競技開始まで残り時間はあとわずか、変装して会場に入ったのはいいけど……僕、なんだか疲れたよ束ッシュ。
「だれが束ッシュだ誰が。っていうかお母さんはイイの?」
「あらぁ? お義母さんでもいいのよ」
「え、えっとそれはその……あうあう」
「うふふー可愛いわぁー私娘欲しかったのよぉ」
「ああうん、英もこういう風にいじられたんだね……えっと、お義母さん」
「ああもう! 可愛いわ! 英、結婚式は何時かしら!?」
「……もうどうにでもなれ」
その後、二人をなだめるのに結構体力を使った……これでなんかあったら終わるな。
会場では出店が結構あるため、色々かったけど…………縁日?
あと、いくら自分の足で動けるからって、あっちこっち行かないでくださいお母様。どこぞの迷子アイドルじゃないんだから目を離した瞬間に明後日の方向に進まないでよ頼むからさぁ!?
「うふふーリンゴ飴おいしいわねー」
「ああもう!? お金は!?」
「束ちゃんに貰ったー」
「束さん!?」
「だって、子犬の様なまなざしで見られたら……」
「だとしても……だとしても!」
「まあまあ、あんまりカリカリすると体に毒よー」
「……うっ」
「ど、どうしたの!?」
「い……胃がテラヤバス」
「え――――うわぁあああ!? 英ぅうううううう!?」
だれか……胃薬持ってきて。
「はい、よく効くわよ」
「だからってなんで母さんが渡すんだぁアアアアア!?」
死んでさらに天然がひどくなっている……ああもう、誰か…………タスケテ。
◇◇◇◇◇
そんな風に英たちがコントをしているのとちょうど同じころ。
千冬は自分の控室で精神統一をしていた。
「……アイツら、一夏の料理で宴会とかふざけおって…………後でしばく」
訂正。個人的な妬みを抑えていただけだった。
「あはは……先輩、あんまり緊張していませんね」
「真耶か…………私が言えなことじゃないが、惜しかったな……真耶なら射撃部門に参加できるかと思ったのだが」
「仕方がありませんよ。まだルールも手探りですし、代表一名、補欠一名の合計二名しか出れませんし……正直国枝さんの方が技術は上ですから」
「……そうか」
これ以上話を続けても暗くなるだけだろうかと、千冬は立ち上がる。
……そして、秘蔵の衣装をロッカーから――
「先輩、ダウト」
「ウソはついていない」
「いいえ……どうせまた束さんに頼んだISスーツとかウソついて魔法少女の衣装なんでしょう。まったくどうやって運んだんだか、こういうことには悪知恵が働くんですからもぅ」
「……ええい離せ! 一夏がもっと輝けとささやいているんだ!!」
「それは幻聴です! っていうか何考えているんですか!? 一夏君も引いているのにこの期に及んでその衣装で出るとか何考えているんですか!」
「仕方がないだろう!? 束の奴が真面目になっていくから落ち着かないんだよ! 私が、私がボケなくて誰がボケるというんだ!!」
「いいから早く行ってください!!」
「……仕方がない。さっさと勝ってヒーローインタビューできてやる」
そんな捨て台詞を残して更衣室に残されたのは真耶と視覚兵器のみ。
千冬は肝心なところで抜けているため、暮桜の拡張領域にしまっておけばいいのに忘れていますねーなどと真耶は先輩を心配する。
「はぁ……さてと、これどうしましょうか……あ、そもそもヒーローインタビューなんかないじゃないですか。だって、あのコースだと…………とりあえず、蜂矢先輩あたりにでも引き取りに――あ、もしもし? 蜂矢先輩ですか?」
『……真耶ちゃんか』
「ど、どうかされました? なんだか声がいつもの数倍疲れていますけど」
『あはは……なんだか僕もう眠いんだ』
『まって英!? 眠っちゃだめだよ!?』
「あ、束さん? 先輩――織斑先輩がまた魔法少女衣装を持ってきちゃいましたので引き取ってほしんですけど」
『あーごめん。こっちはそれどころじゃなくてさぁ』
「まさか何かトラブルが!?」
『いや、こっちの都合っていうか個人的な問題? ちーちゃんにも知らせる必要はないって言うか……家庭の事情だからさ……あー中沢がいるけど行かせるのもなぁ…………だれか知り合い――あ、ちょうどいいのがいたか』
「? どなたか都合付く方が?」
『うん。ちょうど暇になって見回りしていたみたいだし――え? ああうん。こっちも何とかできるならいいよ』
「えっと、何の話……」
『じゃあちーちゃんの更衣室ねー……あ、ごめんね。アイツに頼んだからすぐにそっちに行くと思うよ』
「はぁ……わかりました」
すぐに電話が切れて、真耶としては何の話だったんだと思ってしまう。
「ああ、誰かに頼んでいたのか……束さんって携帯二つ持ってる?」
英に連絡を入れたんだから、さっきまでのは英の端末だということをすっかり忘れている真耶であった。当然、束も端末は持っているから自分の端末で誰かに連絡を取っただけだが。
そして、ほどなくして束に頼まれた人物がやってきた。その人物は何か式典でもあったのか、ドレス姿で――着慣れているのかとても様になっている。そして、何度もお会いしている見知った人物だ。
「ごめんください」
「あれ? なんだ神宮寺さんでしたか」
「はい。千冬さんのおバカが危険物を持ち込んだと聞いたので引き取りに来ました」
「あはは……ハイこれです。先輩、無理にでもこれきて衆人環視の前に行きそうなので」
「でしょうね……あの日のことは伝説ですよ…………いったいどうしてああなったのか」
でも、なんだろうか……この人にだけは言われたくないだろうなと思ってしまうのは。
英がいたなら確実にツッコミを入れただろう。変態度なら貴女の方が上だと……いや、最近は千冬の方がひどいかもしれないけど。恐ろしいのは変態行動を自重できるようになった百花か、それとも内なるナニカが目覚めた千冬か。
「ところで、束さんと何か取引していたようでしたが……何をしていたんですか?」
「簡単な話です。英さんとの一日デートで手を打ちました」
勝手に取引の材料にされている!?
真耶は戦慄した。というか本人に断らなくていいのか? そもそも一応彼女だろうにそれでいいのか!?
「ですが……英さんを何とか出来たらいいよと言われてしまって」
「そういえば何だかものすごく疲弊していましたけど――って行っちゃった」
これは好感度アップのチャンス!? 待っていてください英さんと叫びながら走り去る彼女は、なんというか輝いていた。いいなぁ私も恋してみたいなぁなんて思うが、横恋慕はなぁなんて考えたところで……
「そもそも相手見つけなきゃですよねぇ……」
自分もそうだが、今レースで圧勝しているだろう先輩もそういうことに興味はあるのだろうかとも思ってしまう。好みのタイプは間違いなく弟だろうが、実際に恋愛するなら違うはず。
「……だめだ、先輩が誰かに告白しているシーンが思い浮かばない」
男役が似合いそうな人なのに、誰かに告白するシーンが浮かばない。何だろう。そういう部分だけ乙女な反応をしそうな気がするのは。
とりあえず、まあまだ10代だし気にする必要はないかと思い――ちょっと後悔するのはこの数年後である。
「そういえば先輩は……え!?」
千冬は、水の中に沈んでいた。
◇◇◇◇◇
(くそっ! 油断した――)
事の始まりは単純。今回用意されたレースは陸上フィールドを進み、水上フィールドへと移動。その後、離れ小島の上を進み、途中で空中に用意されたコースを進むというものだ。島と陸地がつながったような地形である会場からスタートしてトップに躍り出ており、水上のフィールドを爆走していた千冬だったが――どうやら水中適性を高めたことで、一気に追いついた機体がいたらしく……そのままミサイルを数発喰らい、巨大な鎖と鉄球を巻かれて沈んでいる最中である。
「まったく……暮桜! 被害状況!」
『エネルギー残量68パーセント。損傷軽微。リボルバー使用可能』
「なら大丈夫だ――一気に決める!!」
水中、千冬の手の中ではなく周囲を回転するように雪片が展開される。クルクルと回転しながら、ひとりでに動いて千冬を絡み取っていた鎖を切り裂いてゆく。実のところ、これはイメージさえしっかりしていればどのような体勢だろうと装備をだせることを応用し、千冬が動かしているだけなのだが。出現させる際に一定方向に飛び出るようにイメージし、戻すイメージで回転をつけている。
そして、手に雪片を持ち――一気に水上へ飛び出した。
「はぁあああああ…………ハァッ!!」
背中のスラスターにエネルギーがチャージされ――連続で何度も放出された。
リボルバーイグニッションブースト。千冬が編み出したイグニッションブーストを超えたさらなる加速方法。千冬以外にも使用できる人間はいるが――実際に使用できるレベルとなると彼女しかないだろう。
「――――ッ!!」
「なんで!? 確実に沈めたはずなのに!?」
「――ハァ!!」
「キャァアアア!?」
水中適性は高かったようだが、空中での起動が遅かった千冬を沈めたIS――本人は気づいていない――を切り裂き、踏み台にしてさらに加速する。
「足で踏むなんてー!?」
「まだだ!!」
武器を格納し、エネルギーをスラスターにのみにつぎ込む。
千冬は無駄なエネルギーを使用できないと――好感度ハイパーセンサーの解除、通常ハイパーセンサーの解除、防御用エネルギーも全て推進力へ。零落白夜によってエネルギーの流れを扱いすいように成長した暮桜だからこそ可能な芸当。いや、そこに千冬の卓越した技術が加わったことで普通なら酔うどころじゃすまない動きをしてもどんどん追い抜いているのだ。正にごぼう抜き。
「オオオオオオ!!」
「――あらぁ? なかなか早いわね!! だけどこのラファールに――キャア!?」
「温い! 温すぎる!!」
「な、なんなの!?」
「もっと真剣になれ――先ほどの外道な手は良かった。ああ、これほど張り合いがないとは……かおりを相手にした方がまだ面白かった。だから、私は先へ行く!」
「あ、あああああ!?」
スラスターから放たれた熱はフランスの代表候補生を吹き飛ばし、水面へと叩きつけた。
さらに加速した千冬だったが……もう、追いつける者はいなかった。
「――当然の結果だ」
三次移行した暮桜と、千冬に匹敵するスピードを出したいならロケットエンジンを積んだ方が良い。だが、小回りが利かなくて確実に負ける。
勝負は既に――この数年の積み重ねで決まっていたのだ。
皮肉なことだったが、インベスが最も多く出現する日本において……IS操縦者はどの国よりも強い意志をもって自分を鍛えていたのだ。危険である。だからこそ、人は強くなれた。
「ふぅ……どうだ、国枝」
「相変わらず容赦ないわねぇ……まあ明日の射撃は私の独壇場よ」
「そうか……他の国も火がついただろうから油断するなよ」
「その次の格闘部門の時に同じセリフを言ってやるわ」
ISの損傷や、パイロットの負担を考えて二人で参加だったが……正直助かったと思う。
リボルバーを使用した際……海水を取り込んでしまったためにメンテナンスが長引きそうだなぁと千冬は遠い目をしてしまう。ああ、怒られそう……
「そうだ! 秘蔵の衣装があったのだ!!」
「どうしたの?」
国枝としては面倒なことは早く済ませたいのだが……というか一応メダル出るんだから早く貰いに行けよと。
「インタビューにはやはり正装だろう?」
「スポーツ選手の正装はユニフォームよ。さあ、いきましょうねー」
「まってくれ!? 私の、私のコスチュームが!?」
「代表、真耶ちゃんと変われば良かったかしら…………」
キリっとした表情を作ったのはさすがであるが、国枝としてはコスチュームをいつ取りにダッシュするのか気が気ではなかった。というかいったいなんなんだコスチュームとは。
ちなみに、そのことを後で真耶に聞いて後悔したのは完全なる余談である。
◇◇◇◇◇
「英さん、元気出してください……えっと、ほら――空はこんなに青いですよ」
「でも僕の胃はレッドゾーン。真っ赤ですぜ」
「あはは……ほら、この薬、よく効きますわ」
「……痛すぎて薬も受け付けません」
「あーその……ぱ、ぱふぱふしてあげます」
「それこそ間に合ってます」
「……うう」
「ほら言っただろ。無理だよ。かつてないやさぐれ方しているんだから…………っていうか束さんでもダメだったんだからぱふぱふ二番煎じが通用するわけないだろ」
「ですけど可能性はゼロではありませんわ!!」
「そして、自分がダメージを受けるんだよ……」
「うう…………っていうか英さんのお母様ってなんですのそのオカルト……」
「束さんにも理解の範疇を上回り過ぎてもう何が何だかわかんねぇよ」
「英ーモテモテねー……あらいやだ、向こうのお父さんに花蓮ちゃんが言い寄っていないか心配になってきたわ」
「やめてくれそれ以上衝撃の事実を伝えないでくれ薄々なんかあるんじゃないかと思っていたけどさ――――ゲフッ!?」
「「英(さん)!?」」
英の胃の運命やいかに。
書き溜めが、ない……なんとか一日一話書けるペースが続いていますが、いつ書けなくなることやら……
英はかつてない強敵により、ピンチに陥っています。っていうか大丈夫か主人公(笑)
……これ、いつになったら原作に入れるんだろう…………
こうなったら原作開始までにかかる分量が一番多いのを目指して……いや、流石にそれは…………