その日は嫌な雨が降っていた。
ジトジトしていて、本当ひどい雨だった。
◇◇◇◇◇
朝早くに束から電話を貰い、篠ノ之神社に赴くこととなった。
……予想よりは早かった。束はついに決心をつけたんだけど……正直、不安ではある。
だけどもう後戻りはできないんだ……いつになく、この家にくるのが辛い。
「――おはようございます」
みんなは道場に集まっていた。箒ちゃんはいないようだけど、流石にこんな話を聞かせるわけにはいかないか。
……僕も覚悟はしておくか。
「……大事な話があるということだが…………どうしたんだい」
「えっと……英、話してもいい?」
「束の好きにしろ……普段の生活のために隠していたんだし、高校卒業したら隠す理由もなくなる…………それがはやくなっただけだ」
「うん……あのね」
束は、今までの出来事から話を切り出した。ISを作って、それで自分がしてしまったこと。そして、その後起こったインベスとの戦い。自分をかばった少女のこと。
今起こっていること……僕が仮面ライダー冠だということも…………御神木との関係なども。
「――そうか」
その一言を聞くまでに、長い間があった。柳韻さんは二言ぐらい、隣りに座っていた奥さんに話して下がらせた……いや、何かを取りに行ってもらった?
「……話はそれだけではないんだろう?」
「ッ……うん」
「だが、その前に一つ英君に聞きたい…………君は、束を自分の事情に巻き込んだのかい?」
「――――結果論では……いいえ、そんな言い訳できませんね。確かに僕が束を巻き込んだようなものです」
「で、でもそれは」
「束は黙っていてくれ……」
「そうだ、これは父として向き合わなければならない問題だ……束にはほとんど父親らしいこともできなかったし、今こうして話せるのも君のおかげだということもわかっている。わかってはいるんだ……だが」
「ええ……一本、それでいいですか?」
「分かっているじゃないか…………好きなものを使うといい」
僕たちは立ち上がり、竹刀を適当に一本取り出して構える。言葉はいらない。ただぶつかり合えばいい。
「――ハッ!!」
「――ゼリャァアア!!」
短く、されど圧倒的な気迫で迫る柳韻さんの竹刀。対して僕は力押しもいいところ……実力差はある。それでも、力は拮抗した。
「……強くなったな」
「ええ……でも、単なる力任せッ!! です」
「ッ――なら、これは!!」
何度も竹刀がぶつかり合う。その度に、色々な感情が頭によぎる。
後悔、懺悔? そんなものはとうに通り過ぎた。言葉にはできないが……辛い。
「ハァ、ハァ」
「どうした? そんなものか?」
柳韻さんも意気は上がっているハズなのにそんな感じはみじんも見せない。僕は、体力はまだ有り余っているのに……精神が疲れている。経験の差……いや、積み重ねたものの差だ。
だから――――僕が今まで背負ってきたものをこの一撃に乗せるしかない。
「行きます」
「ああ……こい!!」
その直後に、激突があった。
◇◇◇◇◇
すこし、のびていたらしい。結果は引き分け。いや、かなり手加減されていたなぁ……完全に負けだな。
「……君は…………誰かを巻き込むことを後悔していないのか?」
「後悔よりも……前に進むことを選びましたから。それに、巻き込めるところは巻き込まないと、それ以上の後悔をしそうじゃないですか」
「…………たしかにな。でも、辛いぞ?」
「何もしないよりかはいいですよ……」
それだけ言うと、柳韻さんは最初の位置に座った。僕も再び戻るけど……ふらつく。
「束さん、そういうのわかんない」
「元々、男にしかわかんないようなもんだよ……僕はてっきり一発殴らせろ的なセリフを聞くかと思ったけどね」
「それも考えたが、束に関してそれを言う資格はないと思ってな……むしろ、束に拳骨を落とす話を聞かされると思うしな」
「――あ、あはは…………」
「たぶん、柳韻さん予想はしていましたよね?」
「ああ……束がISというのを作った時にはな――いや、束が幼稚園に上がるころにはとんでもないことをしでかす予感はしていたよ」
「ええ!?」
案外親ってのは、子供のことをよく見ているものである……子供からしたらわからないだろうけど。
だからこそ――――羨ましいと思ってしまうわけで。
「あら? もう娘さんをください的なシーンは終わった?」
「――ハァ、今回はそういう話じゃないのにお母さんは」
「冗談よー。それに……それを聞くのは、しばらくは無理なのよね」
「……例のものは?」
「持ってきたわ……ハイ、これ」
そう言って渡されたのは……巻物?
「うちの神社に伝わるものだ……御神木について書かれているんだが…………二人の話ともかかわりがあるだろう」
そこに書かれていたのは、御神木が篠ノ之神社に植えられた経緯などだった。読みにくいし、解釈があっているのかわからないが…………
要約すると、東より海を越えてやってきた紅き一族がここに住みつき、持っていた種を植えた。それがこの御神木らしいけど……紅き一族か。
賢者ともたとえられていて、様々な知識をもたらしたとか。
「これってやっぱアレだよな。各地に散った一族が植えたものが今の亜種? 僕の持っているのはギアナ……そして、日本にも…………石碑はヨーロッパ。あれ?」
なんだ? なんか違和感がある……うん? 種?
「ヘルヘイムの果実に種なんてあったか?」
「なかったっけ? ……いや、そういえば果実は外気に触れているとだんだんと熟れて地面に落ちていたような……」
「じゃあ種ってその熟れた果実のことか? でもそんなものを大昔に長期間保存して運べるかって――まて。黒の女王の王朝ってどこにあったんだ!?」
「――あ」
それに、知識に秀でていたのは蒼の民だった。武に秀でていた紅の民の子孫がなぜ賢者なんだ? ピースがそろってきた……まあ今はそれを考える時じゃないか。
「話は後にしよう……本題があるしな」
「――うん。お父さん、お母さん……私はまず、謝らなければいけません」
束は二人を親と分かっていても、こうして話すことはあっただろうか? こうして正面から向き合うようになったのは――
だからこそ、辛い。
それでも話さなければいけない……
「重要人物、保護プログラムについてです」
◇◇◇◇◇
話し終えたとき、静寂がその場を支配していた。
早ければ今年中に、遅くとも3月。
「……本当に、申し訳――」
「束、親にそんな他人行儀に話さなくてもいい。わがままぐらい、ちゃんと聞いてやる。だから、泣きたい時は泣け」
「そうよ……大丈夫、またここに帰ってこれるように、なんとかしてくれるんでしょ?」
「――う、うう」
この場にいるのは無粋かななんて思って……僕は外に出た。ハァ、嫌な雨が――!?
「ほ、箒ちゃん!?」
「――――ぜ、全部は聞こえなかったけど本当なんですか? わ、私たちがここから離れなくちゃいけないって」
「あ――」
聞かれていた? 箒ちゃんに? いやどこまで聞かれていたかわからないけど……何だか嫌な予感がする。
「あ、あはは……そんな、一夏と一緒にいられない? ここから離れる? なんなのだ? それは?」
「箒ちゃん? どうかし――ッ!?」
手を伸ばしたが、振り払われた……何事だと、柳韻さんたちも駆け寄ってくるが――箒ちゃんの様子がおかしいことに気が付いて、足が止まる。
「――――誰のせいだ? 誰が、私と一夏を引き離す? 誰のせい? ダレガ?」
◇◇◇◇◇
その声を初めて聴いたのはいつだったか。
「――――誰のせいだ? 誰が、私と一夏を引き離す? 誰のせい? ダレガ?」
頭が割れるように痛かった。言葉がうまく出てこない――ああ、もう何もかもコワシタイ。
嗤う。笑う。ワラウ。
『そうよ……壊しちゃえばいいのよ』
いつか聞いた声の誰かが私にささやいた。壊せばいいと。ああ、それもいいかもしれない。
でも誰ヲ?
『あら? 貴女の人生を壊した人に決まっているじゃない。人の話なんか聞きやしない。自分勝手で、周りを巻き込んで、貴女の大切なもの全部奪う……貴女のお姉さんよ』
ああ、そうか――姉サンが悪イんだ。だかラ、これは当たり前ノ権利ダ。
そうして、私は走り出しタ。その時に私ニ助言をくレた人が見えたケド……三日月のようにワラッタ口をした、私ガ、そこにいた。
『うふふ、うふふ……ふふふふふふふふふふふふふふふふ』
笑い声が聞こえる。あちらこちらからたくさん、たくさん。そして、目の前にあるのは――姉の作った力。IS……こんなものが、こんなものがあるから。
でも、今はイイ。だって――姉を倒セルから。
「あは。はは。はははは!!」
◇◇◇◇◇
アラートが鳴り響く、走り出した箒ちゃんを追いかけていくが――明らかに異常な身体能力だ。僕たちでも追い付けないなんて……これは一体?
「くそっ!! どうなっているんだ!?」
「僕たちにもわかりません!! いくら不安定だって言っても――これは異常だ!! それになんで腕輪が光っているんだよ!!」
インベス関連にしか反応しないのになんで光っているんだ!? 相手は箒ちゃんなんだぞ!?
そして、束のラボから何かが飛び出してきた。その姿は――全身を刀で武装した、ISだった。
「――剣椿!?」
「あれって束が作っていた第二世代のISだよな?」
「う、うん……対軍団用パッケージの試作品を搭載したIS…………まだ未完成だったのになんで」
「あはははは、姉サン、覚悟ォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「――ッ!?」
そして、その凶刃が届く――その直前だった。
とっさにつかんだのは赤い色の果実。血の様な禍々しい色の――ロックシード。
【ブラッドオレンジアームズ! 邪ノ道オンステージ!】
頭に装着するのではなく、手を突っ込んで盾のように前方に転回し、回転させて攻撃をそらす。
しかし――なんていうパワーだ!?
「うぐッ!?」
「す、英!?」
「――大丈夫、なんとか無力化できないかやってみる」
「で、でも相手は箒ちゃんなんだよ!?」
「それでも――今の箒ちゃんはどこかおかしい!!」
頭の中に嫌な予感が沸々と湧いてくるんだ。
ここで彼女を止めなければいけない。そんな、予感が――だけど箒ちゃんに刃を向けられるかと言うとそういうわけじゃなくて……
「束はジャバウォックをつかえ……IS同士のほうが箒ちゃんも怪我をしない可能性が高い」
「分かっているよ!! でも、私に箒ちゃんは――」
「いいか! 束が白騎士事件を起こした段階で、これは起こりうることだった!! 今でこそ箒ちゃんは暴走しているけど、正義感の強い子だ……なら、束の作ったISで――」
「聞きたくない!! それだけは、聞きたくないよ!!」
――ッ! 今は口論している場合じゃない。でも、言わなければいけない。束が最後まで覚悟できないものがあるとしたら箒ちゃん相手に戦えるかどうかってことだ。
僕にとっては束と戦うことと同等――だからこそ止めるために戦う覚悟は必要だ。
「クソッ!! 柳韻さんたちは下がってください!!」
「だ、だが!」
「エネルギーを削り切って止めます」
アローは修理中だし……結構ピンチだけど。束を連れて下がってもらい、エネルギーを削るように立ち回る。何度も攻撃があたり、痛みが走る――ISに対インベスプログラムを組み込んだ影響で、ライダーシステムじゃ分が悪くなったけど――箒ちゃんのどこにこんなパワーが!?
「うぐっ!?」
「邪魔をスルやつも、みんナ、潰ス!!」
「ええい!! この駄々っ子!!」
そして、いくつもの刃が届くその瞬間、一際大きく僕の鎧が発光した。
止めたい。だから、力を貸してくれ――そんな思いにこたえるかのように、その鎧は色を変えていく。赤かった部分は青色に。黒い線は赤くなり、血管のように。
「ハァアアアアアア!!」
「――ぐ、アアアアアアアア!!」
力がぶつかりあう――そして、弾けた。
「アガッ!?」
「――と、トドメ――」
変身が、解除された。ロックシードは外れて――形を変えて? でも考えている暇はなかった。僕の首筋に刃が迫って来て――
ガキンッ、という音と共に刀はクルクルと宙を舞い、箒ちゃんの後方へ落ちた。
「――姉、サン?」
「――――ごめんね」
掌底。立った一撃だがそれで――剣椿は機能を停止した。
「…………ごめん、箒ちゃん」
「た、束――痛ッ!?」
「この、バカ!!」
一瞬だが、何をされたのかわからなかった。頬を、はたかれた?
そして、箒ちゃんを抱えて束は立ち上がり、箒ちゃんをお母さんに預けた後、剣椿を引っ張ってラボの中に入って行ってしまった。
「……ハァ、これは長引くな」
「だ、大丈夫かい?」
「むしろ心が痛い…………僕も短絡的でしたし。本当、すいませんでした」
「いや、いい。箒が無事だったし……大丈夫か、箒?」
「――――う、ううん……あれ? なんで私は道場に?」
「覚えて、いないのかい?」
「? なんの話でしょうか……そうだ、みんなにお茶を…………冷めてしまったでしょうか?」
道場の方を見ると、確かにある……そうか、それで話を聞いちゃって……でも、その後のことは覚えていないのか?
いや、覚えていないならいいけど……どうしたもんかな…………ブラッドオレンジロックシードもこんなになっちゃったし。
「……これ、どうしよう」
色が変わっただけじゃなく、金属で出来た果実みたいになっちゃった。
……これ、しばらくはホオズキも使用できないな。
なんだか問題が一気に増えたけど……本当どうしよう。
そして……その後一カ月近く僕と束は会話することはなかった。
まさかのVSロリ箒。いや、初期段階からこの話は考えていましたが。
そしてブラッドオレンジロックシード使用不可。
これによりジンバーホオズキも使用できなくなりました。
あえて金属果実については何も言いません。
分かる人にはわかるから。
そして英と束はどうなるのか。