驚くべき速さで怪我も治って日本に帰ってきたが、学校に登校する日々。そんな中、束がなーんか思い悩んでいた。
「どうしたんだ? いつにも増して浮かない顔して」
「……それがさぁ、最初の予定数のコアを配布しおわちゃって」
「ならいいんじゃないのか?」
「いや……もっとよこせって」
「ああ」
束は前々から、ある程度制限をかけてISコアを配布するつもりだったのは知っていたが……世間っていうかお偉いさんはそれを許さないわけか。
しかし、こう悩んでいるところを見ると……
「他にも何かあったのか?」
「……重要人物保護プログラム、私に関しては受けないと思うんだけど」
「前に聞いたぞ。家族が受けるって」
「うん……せめて箒ちゃんが小学校を卒業するときにって考えていたんだけど…………たぶん、12月か1月あたりになりそう」
「…………何があった?」
「コアを引き合いに出されてね……作らないと、早めるって。材料費とかは出してくれたから今までどうにかなったけど……ハァ」
「インベスの問題もあるしなぁ……」
「皮肉なのは、そのインベスがいなかったらもっと早く保護プログラムを受けていただろうなってことだよ。インベスがいたからIS一強にならなかったんだし」
「……そういえばそうか」
本当、皮肉である。
「結局……どうするんだ?」
「相談、するしかないんだよね……ハァ」
「まあまだ時間はあるし、考え抜いてから結論を出せ」
「……うん、そうする」
…………しかしまだ4月も始まったばかりだし、肌寒い。
ゴールデンウィークも近いし……6月には修学旅行が控えているんだよなぁ……ミコノスに行くらしいけど。
「……コーヒーでも入れてくるわ」
「おねがーい」
◇◇◇◇◇
家に帰ってきた後、色々と検査をした結果……僕の体の中にヘルヘイムのエネルギーが残留…………いや、製造されていることが判明した。それ自体は別に驚くことではなかったのだが、束の取り乱しようが……まあ何とか落ち着いたけど。
っていうか、それは束も同様だったわけで……おそらくは、血筋かなんかが関係していることだと思う。かおりさんなどに左の腕輪を試しに着けてみてもらったけど……まったく反応なかったし、エネルギーについても確認できず。
元々眠っている何かがあって、それが腕輪、もしくはロックシードの影響により何かが目覚めたんだろう。その影響でシルバーアームズをその場で構築して見せたわけだ。限定的だがヘルヘイムの森の力を使えたわけだし。
「……うーん、結局この腕輪は一体なんなんだって話なんだけど…………」
少し大きくなった世界樹の苗木に水をやる。大きさ的には小さいクリスマスツリー並みだな……1メートルってところか。
果実も前より多くつけるようになったし……新しいの研究し甲斐があるわけで。
「…………よし、考えていても仕方がないか」
別に体に異常はなかったし、異常な回復力や身体能力の理由はおそらくソレってだけだし。
……そうなると、もう一人異常なスペックがいるけど…………確かめたくねぇ……
「まあ、コーヒー渡してモグラインベスのレポートまとめないと」
対策チームにはできるだけ情報を渡さないとなぁ……硬いってのが厄介らしいけど、ジンバーメロンで無理やり叩き切ったし。
とりあえず束のところにコーヒーを持って行った……なんでワクワクした目で見ているんでしょうか? いや、わかっていますよ……でも言いたくない。え、言えって? ……わかったよ。
「おまたせしました、お嬢様」
「あーん! 可愛いィ!!」
「……屈辱だ」
拝啓、天国のお母様、たぶん天国にいるお父様、僕は今…………メイドをやっています。
◇◇◇◇◇
まあ話はなんてことは無い。ただ、罰としてメイドの格好をしているだけだ。だから、気にするな。わかってくれるだろ、なあ?
「……クラスの満場一致で目覚めたってことになりました!!」
「やーめーろーよー!!」
なんでだッ! みんなは、みんなは分かってくれると思ったのに……っていうか学校ぐらい普通の格好で来てもいいじゃないですかッ!
「……先生権限で許可する」
「あんたそれでも教師かッ!?」
「ふむ……どれ一枚」
「撮るなぁあああああああああああああああああああ!!」
工藤先生に頼った僕がバカだった。
っていうかクラスのみんなも撮るなッ! ヤメロオオオオオオオオ!!
「うう、ううっ」
「なんだか悪代官に捕まった生娘みたいな感じだな」
「千冬……あとで一夏君にあることないこと吹き込むぞ」
「ほう……やってみせろ」
「ピッ、あ千冬の部屋の机の下から二番目の引き出しの裏側に隠しものがあるよ」
「おばあああああ!? なんで知ってる!?」
「暮桜がメールで送ってきた」
「――え」
「まあいいじゃないか、悪の栄えたためしはないよ」
「いや、え!? ちょっとまてどういうことだッ!?」
「整備している関係で、ログとかを定期送信できるようにこの右の腕輪でメール形式のやり取りしているんだけど……いやぁ、コアが随分と成長したようで。三次移行も近いね。お前が暴走したときのために色々と添付してくれるんだ」
「う、専用機に裏切られた……」
「束……お前のジャバウォックは一応僕製作だし、操縦はできないけど僕の方の言うことの方をよく聞くぜ」
「…………!? え、こっちも裏切られた!? っていうかISの生みの親に逆らうってどういう――反抗期ってなんだよ!?」
器用にISと会話するなぁ……いや束ならそこらへんの詳しいやり方知っているから良いけど。クラスメイトもこの程度の混乱なら慣れてきたし。
さて、あとは辱めを受けた屈辱を晴らさないとな……この場にいる全員に。
『――ッ!?』
「ああそうだ、おマえラ全員――ターゲッとダ」
「総員退避で――「委員長、まずはお前からだ」――アガッ!?」
「委員長が捕まったぞ!?」
「早く逃げ――なんで教室が開かないんだッ!?」
「外から押さえつけられているわッ」
フフッフ……すでに懐柔した奴がいるのだよ。ああ、まさか――百花さんがストレートに褒めてあげるだけであそこまで怖がるとは思わなかったよ……ウフフフフ。
と言うわけで、教室のみんな? 覚悟はいーい?
「い、いやああああああああああ!?」
「くそぅ、なら窓から――あべしっ!?」
「け、消しゴムで迎撃しただと!?」
「――まって! 先生と田中君がいないわ!!」
「畜生逃げやがった!! あ、蜂矢二人はいいのか?」
「……マズはお前ラ潰す」
「ダメだ人の言語を失っている!!」
さぁて……何がいいかなぁ…………そうだ、委員長にはとっておきがある。
「……この前、委員長の家からー藤咲さんがー」
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
「…………宿屋の店主の気持ちがわかった気がする」
「ガクッ」
堅物だからなぁ……こういう下世話な話題は人一倍ダメージがある。ついでにめでたく精神が回復した藤咲さんも撃沈。
さぁて……次はドイツだ? 千冬は落ちているし、束のトドメは最後にしておこう。
「っていうか蜂矢だって篠ノ之さんとは――」
「今更僕がそれに恥ずかしがるとでも?」
「――何でもありません」
それこそ今更過ぎるわけだよ。
さあ次は……僕が常日頃から女装していると噂を流そうとした…………お前だ白樺。
「えっと、女の子相手に手加減は?」
「ごめんね。男女平等主義なんだ……だから肉体的ダメージは両方に与えないけど精神的ダメージは同等に与えるよ」
「……お願いします悔い改めますから、噂とか我慢するから! だから、だから――「白樺さんはこの前、幼稚園を涎を垂らしながら眺めていましたね」――ああぁ……」
ショタコンとか……ないわぁ。
「ないわぁー」
「言わないで……お願い、おねがいします」
「ヤダ」
「おっふ」
また一人つまらぬ者を……さて次はドイツだ?
「……宮野さんは最近病気の母を助けるためにバイトを――」
「みゃー!?」
「ギャルなのにいい子だ」
「メイクがキツイと思っていてすいません」
「宮野ちゃん、私たちにできることがあったら」
「優しくするなぁあああああああああああ」
「ケッマザコンかよ」
「そういうリーゼント風味の中島君はマザコンですね。家では母親のことをママ呼びですか……そうですか」
「グハッ!?」
「でもまあみんな知っているし別の話題が――」
「おぐるぱっ!?」
あちらこちらから、卑劣とか聞こえるけど気にしない。だってそいつらもネタはつかんでいる。
「篝火、私服のセンスはとやかく言わないけどさ…………父親相手にまでセクハラするってどうよ」
「お前がなんで知っているんだぁあああああああああ!?」
「まだ反省していなかったのか……おかげで、娘が誘惑してくるとか相談されたんだぞ、この前暮桜の整備見に行ったとき」
「ああ……」
「あはは……でも蜂矢君、いくらなんでもやり過ぎなんじゃ」
「そういう飯島君は…………遊ぶ金欲しさに……ごめん言わないでおくよ」
「――ッ!? まってなんで知っているんだッ!?」
「大丈夫、みんなわかってくれる。ただまあ、ヤリ過ぎるなよ」
「なんでそう言いながら遠ざかっていくんだ!? まって、待ってくれッ!!」
あれだけは口に出したくない……うっぷ。
しかし、残りもまだまだいるしとっとと行っちゃうか……そうして出来上がっていく死屍累々。反撃を試みる奴にはさらなる鉄槌を。
「……次は、菊池さん…………ダメだ、天然過ぎて何言えばいいのかわからない」
「んー私特に弱みとか無いデスネ」
「そうだな……僕の方も大食いチャレンジ優勝の姿を目撃しただけで特に面白味の方はないんだよなぁ」
「――OH」
ふっふっふ、まだまだ甘いのう。
「うわぁ……下劣だな」
「さて、束と後はお前だけだな中沢」
「いやでも俺に弱みって?」
「…………あると思っているのか」
「え」
あるわけないじゃん。中沢君に。
「……いや、どういうこと?」
「みんな知っていることです。君が弱みと思っているだけで、実際はみんな知っていることだし」
「――いやいやいやいや、そんなわけないって」
「隣のクラスの女子に告白した」
「ぐはっ!?」
「この前、養護教諭の先生をお母さんって呼んじゃった」
「もげっ!?」
「本屋でアダルトなの買ってた……クラスメイトの実家だよ?」
「うるぶちっ!?」
「……なんていうか全体的に詰めが甘いって言うか、今更調べるまでもないって言うか……ごめん」
「むしろ、謝らないでくれ」
まあ一人倒して……後は最後の一人だ。
「……英、この束さんを倒したくば――「束、愛してる」――はうわッ!?」
◇◇◇◇◇
意外とちょろいな……もう少し粘るかと思ったんだが…………今現在、屋上で涼みに来ています。ちなみに、ドアは百花さんが白くなっていたから容易に開いた。
……なれないことは言うもんじゃないなぁ…………今日のことは軽く学級崩壊だな。
「……ん? ――やべっ」
ふと、屋上に人影が現れたから咄嗟に隠れてしまった。っていうかこんな格好出来れば見られたくな――って逃げた二人じゃないか。
……そういえば、あの二人に関してはよくわからなかったんだよなぁ…………田中は本当普通だったし、先生はよくわからない。
「――ッ!」
「――――」
ただまあ……なんか険悪というか、田中君は焦っている感じの表情で先生に詰め寄っている。対して、先生はどこ吹く風だけど……妙に表情が艶めかしい。え、どういうこと?
会話はよく聞こえなかったけど……先生がその場を立ち去ることで話は終わったらしい…………うーん、まあいいか。
「……どったのかね」
「――ッ!? は、蜂矢君!?」
「いや険悪な空気だったから出るに出られなくて。会話は聞こえなかったけど」
「…………いや、聞こえなかったならいいや」
それだけ言うと、彼は眼鏡を拭き始める。
これ以上聞いても意味はなさそうだけど……
「しかし、珍しいな田中君があんな感じの表情をするなんて」
「それを言ったら、君の格好もね」
「……言うな」
ハァ……本当、どうしよう。
「さてと、そろそろ戻るか」
「そう、だね」
ふと空を見上げると、少し曇りがかってきていた。
あとどれくらい……こんな風にバカやれる日常があるんだろうか……そんなことを考える今日この頃だったりする。
◇◇◇◇◇
「…………ずるい、っていうか英はなんでそんなに平然としていられるわけ?」
「恥ずかしがるから恥ずかしいんだって気づいたから。堂々としていた方がいいこともある」
「それはそうだけどさぁ…………そういえばクラスメイトのみんなの弱みはいつ握ったんだよ」
「コレ使った」
「……ロックビークル?」
「ストレイチアガジェット。小型偵察機ですな」
展開させると、羽ばたき始めて部屋の中を飛び回り再び僕の手に戻ってくる。
「い、いつのまに……」
「前に骨折したとき暇だったから図案だけ引いていた。ビークルじゃないしロックガジェットってシリーズで作ったんだけどね。モチーフは生き物っぽい形の花。これは極楽鳥花だな」
「確かにトリっぽいけどさぁ……」
「まあ弱みを握るっていうか、運転テストのつもりで飛ばしたんだよ」
「――ハァ、なんだか斜め上だねぇ」
「お前もな」
「……まあお互い様か」
「だろうね」
そんな風に、会話もそこそこにしておこう。
今日も肌寒いし。
英は時々、趣味で色々作っています。
今回は実用性があったから正式に作ったモノの一つ。
鳥型独立偵察ユニットです。
まあぶっちゃけ、ライダーに時折出てくる小型のマスコットアイテムのつもり。
たぶん言わなくても大体わかるんじゃないかな……