だった。
あれからしばらく経ったけど亡国機業も現れることはなく、大きな事件とかもない。
たまーにあのお嬢様が襲撃してくることぐらいだろうか……その度に束が不機嫌になるので、正直やめてほしいわけだけど。
「で、今日はいったい何の用ですか楯無さん」
「まあ座ってくれ。ここのコーヒーゼリーはおいしいぞ」
「そうじゃなくて……」
僕はなぜか、更識楯無さんに喫茶店に呼び出されている。というか、一体何の話だろうか……インベスや、クラックについてなどは話したと思うのだが。
ヘルヘイムの森には入ると大変なことになるから、ロックビークルの類は渡していない。何も渡さないのもあれなので、ヒマワリロックシードをいくつか渡してあるけど……数だけは無駄に余っているからなぁ。束もヒマワリロックシードを使えば、一応はインベスを相手にできることを証明したし。ただ、あれがそのまま対IS用に使えるからあまり公にはできないけど。
「君を呼び出した理由だろ? 倉持技研にハッキングを仕掛かけてきた人物、あるいは組織がいたのは覚えているかい?」
「ああ、ありましたねそんなことも……インベスの騒ぎですっかり忘れてたわ」
「あれの出所が分かったよ」
「本当ですか?」
「ああ……神宮寺のお嬢様だった」
「あちゃぁ……そっちかぁ」
「私たちもてっきり、亡国機業の仕業だと思っていたんだけどね……君たちの妨害目的で彼女が個人的に仕掛けてきたようだ。だけど、そのせいで後日の襲撃が起こったともいえるね」
「?」
「彼女の侵入に合わせて、倉持技研ハッキングした別の誰かがいるようだ」
「……なるほど、あのお嬢様はおとりに使われたわけか」
「ああ……おかげで、今頃になって痕跡を発見するだけ。まったくしてやられたよ……といっても、こちらも調べはついているんだがね」
「あ、そうなんですか」
「亡国機業に依頼をした海外の企業だったよ……おそらくは、日本の最新機のデータ欲しさだと思うが…………あんな機体のデータを盗んだところで意味はないだろうけど」
「織斑にしか乗れない時点で欠陥機もいいところですからね……アイデア出したの自分すけど」
ほんの出来心だったんや。まさか本気であんな際立った機体作るとは思わなかったんや。
まあ、いくら言い訳したところで事実は事実なんだけど。
「って、それだけじゃないですよね? 今日呼んだのは」
「…………実は、君にこれを見てもらいたくてね」
そう言って、差し出されたのはいくつかの資料。英語で書かれているようだけど……まあ今じゃこのぐらい問題ないか。写真もついている――ッ!?
「……なんですか、これ?」
「私たちは、こいつを便宜上リヴァイアサンと呼称している」
資料にはバミューダ近海の調査報告で、ISコアを使用して製作された特殊潜水艦(潜水艦の形をしたISと言った方が正しく、乗組員もいるが重要な部分は内部のISユニットである)を用いた海底調査だった……時空のゆがみとか、手掛かりが見つかればぐらいの気持ちで政府に報告したんだけど…………どうやら、思った以上にとんでもないものが見つかってしまったらしい。
そこには、バミューダ海域の海底の写真が記載されており――巨大なインベスが、海底でとぐろを巻いている様子が写っていた。
「……いったい、何をすればここまでデカくなることやら」
「どうだい? こいつに勝てるかい?」
「…………厳しいですね。この前のデカブツにでさえ苦戦しましたし、ここまでの奴は僕も始めて見ました。これ、大体どれくらいの大きさなんですか?」
「推定、50から100メートルぐらいだ」
「無理。シロナガスクジラよりでかいってだけで恐ろしいわッ」
いくらなんでも無茶過ぎる。
なんだよそのラスボス級の化け物。
「そこを何とかならないだろうか……」
「無理なものは無理。というか刺激してないでしょうね?」
「操縦者の子がパニックになったが、乗組員たちが頑張ってくれたおかげでなんとか」
「良かったぁ……こいつが暴れだしたら災害が起きますし、僕の最大火力でも厳しいですって……今は監視を続けて、刺激を与えないようにした方が良いですよ」
できれば、死んでいてすでに亡骸なのを期待するけど……無理だろうなぁ。
「っていうか、こういうのが世界各地にいたりしないよね」
「――今すぐ調べよう」
「待って、受け止められない」
黄金の騎士の前に、倒さなきゃいけないのがどんどん増えていきます。
もしかして、各地の神話の化け物とか――よそう。精神衛生が悪くなる。
家に帰った後、報告もかねてとりあえず束に報告したら、顔を真っ青にしてよろめいたので慌てて支えた。
「な、なんでまた厄介なものが……」
「なー」
「なー、じゃないよッ! どうするの!?」
「マジでどうしようか……この分だと、他にもたくさんいるぞ」
「――ッ」
声にならない悲鳴を上げる束。うん、僕も悲鳴を上げたい。
まさかここまで厄介なことになるとは思っていなかった。なんていうか、色々とマズイことになっている。
「……で、どうするんだよ」
「とりあえず、動きがあるまでは放っておくしかないな。下手に手を出すと危険だし」
「わかった。今のところはやることは変わらないんだね」
「ああ……暮桜のほうはどうなっているんだ?」
「ちょっと面白いことが分かったぐらいかな」
「面白いこと?」
「うん。ちーちゃんがシャーベットとかいう女と戦ったときの加速だけどね、自分の放出したエネルギーを自分のスラスターで取り込んで再び放出して使っているんだよ」
「……ああ、このログか」
映像ファイルを呼び出して、検証を進める。なるほど、この時に不具合が出たのはドライアイスも一緒に吸ったからか……吸う、吸う……んー……ダメだ、アイデアは思いつかない。
とりあえず織斑の脳波グラフをチェックするか……問題はないけど、攻撃の瞬間だけ変化が著しいんだよなぁ……武人系だからだろうけど。
「……問題なし。あとは機体側の仕事だな」
「分かった。束さんもできることはやった感じだし、こっちに集中できるよ」
そう言って束が取り出したのは、見たことのないエナジーロックシードだった。
「新しいのできたのか!?」
「まだ調整は済んでいないけどね。ちーちゃんの試合までには完成すると思うよ」
「思った以上に速くできたな……」
「まあ、英の戦闘データもチェックしているからね。おかげでナンバー04までの構想は終わっているよ」
「……ありがとうな、束」
「ふふん、この天才の束さんに感謝するんだね!」
そう言って、束ははにかむのだった。恥ずかしがらなくなったけど、こっちが照れるな。
しかし、今度のはサクランボか……チェリーエナジーロックシード。どんな性能なのだろうか?
「ナンバー04まではソニックアローを搭載することにしたよ」
「あれ? そうなの」
「うん。全距離万能型だからね。04にはおまけもつけておく予定だよ」
「おまけ?」
「この前のエクステンドのデータもばっちり収拾済みだよ。あと、アレは二度と使わないでね。バグを取り除くの大変だったんだからッ!」
「す、スマン……」
「まったくもう……あ、束さんクレープが食べたいなー」
「……わかりました。奢らせていただきます」
「よろしい」
まあ安いものだよな。
◇◇◇◇◇
さっそくクレープを食べに来たけど、また厄介な人に捕まってしまった。
誰かって? また合コンに失敗したあの人だよ。
「うう……男なんて、男なんて」
「め、恵さん元気出してください」
「佐々木先生、真耶ちゃんも困っているんですからいい加減にしてくださいよ」
「……はぁ」
上から順に、佐々木先生、代表候補生のためしばらくこちらに住んでいる真耶ちゃん、僕、束である。
というかまた合コンに負けたのかこの人は……
「負けたのは合コンにじゃない!」
「じゃあ運命?」
「――ガハッ!?」
「恵さん!?」
束の一言がクリティカルヒット。言い過ぎだって……
「あ、あはは……すいません」
「いいって。慣れてる」
「束さんはもうこりごりだけどね」
「あ、あははははは……あのぅ、もしかして篠ノ之束博士ですか?」
「そ、そうだけど……」
「ああ、あのあの、握手してください!」
「え、あ、うん」
束はここまでストレートにそんなこと言われたことってなかったから困惑している。
真耶ちゃんはIS操縦者になりたいって、頑張っていたし束はあこがれの人なんだろう。こういう風に戸惑っている束も珍しい。
「感激です!」
「そ、そうなんだ……」
だけど、束……人の胸を見てしゃべるのはやめなさい。フィルターかかっているから真耶ちゃんは気が付いていないけど、君ガン見しているからね。
いや確かに大きいけど、束もデカい部類だからね? だから、そんなものすごい顔はやめて。
「……あれ? 蜂矢君じゃないか」
「今度はだれ――ああ、先生か」
我らが担任の、工藤先生である。どうしたのだろうか?
「なんだか楽しそうだねぇ」
「ええ、まあ……騒がしいけど、こういうのって案外楽しいもんですね」
「うんうん。学校の雰囲気も最近は明るくなってきたし、いいことだ。それじゃあ、私はいくところがあるからこの辺で」
それだけ言い残すと、工藤先生は去って行った。
まあ休日だし、色々な人に会うか――ふと、視線を感じると佐々木先生が怪訝な視線をしていた。
「どうしたんですか、先生?」
「自慢じゃないけど私ね、悪い男に引っかかったことだけは一度もないのよ」
「マジで自慢じゃないですね……そういえば、失恋とか合コンの失敗は聞いたけど詐欺とかは聞きませんね」
「……あの男、気をつけなさい。女の勘だけど、危険よ」
「え、でも生徒に平等に接するいい先生ですよ」
「…………ますます怪しいわね。どの程度平等なの?」
「そりゃあ、完全に平等――え」
「気づいた? いくら聖人君子みたいな人だろうと、人をゴミとしか思わない外道だろうと、優劣ってのはつけるものよ。教師だって人間だしね」
「……」
違和感は感じていた。だけど、あまり気にするべきではないと思っていたからスルーしていたけど……
「まあどの程度危険かってのは分からないけど……アレはあまりお近づきになりたくないタイプね…………まあ、女の勘だし適当に聞き流しなさいな」
「うん……そうするけど」
妙に、先生の言ったことが耳に残った。
◇◇◇◇◇
先生たちに別れを告げて、久しぶりにいつもの海岸にやってきた。
日も傾いて来ているし、そろそろ夕飯を作らないといけないな……一人暮らしだけど。
「……束さん久しぶりに英の作るご飯が食べたいなー」
「はいはい。じゃあ家に連絡は入れろよ」
「大丈夫ー家出る前に言っておいたから。ぶいぶい!」
「それ最初からそのつもりだったんじゃねぇか!」
「あいたっ」
思わず、久しぶりのハリセンをしてしまった。おお、懐かしい感触。
「もういきなりはたかないでよ」
「悪い悪い……ん?」
何だか視線を感じるなぁ……なんて思って振り向いたら、いつかの眼鏡っ子が座っていた。
「……」
「えっと、どうしたの?」
「……ヒーロー博士」
「ぶほっ!?」
おい束、なんでいきなり笑うんだよ。腹を抱えて笑うな。マジで傷つくぞ。泣くぞ、いいのか? いんだな?
「……あまりそれは言わないでほしいな……なんて」
「どうして? ヒーロー博士なんでしょ」
「やめて、束さんのライフはもう――ぷふっ」
「束、後で覚えておけよ……えっと、ほらヒーロー博士は悪の組織に狙われるといけないから」
「――――」
「束、ホントマジやめてくれ」
地面に倒れて転げまわるな。汚れるぞ――!? こいつ、ISの機能を使って汚れないようにしてやがるッ
どこまで用意周到なんだよ……
「そっか、そうだよね!」
「あれ納得するの!?」
「お前みたいにけがれていないからだろ」
「ひどいッ」
「……お姉ちゃんに聞いたことあるよ、お兄ちゃん達みたいな人を、バカップルって言うんだよね」
「「いや、カップルではないから」」
あくまでカップルではないのだ。あくまで。
「……?」
「ああ、うん君にはまだ早いかな……なんでこんなところにいるの?」
「…………お父さんが仕事だって言って喫茶店に入っていくのを見たから、浮気調査にきたの」
「――最近の子供は、まったく」
「いやそういう問題?」
この前は純粋にヒーローを信じていた子供だと思っていたのに、なんだろうこのやるせない気分は。
「だって、この前みたヒーローはしてたよ?」
「ああうん安心した。そういえば最近やっているね、探偵の設定の特撮」
「ああ、アレか」
この子特撮とか好きそうだし、それもそうか……テレビのマネかぁ…………でも、家族が心配しているだろうし連絡をつけないと……
「そしたら、お兄ちゃんと一緒にコーヒーゼリー食べてるのが見えたの……だから、お兄ちゃんが浮気相手なんじゃないかって探してたの」
「――英?」
「まて束、誤解だ。腐らないでくれ頼むから。そしてこの子楯無さんの娘なの!?」
先祖は忍者だって言ってたし、ある意味将来有望な子供だった。
楯無さんに連絡したらすっ飛んできてくれて、すぐに解決してよかった。
初めて聞いたけど、女の子は簪ちゃんと言うらしい。結局、ヒーロー博士の称号は楯無さんにまで知られて、束と一緒になって笑いだしやがった。
マジで後で覚えてろよ……
反響良かったんで、簪ちゃん再登場。
本人は気が付いていませんが、束さんに大ダメージを与えるという快挙を成し遂げました。
そして、いくつか出てきたワードやら伏線とか……超巨大インベスについては最初から出したいなーとは思っていました。
あとはチェリーエナジーフラグ。
右手が痛い……タイピングがキツイです