英と猛の戦いは熾烈を極めた。互いの力を出し切っているが、それでも決着はつかない。ジンバーチェリーアームズのスピードはどのアームズよりも速い。しかし、ドライマンゴーアームズのパワーがそのスピードを殺すのだ。
お互い、最初の戦いから強くなっているが、須郷猛の成長は異常とも言っていい。
そんな時だ。二人がぶつかり合っている中、篠ノ之束は後方に下がって作業していた。
「……今のうちに、やれることはやっておかないとねー」
彼女は英が勝つと信じている。だからこそ、今の自分にできることをやろうと決めた。
猛に破壊された石碑を集めて、ISの格納領域に回収しているのだ。これ以上破壊されたらたまったものではない。今、出ていったところで自分が足を引っ張る可能性が高いからこそ、束はこうして作業に集中する。心の中では憤りを感じながら。
もしもは言っても仕方なのないことだが、自分自身にも戦う力があればと切に願う。ISは元来戦闘用のものではない。最終的には、ISでは彼のいる場所には届かないだろう。だからこそ、あれを完成させなければならない。
「――?」
そんな時だった、謎の物体を見つけたのは。大きさ的にはビー玉ぐらいだが……黄色い色の、不思議な結晶体。直接手で触るのはマズイと思い、アームを伸ばしてつかんでみるものの……とくに怪しい様子はなさそうだが、どうも変な感じがする。
「……とりあえず、ポーチの中に入れておこうかな」
こうして束は作業に戻った。
そんな束を、じっと見つめる一つの視線が存在していることには全く気が付かずに。
◇◇◇◇◇
再び、開始された僕と須郷の戦いは平行線をたどるばかりだった。僕がソニックアローの斬撃と矢を組み合わせて翻弄する戦い方をすれば、須郷はパワーに任せた攻撃でそのすべてを叩き潰す。
ドライバーを狙う手もあったのだが……だめだ、近づきすぎるとこっちの身が危ない。
「悪羅悪羅悪羅悪羅! どうしたどうしたッ」
「くっそ、インチキ過ぎるだろそのアームズ!」
パワー型のマンゴパニッシャーがブーメランのような使い方ができるって時点で厳しいものがあるのに、攻撃の切り替えしが速い。まだ、僕の方が速いから対処できているけど……半年と少しの間にここまで強くなるものなのか!?
【ドライマンゴーオーレ】
しまった。そう思ったときには遅く、どこか暗いマンゴーの光が収縮し、突きのような形で放たれた。そして、そのままその攻撃は僕の腹へと――ッ
思考スピードを一気に引き上げる。体をひねり、相手の攻撃に無双セイバーを当てて衝撃を吸収する。その力を利用して、自分の体をコマのように回転させて攻撃をかわす。ダメージは大分入ってしまうけど直撃よりは大分マシだ!
「アガッ!? だ、だけど!」
三発ぐらいの銃声が鳴り響き、須郷はマンゴパニッシャーを落とす。そして、僕は一気に踏み込んで須郷を切り付けた。
「ッ!? ……なるほどね無双セイバーの銃弾、威力が弱いから忘れてたぜ」
「物は使いようってね、だけど……」
今の斬撃で僕の無双セイバーが折れてしまった。さっき攻撃を受け流そうとしたときに負荷がかかり過ぎたか……仕方がない。無双セイバーを投げ捨てて、ソニックアローを構える。
「なら、こっちも行くぞッ」
須郷は無双セイバーを構えて突撃してくる。そうだ、向こうも装備しているんだから当然持っているよな……なら、こっちも行くぞ。
下から切り上げるようにソニックアローを振る。だけど、これは攻撃のためじゃない。須郷の無双セイバーと激突し、衝撃が腕に伝わる。だけど、今は気にししていられない。弓を引きながら、前に前転する。須郷は力を込めて無双セイバーを振り下ろしていた。いや、彼も足さばきが速い。すぐさま振り向いて銃口を構えていた。間に合うか?
いや、間に合わせる!
「なっ!?」
僕は振り向かずにソニックアローを須郷に向ける。矢の先端を自分の方に向けて、自分の後ろにいる須郷に向けて矢を放った。
気配で、須郷が避けたことを察知し、ロックシードをソニックアローに装填する。
「行くぞッ」
「こっちだってッ」
【シルバーチャージ!】
【ドライマンゴースカッシュ】
回し蹴りのように放たれたエネルギーキックに対して、僕はシルバーの力をチャージした矢を放つ。二つの力がぶつかり合い、火花を散らしている。
だからこそ、ここからが本番だッ!
【ジンバーチェリースカッシュ!】
「なっ!? これはおとりか!?」
「ここまで力の差を縮められたらあとは経験がものを言う! こちとら二年以上も戦っているんだよッ」
飛び上がり、体を回転させて須郷めがけてとびかかる。サクランボの形にエネルギーが収縮され、まるで二つの果実が須郷をつぶすような動きを見せた。
「ストライザーキック!」
「あ、アガァッ!?」
直後、爆発と共に須郷の体は見えなくなった。
……やったか? そう思ったのもつかの間。爆風が飛んで行ったと思ったら、黒い槍のような物体が僕の体にぶつかり、弾けた。
「――ッ!? ぐ、ああああああああ!?」
炎の中から現れたのは、須郷だった。何かを蹴り飛ばして、それを僕にぶつけてくる……壊れたドライバー……そうか、予備のドライバーを持っていたのかッ
「まさか、こっちのドライバーを使うことになるとは夢にも思わなかったぜ……おかげで、秘蔵のこいつを使うことになるしな」
「なんだよ、そのアームズは……」
色は黒……形はマツボックリやドングリに近いような気もするが、妙な感じがする。
本格的に、見たことがない。亡国機業の開発したものか?
「カカオアームズ……設計思想は、使い捨ての出来るアームズウエポン」
そう言う須郷の手には、槍――いや、大きな針のようなものが握られている。
「カカオピックって名前らしいが、こいつをエネルギーの持つ限り何度でも生み出せるって言うのが特徴だ。まあ、集中力が必要だから使うにはコツがいるけどな」
「そうかい……」
パワーはそこまで高くないようだが、武器が無制限か……なかなか厳しいものを作ってくれたものだよ。チェリーエナジーのパワーも底をつきかけていて、光が弱くなっている……これはレモンエナジーに戻すか? いや、手数が多い相手にそれでも厳しい。
なら、パワーが落ちてもこちらも手数を優先する!
【イチゴアームズ! シュシュっとスパーク!】
どこまで食らいつけるかわからないけど、イチゴ苦無も似たようなアームズだ。武器の性能は向こうが上だろうけど、手数ならイチゴの方が上に思える。
「確かに、イチゴアームズの方が手数は上だろう……だけどな、カカオピックは剣としても使えるんだよ!」
「そんなん形から推察済みッ! あとは集中力勝負だ!」
両手に苦無を構えて突撃する。体をひねり、地面すれすれに飛ぶ。
ピックは、僕のいた場所を通り過ぎ――目の前に現れ!? とっさに体をさらにひねって苦無を投げつける。それでも、苦無は弾かれてピックが三本迫ってきた。
「アガッ!?」
対応、しきれない!?
マズイ……どうする? 須郷はブレードを叩き、僕がやったように体を回転させて蹴りを放ってきた。
【カカオスカッシュ!】
途中で、体を更にひねってかかと落としの様な体勢へと移行している。アレを喰らったらマズイッ
すぐさまブレードを二回たたいてオーレを発動し、苦無をいくつも上に投げる。そして、苦無に足をぶつけて爆発させて一気に上空へと飛び上がっていく。
下では、攻撃が決まっていてクレーターができていた。
危なかったけど、回避は成功した。今のは、空中に投げた苦無を足場にした空中ダッシュの技。イチゴアームズはその見た目通り、こうやって回避などにスカッシュやオーレを使った方が効率はいいのかもしれない。
「今のを避けるかッ! だが空中なら避けられまいッ」
「それはどうかな?」
今度は横方向へ苦無をばらまく。相手のピックの投擲も速いけど、僕はそれ以上のスピードをもって空を翔る。
いつまでも空に入れるわけじゃないけど――見極めろ。相手の攻撃の空白地帯を。必ず、穴があるはず。僕はそこに飛び込めばいい。
そして、その時がやってきた。
「ゼリャアアアアア!」
「ハァアアアア!」
何度もピックがかすめていく。だけど、一度下へ向けて飛び込んだ僕の勢いは止まらなかった。腰に手を当てて、アームズを変えたときに再び展開された無双セイバーを構える。
体をさらにひねり、回転しながら叩き斬るッ!
ガキィンという音と共に、互いの体が吹き飛んだ。
受け身を取って跳ね上がると、須郷の手にも無双セイバーが握られていた……
「互角、ってことか」
「そうらしいな……」
ならば、もっと速く動くまで。僕たちは互いに、ロックビークルを取り出していた。サクラハリケーンと黒いローズアタッカー……ブラックローズアタッカーと言ったところか。
「さあ、第三ラウンドを始めようかッ」
「上等!」
エンジンを吹かせ、同時にスタートする。
バイクに乗りながら互いの武器を投擲するも、アクロバットな動きを交えてかわしていく。
向こうのマシンは最初からある程度強化された物だとして……こっちはアームズで性能が変わる。勝機があるとすればそこだ。
「行くぜオラ!」
【カカオオーレ!】
投げたピックが二つ、三つと分裂して迫ってくる。マズイッ――ならばスパーキングを発動し、分身して狙いから外れて、すぐさまオーレを使う。
「な、何だと!?」
「ハアッ!」
スカッシュを使用してスピードを上げて、反対側に回り込んですぐさま切り付ける、が……
「チッ! だがまだ終わらねぇぜ!」
「……エネルギーも残り少ない、ならッ」
ダメージは少なかった。イチゴロックシードもエネルギー切れが近い。ならば……再びシルバーとレモンエナジーを取り付けて、アームズチェンジをする。
【ジンバーレモン! ハハーッ!】
エネルギーがサクラハリケーンに充填されていく。機体のラインが黄色い光を放ち始めた。
そういえば、ジンバーアームズで乗るのは初めてか。どうなるかわからないけど、こうなったらぶっつけ本番しかないッ!
「行くぞ!」
「それはこっちのセリフだぜッ」
お互いが、体当たりを仕掛ける。
しかしそれでも火花が飛び散るだけで特に状況は変わりない。
「悪羅悪羅悪羅悪羅!」
須郷は再びピックを乱射するが、英もそれをかわす。まるで、バイクと一体となっているかのようにより高い練度で操っている。
――そうか、ジンバーレモンの追加効果は単純なパワーアップだった。それはサクラハリケーンも同じなんだ。よりシンプルなパワーアップ。
車体をひねり、タイヤの回転でピックを弾いていく。その光景には須郷も驚きを隠せなかった。
「なんだとッ!? さっきまでとは性能が――まさかアームズで性能が変わるって言うのか!?」
「今更気が付いたところで遅いよッ」
空中に飛び上り、英はブレードを一回叩いた。
【シルバースカッシュ! ジンバーレモンスカッシュ!】
機体がエネルギーに包まれ、まばゆい光を放つ。そして、そのまま須郷めがけて激突した。
「あ、アガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
バチバチ、と火花を散らしながら爆散していくブラックローズアタッカー。英はすぐさまサクラハリケーンを戻して、ソニックアローを構える。
もう油断はしない。半ば核心にも似た感情で弓を引いた。
爆風の中から現れたのは巨大な影。もう見慣れた、そのアームズの名は――
「スイカアームズッ」
「まだ、まだ終わらねぇ終わらせねぇ! 俺が勝つんだぁあああああ!」
◇◇◇◇◇
束はあらかた、石碑の回収を終えていた。
あとはこれを持ち帰って、調べるだけだ。バラバラに分かれていたけど、うまく解読できるかは未知数。そのままで読めそうだったのに須郷に邪魔されたことで余計な手間をかけさせられたことに束は苛立ってた。
しかしいつまでもそうしていられないだろう。ふぅと、一息ついたところで妙な視線を感じた。だけど、もっと早くに気が付くべきだったかもしれない。いや、あまり意味はないだろう。
「……え?」
その影は巨大で、手には棍棒のようなものを持っていた。
そして、一つしかない目で束の姿を凝視している。
「…………あ、あわわ」
束と目が合うと、そいつは咆哮を上げた。立ち上がった時、その姿がいかに巨大化がわかる。
咆哮と共に、あたりが暗くなっていく。マズイ。英に知らせなければと束は駆け出していく。一人でこんな化け物対処できない。というか、一人の女の子としての本能がこいつはヤバいと告げている。
巨人型のインベス、サイクロプスインベスが目覚めた。
たぶん今までで一番の激戦。
なんだかんだでイチゴアームズの出番が一番多いような気もする……