やっぱり避けては通れないという。
怪我も治って、落ちた筋肉を戻すべく鍛える日々。そうこうしているうちに月をいつの間にかまたいでいた。
2月と言えば何がある? まあ思いつくのは大体二つ。
節分とバレンタインである。今年の節分はリアル鬼になってしまった千冬との激戦だったのだけど、特に語るようなことではないので割愛する。
さて、そんなわけで残りはバレンタインなんだが……
「なして僕はここにいるのでしょうか?」
「コーチ!」
「私たちにチョコの作り方を教えてください!」
「先生! いやもう師匠!」
本当、どうしてこうなったんだろう……
まあきっかけは些細なことだった。千冬が一夏君に手作りチョコを渡したいからと、僕に作り方を教えてくれと頼んできたのが始まりだったっけ。
それを教室の中で言うもんだから、料理作れない系女子が僕に群がって来て、あれよあれよという間にチョコづくりの師匠に祭り上げられたのだ……おーい、なんで同学年のチョコ作れない系女子が集まっておるかなぁ?
「っていうか男の僕に聞いていいのか?」
「だって、蜂矢君相手なら変な噂にならないしねー」
「彼女持ちになら聞いても大丈夫ってのが暗黙の了解なのだよ」
「っていうか、一人暮らししているってのも有名な話だし」
「そして夜は篠ノ之さんと二人きりで……」
「「「キャー!!」」」
別にそういう色気的なのは無いんだけどなぁ……お互い、研究開発で忙しいし。
「……束がお前の家に泊まるのは否定しないんだな」
「まあよくあることだし、ほとんど仕事が長引くからだぞ?」
「お前は一体何の仕事をしているんだ!?」
「政府関連につき、守秘義務があります」
「…………最近、お前は束以上に厄介な存在なんじゃないかと思っている」
「安心しろ。自覚はあるから」
っていうか、最近はモンドグロッソの会場の設営で忙しいんすけど……来年開催だし、高校卒業した後の話なんだけどさ…………耐久度とか色々考えなくちゃいけないから僕も束も最近は寝不足なんだよ。
いざというときに張るシールドとかさぁ……インベス対策もしなくちゃいけないし、本当に色々大変なんだって。愚痴れないのがつらいわぁ……束は苦楽を共にするから愚痴るとお互いに沈んでいくだけだし。
……百花さんなら逆に力に変えてくれそうだし、愚痴るかとか危ないこと考えていることもあるんだぞ。その後が怖いのに…………
「まあ、チョコは簡単な方だしすぐに終わるか……で、どのレベルがいい? さすがにトリュフチョコとか作ったことないけど」
「いやそこまでは求めていない」
「せめて形とか自分で作りたいなってぐらいだから!」
「良い感じのハート型とかないんだよね……」
「文字を書きたいんです先生!」
……そこまで高レベルは求めていないと…………まあそれならなんとか。
「じゃあまずはチョコを溶かすところから始めるか」
その後は熾烈を極めた。
チョコを砕きもせずに鍋に投入する人や、砕いたはいいが直接湯の中に投入するお方、雪片で溶かそうとするバカなど……料理下手にもほどがある人が何人もいた。
幸い、半数は湯銭できる人だったけど…………いや、半数も湯銭できないという緊急事態だった。
「だからってなんで束さんを呼ぶんだよ」
「スマン。手伝ってくれ……この惨状を見ればわかるだろ? 千冬(毒殺料理人)一人でも手に余るのに」
「おい待て、私が何だって?」
「ハァ……仕方がないなぁ…………じゃあ湯銭できている方は一通り教えればできそうだからそっち担当するよ」
「本当ごめん」
「おい無視するな。泣くぞ、泣いていいのか?」
「頼むから黙ってくださいよ千冬さん。っていうか雪片を持ち出すなこのおバカ!」
「グスッ」
結局、久しぶりにハリセンを使って文字通り叩き直すことになった。
湯銭にたどり着くまでかなりの時間を必要としたが、その後はおおむね問題はなかった。応用でブラウニーやクッキーができるぐらいにまでは成長したとき、なんだか感動さえ覚えた。
それぞれ思い思いのチョコが作れてみんなは来るべきバレンタインに向けて旅立っていったんだけど……結局一人だけまだ作れていないものがいる。
「……ちーちゃん」
「なぜだ!? なぜ作れないんだ!?」
「もうここまで来ると呪いだな……」
「っていうかお前はトリュフチョコ作れないんじゃなかったか!? なんで作っているんだ!?」
「いや、レシピ見ながら作ったんだよ……作れないなんて一言も言っていないだろ。作ったことが無いって言ったんだ」
「…………そうか、私はまた騙されたのか」
「そう落ち込まないで。大丈夫だよちーちゃん」
「横でその大作を作っていたお前に言われたくないわッ」
チョコケーキをデコレーションも完璧にこなしているからなぁ……さすがである。
しかし、問題は千冬の料理下手である。これはどうしたものか…………なんで型に流し込むだけなのに失敗するんだ? わけがわからない。
「先に義理チョコ作るか?」
「……そうだな、そっちなら多少不恰好でもいいから何とかなりそうな気がする」
そしてしばらく時間が経って。
「できた」
「アレ!?」
「う、うそ……ちーちゃんが料理を成功させるなんて!?」
「お前らなぁ……」
多少いびつだが、ちゃんとできている。表面にはホワイトチョコで義理と書かれているし……なぜ成功したんだ?
「いや、義理だと思ったらなんだかあっさりと」
「……ああ力み過ぎていたんか」
「あーちーちゃんって意外と緊張に弱いところあるからね……って、いっくんにあげるのを作ろうとしたから失敗してたってこと?」
「そうらしいな……だが、一度コツをつかめば――!」
その後、何度やっても一夏君にあげるチョコだけは作れなかった。
……織斑千冬の挑戦は続く。
「なぜだぁあああ!?」
◇◇◇◇◇
バレンタイン当日。
「しかし、千冬は大丈夫なのかね」
「無理じゃね? って言うか無理だった。束さんでもどうしたらあんな失敗できるかわからないよ」
僕たちは口でしゃべりながらも作業を止めることはなかった。
っていうか時間ないんだよ……
「ISコアってもう作らないのか?」
「うーん……500個キリのいいところまで作りたいけど、どうしようか悩んでいる」
未来に向けて、僕たちは色々と準備を進めているわけだけど……まずは目先の問題や課題などを片付けないといけないわけで、とりあえずアリーナ設営を進めているわけです。
しかし、対インベスようのシールドにここまで手こずるとは……やっぱり、エネルギー量の問題に直面するんだよなぁ……ロックシードを使う手もあるけど、それって結構リスキーだし。
束と共にあーでもないこーでもないと悩み続けること数日。なかなかいいアイデアは出てこない。
そんなことをアリーナを建設している近くのプレハブ小屋でやっているわけだけど……まあ、事務所みたいな場所である。
「零落白夜を解析した対消滅シールドは危険だし、エネルギー消耗が激しすぎるしなぁ……ペアーエナジーみたいに武器だけに少量展開でさえギリギリだったんだろ?」
「うん……っていうか、まだ改良しているしねアレ」
「そっか……じゃあ、何か他にあるかな…………あ」
「あれ? なんかあったの?」
「ああ……アイツを思い出したんだよ」
「アイツ?」
「サイクロプスインベス…………そもそもインベスを使わせなければいいわけだ」
「あ……そっか、その手があるか」
アリーナ周辺の空間に特殊作用を施すことで、クラックを開けなくするのだ。まあ、弊害がいくつかあるだろうけど……開催期間中だけならなんとかいけるか?
電力とかかなり消耗するだろうけど……とりあえず、緊急時にだけ使用するってことで良いか。
「とりあえず、これで打診していくよ」
「じゃあ束さんは図面を引いておくねー……あと、ハイこれ」
「なんだ……ってチョコか」
「驚かないの?」
「そりゃ作っているところ見たからな」
「残念。でも、ちゃんと食べてね。自信作だから!」
「わかってるって……じゃあ行ってくるわ」
とりあえず、現場主任のところか?
あ、でも現場主任って……
ちょっと行くのをためらったが、逃げても仕方がないよなぁなんて考えながら僕は主任のいる場所へ向かった。
「おじゃましまーす」
「ああ! いらっしゃいませ英さん! さぁさぁ、ティータイムの準備は――」
「おじゃましましたー」
「――すいません冗談ですから帰らないでくださいよぉ!」
……仙道工房が建設してるんだよなぁ…………いつの間にか主任になっていた百花さんがいるから、ちょっとためらったんだけど相変わらずだなこの人。
仕事はできる人なのに、なんでこんな残念なことに……
「まったく……ハイ、英さん」
「……変なものはいってませんよね?」
「流石のわたくしもそこまでしませんよ」
まあチョコを渡されるだろうなとは思っていたが、意外である。てっきり変な物入れていると思ったんだが……だから来るのをためらったんだけど。
「安心してください。ただのゴディなチョコですから」
「お高いやつじゃないですかやーだー」
そういやこの人、結構なお嬢様だった……いろいろアグレッシブだし、料理とかもできる人だからそんな気してなかったけど……
この人もかなり高スペックなんだよなぁ……まあ性格がそのすべてを台無しにしている残念美人なわけだが。アレ? 僕の周りそんな人ばっかりじゃね?
束、言わずもがな。
千冬は魔法少女ラブリーちーちゃんだし。百花さんも見ての通りただ一つの変態。真耶ちゃんはドジっ子だし、佐々木先生はアレだし、その他諸々……
「ちょっと悲しくなるな」
「ど、どうかなさいましたか?」
「いやこっちの話……だけどこんな高いものならお返しも考えないとなぁ」
「大丈夫です。英さんから分泌される――「そこまでにしておけよ痴女」――ッ! やはり、罵倒は英さんのが一番ですわ」
「…………ハァ」
これさえなければなぁ……一応お返しは真面目に考えてあげよう。なんだかんだで助かっているんだし。
「ああ、本題を忘れるところだった……対インベス用のシールドっていうか防衛策思いついたからその案を持ってきたよ」
「分かりました。具体的にはどうなさるんですか?」
「クラックに反応して、特殊な空間圧力をかける装置でもつけようかって話になった。クラックを開けなくするんだけど、電力消耗が激しいから、他に制圧部隊とか必要だけど」
「それを使うとどうなるんですか?」
「インベスだけじゃなくて、アームズのためのクラックも開けなくなるかな……」
「それって、英さんたちも変身できなくなるのでは……」
「分かっているよ。でも、今のところそれが一番有効なんだ。あくまでインベスさえ召喚させなければいいわけだし」
「たしかに……これは複数の防護策を講じる必要がありますかね?」
「ですねぇ……対インベスだけじゃなくて対ISも考えないといけないですし」
「難しいところですわね……」
とりあえず、予算の見積もりをして建設予定図に組み込んでいく。
「そういえば……モンドグロッソって何年おきの開催なんですか?」
「3年だそうです。正直短いスパンですけど」
「まあ軍事技術も絡んできますからね……ISって本当は工作機械のつもりで作ったらしいですけどね」
「本人から直接聞きましたよ。無理な機動をすると骨折したりするのはそこに由来しているらしいですわね」
「まあ束も人の子ってことなんですよ」
「ええ、知ってます…………それでは」
それだけ言うと、百花さんは自分の仕事へ戻って行った。
……あー…………ハッキリ言ってもダメなんだろうなぁ……
「罪悪感がやべぇ」
なんだかんだで、彼女が僕を好いてくれているのは分かっているし、うれしいとも思うが断らなければいけないとも思うわけで……
しかし、その程度で彼女があきらめるわけがないというのも理解してしまったわけだ。
事あるごとに束の話を出して諦めてもらう方向にシフトしたんだけど……無理だな。
「…………ホンマにどないせーっちゅうねん」
似非関西弁が出るぐらいには、悩んでいる今日この頃。
2月ってのは嫌でもこういう話題が出てくるから苦手なんだよなぁ……バレンタインが終わった後はチョコが安くなるから良いんだけど。
「今のうちにお返し考えておこうっと」
色々大変になるだろうし。おそらくは大量にもらったであろう一夏君と一緒に何か作るのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら窓の外を見る。雪がそこそこ降っているけど、それもあと一か月ぐらいか。
もうすぐ進級、そしたら卒業まで一年切るわけで……
「どうするかなぁ……」
いくつか案があるんだが、進学はしている時間というか暇がないな。
僕たちも本格的に動き出さないといけない。窓を開けて空を見上げる。
「一番星……宇宙かぁ」
そういえば束も元々は宇宙に行きたいってところから始まったんだっけ……いや、案外箒ちゃんあたりが宇宙に行きたいって言ったからかもしれん。
……宇宙?
「そういえば、ヘルヘイムの森から見える星空も地球と同じ…………なら宇宙は?」
……ちょっと、光明が見えたかもしれない。
にやりと笑って、馬鹿馬鹿しいけど切り札になるかもしれないモノを頭の中で思い浮かべる。
さっそく、束に相談しようと駆け出した。まあ案の定バカと言われたけど、そういう束の顔は新しいおもちゃを買ってもらった子供のようだった。
ただまあ、作るにはやっぱり百花さんにも話を通さないといけないかぁ……いや、政府自体にも話を通さないといけないか。
とりあえず、今後の予定を束と共に書き出すのであった。
でも〆は別の話題。
一体英は何を考えているのか。それがわかるのは大分先になるかなぁ……
ドライブ始まりましたね。キックがハメ技ですが。
動くとカッコいいのはライダーのお約束だけど……ベルトが喋りまくり。
これは前任者がいて、意識をAI化したとかそういうお約束だろうか……
あのキックを英と束で再現できないだろうか…………ジンバーチェリーの高速移動と合わせるか。って、それ束さんの方がキックするやん。