仮面ライダー冠 インフィニット・ライジング   作:アドゥラ

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まるまる一話束さんのお話。


EP90.おとぎの姫

束が目的地に到着したのは、他の二人よりも速かった。位置的に一番近かったからというのが理由だが――後にして思えば、束は誘導されていたとも思える。

 

「あれ? なんにもない……」

 

 あたりには、特にインベスやライダーらしき影は見えない……機械が誤作動でも起こしたのか? そう考えるが、突如として嫌な音があたりに響く。

 ファスナーのような物体が空間を開く。その数は十や二十ではない――大量のインベスがいつの間にか束を取り囲んでいたのだ。わらわらと現れるその光景は、精神衛生上よろしくない。まるで大量の虫が集まっているような光景だ。

 

「うぇ……こりゃぁ厳しいなぁ」

 

 最後に、数人のトルーパーが現れてロックシードを掲げた。おそらく、コントローラーなのだろうが……束にとってはインベスと大差ない。

 どちらにしても倒すべき相手であるし、第一この数では区別する意味もない。

 

「……仕方がない、とっておきを使いますか!」

 

 新作のロックシード、赤い色の果実――一応――の意匠をしたものだった。

 剣をブーメランのように投げて、自分に迫ろうとするインベスを牽制し、ロックシードを取り換える。ランク的には高いのか判別がつかないようなものだが、この状況に向いているのが新しく開発したこのロックシードの性能だ。

 

【トマトエナジー!】

 

「さあ、私を狙う狼さんたち――あいにくと、おばあさんはいないんだ。ここからは私がお前たちを狩る時間だよ」

 

【リキッド! トマトエナジーアームズ!】

 

 オカリナの様な音色と共に展開される赤色の鎧。頭と肩のあたりがつながっており、まるで赤ずきんのようだ。

 元々エプロンドレスのようなライドウェアと言うこともあって、遠目から見たら赤ずきんにしか見えない。手にはバスケットのようなものを持っていて、それが妙に様になっている。

 

「ぶち抜かれたい奴からかかってくればどうかな? 束さんは逃げも隠れもしないからさ!」

 

 その言葉を理解したからなのか、あるいは後ろで聞いていたトルーパーが挑発に乗ったのか、元々聞いちゃいなかったのか、それは定かではないがインベスたちは一斉に束へと駆け出していく。

 マスクでその表情は分からないが――束はにやりと、口元をゆがませる。

 

「それじゃあ――ファイヤー!!」

 

 トマトエナジーアームズの武器、バスケットマトガトリングは見た目こそバスケットにしか見えないが……内部からガトリングがせり出してきてミスマッチ感が増す。

 方針も回転し、銃口から弾が次々と発射されてインベスたちに着弾――炸裂する。赤色のプチトマト型の弾丸が炸裂するその様子は一言で言うならば――グロイ。

 

「あははははははは! どうしたの? 勢いが弱くなっているよ!?」

 

 さすがのインベスたちもドン引きなのか後ずさってしまう。赤色の血液ではないハズなのに血みどろにしか見えない惨劇が生み出されている。しかも、炸裂して赤色の液体を被ったあたりから煙が立ち上り――爆発していく。

 

「アガッ!?」

「グゴガァ!?」

「ジガッ!?」

「ウボワ!?」

「ま、松谷ー!?」

 

 なんかトルーパーの一人に弾が当たって非常に大変なことになっているが、束は気にしていなかった。奴らも殲滅対象である。

 しかし弾は無限と言うわけでもなく、ついにカラカラとむなしい音が響くだけになってしまった。

 

「ありゃ、弾切れ?」

「――!」

「ガアアア!!」

 

 これ幸いとインベスたちは束めがけてとびかかる。されど束もただやられるわけではなく、ひらりひらりと軽やかにステップを踏んで攻撃をかわす。時折、炎の弾などがかすめるが気にも留めずインベスたちから距離を取って――インベスに絶望的な一言を告げた。

 

「ああ、トマトエナジーのスカッシュだけど、リロードなんだよね~」

「「「!?」」」

 

【トマトエナジースカッシュ!】

 

 絶望はまだ、始まったばかりだ。

 

「それじゃあいつまで耐えられるか――実験の時間だよ」

 

 束は英と出会ったことで内面に変化が生まれた。花村花梨との別れで人間的にも成長した。しかし、彼女に存在するマッドな部分は生まれもってのものだ。良識でやってはいけないことなどの線引きはできるようになったが、根本が変わるわけではない。

 故に、彼女はそれはもう素晴らしい笑顔で絶望的な一言を告げた。顔は見えないが。

 

「あはははは!!」

 

 単にトリガーハッピーの気があっただけかもしれないと、オペレーターのみんなが思ったというのは余談である。

 

 ◇◇◇◇◇

 

 そしてあっという間にあたりには死屍累々。束は一人ぽつんと立っていた。

 トルーパーたちはいつの間にか逃げたのか、不完全燃焼である。

 

「ああもう! 捕まえてムーのこと聞き出そうと思ったのに……ハァ、仕方がないグラニを呼び寄せて――ッ!?」

 

 いったん戻ろうと思った、しかし嫌な感覚が束を捕えたのだ。自分の直観に従い跳んだが――それは正解であったらしい。自分が絶っていた場所には大きな顎が生えていた。竜のようであり、どこか機械のようにも思えるが……いや、束にはわかる。あれはISに由来するものだ。

 

「ざーんねん、いけると思ったんだけどなぁ」

「!?」

 

 いきなり背後から声がした。振り向くと、東洋人とも、西洋人ともつかない顔立ちの少女が自分を見つめている。何故? いくらなんでもこんな至近距離に近づかれて気づかないはずがない。

 

「おまえ、一体誰だ」

「つれないわねぇ……一度会っているじゃない」

「知らない。顔も見たことないし、声だって聴いたことない」

 

 そういうと、少女は琥珀色の瞳をウルウルさせて両手を顎に当ててぶりっ子のようなポーズをとる。

 なんだかひどく不快だ。ワザとやってるのではないだろうか。

 

「えーん! そんなひどいわ篠ノ之博士ぇ……ほらぁ、思い出さない? 私たちあんな劇的な出会い方をしているのにぃ」

「ウザったいんだよお前……だから束さんは――」

「――これでもかしら?」

 

 今度こそ、束は絶句した。どこからともなくマントを取り出し、少女はそれに包まれた。その姿は確かに見たことがある。どこで? いや、忘れもしない。ミコノスで戦いが終わった後に現れたオーバーロードの一人。

 声は聞いたことが無いから知らないのも無理はなかったが、その黒マントはたしかにあの時にオーバーロードが来ていたものだ。装飾も、あの時と同じもの。

 

「だけど、だからってお前があの時のオーバーロードだなんて証拠はない。現に、お前は人間にしか見えない」

「目に見えることだけが真実ではないわぁ。それにオーバーロードと言っても元は人間なのよ、こんな風に――切り替えることも可能ってわけ」

「姿が!?」

 

 くるりと一回転した少女は、先ほどの姿と打って変わり――醜い怪物の姿へと変貌した。

 醜悪で、見ているだけで不快になる。須郷は他のインベスより鎧っぽいという感じのイメージが湧いたが、こちらはその逆。全身が生物的で、内臓が外側にあるかのような異質さを感じる。

 

「――ッ!」

「効かないわぁ」

「シールドバリア!?」

 

 トマトの弾丸は、見えざる壁によって阻まれた。バチバチと放電しながら弾かれるその現象は束が世界で一番詳しいだろう。ISのシールドバリア、それもシールド特化のISが起こす現象だ。

 だが、これはどういうことだ? ISを操縦しているものがいるのか? いや、そんな反応は無い。となるとこれはいったい――

 

「行きなさい!」

『GAAAAA!!』

「またその顎ッ!?」

 

 空間にいきなり現れた大顎が自分をかみ砕こうと迫ってくる、とっさにかわすものの――武器にかすめて弾き飛ばされてしまう。

 

「ッ! なら!!」

 

 右手を地面について、ばねのように腕の力で高く飛び上がる。元々の身体能力が高く、エナジーロックシードによって強化された束だからこそ可能な芸当だ。

 ロックシードを取り換えて、手に召喚した武器で一気に切り付ける。

 

【リキッド! マツボックリエナジーアームズ!】

 

 ペアーエナジーではIS相手には分が悪いため、物理攻撃に特化しているマツボックリエナジーアームズに乾燥したのだ。

 ガキンッ! という音と共に弾かれるが――その反動に身を任せて体を回転させ再び切り付ける。

 

『GUG!?』

「へぇ、反動を利用して威力を挙げたんだぁ」

「このぐらいで驚いていたら、まだまだだよ!」

 

 ハンドルを動かして狙いを定める。いくらオーバーロードと言えど顔を狙われたらとっさに防御行動に移るハズ、そう考えた束は狙いを顔に定めた。

 

【マツボックリエナジースカッシュ!】

 

 だが、束は気が付いていなかった――最初から敵の術中にいたなどと。

 

「――――アガッ!?」

 

 何が起こったのか、全くわからなかった。

 気がついたら壁がそこにあった。とてつもなく硬い壁が存在していて、自分がそこに激突したのだ。

 

「な、なんで……」

「オーバーロードってね、一人一人固有の能力を持っているのよぉ……私の能力は幻覚。といっても効果範囲は30メートルが精々なのよぉ……でも、私が最初からいたことに気が付かせないないほど強力なのぉ」

「――アガッ!?」

 

 腹を思いっきり蹴られた。予想以上の力で、束は痛みに悶える。

 くるしい、一体どこで間違えたのか……いや、油断し過ぎたのがいけないんだろう。宇宙に出たことで、一種の達成感みたいなものを味わったせいか、緊張感が解けてしまったのか……今は考える時じゃないと分かっていても自分の思考が塗りつぶされていく。

 

「あはは! ほら! ほら! まだまだよぉ!!」

「あ、アガアアアアアア!?」

 

 顎――ISが束を喰らい、砕こうとしていく。まるでクルミ割り人形だ……自分を砕くために万力の様な力が加わっている。

 声が、悲鳴があふれる。

 

「どうしたのぉ? 助けを呼べばいいじゃない。さあ泣きなさい! 泣きわめきなさい!!」

「う、うぐぅ」

 

 助け? 確かに助けてと叫びたい。でも、束はそれだけは絶対にしない。

 油断した落とし前は自分でキッチリつけなければ意味がない。ISをこんな風に使う奴に負けたくない……直接触れることで束は理解していた。このISが泣いていることに。

 こんな風に使われるのは嫌だ。人を助けるために作られたのに人を殺すための形を与えられたのが嫌だ。内部を徹底的にいじられて、コアも侵食されてもうボロボロだ。

 

「――ごめんね、束さんが、弱いからッ、あなたたちを、助けられなくて」

「あはははは!? このごに及んでそんなセリフ!? いったい誰に向けたものかしらねぇ!?」

「決まってんだろ――束さんの可愛い子供たち、インフィニット・ストラトスにだ!!」

「ふぅん……なら、そのISに殺されなさい!!」

「――ッ!?」

 

 力が、強くこめられた。

 バキバキと嫌な音が響き――鎧が砕け散る。そして数秒ののちには変身が解けて自分は噛み千切られるだろう。あろうことか、自分の子供と言ってもいいISに。

 

(――ごめんね)

 

 それは誰に向けられた言葉だろうか。

 篠ノ之束は眠るように目を閉じて――せめてこのISだけは助けようと顎の奥に手を伸ばした。

 束の手にそれが触れたのは偶然だったのか、はたまた必然だったのか。

 光と共にISが解除され、強力な力場が発生した。

 

「な、なんだ!?」

 

 オーバーロード――亡国のコードネーム、アンバー――はISを動かしていた。元は女性であり、特殊な改造をISコアに施すことでオーバーロードとなってもISを動かせていたのだ。

 だが、それがいけなかった。コアにとって彼女は正規の手順を踏んでいない操縦者なのだ。そこに束が直接手を触れたことで束を操縦者として認識したことが、一つ目の要因。

 二つ目の要因は――コアにロックシードを分解したものを埋め込んだことだ。特殊な加工により、コアは酷く歪になった。まるで英が入手した金属の果実のように。つまり内部にヘルヘイムの力が蓄えられていたのだ。そして、ソレはドライバーに反応した。果実からロックシードを生み出すように。

 束の手が触れたことで起こった奇跡は――いや、ただ娘が母を助けた。それだけのことだ。

 

「アアアアアアアアアアアア!!」

 

 束の手の中で、コアと果実が分離していく。コアはまっさらな球となり、果実の力は新たに形作られる。

 ISコアの力により整えられ、以前束が英の腕輪をはめた際に残留した力も流れ込み、合わさって新しき力となった。

 すでに変身は解けていたが、コアがPICを全力で展開したことでオーバーロードは近づけない。娘が母を守るために見せた、意地だ。

 

「――ありがとう、今度は束さんが娘を守る番だから!! 変身!!」

 

【リキッド! パンプキンエナジーアームズ!】

 

 バイオリンの様な音色。今までのようにロックシードは開くのではなく、内部がスライドして顔のようになる。まるで、ジャック・オー・ランタンのように。

 空から降ってきた大きなカボチャはその姿を変える。頭にはとんがり帽子、背中にはマント、ドレスのようないでたちはまるで魔女。

 手にはロックシードを装填するスロットをつけた片手杖が握られていた。

 

「悪戯じゃすまないってのを、教えてあげるよ」

 




しかも次回に続きます。
31日に更新はしないので、早くても1日です。

というわけで、新アームズ続々登場。
野菜シリーズですが、どちらもジュースにして飲まれる場合があるのでいいかなっと思った次第です。音声がリキッドなのは野菜だから。
手に持った杖は無双セイバーほどの大きさ。


そういえばドラゴンフルーツエナジーが冬の映画に出ますが……この小説に出すとしたら、デューク以外の方に装着させるかも。
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