仮面ライダー冠 インフィニット・ライジング   作:アドゥラ

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卒業式。そして新たなステージへ


EP86.明日へ飛び立つ

 いくつもの季節が過ぎた。最初の変身からもう5年近くが経つんだ。そう思うと感慨深いものがあるわけで、今日この日を無事に迎えられたことも良かったと思う。

 みんなが涙を流し、抱き合い、別れを惜しむ。僕や束、千冬でさえも涙腺が弱くなってしまう――今日、僕らはここを卒業する。

 そしてそれぞれの道を歩むんだ。

 この教室ももう見納め――

 

「なんだか、あっという間のようで、長かったような……そんな感じだな」

「だね……色々あったね」

 

 卒業式の会場である、体育館までゆっくりと歩いていく。校舎の中のいろんな風景が、色々な記憶を呼び覚ます。くだらないことから、楽しかったこと、悲しかったこと、大切なこと、忘れちゃいけないこと、そして――もう二度と出会えない人のこと。

 みんな、それぞれの思いを胸に歩んでいる。その動きはばらばらだけど――しっかりとしている。

 

「それじゃあ――最後の舞台だ、華々しく行こうぜ?」

 

 厳粛に進む卒業式。いつものとおり校長の話は長いけど――今日ばかりは、みんなまじめに聞いていた。

 

「皆さんが入学した当初、様々な不安がありました。当たり年とも言われたあなたたちは、本当に個性豊かで将来を楽しみにさせると同時に、大きな不安を抱かせる要素を持った人が多かった――実際、忘れてはならない事件もありました。ですが、そんな中でもあなたたちは前に進みました。悲しみを日々の中で胸に秘めながらも、その日常を謳歌しました。それでも、私たちが忘れてはいけないのは事実であります。多くのことを語りません、ただ一つの黙祷を――黙祷!」

 

 みんなが目を閉じ、祈りをささげる。願わくば、ここに一緒にいてほしかった彼女に対して。本当なら、一緒に卒業するはずだった少女に対して。

 

「――それでは卒業式を始めます」

 

 その後は、おおむねどの学校でも同じようなことが行われているのではないだろうか。主賓の挨拶、その他来客など……そして、卒業証書が配られる。

 一人一人壇上へ上がり、校長から手渡たされる……何人も泣き出した。辛いわけじゃない。でも、涙があふれてくるのだろう。僕や束も受け取り、最後の一人が受け取り終わったとき、言いようのない静寂がその場を支配して――すぐに切り替わった。そう、教師たちからの話があるからだ。

 学年主任は言った「誇れる自分になれ」と激励の言葉を。

 他のクラスの担任たちは、「まだスタートラインだ」「道のりは長い」などと、気を引き締めろと。

 そして――彼女、我毛恵は……

 

「ただの養護教諭の私が、一時的にですが担任を任されたのは……まあ詳しくは言えないですけど、ある事情があったから。なんだかんだで今年一年楽しかったです。みんなはそれ以上にいろいろあったでしょう……この三年間、色々――それこそ、大変なこと、悲しいこと、楽しいこと…………時間が過ぎるのは早いです。だからこそ、忘れてはいけません。この三年間を」

 

 何の変哲もない始まりから、大事件が起きて――気がついたらたくさんの絆ができていた。

 自分がやっていたことは無駄じゃなかった。だから頑張れる。この三年間は僕にとっても掛け替えのない宝物だ。

 

「手の焼かされる生徒がいました。その子が中学生の時から知っていますが、彼女は成長しました――出会いと別れを繰り返して、人は変わります。周りの人たちとの出会いが、彼女を良い方向へと変えました。自分の仲だけで完結していた彼女は、人のために涙を流せる子になりました。

 信頼できる子がいました。彼女は今は珍しい、古風な子でした。ですが、多くの友人や後輩たちに囲まれる中で、明るい面が表に出るようになり、毎日を楽しく生きています。そして、家族を大切にする子です。

 迷惑をかけて、かけられたりする子がいました。頼りになりますが、一人で無茶ばかりする子です。そんな彼も多くのものを得ました――そして、無茶をしながらも、必ず帰ってくる努力をするようにしました。大切な人のために、自分のために、困っている誰かのために――

 誰かを失う辛さを人一倍味わった彼らが成長して、子供から大人へなる……それだけで、先生は嬉しいです。他にもたくさん、皆さんとの思い出が、いっぱいあって――そんな日々も、今日で終わりだと思うと、涙が、止まりません」

 

 先生の瞳からは涙があふれていて、周りの人も涙を流している。千冬も今日ばかりはこらえることができていない。束も、ポロポロとこぼれている……

 

「たくさんの思い出がありました。特に修学旅行は皆さんの胸に残っていることでしょう。過ぎ去った日々は帰ってきません。その思いを胸に、明日へと進むのです。これで、私の話を終わります」

 

 その後は、緩やかに進む。記念品の授与、校歌合唱など。

 ――そして壇上に上がるのは……

 

「在校生送辞、山田真耶」

 

 小柄で、おとなしい印象のある少女、あの現場の一端を知る少女だった。

 

「私がこの学校に入学したのはある先輩たちがいたからです。IS競技者の国家代表筆頭、そもそもISの開発者、例の怪物対策を確立したという人など、本当にすごい人たちです、ですが、彼らも普段はただの人でした。その人たちの日常を見て、私は――羨ましくなったんです。

 元々クレー射撃などで自分で言うのもなんですが、いい成績を残していて、それを誇るのと同時に……他人を見下していました。でも、彼らは日々を精いっぱい生きて、前に進んで…………私なんか足元にも及びませんでした。正直、天狗になっていたんです」

 

 それは、初めて聞いた独白だった。その言葉は誰に向けたものなのだろうか。僕たちを通して、どこか遠くであり、近くもある――僕ら、卒業生全員だった。

 

「彼らを追いかけてここに入学しました。先輩たちは本当に色々な人たちがいて、私じゃ勝てっこないなんて思いました――でも、先輩が言ってくれたんです。勝てないと思ったら負ける。だったら、勝つ自分をイメージしろ。私にも勝てない相手はいる。だが、あきらめたわけじゃないって」

 

 これは……千冬かな。アイツらしいけど…………

 

「私は、彼らと出会えたことを――彼らの後輩であったことを誇りに思います。素晴らしい経験をできました。誇れる人々と知り合えました。そして、ここに、彼らを送ることができて――幸せです」

 

 人より感情豊かで、涙もろい。そんな彼女が泣かないなんて無理だ。

 その瞳からは涙が零れ落ちて……言葉が小さくなる。それでも、前をむいて――大切な言葉を紡ぐ。

 

「だから、卒業生のみなさん――卒業、おめでとうございます!」

 

 そして部隊から彼女は降りた。まったく、顔をぐちゃぐちゃにして……だったら、こっちもそれに答えないとね。

 周りのみんなは立ち上がった僕に驚いたみたいだけど――そういえば言っていなかったな。束にもいられないように練習したし。

 ただまあ、それも必要ないか……言葉は勝手に出てきてくれそうだ。

 

「卒業生、答辞……蜂矢英」

 

 唖然としているのが見えるけど……まあ内緒にしてスマンとは思う。さて、じゃあ何から話すか……

 

「僕が、この学校に入学してから三年も経ちました。色々なことがありました。先に進み過ぎて、もう背中も見えない人たちもいます……それでも、僕にとってその背中は憧れでした」

 

 笑って逝った人がいました。ただ一人の友達のために、飛び出した。そんな人でした。

 

「その思いは、いつまでもこの胸に残っています。彼女は最期まで笑っていました」

 

 その場に居合わせたけど、彼女自身と僕が会話したことはあまりない。でも、そんな人がいたことを伝える。それが、ここでの最後の仕事だ。

 

「詳しい話を知らなくても、彼女について知らない人はいないでしょう……僕も詳しく語るべきじゃないと思います。ですが、一つだけ――どんな風になろうと、どんな道を行こうと、笑える人生にしろ」

 

 卒業生たち、在校生たち、他にもここにいる全員――その全てへ。

 

「これから先辛いことなんていくらでもある! 悲しいことなんて星の数ほど存在する。嫌なこと、逃げ出したいこと、そんなことなんて塵の数ほどだ! それでも、立ち止まったらそれこそ意味がない!」

 

 今、ここに僕がいられるのは歩みを止めなかったから。逃げ出したいなんて思ったこと、それこそ毎日だ。辛いことなんていっぱいあった。

 背負ってきたものは多すぎるし、失ったモノだって……

 

「それでも辛いなら――頼れ。僕らは一人じゃない」

 

 背中を押してくれる人がいる。

 

「助けてって声が聞こえたなら、絶対に助けに行く!」

 

 僕はあきらめない。

 

「どんな絶望的な状況でも、諦めなければ――道は切り開ける」

 

 自分一人なら無理でも、仲間たちがいれば大丈夫だ。

 大切な人が隣りにいるから、信頼できる人が後ろから支えてくれるから。

 

「一人じゃ無理? 大丈夫だ――人ってのは、分かり難くてもしっかりつながっている」

 

 自分が一人だとか、一人でもいいとか言う人もいるけど……そんなことはない。

 どんな形であれ人はつながっている。そのつながりが広がることで、思いもよらない助けが会ったりもするんだ。だから人ってのは面白い。

 

「たまには無茶をしろ。そしたら、何かが変わる。壁が立ちはだかるなら、ぶっ壊せ。無理なら、よじ登れ。それでも無理なら――そんな壁無視しちまえ」

 

 何も真正面から何とかする必要はない。方法は一つじゃない。

 物事ってのは見方を変えればいくらでも変わってしまう。

 

「自分の考えだけでは足りないなら、知識を借りろ。そしたら、借りを返せ。そうしたらつながりができて、一つ儲かったんだ。それだけで、得しているじゃないか!」

 

 人生は何が作用するかわからない。何気ないことが、思わぬ突破口を切り開く時がある。

 

「結局――――人生、笑って終れるなら、それが一番幸せなんだ」

 

 後悔はしないなんてありえない。

 

「泣きたい時なんて、たくさんあるし――失敗したことだって、何度もある」

 

 僕は結局……失敗の連続だったかもしれない。

 それでも前に進むのをやめてはいない。

 

「人を憎むこともある。人を悲しませることもある――」

 

 束と喧嘩した。箒ちゃんを悲しませた。千冬とぶつかり合った。

 何気ない日常だけじゃなく、世界の裏側で激突したりもした。

 

「でも、それがどうした。最後に笑えれば――それでいい。終わりよければすべてよし。そう言えるために、頑張るんだ」

 

 結局のところ……それに集約される。

 めでたしめでたし、なんて簡単な言葉。でも、それでいいんだ。

 

「人は変わる。いや、人は変われる。それは簡単じゃないかもしれない。でも、できないことじゃない」

 

 束は変わった。多くのつながりを得て在り様が変わった。

 僕はどうだ? 案外、一番変わったのは自分なのかもしれない。

 親がいなくなって戸惑っていて、世界を暗い目で見ていた。でも、変身して――花蓮さんが僕の道を示してくれた。花村さんが、大切なものに気づかせてくれた。束が隣りにいてくれるから、迷うことなく進める。みんながいるから、立ち止まらずに頑張れたんだ。

 

「今日、僕らは卒業します――ですが、これでお別れと言うわけじゃない」

 

 卒業と言う一つの節目は、人間関係のリセットに近い。でも、本当にリセットされるわけじゃない。

 ちゃんと残るものもあるし、お別れなんかじゃない。

 

「だから、困ったことがあれば頼ればいいし、辛いことがあったら相談すればいい――僕らも、たまにはお前らに迷惑をかける――これはその一つ目だ!」

 

 卒業生が全員立ち上がり――天井に向かって球を投げる。それは、天井にぶつかり――弾けた。

 ざわざわと会場が騒がしくなるけど、当然だろう。アレは僕と束が作った改造ペイントボール。弾けて文字が現れるんだけど……しばらくして乾燥したらはがれて落ちてくる。

 

「卒業生全員からの言葉だ! 後片付け、頼んだぜ!」

 

 笑い交じりに怒る声が聞こえるが――言っただろ、最後に笑った方が勝ちだって。

 そうして、卒業生全員で笑って卒業を迎えることができた――最後はやっぱり、笑顔で締めくくりたいから。

 

 ◇◇◇◇◇

 

「まったく、先輩たちは何考えているんですか!」

「あっはっは! ごめんごめん」

「お前らは……まったく」

「千冬もノリノリだっただろ。ここしばらくはボールの製作忙しかったんだぞ。僕は練習もあったし……まあ大分内容変えたけど」

「っていうか束さんにまで内緒だったんだから……」

「でも英さん凄かったぜ!」

 

 神宮寺の研究所近く、僕らはしばらく顔を合わせられるかわからない彼女たちと――別れの挨拶をしていた。

 佐々木先生、我毛さん、真耶ちゃん、千冬、一夏君、他にも何人か来ている。真耶ちゃんだけはこの後起こることの事情を知らないけど――なんだかんだで関わりそうだしバラすことになった。

 

「信二、お前は先行っていてくれ」

「分かったよ……しかし、実際に見ると凄いよなスレイプニル」

「だろ……じゃあみなさん、今までありがとうございました」

「本当君には色々迷惑をかけられたわよ」

「あはは……佐々木先生、本当にありがとうございました」

「どうしたのよ、あらたまっちゃって」

「……僕が、一般人相手に正体を明かしたのは先生が初めてだったんです」

「…………」

「先生が受け入れてくれたから、僕はこうして前を向いています。結局、僕は助けられてばかりでした」

「そんなことないわ……蜂矢君が頑張ったから。だからみんな受け入れてくれたんでしょ……」

 

 そうだな――腰にドライバーを装着し、変身する。

 初めて見た真耶ちゃんは驚いているが――周りのみんなは知っているし、自然体だった。そして、すぐに変身を解除した。

 

「先輩が、仮面ライダーだったんですか!?」

「驚いた?」

「そりゃぁ……でも、考えてみればあの事件の時、他にそれらしい人はいなかったし…………」

「まあよく考えたらわかることなんだよね……すっかり対インベスの専門家って知られているし」

「ほら、普通に受け入れられた」

「ですね……それじゃあ、僕たちは出発します」

 

 研究所、と言っても巨大な倉庫の様なそれの中央に存在する、巨体。スレイプニルに乗り込み――自分の指定席に座る。

 

「エネルギーチェック、完了です」

「コアバイパスの接続も問題ありません」

「全員指定された位置につきました……いつでも出発できますよ」

「英、準備は出来たよ」

「ああ行こう――スレイプニル、発進!!」

 

 屋根が開き、研究所から巨大な船が飛び立つ。

 まるでSFチックな宇宙戦艦……いや、実際にそうなのだ。

 空の向こう、宇宙に飛び立ちそこを拠点とした活動をするために建造されたのがこのスレイプニル。

 複数のISコアを使用し、強力なフィールドと推進力を持ち、内部に居住区域と研究施設を備え、僕たちがすぐさま地上へと降り立つための機材もそろっている。

 

 

 これが、新たなステージの幕開けだ!

 




スレイプニルの正体は宇宙戦艦。動力源にISコアを使用しており、複数人の操縦者やオペレーターを必要とする。戦艦というよりはステーション系の感じですが。
見た目のイメージはアートデッセイ号かなぁ……

ある意味ISに乗ったのであらすじ変更
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