ヘルヘイム、その世界でのどこかに存在する亡国機業の本拠地――通称、ポイントゼロ。そこで彼、須郷猛が闘いの傷をいやしていた。
「……クソッ!!」
苛立ち、悔しさ、嫉妬心、怒り、様々な感情が彼の中を渦巻いている。
そして何よりも許せないのは――自分だ。
「――ああ、そうだ…………自分から無様なマネして、許せるわけがないよな」
結局自分は弱い。だから――次は、次こそは……
ボロボロになった服を着替えて体に果実から製作された薬を塗る。普通の人間ならば猛毒だが、オーバーロードとなった猛だからこそそれは薬になる。
いまは人の姿であるが、その体はもう人ではない。
オーバーロード――果実の力に呑まれるのではなく、自らが果実の力を呑んだ者たち、その総称である。
「…………そこにいるのは誰だ」
薬も塗り終わり、最近では習慣となったイメージトレーニングを行おうと思っていた矢先……だれかが自室に侵入したことに気が付いた。
ダクトの中でも通ってきたか? そうおもって光弾をその手に生み出したのだが、侵入者は慌てたような声を上げる。
「タンマタンマ! わっちでありんすよ」
「……ミランダか。その珍妙なしゃべり方はどうにかならないのか?」
「ふむ? こういうのが男心にくるというのはデマでありんすか?」
「…………お前が言うと犯罪に見えるんだよ」
ミランダと呼ばれた女性は、成人しているようには見えなかった。それでいて、口にくわえたたばこが違和感しか生んでいない。
とても小柄な体型、その割には少し大きい胸部がその年齢をより不詳にさせている。
「ふむ、わっちは元々一人称なのだが……語尾についてはたまに使って行こう」
「そうかよ……」
「それで、詳しい話を聞きたいんだが――カチドキアームズはどれほどのものかね?」
「――カチドキ?」
「おや? 写真で見た限り、色違いのカチドキアームズだと思ったのだが……違うのか?」
「いやノロシアームズとか言っていたが……何の話だ?」
「むむ……」
ミランダは外見こそ子供だが、その実亡国機業でも優秀な研究員である。須郷が来てからは彼の専属みたいな仕事もしており、彼のドライバーやロックシードのメンテナンスなどは彼女が行っている。
彼女は顎に手を当てて、いくつか考えを頭に浮かべて予想をしていくが……
「いや、やはり知らないな。カチドキの亜種だとは思うのだが……蜂矢博士――ああ父の方だ――が作ったのだと思うが……エナジー同様秘密裏に製作したのだろうか? いや、カチドキは元々案にあったし、うむむ」
「そういうのはよそでやってくれ……」
「そうかね……わっちとしては実際に戦った君の意見がききたいんでありんす」
「……そうだな、俺も一つ話がある」
「なんだね? 先にどうぞ」
「…………オーバーロードになれば果実を操る能力を得られる。ならば――果実からロックシードを自在に精製できるか?」
「ふむ――面白いな。だが、それは無理だな。いやまてよ? ドライバーを介すればいけるか? いやいや、面白いことを考える――そうだ。ドライバーを介してならば可能性はあるやもしれんぞえ」
「そうか……なら――」
猛はその腰にドライバーを装着し、手を突き出し――そこにツタが集まってゆく。そしてそこに生まれるのは青色の花。
棘を持ち、その色は自然界には決して誕生しない奇跡の象徴――青き薔薇。
それがドライバーの力を借りて姿を変えていく――機械的で、無機質でありながら強大な力を内包したものへと。
「――――驚いた。まさか一度で成功させるとは……それは?」
「まだ銘はない。だが、確実に俺の力となるものだ」
おもむろに立ち上がり、部屋の外へと行く。その力を試すために。
「わっちも行こう。その新しい力、興味を抱いたよ」
「そうか……」
◇◇◇◇◇
暴虐と破壊。その渦が吹き荒れた。ただ、それだけしか思い浮かべられなかったことにミランダは驚愕した。想像以上のパワー……
最初はロックビークルかと思っていたのだが――まさかあのような使い方をするとは。
「ふふふ、面白いよ……だからわっちは君を選んだんだ」
「――まだ足りない。まだうまく扱えていないのか?」
猛にとってはまだこれはスタートを切ったばかりの物。まだまだ先がある。
再び構えようとしたのだが――どこからか下種な笑い声が聞こえてくる。
「オヤオヤオヤオヤァ? でかいこと言っていた割に、あっさり負けたお坊ちゃんがここにいまちゅよー? ギャハハハハハ!!」
「……うるさいぞ、オータム」
オータム。亡国機業の構成員であり――そして、須郷猛の同類。
「ハァ? テメェ……どっちが上だかわかっているのかよ」
「さあな。別にお前なんか眼中にない」
「――粋がってんじゃねぇぞガキィ!!」
その腕が変化し、長いシルエットになる。そこから飛び出すのは――糸だ。それもただの糸ではなく、硬質で太く、それだけでもはや兵器の域へと到達したもの。
オータム、彼女もまたインベスを超えてオーバーロードと化した存在だ。
そしてその糸の速さはオーバーロードであっても捉えるのは困難、であるはずだった。
「なっ!?」
ガキンッという音とともに弾かれる糸。それをなしたのが彼女が格下と思っていた目の前の男であるのだから、彼女はその思考をフリーズさせる。
そして、その頭上に影が差す。
青色の薔薇を模した巨大なハンマー……その銘は――
「ブルーローズブレイカー!!」
「――ア」
命を刈り取る一撃が振り下ろされる。その一瞬の間の前だった。炎が、躍り出る。
「はいはい、喧嘩はそこまでよ――まったく、あなたたちは……オータム、反省しなさい」
「スコールか……仕方がない。お前の顔に免じてここは引こう」
「うぐっ……なんで私だけそんなこと言われるんだよスコール!!」
スコール――彼女もまた、亡国機業の一員であり……肉体的なハンデを持っている女性だった。だが、今や彼女にそれは関係ない。
彼女もまた――オーバーロードの一人である。炎を操りし美女、それが彼女だ。
「挑発したうえに、先に手を出したのも貴女よ……反省なさい」
「――わかったよ」
「それに、もう一つ――――蜂矢英の家を壊したのも貴女ね」
「ああ。なんだ? 褒めてくれるのか――ッ!?」
炎の拳が、彼女を弾き飛ばして意識を刈り取る。命までは奪わなかったが、その一撃は――下級とはいえ――オーバーロードの意識すらも刈り取るのだ。
そのえげつない一撃に、流石の猛も引いている。
「容赦ないな……」
「まったく、あの子は直情的なのが……とんでもないことをしてくれたわね。いざというときに周辺住民を盾にとれる理由になるのに、まったく」
「ふん……その必要はない。次は俺が奴の息の根を必ず止める」
「あまり期待しないでおくわね……いくらオーバーロードとなれば他の構成員より立場が上になれるとはいえ、あまり無茶はしない方が良いわよ」
「わかっているさ……そこでコイツのデータを必死にとっている奴もいるしな」
「あらミランダったら相変わらずねぇ……研究に没頭すると周りが見えなくなるのは」
「……さて、俺はもう少しトレーニングを積む――あんたには感謝しているんだ。死の淵から引き揚げられたおかげで、俺はまた強くなった」
筋肉が断裂し、超再生して増えるように――彼は死に近づいてなお立ち上がった。それが、彼に今まで以上の力を与えたのだ。
いままでのオーバーロードになり立ての姿ではなく、その一歩上へ。スコールがオータムを自分の手でのしたのは彼女への罰だけではない。
そのままでいれば彼女はこの男に殺されていたからだ。元々オーバーロードになれるだけの才能しかないオータムと、そこからさらに強くなれる猛とではスペックが開きすぎている。
「……それじゃあ私は今回のオータムの失態を報告させてもらうわね――おそらくは触れてはいけないものに触れただろうから」
「絆だとかを大切にするアイツのことだ……その可能性は高い」
「でしょうね……はぁ、憂鬱だわ」
それだけを言い残すと、スコールはオータムを抱きかかえて去っていく。
あとに残されたのは……猛と、パソコンを使ってデータを取り続けているミランダだけだ。
いや……そこで新たな影が現れた。
「シャドウか」
「――ああ、そうだ……大口叩いた割に負けて帰ってきた君に追い返された、ね」
「……デンジャーはともかくお前は負けていただろ」
シャドウ――グリドンの変身者はデンジャー――ブラーボの変身者の名前を出されたときには、何も言い返せないのか悔しそうに唇をかむだけだった。
「なんだよ……君はぼくらが連れてきたのに、いつの間にかぼくらの上司だって? そんなのが認められるわけがないだろッ!!」
「だが事実だ――貴様は俺と同じ位置まで来ることができずに……いや、人間を捨てるのも怖く、戦うには臆病すぎるだけだろ」
「テメェ!!」
【ドングリ!】
その手に握られたのはお世辞にはランクが高いと言えないロックシード。
それに対して猛は……
「おい、なんで人の姿になるんだよ」
「お前ごとき、これで十分だ」
「――――なめるなぁあああああああああああああああああああ!!」
即座に変身を完了し、そのハンマーで猛の頭を割ろうと――できなかった。
砕かれた音はした。ただ、それはシャドウからだった。
「あがああああああああああああ!?」
「もう俺は人ではない。人の食べ物は食べれないし、世界の見え方も違う……せめてデンジャーの奴を連れてくるべきだったな。少なくともアイツ相手なら戦いになる」
「クソッ! クソッ!!」
ただのパンチ。それがドングリアームズを砕いたものの正体だ。何も強化されていない、人の姿をした一撃。それだけなのに――自身との力の差を見せつけられてしまう。
「ちくしょう……ちくしょう」
「……」
地面に倒れ、泣きわめくその姿をみて猛が何を思うのか――彼自身、把握はできていないが…………もっと強くなる。日常を捨て、闘争を求め、そして人をやめた。
それ自体に意味はない。だが……これからはそこに意味を求めてもいいだろう。彼に勝つことだけを求めていた時代は終わる。
「――――ハハハ」
考えてみれば簡単なことだ。彼一人だけに勝とうとしたから、幅が狭く、視野が狭くなった。
ならば近道は――
「デンジャー、近くにいるんだろう……話がしたい」
「――あら? あなたから呼びつけるなんて珍しいわね」
もはや、その本性を隠そうともしない工藤烏龍――デンジャー。
「それで、何か用かしら?」
「いや……仕事を回してもらいたい。できるだけ、戦いを楽しめそうなやつだ」
「危険度は高いけど――それでもいいのね」
「ああ。むしろ――望むところだ」
受け取ったのは――なるほど、面白い。
……だが、一つだけ聞かねばいかないことがある。
「亡国機業の目的――いや、ボスの目的だが……世界を一つにとはどういう意味だ?」
「……それ、誰に聞いたの?」
「この体は耳が良いんだ……どこからでも聞こえるさ」
「そう……そのままの意味よ。二つの世界を一つに戻す。それが、首領のお考えよ」
「……そうか」
それだけ言い残すと、猛は座り込んでいたミランダを持ち上げると肩にのせる。
「おや? どこかに行くのかい?」
「仕事だ……生のデータを取らせてやるぞ」
「いいね…………それで、どこへ行くんだい?」
「――ドイツだ」
◇◇◇◇◇
ドイツの某所、そこで須郷は全てを薙ぎ払っていた。
「フハハハハハ!! 弱い! 弱すぎるぞッ!! ドイツのアドヴァンスドがこの程度なのかッ!!」
「しっかり悪役も板についてきて……しかしドイツも非道だねェ、こんないたいけな少女たちが人造人間とは――しかも戦闘用の」
「それについてはどうでもいい……相手の油断を誘うためかもしれんし、他の理由などいくらでも思いつく」
「だろうけどね……あった」
ミランダが取り出したのは、ISコア。この廃墟――もとはドイツの政府が裏で進めている危険な実験や研究を専門としている研究所だった。
だが、そこにいたものは全て猛が薙ぎ払った。ヘルヘイムの果実を使用した人口インベス、サイボーグ化を進め過ぎて、もはや人とは呼べない怪物になったもの、そして、獣の遺伝子を足したり、部位を接合して作られたキメラのような存在まで――その全てを無に帰した。
猛の重力制御能力を増幅し、加工して放つことの出来るハンマー……ブルーローズブレイカーで。
「つまらん……む」
「どうしたんだい?」
「アドヴァンスドの胎児……使い物になるか?」
「育てても割に合いそうにないなぁ…………」
「いや――――」
猛が何かを彼女に伝える、それはマッドの部類であるミランダでも驚愕することだった。
「――――君、それは人道に反しているけど……自分の主義はどうしたんだい?」
「そんなもの捨てた。もはや外道になっても構わない。すでに人を捨てた俺だ…………そんなもの強くなるのに邪魔なだけだ、なら小悪党と言われようが、臆病者と言われようが使えるものはすべて使う。もちろん、お前もだ」
「うふふ、わっちへのプロポーズでありんすか?」
「勝手に解釈しろ……命の保証はしないが」
「いいよ……面白い。ならばわっちも外道、いや畜生にでもなろう。ああ楽しみだなぁ」
ここに、悪魔の計画が始動した。
彼らはいったい何を考えているのか――それはまだ誰にも分らない。
ただ二人の悪魔がここに目覚めた、それだけは確かだ。
主人公っぽいけど、彼は完全に悪役です。
作者的にも彼らが何を考えているのかは決めてありますけど――かなり大多数の人が胸糞悪くなります。っていうか作者でもここまでやられたらいやだなぁって思う。
実際に使うのは先ですが、結構な人にやめろとか言われそう。