朝になると、それはもう阿鼻叫喚だった。
いきなり死んだはずの僕の母親がいるわけで、一夏君とフロンは気絶してしまい、徹夜していた元クラスメイト達は倒れていった。例のものを持ってきた百花さんと護衛についてきた信二もビビりまくっていて、収拾がつくまでに1時間ぐらいかかりましたとさ。終わり。
「勝手に終わらせないでよー」
「誰のせいだ。誰の」
「……何だろう、お母さんを相手にした時みたいな感じがする」
似てるけどね。でも、疲労感は束のお母さんの時以上なのはなぜだ。自分の母親なのに……いや、だからか。
「英さん、一体何がどうしてこうなっているんですか?」
「聞かないでくれ……僕もどうしたらいいかわからないんだ。とりあえず、百花さんは仕事に行ってくれ。信二は一夏君たち連れて会場の方にお願い」
「ああわかった……さすがお前の母親だな。やることが凄すぎる」
「どういう意味だよ!?」
いくらなんでもここまで非常識じゃないよ! ……じゃないよね?
「大きくなったわねぇ……彼女も出来て、お母さんうれしいわ」
「だからって撫でるなよ……というか身長差あり過ぎて手が震えてるぞ」
「あらぁ?」
「…………ハァ」
「あはは……科学に真っ向から喧嘩売っているよね…………」
ISだって似たようなものじゃないのーと言う声が倒れている奴らの中から聞こえて、束はフライングボディプレスを仕掛けた。あ、白樺か。
「げふっ!?」
「ちゃんとした科学技術ですー! っていうかドライバーだって一応科学技術で作られているんだよ!! 時々オカルトチックになるけど!」
「それにしてもすごいわねぇ。SFみたいなディスプレイだわ」
「自由すぎる……とりあえずみんなは帰った帰った」
ええーと文句が出るが、僕も対処しきれないんだよ。ほら、モンドグロッソでも見に行ってろ。え、チケットくれ? 買えよ……わかったよ佐々木が持ってるからもらえ。そして、哀れにも養護教諭の断末魔が鳴り響いた。酒盛りの原因だし、これぐらいはやっとかないと。ちなみに、全員分のチケットを預けてある。
「英は友達出来るか心配だったんだけど、安心したわ」
「ハァ……こっちはどっと疲れたよ。ここにいてもあれだし、ゆっくり話せる場所に移動するか」
「そうだね……どこがいいかなぁ…………」
「私たちの家は無いのよねー」
「……あれ? なんで知ってるんだよ」
「そりゃ、ずっと見てたからよーその腕輪から」
「――――え」
「うふふ……ラブラブねぇ」
「「ぎゃああああああああ!?」」
みられた? え、見られた? 恥ずかしいところとかも全部?
「流石に直接見ているわけじゃないし、お父さんとか花蓮ちゃんとか、あとゲストさんもいたから」
「だとしても知っているってことだよな!? なんだよそれは!?」
「うう……天才の束さんが振り回され――あれ? 割といつも通りだよ? え、そんなことないよね? あれ?」
「まあまあ、それじゃあ束ちゃんのおうちにでも行きましょうか。あそこなら木があるから私も安定するし」
「なんで勝手に……もういいや、案外穴場かもしれない」
疲れるどころではない疲労感と共に、久しぶりの篠ノ之神社である。
掃除はちゃんとされているし、何人か参拝客もいる。束生誕の地とかでメッカになっているかと思ったが、そこまででもないらしい。
「それにしてもあの束ちゃんが英の恋人かぁ」
「あのってどういうことだよ」
「前に会ったことがあるのよー」
「……金髪に青い目…………うーん?」
「束、母さんと会ったことある……って覚えていないのか」
「うん。記憶にない。昔は人の判別はつかないけど、そういう記号は覚えているし……でも心当たりない」
「そりゃそうよー。貴女と会ったのはまだ0歳の時だもの」
「覚えているわけねぇ……」
「どこで会ったんだよ…………」
「そうねー……たしか、アレは予防接種の時だったかなぁ」
「ああうん、大体わかった。たまたま見かけたとかそのレベルだろ」
「0歳で数独をしている束ちゃんを見てたまげたものよー」
「束何してんだよお前は!?」
「記憶にない。記憶にないですはい」
「……」
「いひゃいいひゃい。ほっへひっひゃないで」
「まあそれで束ちゃんのお母さんと意気投合したりねー」
「それはなんとなくわかる……」
「お母さんも車イスに乗ってたから目立っていたっていうか、行く場所間違えていると思われたわ」
「昔から病弱だったからなぁ……」
「後でお母さんに聞こう…………あ、だめだ保護プログラムでどこにいるか知らねぇ……調べるか」
「まあそれっきり会うこともなかったんだけどね。びっくりしたもんだから驚いちゃった」
「なんで篠ノ之母は知らな――いや、そうか母さんの見た目か」
金髪だし、無意識に子供もそんな感じになると思っていたのか。僕は瞳こそ母親と同じだが、髪の毛は真っ黒だから……
「名前も蜂矢よりゲインクロイムの方が印象深いからねー」
「でもまあ……僕と束の誕生日は近いからそんなことがあっても不思議じゃないか……」
「そうだね…………それじゃあ本題に入るけど、なんで出てきたんですか?」
「うーん、あいたくなっちゃったから」
「頼むからもうちょっと真面目に答えてくれよ……色々忙しいんだから」
「もう、久しぶりに会った母親に言うことなの?」
「だったらお願いだから、感傷に浸らせてください。お願いします……」
「仕方がないわねぇ…………一つ、忠告に来たのよ」
「忠告?」
「ええ……ヘルヘイムの意味は分かってる?」
「そりゃ、死者の国――――オイ、まさか」
「……まあ正確には違うんだけどね」
「えっと、どういうこと?」
「文字通りだ……ヘルヘイムの森は死者の国そのもの。正確には違うってあたりはよくわかんないけど」
「あなたたちが腕輪をつけているときに、一度か二度、死んだ人たちと話しているハズよ」
「……ああ、僕が死にかけたとき。それと、あの青い侍みたいなオーバーロードか」
「まあゲインクロイムのご先祖様ね。私も一度だけお会いしたことがあるわ」
「それと、束さんが見た赤い女のオーバーロードもか……それに――」
そうか、束も花村達に会ったって言っていたっけ。
「そっちは束ちゃんのご先祖様…………っていうより、その二人って夫婦なのよね。名前は知らないけど」
「そうなのか!?」
え、じゃあ僕と束って遠い親戚ってこと!? いやその可能性は考えていたけど……夢に出てきたアイツが?
「仙人の話だとねー」
「仙人?」
「ああ、こっちの話。あーそもそも私たちみたいに死んでも魂が残っている理由から説明した方がいいかしら?」
「できれば」
「魂自体は強い思念とかで残っちゃうんだけど、ヘルヘイムの力がこういう風につなぎとめるのよ。私の場合はオーバーロード能力が一部覚醒していたから出てこれるんだけど。まあ、英の力も少し分けてもらっているから、英が成長したってのもあるんだけどね」
「……シルバーアームズを生み出したあたりか?」
「むしろノロシアームズを使えるようになったあたりかな。お父さんびっくりしていたわよ。想定を超えたって」
「っていうか父さんは何を考えてあんなものを……」
「それは教えてもらってないのよね……というより、あの女に妨害されているのよ」
「あの女って?」
「それは――――よ」
「え?」
「だから! ――――よ!!」
「……口は開けど声は出ず」
「…………こっちに来るときにプロテクトかけられたかぁ」
「いったい何と戦っているんだよ……」
「うーん、まあいつか分かるわよ。どうせ直接手出しはできないんだし」
「なんだかなぁ……」
「そもそもヘルヘイムの森ってなんなのか……」
「えっと、なんであの森が生まれたのかは知っているわよね?」
「ああ、黒の女王ヘルが黄金の果実を手に入れたことで生まれたってことだと思っているけど」
「うん。それはあっているのよ。で、その森ってのも彼女が死にたくないって願いをかなえるために生まれたらしいわ」
「……死を克服しようとした?」
「そんなことできるわけないのにねー」
……ツッコまないぞ。
「まあそれで死んだときに魂があの森に引っかかることが起きるようになっちゃった、ってことなのかしらね? 最初は地続きの死の国だったらしいんだけど、世界が割れて今に至ると」
「太平洋の大陸か……」
「母さんも知らないことは多いし……重要な情報はプロテクトかかっているだろうし…………後は何を言えばいいかな」
「束さんもキャパオーバーするよ……」
「じゃあいくつか質問。ドライバーを作った目的は?」
「食料問題とかエネルギー問題とかを解決するためだったらしいけど……図らずも束ちゃんが別アプローチの解決策を生み出したから、あの人も浮かばれないわねー」
「……それはまあいいや。次に、なんでロックシードっていうか、アームズなんて作ったんだ? それこそエネルギー問題の解決を超えているだろ」
「ああ、インベス相手に戦えるようにってことらしいわよ。最初の間は侵略者と思っていたし」
「そういえば……いや、それもそうか」
ならばいいんだ……
「金のリンゴは……」
「ごめんなさいね。さすがにそれは言えないというか、最重要事項みたいで考えるだけで頭痛いわ」
「そっか……ありがとう」
「あら? 他に聞きたいことは?」
「……」
言いたいことは山ほどあるし、聞きたいことだっていろいろあるけど……なんだか言葉にできない。目的のための質問ならすんなり出てくるのにいざ個人的なことを言おうとすると、言葉に詰まる。
「英、大丈夫だよ」
「……束」
「ちゃんと、ぶつかれば。ね」
「ああ……ありがと」
「うふふ、いい子ねぇ」
「最初はそうでもなかったけどな」
「ああひどい!?」
「あらあら……束さん、英のことお願いね」
「……それは、当然です」
「ええ……英」
「母さん……色々、ありがとう。上手く言えないんだけど――僕、母さんと一緒で楽しかったよ」
「私もよ」
何だろうな……目頭が熱いや。
「……それじゃあ――――千冬ちゃんって子の応援に行きましょう!」
「「ズコー!?」」
あれ!? 今消える雰囲気じゃなかった!?
「今日一日は消えたくても消えられないんだもーん」
「だもーんじゃないよ!? え、なに!? いまそういう雰囲気だったのに消えないの!?」
「こ、この人は……シリアスさんが行方不明だよ」
「そんなの知りません。私がルールです」
「……死んでも治らないとは言うけど、死んだら悪化する破天荒さってどういうことだよ」
「自由に歩けるのよ? 走れるのよ? これが元気でいられないわけがない!!」
「ああもう! 誰か助けてくれ!!」
結局、わが母君の観戦チケットまで買うことに……ハァ。
百花さんと信二にも連絡を入れておいたけど、大変驚かれましたとさ……そりゃ驚かれるよね。うん。
「それにしてもすごいアリーナねぇ……周りは海だし、お金かかっているんじゃないの?」
「そりゃあね……終わった後の再利用も考えているし」
「再利用?」
「ま、それはどうなるかわからないけど……成功したらの話だし」
「もったいぶらずに教えなさいよー」
「ひっつくなぁ!!」
「ズルい! 束さんも!!」
「うがぁ!? 暑苦しい!? 張り合うなよ束!!」
重いし熱いしどうしたらええねん。
「ほらほら、解除は近いわよ」
「ちーちゃんの勇姿をこの目に収めるよ!」
「……千冬の零落白夜なら――いや、やめておこう」
また会えて話せるのはイイことなんだ。だから、だから……それでも短い時間にうけた疲労感がオーバーロードとの戦いを上回る気がするのは、気のせいでしょうか?
◇◇◇◇◇
ちなみに、その頃のフロンは。
「……怖かった」
「ああ、世の中には不思議なことがいっぱいだな」
「あんたたち、顔青いわよ大丈夫?」
「…………織斑の試合までに間に合うんだろうか……」
一夏と共に、今朝の光景にビビっていた。
鈴はそんな二人を心配しており、どうやって一夏を励ませばと考えるものの、詳しく聞いて自分の常識が壊れる予感もするため非常に悩んでいる。とりあえず心配しておけばいいかと落ち着いたが(この間0.2秒)
信二はまたトラブルに巻き込まれた二人が間に合うか心配しており、携帯端末を取り出した――そこでようやくメールが届いていることに気がつく。
「あれ? メール……あ、スレイプニルからだ」
「……だれ?」
「あー……食事が物足りないからフロン帰って来てくれだって」
「…………明日は帰って作り置きする。あとは頑張って」
「わかった」
スレイプニルのみんなの胃袋は既にフロンにがっちりつかまれているのだった。
もう96話……そして、アリサさん大暴走。
天然キャラってイメージだったのにいざ書き起こすととてつもない人になっていた。
……ある意味最強だなぁ…………
たぶん他にも色々暗躍しています。