というか、もうこんなに話数が……
「ふざけないでよ、なんなのよ……なんであんたはそんな風に軽々と飛び越えていくのよ…………なんであんたはそんな風に、全てに愛されているのよ!? 天も周りも、あんたに味方して――ふざけないでよぉおおおおお!!」
オーバーロードとなった少女はただわめくばかり。手を振りかざし、あたりに漂う力の濃度が変化して幻覚を構築する。彼女の操る能力は至極単純で、誤認を起こさせるのだ。
壁があるのなら、ないと思わせる。自分の気配を消すには自分という存在を知覚させない。もしも彼女が自由に幻覚を見せることができたのなら束に勝ち目はなかっただろう。しかし、彼女の能力は知覚させないことが主となっている。他の応用を戦闘中に行えるほどではないのだ。
「――別に、恵まれてなんかいないよ」
さらにパンプキンエナジーアームズにそんなごまかしは通用しない。ISからハイパーセンサーのデータをインストールされており、空間の揺らぎからオーバーロードの位置を割り出している。見えなくとも、その位置は見破られてしまう。
体をひねり、パンプキンロッドで腹部を殴り飛ばす。
「アガッ!?」
「これはさっきの恨み!!」
アンバーはオーバーロードの中でも肉体スペックが低い。そのため、何の強化もされていない一撃でいとも簡単に吹き飛ばされた。
いや、だとしてもオーバーロードの肉体であるはずなのにダメージが大きい。
「――これ、ノロシアームズに近いスペックだよ!?」
束も自分自身で驚いてしまう。いったい、どういうことなのか……マスク内にデータを表示してみたが、戦闘中にもかかわらず驚いてしまう。
しかし今は気にしている時間ではない。アンバーは再び立ち上がり、束を睨みつけている。
「許さない、もう絶対に許さないッ!!」
「それは、こっちのセリフだッ!!」
ぶつかり合う拳、杖と尻尾。尻尾の先に機械の残骸――顎の首――がついているところを見るに、ISは尻尾に取り付けられていたらしい。よく見ると、身体にもいくつかついている。
「頭も良くて、彼氏がいて、人望もあって、受け入れてくれる家族がいて……すべてに愛されておきながら、まだ求めるのか!? 持たざる人の気持ちも考えてよぉ!!」
「――そんなの、知るかぁ!!」
頭を良くしたい? そんなの勉強しろとしか言えない。
彼氏が欲しいなら、まずは好きな人を見つけるか、自分を磨け。
人望なんてそれこそ自分から変わらなければついてこない。かつての自分にそんなものはなかった。
家族だって、自分から歩み寄らなければ受け入れてくれなかった。
すべてに愛される人間など、もはや人間ですらない。そんな人間、有史以来存在しない。一大宗教の象徴だって、他宗教からは嫌われるんだ。
持たざる人だとかどうとか知らないし、お前が何に憤っているのか興味もない。
「とっとと、失せろよ!!」
「――オグゥ!?」
杖をアンバーの腹部に押し込み、思いっきり前に突き出す。その動きは、フェンシングの突きのようでもあった。
「データ読み込み……うん、大体わかった」
ライダーシステムのインターフェースを使用し、パンプキンエナジーアームズの武装を瞬時に調べる。束の人を超越した思考スピードだからこそ可能なことであり、今もっとも有効な手段を導き出した。
ペアーエナジーロックシードを取り出し、パンプキンロッドにセットする。
【ペアーエナジー!】
杖の先端に光が集まっていく。その光は、周囲を照らし――幻覚を消し去っていく。
アンバーはその光景に恐怖した。やめて、消し去らないで、私の、私の全てを――
「奪うなぁあああああああああああ!!」
「――ハァ!!」
光の弾を、杖の一振りで飛ばす。綺麗な輝きを放つ光弾はアンバーに直撃し、弾けた。
「あ、あああああああ!?」
「対インベス用に特化したペアーエナジーの力、いくらオーバーロードでも――」
「あばあえあばいるまりこれきかぱらちらふろれいぬまん…………びびかりらぱれる」
「へ?」
おかしい、通常なら光がインベスの力を削り取るないし、中和してしまうはずなのに……なぜか光はぶつかったままだ。しかも、色が白からだんだんと気味の悪い緑に変わっていく。
「殺す。殺す。殺す殺す殺す。綺麗に殺してアゲル」
直後に、アンバーの腹部が大顎になった。
メリメリと、彼女の体が盛り上がり変形していく。気持ちの悪い身体は女性的に、蠢くような皮膚は綺麗な質感に、何よりも驚くべきは――その顔だ。
怪物そのものだった顔は人のソレになっている。もっとも、色はもとのオーバーロードの体色であるが。
「アハハハハは!? 私って綺麗でしょう!?」
「なんかマズイ予感……」
「全部、狂え!!」
「――アウッ!?」
ぐらりと、視界が歪んだかと思えば――周りの風景が極彩色に変化した。
吐き気がするとか、そんなレベルじゃない。この空間に自分がいることが耐えられなくなってくる。
(まさか束さんの使った力を吸収した!? 女の執念ってここまですごいんだ……いや、束さんも女だけどさ)
自分が一般的な女性とはかけ離れているからこそ、冷静に分析できるのだろう。まともな感性の女性ならおそらく、呑まれている。それほどまでに、あのオーバーロードが放つ力が強い。
幻覚を見せる能力、すなわち人の脳に干渉する能力。
(――まずい、コイツ危険すぎる)
先ほどまでは弱弱しく、幻覚も隠すことしかできないような女だった。だが、命の危機に瀕したことで成長してしまった。
見た目が変化したのもその影響か? 何にしても厄介なことに変わりはない。
(そうだよ、成長するのが自分たちだけなわけがない。自分たちが戦闘中にパワーアップするなら、相手も同じことが起こる可能性はある)
まだ色彩がおかしくなるだけにとどまっているが、これ以上脳に影響を与えられるとどうなるかわからない。
ある意味で最強の能力が誕生する前にどうにかしないと――ちょうどいい具合に、使えそうな技が見つかった。束は自分の専用ISであるジャバウォック――大気圏内の移動特化に作られている――のコアがパンプキンエナジーロックシードのデータを解析し、束に送ってくれたのだ。
【ダンデレオ!】
タンポポのロックビークルを杖にセットすると、そんな音声があたりに響いた。そして、杖の先端から獅子の顔が現れて――咆哮があたりを支配する。
「アガ!? な、なにこれ!?」
その咆哮はインベスの動きを封じる。体が自由に動かせないことに戸惑いを覚えたアンバーは、逃げ出そうともがき苦しむ。しかし、束がそんなことを許すはずもなかった。
【ローズティン!】
今度は巨大なブリキのロボットをかたどった物体が現れる。束が杖を振るうと、その動きに合わせて何度もアンバーを殴りつけた。
体の自由が利かず、ただただ殴られ続けることにいらだちを感じるも、動くことができない。
「て、てめぇええええ!」
「ふふ、無理やりお嬢様っぽくふるまうよりかはいい顔――なのかな? さあ、フィナーレだよ!」
腰にいつの間にか取り付けられていたロックシード……いや、ロックビークルを杖にセットする。おそらくはパンプキンエナジーロックシードと同時にISコアが生み出したのだろうけど、そういうことを調べるのはまたあとだ。
【プロテアスケアクロウ!】
最後に現れたのは、カカシ。杖にオーラのような形で纏わり、敵に狙いを定めている。
さあ、仕上げだ。
「ハアアアアアアア!!」
一気に加速してカカシの頭部をアンバーにぶつけたのと同時に、カカシが単独で加速して放たれる。回転を加え、貫くその姿は槍――いや、それは――
「ぱ、パイル、バンカー?」
「ぶち抜けぇえええええええええええ!!」
轟音と共に射出されたカカシは、天高く飛んでいった。まさに、一撃必殺の大技である。
あたりには反動で巻き上げられた土煙が立ち上り――晴れた後は極彩色の景色は元の風景に戻っていた。
「…………ふぅ、終わったぁ」
肩こったかなぁなんて思いながら束はぐるぐるとほぐす。
しかし予想以上に強力なロックシードであるが……ちょっと副作用が心配になった束である。
「――束ぇえええええ!!」
「ふぇ!? 英!?」
なんか突然、空から男の子――って年でもない――が降ってきた。
「大丈夫か!? 怪我してないか!?」
「ああもううるさい!!」
「あもれ!?」
ボカッとひとつ殴っておいた。見ると、ノロシアームズを装着済みである。どんだけ心配していたんだ。
しかし心配されて悪い気分ではないが……ああ、スレイプニルからオーバーロードと交戦中だと聞いたんだと思いあたり、納得。
「はぁ……束さんならばっちり大丈夫、勝ちましたよー」
「ほ、本当に……良かったぁ」
「もう、心配し過ぎ」
「ところで、その恰好――まさか、お前も魔法少女に!?」
「なわけあるかいッ!!」
「りっさ!?」
なんで自分がツッコミなのか、束は少し納得いかなかった。
「今年19になるのに魔法少女って……」
「いや、束なら言いかねない気がして」
「なんでだよ……はぁ、まあいろいろあっただけだよ、これは」
とりあえずプロテアブルームを展開して、またがる。思った通り魔女の箒型のロックビークルだったらしい。
「なんていうか、似合いすぎだな」
「ほっとけ……あれ?」
「どうしたんだ?」
「いや……オーバーロードを倒したハズなんだけど…………残骸すら残っていない」
「――腕輪の反応はないけど」
「…………」
もしかして、なんて嫌な予感がしてくる。されど、しばらくその場で待機していたが何も現れなかった。結局、その日は特におかしいことは確認されなかったためスレイプニルに戻ることとなったが……束の心に何かがつっかえ続けたのである。
一抹の不安は、どうしてもぬぐえない。
◇◇◇◇◇
「はぁ、はぁ……あの女ぁ」
その不安はまさしく的中していた。
アンバーは最後の瞬間に、幻覚能力で攻撃が当たったかのように見せかけて逃げていたのだ。その方法は、対象が自分ではないだけで須郷がミコノスでやられたときや、英と束のダブルキックを喰らう直前などにも使われている。実のところ、彼女は何度も英と束の目をごまかすという離れ業を行ってきた実績があった。
自尊心や虚栄心ゆえに気づかないが、彼女も人の意識を失わずにいられたオーバーロードなのだ。そのポテンシャルは計り知れない。
「……まったく、少しは頭を冷やせアンバー」
「うるさいわよ、シャーベット……調整はどうなの?」
「十分だよ。まあ、モンドグロッソがどう動くかで私自身どうするかを決めるけどね」
「そう……私は休むわぁ」
それだけ言い残し、彼女は自室に去ろうとするが――シャーベットが彼女を引き留める。
「なによ、物理的に頭を冷やさせるっての?」
「違う。ご苦労だったな、おかげでアイツが目標にたどり着けた」
「あはは、スレイプニルの連中に一矢報えたかしらぁ」
「ばっちりとな。あとは向こうが成功してくれればいいが……まあ心配ないだろう。ロートルが、アイツに勝てるものか」
「随分と評価しているのねぇ……ただのチンピラだったあの子を」
「それは何年も前の話だろ。今は私たちと同じオーバーロードだ」
思いをはせるのは、地べたを這いずり回って強くなっていったあの男。弱かった存在は力をつけ、今やオーバーロードの中でも強力な存在へと進化した。
アンバーも今回の件で進化したが、彼はさらにその上を行く。
「あとは吉報を待つだけさ」
亡国は人知れず、動きを進める。
すべては計画のうち。英たちは、敗北したのだ。
◇◇◇◇◇
「――――!?」
「どうしたの英?」
すでに場所はスレイプニルの中。パンプキンエナジーアームズに特に副作用などが無くて安心していたところ(英はいつもの通り酸っぱさに悶えていた)だった。
突然、英が険しい表情で地球の方を向いたことに束は驚き、彼に問う。
「おかしい、いきなり三か所に現れるのもそうだけど……アイツらは何が目的だったんだ?」
「そりゃ分断でしょ。アイツらどういう風に分かれるか予測していたみたいだし。巨大インベス相手なら、英が行くのは当然だし、本拠地から近いところには次に強い束さんだしね」
「そうなんだよ……それを読めているから束にオーバーロードをぶつけたとも思ったが、他のオーバーロード総出で行くべきだと思うんだ」
「あれ? そういえば…………じゃあ、なんで?」
「わからない……でも、他に目的があったんじゃないかって、そう思うんだ」
その嫌な予感は的中していた。されど、ニュースになるようなことはそれから一週間たっても特になく、地上で報告を聞いて調べていた楯無たちやジョニーの仲間が調べたりもしたが……怪しいことの影の形すらでてこなかった。結局、英たちは何が起こったのか知ることはできなかったのだ。
闘いに敗れるだけが敗北にあらず。
今回はスレイプニル全体が油断していたということです。
ある意味燃え尽き症候群に近かった。
パンプキンエナジーアームズは一人オズ。他にもいくつか機能が存在します。