葉っぱも落ちてきて冬が近くなってきた今日この頃。そろそろ肌寒くなってきた。
「うう……寒い」
「今日は一段と冷えるねー」
ある意味、表の仕事が入ったため倉持技研に呼ばれた束と僕、なんでも暮桜の様子がおかしいとのことだが……大丈夫だろうか?
千冬が無理な動きをさせたりしたんじゃないかと心配だが。
「ちーちゃんにかぎってそれは無いんじゃない?」
「魔法少女ラブリーちーちゃん」
「……ちーちゃん荒れてたからなぁ」
後になって恥ずかしくなったらしく、ものすごく後悔していた。しかし僕は聞いてしまったんだ。一夏君とは男同士ということで千冬が忙しい時に預かることもあるのだが……その時に一夏君から聞いたあることが頭をよぎる。
……たまに鏡の前で魔法少女が踊っているらしい。
「……」
「ど、どうしたの? 顔が真っ青だよ」
「いや、何でもない」
この話題はもうやめにしよう。アイツと顔合わせたときが怖い。一夏君も青ざめていた。
今日はタクシーで来たため、ゆっくりと会話する時間があったが……相変わらず山奥だなぁ…………
「しかしどうしたのかねぇ……暮桜って現行のISじゃトップの耐久性じゃなかったか?」
「武器を一つにしたから他のところに色々つぎ込めたし、そうしたはずなんだけど……中のプログラムがおかしくなった? それとも……まあ、実際に見て見ないことにはわからないね」
「そりゃそうだな」
そんな会話もそこそこに倉持技研の施設の一つ。機械の耐久テストや運用を行う実験エリアに赴く。
研究員たちがあわただしく駆け回っており、データを取っているのが見える。
「こんにちわー」
「ああ、いらっしゃいませ篠ノ之博士に蜂矢さん」
「どうも……それで問題って?」
「それがフラグメントマップの様子がおかしくなっていまして……機動も鈍くなっているそうなんです」
「……確かに、いつもより動きがぎこちなさそうにしているな」
何だかイライラしている様子だ。自分の動きに機体がついていけてないような、そんな感じ。
束は口に手を当てて何か考え事しているけど……先に僕が見ておいた方が良いかな?
「どんな感じなんですか?」
「えっと、これが最新のデータです」
そう言ってタブレットPCを渡される。うーん……ISについてはあまり詳しくないというか、大まかにしかしらないけど……壊れているようには見えないんだよなぁ…………なんていうか成長しきって容量がいっぱいになったみたいな感じ。
ん? 成長?
「束、これってもしかして?」
「うん、そうだと思うよ……束さんもその可能性はあり得ると思っていたしね。まあ、前例が少ないから戸惑うのも無理はないか……ちーちゃんなら遅いぐらいだと思っていたし」
「えっと、どういうことでしょうか?」
「まああれですよ。二次移行。その時がついに来たんじゃないですかね」
「あ……なるほど、動きが鈍いのは処理に時間がかかっているからですね!」
「そういうこと……束、どうすればいい?」
「基本動かしてデータを蓄積させるべきなんだけど、ちーちゃんイライラしているし、妙な進化しちゃうかもなぁ……英、ちょっと危ないことになるけどいい?」
「…………待って、何させるつもり?」
「うーん……バトル?」
◇◇◇◇◇
どうしてこうなった。
「スマンな英……私もこうやって体を動かす方が性に合っているし、ストレスもたまらない」
「だからって下手したら僕死んじゃいますよ!?」
現在、倉持技研内のアリーナに場所を移して暮桜を纏った千冬と対峙している。いやいやいやいやいやいやおかしいって!?
なんで僕生身で千冬と戦うことになっているの!? 相手IS装着済みだよ!? いくら動きが鈍いからって物事には限度ってものが……
『英、オペレートはするから頑張って!』
「納得いかんですよ! ってかなんで僕生身なのよさ!?」
『また口調おかしいぞー……大丈夫、そのスーツは束さん特製だから』
「うん、それは信頼しているけど……心もとないなぁ」
だけど中二くさいなぁ……スーツっていうかコートだし。どこのスイーパーだよ。
まあポケット多いから色々装備は詰め込んであるんだけどね。量産型ソニックアロー使ってもいいって言われているし、苦無も多く入れてある。あと、短刀もいくつか。
「仕方ねぇ……ビーム刀もアリで良いぞ」
「しかし、危なくないか?」
「安心しろ。束特製ならそこも考えてあるって。むしろ、動きが鈍い分千冬の方がきついかもな」
「ふん、大口をたたいていられるのも今のうちだぞ」
「じゃあ、始めようか」
空中に、カウントが表示される。こんなところにも空間ディスプレイが利用されているのか……モンドグロッソのために色々開発しているってことかな。
さて、まずは苦無で様子見するか……そんなことを考えていると、カウントがゼロになり勝負が開始される。
「デリャアアアア!!」
「いきなりイグニ(イグニッションブーストのこと)かよ!?」
苦無を千冬の顔めがけて投擲し、横に跳んでかわす。って言うか束、轢かれた場合はどうなるんだ!?
『挽かれるね』
「誰が上手いこと言えって言った!?」
いやいや、これはマズイ。マズイ所の騒ぎではなくてマジで死の危険がある。
っていうかこれ僕じゃなかったら死んでた……いや、束もいけるか。アイツも生身でISに勝てるし。ただし、千冬相手だとダメだって言ってたけど。
「ってそれって僕もマズイじゃん!?」
実戦なら僕が一番強く、試合なら千冬が一番強く、盤外ならば束が一番強い。それが僕ら三人を表す言葉だ。
ルール度外視の戦いならば僕が有利。
ルール内の競い合いならば千冬が、ルールの外からならば束と言う具合である。
そして今回は――ルールありの戦い。お互いの勝利条件は相手の戦闘続行不能だが、千冬ならば僕が攻撃できない状態になれば勝ち、対して僕はシールドエネルギーを空にする。
……不利ってレベルじゃないなぁ…………
「いくぞ英!」
「ごめん結構キツイ!」
雪片に紫電が走り、刀身を光が包み伸びていく。雪片は実体とビーム二つの刃を併せ持つ刀。下手に食らうと厄介だな……なら!
ソニックアローを展開し、刀身の腹にぶつけて、そこを支点に上に飛び上る。
「なんだと!?」
「生憎、経験が違うね!」
千冬は命がけの戦いは経験していない。研ぎ澄まされた戦闘センスがあるが、実戦経験の差が大きく出ている。苦無を再び顔めがけて投げつけて相手の視界を封じる。ハイパーセンサー相手に目くらましは意味がないように見えるのだが、実際は違う。
人ってのはそう簡単に普段の感覚を超えた動きをできない。それに視界も透視できるわけじゃないから、目の前の脅威が視界を封じてしまう。
「相変わらずえげつないッ」
「褒め言葉として受け取っておくよ! よそ見している暇はないよ!」
矢を絞り、放っていく。効果はあると思うんだけど……
「対IS用の武装か!?」
「思ったよりエネルギーは削れるみたいだね。安心しな。機体にダメージが行くわけじゃないから」
対ISに特化したエネルギーパターンを使っているから、シールドエネルギーを効率よく削れる。どうやら体の大きさの差が思わぬ効果も生んでいるようで、普段は僕の方が大きいから千冬は慣れない身長差に戸惑っているようだ。
「くそっ!」
「余裕がなくなってきてんぞ!」
矢をひねり、複数の矢を装填する。限界まで絞って、一気に削るか……
『ちょっと本気出し過ぎじゃないの?』
「加減できないよ。下手に手を抜くと僕が危ないしね……っていうか、本当に攻撃喰らって大丈夫なのか?」
『さっきは言わなかったけど、一応緊急停止可能だよ』
「そういうのは先に言えよ……まあいいけど」
一気に突っ込めばいいものを、千冬はじっと僕を見つめている。
さて、僕の勘ではちょっとマズイって感じ。まあ、目的は僕の勝利じゃないから良いか。
「ハッ!」
矢を放ち、千冬の出方をうかがう。そして、千冬はビーム刀で矢を切り裂こうとして――エネルギー同士のぶつかり合いで四方八方に紫電が飛び散った。
「マズッ!?」
予想より時間がかかっているのか!? コートを脱ぎ棄てて、防御に使う。紫電を弾いてくれているけど……こげくせぇ……とりあえず放っておくか。
『あとで拾ってよ……束さんお手製なんだからね』
「分かってるって。それよりそろそろ二次移行してもよさそうなんだけど」
『束さんもそう思ったんだけど……なんか自分でキャンセルした?』
一拍の呼吸、どういうことなのか聞こうとしたら暮桜がまばゆい光を放ち始めた。
「なっ!? 今のタイミングで!?」
『どうやら……最後のが良い経験値になったみたいだね。気を付けて、たぶん普通の二次移行じゃない』
光が収まると、より洗練された形へと暮桜は姿を変えていた。
銀というより少し暗い色だろうか? いや、薄く桃色が勝っているところ見ると灰桜とかそこらへんの色か?
肩の上には空中に浮遊したパーツが浮いている。肩鎧のような感じで盾のような印象も受けるが……いや、アレはブースターだ。強固になったってことか。
そして、刀も今までの形は保っているが威圧感が増したように見える……
スカート部分も強固になっているし、女武士だな……
「二次移行、完了だ」
「で、どうする? 続ける?」
「当たり前だ……全力でこい。単一仕様能力の力見せてやる」
ワンオフアビリティと呼ばれる、固有能力。二次移行以上のISが稀に獲得するってやつか……
「それじゃあ、遠慮なく!」
矢を絞り、再びフルパワーの矢を雨のように放つ。
それに対し千冬は暮桜のビーム刀を発動させた。先ほどよりも強い輝きが放たれる。そして、全ての矢を切り伏せてしまう。正に神速。っていうか燕返しじゃないのだろうかアレ。
「って、対IS用の矢を切ったのか?」
『……単一仕様能力、零落白夜。どうやらエネルギー対消滅の能力らしいね』
「対消滅って……」
『雪片もビーム刀ってよりはエネルギー刀になってる。二層のエネルギー刀で構成されているね。下の層は今まで通りで、表面の層が零落白夜によるエネルギー刀。触れたエネルギーと逆波形のエネルギーをぶつけることで対消滅を起こすのか……これは使えるかも』
「束?」
『でもデータは出そろっているとは言えないし……ちーちゃんに協力してもらう? いや、できれば事情を説明するわけにはいかないし、テストってことでやってもらう? うーん……』
なんか自分の世界に入っちゃった……仕方がない。攻撃手段を封じられたし、負けだなこれ。
「それじゃあ千冬、僕の『試合終了・勝者・蜂矢英』負、け?」
「……」
「なんでIS解除してんだよ」
「…………違う、エネルギーが切れたんだ」
「……なんで?」
「そんなの私が知りたい」
◇◇◇◇◇
「どうやら零落白夜は諸刃の剣みたいだね。文字通り」
「なるほど、対消滅に使うエネルギーはシールドエネルギーから持ってきているわけね……スゲェ高燃費の機体になったな。今まで以上に一撃必殺で決めないとなぁ……」
「なぜこんなピーキーな機体になってしまったんだろうか」
「でもまぁ、ちーちゃん向きだけどね」
ピーキーなのは元からだし。
戦闘終了後、色々調べていく中でわかったんだけど千冬の獲得した零落白夜ってのは恐ろしくピーキーな能力だった。
あらゆるエネルギーに対して有効な対消滅剣、だけど対消滅には恐ろしいほどのエネルギーを消耗するという特性があった。
「成功すれば一撃で倒せるんだし、良かったんじゃないの?」
「だけどなぁ……」
「っていうかちーちゃんが望んで獲得したんだよ、これ」
「……私がか?」
「うん。どうやったらあの矢を斬れるとか、もっと素早く決着をつけるにはとか色々考えた結果みたいだからね。コアもそういう風に学習したんでしょ」
「たしかに、模擬戦でももっと素早くなど、色々考えてはいたが……」
「そういう風に経験値が割り振られたってことさ!」
結局、千冬がそういう成長をしたってことか……
「なるほどな……」
「じゃあ後は倉持でやってね。データは取ったから家でまとめてみるよ」
「……まて、私は帰れないのか? お前らは帰るのに?」
「千冬、一夏君はまた預かっておくよ」
「まってくれ、一夏のごはんを作らないといけないんだが」
「ダウト。いつも一夏君が作っているだろ君の家」
知ってるんだぞ。君の家事の腕が全く上達していないの。
っていうか最近は疲れた中年サラリーマンみたいな感じになっているんだぞ。
「……一夏の手料理が食べたいんだ。帰してくれ」
「ハイ」
「……なんだこれは?」
「こっちに来るときに預かった一夏君のお手製のお弁当。千冬にって」
「まさか……最初から私は泊りがけだったのか!?」
「所長さんに連絡貰って荷物も持ってきたんだぞ。束が預けたから後で受け取ってね」
「ああそうか……すまんな一夏、ダメなお姉ちゃんで」
確かに魔法少女の格好で踊るのはダメな姉だと思う。
だけどそれを知られたら殺されると思ったので、僕が足早に立ち去った。
「束、帰るぞ」
「はーい」
コートを再び羽織り、僕らは帰路についた。後ろから荒れた少女の叫びが聞こえたような気がしたけどたぶん気のせいだろう。
ついに零落白夜登場。
物語はようやく進む。このセリフ何回目ですかね?
ちなみに公式サイトで邪武の情報が更新されていました。
……スペックはゲネシスより上…………いや、ミッチがそれだけ強くなったってことなんだろうか。