フロンの朝は早い。日本標準時間にして5時に目が覚める。
年は一夏たちより一つ下。いろいろあって英に拾われて今はスレイプニルの台所を任されている。
「……ふぁぁ」
まあ、ハッキリと覚醒するのにちょっと時間はかかる。だって仕方がないじゃないか幼女だもの。
動きやすい服に着替えたら、部屋に備え付けてあるラジオをぽちっとな。
日本に住む者ならだれしもが聞いたことがあるだろう音楽と共に、彼女は体を動かす――いわゆるただ一つのラジオ体操である。
「よし」
その後はモップを片手にキッチンまでの道のりを歩んでゆく。ついでにモップでごしごし。スレイプニルが清潔に保たれているのは彼女のおかげである。
ただ、黒くて硬くててらてら光ってて暗くて狭くて 湿ったところが好きなわりに速いせーぶつだけはお断りな。なぜかあれは百花が担当している。お嬢様は意外と強い人です。
「……今日は何作ろうかな~♪」
みんなの朝ごはん、なんだかんだでフロンは料理が好きだった。
ちゃんと作ればおいしくなる。工夫次第でどんな形にも変わるからこそ、ずっと頑張ることができる。終わりがないからいつまでも楽しめる。
「塩気が、強い……ちょっと失敗」
たまに失敗しちゃうけど。
今日の朝は味噌汁にご飯と、あと卵焼きという和風にしたのだが……塩気が少し多かった。まあ、大丈夫な範囲だけど次こそはとフロンは拳を握る。
「ふーむ……毎度ながらいい香りですね」
「おはようございます……ミシェルさん」
「ああ、おはよう」
起きてきたのは、オペレーターのミシェル。手にはジョニーを引きずっている。フロン的には仲良しに見えるらしいが、ミシェルはジョニーの足を持っているため顔が地面にぶつかってガリガリ削れる音がする。幸いなのは床がフロンのおかげで清潔に保たれていることだろうか。
「痛い痛い!? なんで毎度そんな起こし方なんやねん!?」
「お前が起きないのが悪い。おお、今日は和風なのか」
「ふんむっ」
両手を組んで、胸をはる。
むふーと鼻息を出して私頑張ったアピール。
「いただきます」
「……しょぼん」
頭ぐらい撫でてもいいじゃないかと、ちょっと落ち込んだフロンだった。
ちなみに、ジョニーも食べていたが――鼻に突っ込んだティッシュがまた笑える。
フライパンを片づけていると、艦長である英がやってきた――目の下にものすごい隈を作って。
「うぼわぁ」
「……大丈夫?」
「ごめん、徹夜で作業していたから眠くて眠くて……いつもありがとうなフロン」
「むふふー」
これだ。このなでられるのが良いのだ。
撫でてくれるので一切れサービスである。
「いただきます……そういえば、そろそろ食料の補充もしないとな」
「そう思って、モンドグロッソ期間中の拠点のこととかでかおりんが一足先に地上に行っていますよ」
「かおりさんが? そりゃ助かったけど……僕の許可ないと後々面倒な書類書くんだぞ」
「…………束ちゃん共々慌ただしかったようなので、百花さんに頼みました」
「まあ、副艦長だしなぁ」
艦長は確かに英なのだが、副艦長が百花なのである。書類仕事など束より向いているためというのが理由。ちなみに、束は技術責任者。権限は副艦長と同等。
他のメンバーも一応肩書が存在しており、ジョニーは情報管理責任者。ミシェルはオペレーター長。
瀬田君が操舵士。谷川が操縦士。ISコアの起動などは谷川が、外部からの機械的な操作を瀬田が担当している。
かおりがパイロット長。内部に搭載しているISの担当である。
中沢信二は強行班長。主に偵察任務や、地上戦などの担当。
そしてフロンが料理長。
しかし、人数も少ないため色々と兼任しているのが実情である。スカウトもしたいがまだ安定していないのが最近の英の悩みだ。
ちなみに神宮寺家のパンサーなどが地上での業務を一部手伝っている。
「はぁ……それで、百花さんは?」
「さっきからここにいるじゃないか」
「? …………うわぁあああああ!?」
「ああん、もうおしまいですかぁ」
フロンもちょっとちびりそうになった。いつの間にか英の椅子と入れ替わっていたのだ。というより、彼女はいつここに来たのだろう。
「ふふふ、それじゃあわたくしもいただきますね」
「し、心臓に悪い……」
「さらに変態度が増しましたね」
「HAHAHA! うちのママみたいだね!」
「「「え」」」
ジョニーの漏らした一言は、しばらく忘れられそうもなかった。
その四人と入れ替わりでやってきたのは、瀬田と谷川、それに目の隈がひどい束だった。
「うぼわぁ……フロンちゃーん、水頂戴」
「はい」
「ん――ぷはっ! あーねみー」
「束博士、しっかりしてくださいよ」
「一日を35時間ぐらいでいきているって言っていたじゃないですか」
「そんな昔のことは忘れたよ……っていうか、やること多すぎるんだよ。いつでもインベスの反応をキャッチできるように小型衛星の製作とかさぁ」
「尋常じゃないスピードですけどね」
「やまやさらってきて手伝わせてやろうか……」
「やめてあげてくださいよ」
やまやというと……フロンの頭の中に、爆乳少女の姿が思い浮かぶ。アレはまだ成長していた。
まあ、目の前の大天才も同じくらいあるんだが。正直、うらやましい。
自分の胸を見て……
「まだ成長期。慌てるのはまだ早い」
「どうしたんだ?」
「……良かった、みどりんには勝ってる」
「おい、今どこ見ていった!?」
「「……ぷぷ」」
「そこの二人何笑ってんだよぉ!?」
「だ、大丈夫だよ……お、女の魅力は胸じゃないよ」
「貴女が言うと嫌味にしか聞こえないんだよ!? なんで天はニ物も三物も与えやがったんですかッ」
「ぷぷぷ、まあそんなに気にする必要――あべしっ!?」
「お前は後でみっちりしごいてやる」
「や、やさしくしてね……ふぎゃ!?」
「気色の悪い声を出すな!! というか私の方が変態みたいじゃないか!?」
フロン的には、二人は仲良しさんである。束さん的には殺戮シーンである。
◇◇◇◇◇
ちょっと休憩して録画したアニメをしばらく鑑賞。フロンは英の悪い影響を受けたのか、熱血ロボットアニメが大好きです。
「……将来ISに乗るなら、ロケットパンチは必須…………!!」
鑑賞を終えると、再び掃除である。と言っても、日中の掃除や洗濯は当番制だし、ランドリーを中に設置しているため自分の分は基本的に自分でやっている。
そのためフロンはすぐに昼食の支度にとりかかった。
朝は和風だったし、昼は違うのがいいかなぁっと……食料も残り少ないのでミートスパゲッティになった。
昼はみんな動けるからか、全員やってきたのだが……操縦はいいのだろうかと、フロン的には不安になる。
「操縦は?」
「自動操縦っていうか、衛星軌道上に漂っているだけだからねぇ……」
「まあ、そこら辺はまだフロンには難しいか」
「むぅ」
あとで調べようと思い、とりあえず全員分用意したスパゲッティを出しておく。うん、いい出来。
「いただきます」
「どうぞ」
なんだかんだで、ここでの生活にも慣れてきた。宇宙で暮らすと聞いて、ドキドキと不安が入り混じっていたが……結局慣れるのが人間です。
重力発生装置のおかげで、普通に地上と変わりない感じで生活できるからだろうけど。
「しかし、フロンも料理どんどん上手になるよな」
「えっへん」
「おいしいデスネ」
「食べたらまた頑張るよ!」
なんだかんだで、みんなが頑張れているのはこの少女のおかげである。
身寄りのないフロンはどうすればいいのかわからなかった。
突然海から大きな悪魔――レヴィインベス――が現れたかと思ったら、変な格好の奴らが両親を殺した。フロンは隠れていたから助かったが……あの光景は一生忘れることはできない。フロンの知らぬことであるが、彼女の両親はレヴィインベスを秘密裏に移動させるために口封じとして殺されたのだ。
幸運だったのか、不幸だったのか、フロンは頭のいい子だった。一週間ではあるが、一人で生きていられたのがその証拠である。突然、頼れる人がいなくなってしまったのに生きていられた。だが、心はどんどん壊れていってしまっていた――そんな時に、彼と出会った。
『行くところがないなら、一緒に来るか?』
大切なお兄ちゃんとなった彼と、その友達と一緒にいるうちにフロンは心が回復していった。
今でも辛いことはあるし、あの時のことを思い出してうなされることもある。それでも、今ではここは大切な居場所だ。
「……ふふ」
ちょっと変わった人ばかりだけど、みんないい人。
ごちそうさまの声が聞こえて、みんな自分の仕事に戻る。
「ちょっと、寂しいかな」
食器を片付けて――ふぅと一息つく。
そういえば、あのライバルとの決着もつけたい……新しいレシピを考えるか。
「お菓子とかいいかも」
料理の兄弟子との対決を思い浮かべて、目に闘志を宿らせる。
挑戦状を叩きつけるために、白手袋とかも必要だろうか?
「待っていなさい……織斑一夏ッ」
ちなみに、その頃地上で変な寒気がしてツインテールの少女に心配されていた少年がいたという。
「その前に今日の晩御飯は…………卵は無いし、かおりんまだ帰ってきていない…………」
どうするかと悩んでいたら、ドアが開いて誰かがやってきた。そう、彼は……
「しん……そういえばいなかった」
「忘れないでよ……いや、ちょっと用事があって他の宇宙ステーションに行ってたんだ」
「そうなの……スパゲッティ余っているけど、食べる?」
「うん、ありがとう」
「……晩御飯、どうしよう」
「? ああ、食糧の備蓄が……かおりさんが持ってくるって話だったとおもうけど?」
「帰ってこない」
「みたいだね……」
信二はスパゲッティを食べ終えると、コーヒーを入れて飲み始める。フロンも飲めることは飲めるが、あまり好きではない。
「子供は苦手な子多いからね」
「だと思う……」
「そういえばフロンちゃんって、日本語上手だけど……昔からしゃべれたの?」
「ううん。教えてもらった」
「誰に……ってアイツだよな」
英である。水を吸うスポンジのごとく色々覚えるので、束も一緒になって色々教えた経緯が存在するのだが、正直やり過ぎたのではと後悔もしていた。
「今度、カオス理論を教えてもらう約束」
「……え」
もしかしたら、自分以上の天才を生み出しちゃうんじゃないかと、束はちょっと怖くなったそうである。
その後、流石にそれは理解できなかったようでほっとしたとかなんとか。
「英おにいちゃんからは、これを」
「……決め台詞の作り方…………アイツは何を考えているんだ」
「フロンの一押しは、ロケットパンチ」
「アイツら将来子育てで苦労するだろうなぁ…………」
「しんはその前に、告白する勇気を持ちましょう」
「オグッ!?」
「……モンドグロッソ、楽しみだね」
「ソウデスネ」
自分ってわかりやすいかなぁと、信二は食堂から出ていく。
いや、鈍感な人たちは気づいていないと思う……具体的には、うちのバカップルとか。
「……まあ大丈夫か」
フロンから見ても、信二の好きな人はさらに鈍感な存在である。
時々恐ろしいことをすると、英に聞いているけど。
そんなけったいなことを考えていると――ようやく食料が帰ってきた。
「ねえ、私のこと食料って言わなかった?」
「きにしないで、かおりん」
「否定しなさいよ!?」
コンテナ運んできてくれてありがとう。一言行ってから、種類別に保管する。こういうことをキッチリやらないと後が大変なのだ。
「今日のごはんはなんだろな~♪」
「っていうか作るのフロンちゃんでしょ」
「……かおりんは晩御飯抜きにしたい?」
「ごめんなさい。許してください」
フロンはスレイプニルの乗組員全員の胃袋を預かる者である。彼女を怒らせるということ、すなわち飯抜きなのだ。
「まったくもう」
「あはは……献立は何にするの?」
「今日はカレー」
めざせ、90点以上のカレー。
野菜とお肉と、あと少しリンゴとか使っておいしく作るのだ。
「ふんふんふふーん♪」
今日もまた、フロンは料理を作る。
やっぱりこの時間が一番楽しい。
◇◇◇◇◇
そんなこんなで、夕食も終わり女湯でさっぱりとする。
大小様々な感じであるが、湯気が立ち上り、その様子は見えない。
「束さん! 今度こそ写メの任務を!!」
「おうともさ!! ――ガぁ!?」
「どうしました!?」
「英の奴圏外――っていうか地上に降りてる!?」
「ああ、そういえば楯無から連絡が来て、モンドグロッソの警備について現地で話し合わないといけないと言っていたぞ」
「深夜に話し合いってどういうことだよミシェルたん!?」
「ミシェルたん言うな……深夜の警備演習も兼ねているらしい」
「そんなぁ……はぁ」
「ちくしょうですわ」
「というか君ら何しようとしているんだよ…………」
「もういいや、そろそろお風呂でよう」
「ですわね……というか、もう狙って回避してるんじゃないかしら」
「ないとは言い切れないんだよなぁ……英って妙に運が良いし、勘も鋭いから」
フロンから見たら、ボロボロになることも多い人だと思う。
その後、一人で寝るのは寂しいからと、束と一緒に寝た。
……ちなみに、寂しいと言い出したのは束である。
先送りにしてしまったけど、フロンに関してはこんな感じの子です。
一夏との関係は料理の兄弟子と妹弟子。二人とも、すでに英よりうまくなっているため、英的には涙目ですが。ひそかに特訓して師匠の威厳を保とうとしています。
何もない時のスレイプニルは割とこんな感じ。
次回より、第一回モンドグロッソ編開幕。
千冬無双と周囲の出来事をお楽しみに。