見学も中盤に差し掛かって、次の場所へ向かう時の出来事。
気が付いたのはいつだっただろうか? 英がいつの間にかいなくなっていて、私は嫌な予感がしていた。英を探しに行こうと思ったけど、工藤先生が電話で誰かと話していて、行先をいきなり変更した。
「みなさん、しっかりついてきてくださいね」
「どうしたのですか、工藤先生……予定にはない行動をとって」
「――いえ、大丈夫です。私はしっかり、ちゃんと、おちついています」
おかしい。そう思ったけど、なにか言いようのない嫌な予感が駆け巡る。
英を探しに行きたいけど、それをしたら後悔しそうな――そんな、予感。
「田中君、ホテルへ」
「はい、先生」
それだけ言葉を交わすと、地味な彼は――嫌な雰囲気を纏い、ホテルへと向かう。
思わず駆け出そうとすると――工藤先生がその前に立ちはだかる。
「おっと、余計なことはしないで頂きたい……貴女はできれば無傷で捕まえたいのでね」
「――――ッ!?」
この感覚、どこかで? そうおもってドライバーを取り出そうとするが――聞きなれた、何かが開く音と共に、インベスが私たちを取り囲む。
なんで、インベスが!?
「あなたたちは人質です――仮面ライダー冠のね」
「ど、どういうことですか工藤先生!?」
「何かの冗談、ですよね?」
「――私が冗談を言っているように見えるの?」
口調が変わった。そのイントネーション、声、なんで気が付かなかったんだと言うほどに――嫌な覚えがある。ああ、お前らさえいなければ彼女も死ぬことは、なかった。
――――頭が沸騰する。だけど、落ち着かないと。一歩間違えば、彼女の様な犠牲がまた生まれてしまう。
「テメェら……亡国機業」
「ウフフ、ご明察。さすがに分かっちゃうかしら?」
「――――なんでここにいる」
「ここにいるというより、最初からいたってことよ。私たちは、あらゆる場所に潜入しているの」
「そうかよ……」
どうする? いま、この状況でどうにかできるかというと――そういうわけでもない。
結局何もできないまま時間が過ぎていき、英がやってきた。周りのみんなは驚いているけど――無理もない。今から、仮面ライダー冠が来ると聞いてみれば、やってきたのはクラスメイト。彼が仮面ライダーだなんて気がつくわけがない。
だからこそ……さすがだよちーちゃん。スイッチが切り替わったかのように、周りを見渡している。きょろきょろと……って気が付いていないのかよ。
「ち、ちーちゃん?」
「いや英しかいないし……アイツも人質に取られたなら、アイツだけでも逃がしてやらないとな」
「――――バカ」
「は?」
「オーウ、ではやっぱり蜂矢さんがそうなんデスネ」
「……菊池さん、だっけ?」
「ノンノン、アリアと呼んでくだサーイ」
「…………さすが、ヒーローオタク」
「オタクなめんじゃねーデス!」
「え、じゃあそうなの!?」
「でも……なんで」
今は説明できないし、するつもりもない……それに、状況は極めて悪い。っていうか、まだ謝っていないのにこんなトラブルなんて嫌だなぁ……
あーあ、こんなことなら謝れば良かった。心残り多すぎるっていうか……いや、心残りじゃだめだろ。この場を切り抜けて、一言謝ればいいんだ。だから隙を伺え。
「さて、蜂矢君……ここで、死んでもらうわね」
え? 一瞬の間があった。そして、あふれ出るのは――鮮血?
いやそうじゃない。火花と爆発が赤かったためにそう見えただけだ。
でも、私は一瞬で頭のねじが飛んだかのように、前に飛び出していた。
【ペアーエナジーアームズ!】
その一瞬で、インベスたちが動き出したのが見えた。剣をブーメランのように投げて、全てを切り裂く。その隙に、英の下へ――!?
「アガッ!?」
「――せっかくの作戦を台無しにしてくれちゃってさ……おまえむかつくんだよッ!!」
「ウグッ!? お、お前こそ、ふざけた野郎だよ!!」
ドングリアームズはランクも低いってのに、ここまで苦戦するのかッ!?
武器を捨ててしまったから使えるのは拳だけ。予想以上の強さで翻弄されて、押し込まれる。
「ふふふ、後ろがどうなってもいいのかい?」
「――!?」
【ドングリオーレ!】
ハンマーを投げつけようとしてくるが、私はそれを体で受け止める。――痛い。ものすごく痛い。でも、後ろには、通さない!!
もう、あんなのは嫌だよ……世界を変えちゃおうとする自分と仲良くしてくれる人がいるってわかったのに、また失うなんて――絶対に嫌だ。
「ああああああ!?」
「オラッ! オラッ!!」
何かに苛立つように、何度も殴られる。
私は、必死に盾になるけど――――アハハ、英もこんな感じで無茶するんだよね……そうだよね、無茶、しちゃいたくなるよね。
私の視線の先には、銀色の鎧をまとう彼がいた。
◇◇◇◇◇
英がシルバーアームズを纏ったあと、特に状況は動かなかった。再び現れたインベスが生徒たちを人質に取ったのだ。
だからこそ、彼らに危害を加えさせないために英は防戦一方となっている。それは束も同じであり、どんどん体力が削られていっている。
「くそっ! 見ているだけしかできないのかよ!?」
「ど、どうすればいいのよ、私たちは普通の高校生なのよ!?」
慌てふためき、何をすればいいのかわからない。
だけども彼らは考えることをやめなかった。
「――――せめて、この怪物をどうにかできれば」
「っていうか、全部アイツらのせいなんじゃないか?」
「…………」
誰かが、そういった。それもそうだろう。自分たちが危険な目にあっているのは、ある意味では彼らが原因である。
――しかし、その言葉を出したものも、心の奥で骨が引っかかったような違和感が生まれた。
それでいいのか? と。
「私はどうにかしたいデース。私がヒーロー好きなのは、カッコいいだけじゃなくて、誰かを守れる、助けられるからデース」
「アリア……」
「彼は何年も私たちの町を守っていまシタ。それはみんなも知っているデショウ?」
初めて、そのヒーローの名前を聞いたのは中学生の時だった。テレビの中だけじゃない、本当のヒーロー。はじめはただの都市伝説だと思っていた。だけど、みんな一度はその姿を見ている。本当に誰かのために戦っていた彼の姿を。
「私が最初に見たのは中学二年生のときデース。こんな私ですからみんなになじめませんデシタ。そんなとき、町にコウモリみたいなインベス現れたネ」
それは英が最初にコウモリインベスと戦ったときのことだ。まだ、何が起こっているのかよくわからなくて、変身したばかりのこと。
「その時に、私、死ぬかと思ったヨ……だけど、彼にかばわれたから今も生きているネ。あの時のことは一生忘れない。彼に、今私ができることがあるなら何でもスル。それに……冠って最初に呼んだの私ヨ」
「アリア……あんたって本当、なんて言えばいいのか……でも、わかっているわよ」
「ああ、そうだよな……俺も妹助けてもらったことあるし」
「なんだかんだで、ここにいるみんな……いえ、もっと多くの人々が彼に助けられてきました」
英にはその自覚は無いだろう。実のところ、自分を卑下する面があるため都市伝説などに悪い印象しかないのだが……それは違う。
彼が戦い始めたのは中学二年。そのころから積み上げられてきたものは、裏切らない。今までの彼の戦いが、ここに身を結んだ。
「それじゃあ、こいつを届けてやらないとな」
「それは……なんだ?」
「あれ? 織斑さんも知らない? なんか蜂矢が大切に持っていたんだけど。我毛先生は?」
「うーん……よくわからないけど、秘密兵器とか?」
中沢の手にあるのは、金属の果実。ドリノコで切られたときに、これがあったからこそ英は助かったのだ。しかし、その際にはじかれたため飛んで行ってしまい、中沢が拾ったのだが。
「むしろ邪魔になるのでは……」
「あの剣でも傷一つついていないし、すごい代物だと思うけど?」
「でも……どうやって? 怪物をどうにかしないと……」
「うーん?」
「どうしたの、篝火さん」
「いやなんか忘れているような……そうだ、対インベス用のプログラムを見たことあるんだけどさ、インベスって内部のエネルギーを失うと消滅するらしいんだよ」
「それがどうしたのだ……私たちにはどうすることもできないんだぞ?」
「いや、織斑……お前の零落白夜ならいけるんじゃないのか? 一応、インベスのエネルギーパターンは最初からインストールされているから余計な手間いらないし、最悪剣だけでも出せば」
「――――なるほど、確かに行けるかもしれないが……失敗したら、危険だぞ?」
「あほ。倉持の作った暮桜に不可能はない。だから、やれ」
「……そうだな、ありがとう」
「うるせぇよ……一つ貸しってことでいいか?」
「ふふふ、それはあの二人にでもつけておいてくれ。お前のアイデアで切り抜けられるとな」
「避難は先生に任せて、これでも修羅場はくぐっているから。あと、あのベルトの南京錠みたいのが外れると変身が解けるの。だから――」
彼女は、この場において一般人でありながらライダーたちの弱点なども知る人物である。だからこそ、策を持っていた。
「わかりました……アイツらを助けたら、女子は逃げろよ」
「ふっふふ。そうはイキマセン。この菊池アリア、最後まで見届けます」
「……勝手にしろ」
そして、子供たちの反撃が始まる。
頭を伏せて、千冬が全力の一撃を決められるように。
「悪いが――私の親友たちを助けるためだ。覚悟してもらおう」
一閃。それだけで、全てのインベスは消滅した。
◇◇◇◇◇
「な、なに!?」
何が起きたのかわからなかった。ただ、まばゆい閃光と共にインベスたちが消え去ったのだけが見えた。そして、そこからは体が勝手に動いていた。
「はあああああああああ!!」
「――ウグッ!? ちょ、ちょうしに!?」
ヒュッという音と共に何かがブラーボの頭に直撃し、上に上がる。
「ああ!? 失敗したッ!?」
な、中沢? だけど、チャンス!!
腕をつかみ、背負い投げるように――
「ドリャァアア!!」
「――アガッ!?」
バキリッ! っという音と共にグリドンが飛んでいき、変身が解除される。
ドライバーは火花が散っていて、使い物にならないだろう。
「女の子を踏みつけるなんてサイテーデス!!」
「あ、アリア?」
束が、倒れているけど……菊池さんに起こされている――一応、あっちは大丈夫そうだけど……っていうか、みんな助かったなら逃げろよ――なんで、だれも逃げていないんだよ。
「なんだかんだで、蜂矢君には助けられているし?」
「それに、仮面ライダーにもな」
「ちゃんと覚えているからね、私たちのために戦っていたヒーローのこと」
「――――」
なんだろう、この気持ちは。胸があったかいような、もっと先へ進めるような――
その時だった、重い空気が現れたのは。
「――――ッ!!」
風が、吹き荒れた。そして、周りのみんなは飛ばされて――あたりには僕と、謎の怪物だけが残された。
その体は浅黒く、荒々しい。腕は肥大で、ゴリラのようだ。体中は鎧の様な外骨格……インベスであるように見えるが、こんな重々しい雰囲気は初めてだ。
「……英、大丈夫?」
「ああ……束は?」
「えへへ、平気。それよりも、こいついったい?」
喧嘩していたような気もするけど、そんなことはどうでもいいとばかりに僕たちは謎の敵の分析をする。インベスであるように見えるが――
「――なんであんたがここにいるのよ、須郷」
「え――」
す、須郷、だって? でも、アイツは――いや、死んではいないとは思っていたけど……これって、どういう?
「……言ったはずだ、こいつを倒すのは俺だと。お前はさっさと、その男を連れて本部に帰れ」
「――――これは、私たちの任務よ。おとなしく引き下がれるとでも――ッ!?」
「二度は言わん。帰れ」
それだけ言うと、猛と思しき怪人の言うことを聞いた二人は素直に帰って行った。でも、なんで……立場が逆転しているんだ?
「――久しいな、蜂矢英」
「須郷、猛だよな? その姿はいったい」
「オーバーロード。そう呼んでいる……ここまで来るのには苦労したが、それも今日までだ。お前をここで倒し、決着をつける!」
「――英、行くよ」
「ああ、わかっている」
この圧力、けた外れだ……おそらく今まで戦ったどのインベスよりも強い。
二人がかりで倒せるかどうか――――だけど、絶望はそこで終らなかった。
「いやいや、俺がやりたいのは――一対一の決闘なんだ。今度は邪魔させない。だから、お前にはこいつの相手をしてもらおう」
パチリと、指を鳴らしたその時――海が盛り上がった。そして、そこから現れたのは巨竜。
いや、この姿を僕たちは知っている。アレは、アレは――!?
「れ、レヴィインベス!?」
「さあ……決闘だ、蜂矢英!!」
菊池アリアは、重要なキーパーソンとして考えられたキャラでした。
英の過去を今に繋ぐということで。
そして、ついに須郷はオーバーロードに。
イメージは黒いガメル。