疲れが溜まっているのは当然として……目が覚めたころには結構日が高く登っているのが見えた。部屋の中を見回しても……他のみんなも眠っているあたり、結構疲れていたんだろう。
怪我はなかったみたいだけど……肌で感じてわかる、あの威圧感。オーバーロードってのが周囲に放つ力だけでも結構疲労感がある。
「……トイレいっとこ」
とりあえずトイレで用を済ませてから、人目につかないところに移動する。取り出したのは、携帯端末……さすがに今回のことを詳しく説明するのには時間がかかるし、修学旅行のこととか、情報封鎖とかもあるし……もう慣れた番号をプッシュして電話に出るのを待つ……
『もしもし』
「ああ、楯無さん……蜂矢です」
『分かっているが、今は大丈夫なのか?』
「ええ。さすがに皆眠っています」
『だろうな……とりあえず情報封鎖の方は大丈夫だ。あと、修学旅行は大丈夫。レヴィインベスのこともあるし飛行機などは今日は軒並みストップしているから』
「ああ……たぶん今日は休息って扱いで、一日延長する形ですかね」
『まあみんなに迷惑をかけたくない気持ちもわかるが……どうするんだい? さすがに、もう巻き込まないとか言っていられる状況じゃないと思うが』
「…………たぶん、まだ数年は時間があります」
『どういうことだ?』
かいつまんでマルスについての説明と、考察を述べる。
まだ完全ではないことと、そのために各地に散らばった何かを探していること。そして、そのうち二つは既に壊したこと。
「ですから、アイツが完全復活かそれに近しいことにならない限りは表立った行動はしないかと……案外逆上する性格ですし、それになんだかボスっぽくないんですよね」
『いいや、そういう奴に限って危険なんだよ……下手に力を持った小悪党ほど怖いものはない』
「それはそうかもしれませんが……なんていうか、万全の体勢を整えないと出てこれないような奴にも見えるっていうか――そう、臆病者みたいな」
『……ふむ、たしかに、奴らは影に潜むし…………マルスと言う奴がボスになってからはさらに顕著になった』
「ですから……ちょっと計画があるんですよ」
『計画?』
「ええ…………逆転の一手のね。まああと必要なのは人材ですかね」
概要だけでもかなり驚かれたし、人材だけってことはないだろうとも言われたけど。
『君たちはなんてとんでもないことを…………だが、その仮説が正しいなら確かにそこ以上に安全な場所もないだろう……世界に喧嘩を売るレベルだが』
「あ、あはは……本当に申し訳ありません。ですけど、それしかないんですよ。それに、僕たちの卒業のすぐ後に実行できる算段です。荷物も移しましたし」
『そうか……なら、何も言わないが…………更識からは誰か行かせた方がいいか?』
「いえ更識家は今まで通りの方がいいです……むしろ、IS委員会や国会などに潜んだネズミの方をお願いします」
『わかった……それで、オーバーロードとはいったいなんなんだ?』
「おそらくは自我を失わずにインベス化した生物。しかも高度な知能と力を有する存在。その上、今までのインベスの比じゃない戦闘能力や特殊能力を持っているでしょう……最低でも4体、他にもまだいる可能性があるのが……」
『今までの武装で対処は?』
「無理。新しく手に入れたノロシアームズでも倒せていませんでしたし……少なくともレヴィインベスよりは厄介でしょう」
『ハァ……頭痛の種がまた一つ』
「まあ向こうがいきなり行動を起こせない理由でもあるんでしょうけど……どうしたものかなぁ」
手っ取り早く相手の本拠地がわかれば苦労はしないんだけど……いや、わかったところで何か対策されているだろうし無駄か。
今僕らにできることは準備を進めることぐらいか。
『ところで、ノロシロックシードについては何かわかったのかい?』
「いえ詳しいことは帰って調べないことには……ただエナジーロックシード以上のエネルギー数値だと思います……まあドライバーのオーバーホールもしないといけませんし、しばらくは解析とかの日々が続きます」
『そうか……じゃあ詳しい報告はまた後日頼むよ』
「わかりました……それでは」
通話が切れ、機械の無機質な音が鳴り響く。
…………うーん、ってことは今日は一日寝るか。
「そんなわけにはいかないでしょー」
「うぼあっ!? って、先生?」
「ええそうよ……あのオカマのせいで、君たちの臨時担任任された恵ちゃんよー」
「えっと、お疲れ様?」
「――フンッ!」
「あいたっ!? いきなり殴らないで――先生?」
「――ッ!? なんていう体の硬さしてんのよッ!!」
「え? そんなに硬いかな……普通に握れますよ」
「いやいや……ほら、筋肉とか皮膚とか普通に硬いって」
「でも僕が触っても……普通に」
「そりゃ自分でやっているから……人間やめてないわよね?」
「いやいやいやいや、平気ですって。普通に昨日もご飯食べていたじゃないですか」
「それだけで理由になるー?」
「……そういえば、なんでそれが理由になるって思ったんだろう」
自分でもよくわからない。
まあ気にしても仕方がないか……
「それで、何か用ですか?」
「ああ、あのオカマのことどう説明すればいいのかなぁって」
「政府から学校に連絡が行っていますよ。潜入していたスパイとかテロリストとか。田中も含めて。ですので、事後処理がめんどくさいだけで……ああそうか」
今日一日、事後処理があるんか……
束に……いやアイツは怪我しているか。
僕はノロシロックシードの力なのか治ってはいるけど、痛みは引いていない。
「うーん、怪我の治療って言うより……何かが引き上げられたことで結果的に怪我が治ったような気もする」
とりあえず町の被害状況やらを調べて報告しておかないと……あとは各方面に連絡かぁ…………ああ、憂鬱。
◇◇◇◇◇
「――――!!」
「鬼気迫る感じで食べているな……大丈夫なのか蜂矢?」
「すまん! これから国連とかに直で連絡とらないとマズイ!」
「うわぁ……聞きたくなかったわぁ…………」
現在昼食だが、テーブルは男女別。そのため近くに座っている中沢君が話しかけています。
「あ、だれか千冬に束を押さえつけておいてって頼んでくれ。あいつ骨折れているのに無茶して動こうとするだろうから」
「うん、君は骨粉々じゃなかった?」
「なんか治った」
「もはや何も言うまい……」
急いで食べ終えて、用意した部屋でパソコンと形態端末をつないで国連の臨時会議に繋ぐ。
画面にはお偉いさん方が大勢……憂鬱である。
「えー蜂矢です」
『……今回の事態、君はどう責任を取るつもりなのかね?』
言うと思ったぁ……っていうか、いきなりそれかよ。
「責任と、言いますと?」
『ミコノス周辺の被害は甚大。しかも、一般人まで巻き込みおって』
『第一、君みたいな子供にこの問題を任せること自体私は反対なんだ!』
『いったいいくらほどの賠償が――確かに君の功績は認めよう。だがな、これではマイナスになるばかりではないか』
……利益云々の問題ではないんだが。っていうか、そういうこと言っていると、結局滅ぶだけだと思うんだけど……利益優先の考えではこの先、厳しい。
偉い人たちもわかってくれるかなとは思ったけど……ダメだこりゃ。
「……そうですか、しかし…………彼ら相手には各国が利益よりも優先して協力しあうことの方が重要なのではないですか?」
『話をすり替えるな! 今回の件は、被害に対しての賠償金や、修繕費、我らがこうむった打撃に対して君はどう責任を取るつもりなのかと言うことだ!!』
「……」
うーん、この手札はできれば使いたくなかったんだけど……
「レヴィインベスはなんで……観測地であるバミューダを移動していたのに、我々は把握できなかったんでしょうね? 僕が対処できたから良かったものの……そうでなければ、もっと深刻な被害がもたらされていました。さて、何故誰にも知られずにレヴィインベスがこの国にやってこれたんですか? ……ねえ?」
『――――ッ』
会議の雰囲気は一気に、悪くなる。しかしそれ以上に――その中で生まれる疑心暗鬼。そして、責任の所在の位置が揺れ動いた。
「先に報告した通り、マルスの力の一端を破壊したことで敵の戦力にも打撃を与えました。そして、オーバーロードの情報と、レヴィインベスの撃破。十分すぎる戦果だと思います……そして、一つだけ言わせてもらいましょう――――そうやって利益を求めるなら、絞めているのは自分の首だぞ」
そして、会議は終わった……正直やり過ぎたかと思うが…………まあ、今頃向こうは大変だろうな。
レヴィインベスが定点カメラに細工されたことで移動に気づいていないとか、出来すぎだろ……ありゃ誰かが手引きしたな。
利益優先なのか、自分の国を助けると言われたのかそれとも、元々お仲間なのか。
「まあそこら辺はどうでもいいか。あー嫌なんだよな、こういうの……」
部屋にもどり、ベッドに倒れこむ……あー、眠い。
意識がだんだんと落ちていく中…………夢を見た。
よくわからない夢だったけど――――鍵のようなもが見えたのだけは覚えている。
◇◇◇◇◇
その後は修学旅行の続きが進むだけだった。遺跡を回ったり、みんなでワイワイ騒ぐのは楽しかった。束に肩を貸しながら。
そんな楽しい時間もあっという間に過ぎて行って、今は飛行機の中……
「……英」
「どうしたんだ?」
「ううん、なんでもない」
「そうか……」
束と隣の席にされたのには、みんなが色々と画策したんだろうけど……今日ぐらいはいいか。まあ、みんな疲れて眠っているけど。
しかし、本当色々あったわけで……でも今はこの手にあるぬくもりだけがあればいいかななんて思うんだ。
「あと少しだけ、それでも楽しい日が続けばいいな……」
「うん。もう高校の卒業まで一年――計画の実行まで一年切ったんだね」
「ああ……スレイプニル計画のな」
極秘プロジェクトだし、参加するメンバーは僕が直接会って選定しているし、色々と大変だけど……それでも、これがうまくいけば状況は改善されると信じている。
必要な技術やらスタッフやら色々と集めないといけないものもあるし……すでに、世界樹の苗木――結構成長して自家用車レベルの大きさだけど――も移して準備おわったし……あとは必要なのはなんだろう。
「最新技術をこれでもかとつぎ込んだけど、名目は実験施設なんだよね?」
「ああ……まあそうでもしないと言い訳ができないって言うか……一応実験施設ではあるし、普通にそっち方面でも運用可能だよ。そうしないと、僕らも困るし」
「まあそうか……ISコアの方はイイとして、あとはスケジュールとかマップの調整だね」
「そうだなぁ……帰ってからはオーバーホールもあるし、エナジーロックシードも補充しないと……レモンエナジー以外が使えないし」
「……無茶し過ぎ」
「ごめん……あ、束――ほい」
「――これってホオズキエナジー」
「ゲネシスドライバーなら普通に使えるからな。ゲネシスコアも壊れたから、修理しないといけないけどレモンエナジーはいいとして……ブラッドオレンジのなくなった僕じゃそれはもう意味ないから」
「でもいいの?」
「ああ……何度も僕の命を救ったロックシードだからね。ご利益はあるかもよ?」
「むしろ妖刀みたいで呪われそう」
「おい」
そんな感じで、長い空の旅の後懐かしのわが家へと向かう。まずは学校に集まって解散の挨拶やらがあるわけだけど――校長、話長い。
結局今回の騒動を詳しく知っているのはクラスメイト達と先生だけで、他のみんなは工藤烏龍と田中太郎が事件を起こしてみたいな感じの話しか知らない。
…………ようやく解放されたころには、身体がくたくたになっていた。
「あーようやく終わった」
「相変わらず長いんだよあのハゲ」
「こら、校長にそういうものではないぞ――それにいい話だったではないか」
「「え」」
「おい。どういう反応だそれは」
「いや……話がループしている上に、いいこと言ったぞみたいな自己満足だったじゃないか」
「ちーちゃん、いい病院紹介するよ」
「お前ら結局それかぁああああああ!?」
そんな風に千冬をいじったのち、僕は我が家へと向かったわけだが――なんだか騒がしい。
なんかパトカーとか色々いるんだけど……どういうこと?
「えっと、家に帰りたいんですけど――って僕の家の前?」
「あ、この家の方ですか? 失礼ですが他に家族は……」
「一人暮らしです。それで家に帰りたいんですけど何が――へ?」
「うわぁ」
「……これはヒドイな」
僕の家は――――いや、もう家とは呼べるようなものではなかった。
すでに大事なものは計画のために運び出していたから良かったが……もはや人の住める場所ではなかった。
蜘蛛の巣の様な糸が屋根を突き破り飛び出している。もはや糸ではなく巨大なワイヤーである。
そして、瓦礫のようにボロボロで――――ああ、そういえばオーバーロードに蜘蛛みたいな奴がいたな。
「束、千冬……ちょっとカチコミかけてくる」
「ダメぇえええええええええええええええええええええ!!」
「落ち着けええええええええええええええええええ!!」
「だって、だって――うう」
「ほらほら、よーしよーし」
「そりゃ泣き出すか……とりあえず、どうする?」
「しばらく私の家に泊めるのも……どうしようか」
「ちくしょう、ちくしょう……」
思い出が残っていた。他にもいろいろ、ここでいろいろあった……
――――あの蜘蛛だけは絶対に潰す。
蜘蛛女、一体何者なんだ……たぶんわかった人はいると思う。
分からない人も安心、次回バラします。
英は家なき子となりました。ある意味一番のピンチだな……