わるいなガーネット君、3年半もなかったわ。2年半だわ(ゲラゲラゲラゲラ)
転生ガチャなんてものがあったとして、
現代日本に転生できたのならその境遇は比較的、上等な部類に入るのだろう。
ただ、僕の場合は上等なりに頗る質の悪い要素が付随してきたというだけの話だ。
2009年6月10日*1
その日、僕は三つ子の末弟として二度目の生を受けた。
今生において生まれてすぐの朧げな意識の中で見た最初の情景は、兄と姉を抱く一人の少女。
そして、その肩に留まっている一匹の異形の姿だった。
『
四級にも満たない低級呪霊。
『
2018年から週刊少年ジャンプで連載中の漫画作品に登場する敵キャラ。というか、クリーチャー的存在だ。
つまり、僕が転生したこの世界は―――
そこまで考えて赤子の僕の脳はキャパオーバーを起こした。
知恵熱で朦朧とする意識の中、胃を苛む極大の問題に思いを馳せながらそのすべてを明日の自分に任せることにする僕なのであった。
2009年10月6日*2
産後、療養中の母の誕生日。
今生を得ておよそ4か月弱のことだ。
極大の問題、二次創作的ものの言い方をするならば僕の転生先は『
漫画家 芥見下々が執筆するこの作品は、主人公 【
そして、同年10月31日に発生する『
最強の『
それを契機に始まる惨劇の数々。
東京23区は壊滅し、閣僚級が軒並み安否不明で政治的空白が生じたりと日本社会に及ぼす被害だけでも甚大である。
二次創作の転生オリ主なんかはこの事件を未然に防ぐために暗躍、東奔西走したりするのだがこれを僕に当てはめると既にほぼほぼ詰んでいた。
何故ならこの事件が起きるのは9年後、つまりその時僕はまだ9歳である。
小学3年生のガキに何ができるというのか。コナン君は1年生?ふざけろ!*3
一部界隈ではゴリラ廻戦などと呼ばれるくらいにはフィジカルがものを言うこの世界で子供と大人の体格差というディスアドバンテージは致命的だ。いや、なぜ戦う前提で考えているのか。とはいえ、子供が下手にウロチョロしても狩られて終わりである。逃げの一手に限る。ところで我が家があるのは東京であり、母の勤務先というか勤務地も東京が中心である。逃げ場なくないか?
なにはともあれ、首こそすわったが歯も生えていない今、僕にできることは何もない。
体よ育て!成長ホルモン仕事しろ!!
と、この問題についてはいったん棚上げにして今は目下の問題について考えなければならない。
そう、問題が増えたのである。
母が所属する芸能事務所『
兄も姉もキラキラネーム。かくいう僕もやはりキラキラネームだ。いや、この時分はDQNネームとか言ってたっけ。
【
それが僕の今生での名前だ。
当て字がまるでネット廃人の様な趣を持つくせして、最近流行りの掲示板機能は持ち合わせていない。
あったところで便所の落書きに大した期待など出来るはずもないのでどうでもいいが。
誕生日祝いもそこそこにこの場にいる最後の一人、苺プロダクションの社長【
母の職業はアイドルだ。
アイドルグループ『
その実、隠れて三つ子を妊娠出産をして今後とも隠し通す所存の心臓に毛でも生えてそうな少女である。
歳は今日で17歳。腹を痛めて生んだ子の見分けも現状つかないくらいには母親としてダメな部類。
ミヤコさんの方が余程母親をしてくれている。若い身空なのにホント申し訳なくなる。
17歳の母。星野アイは20歳の誕生日に、つまり今日からちょうど3年後に玄関先で刺殺されその短い生涯を終える。
クロスオーバーとか聞いてないんですけど。地獄のバーゲンセールかよ。
原作担当 赤坂アカ、作画担当 横槍メンゴの漫画作品『【
主人公の産婦人科医【
犯人はアイの元ファンで20代の拗らせオタク。そして、その奥には黒幕がいてそれが転生した主人公達、双子の実父であるらしい。
そう、らしい。僕はアニメ1話しか見ておらずアイの死後どのように物語が展開していくのかを知らないのだ。
1話視聴後、ネットで黒幕にして実父の名前は【カミキヒカル】であるだとかネタバレを食らったりもしたがその情報がどこまで正しいのかも不明。本当に実父が黒幕なのかも不明。僕の中での信憑性は現状、56皇殺し*4のヒグマ*5さんくらいである。そのうち折を見て、母にカマかけでもしてみようかとは思っている。
渋谷事変9歳も無理ゲーだが、刺殺事件3歳も十分無理ゲーでしょ。勘弁しろよ。
そして、『【推しの子】』の世界であるということは、シェアワールドであるらしい『かぐや様は告らせたい』の世界でもあるという事。*6てか、テレビで『
さて、これは詳しくは知らない事だが『【推しの子】』主人公の
自分の事だけでも手一杯なのに、他人の青春の行方まで背負わなきゃいけないとかどんな罰ゲームだよ。いじめかよ。
こうして、僕の胃を痛める理由がまたひとつふたつ増えた。
とにかく時間がない。赤ん坊なのにやらなきゃいけないことが多すぎる。ボスベイビーじゃねえんだぞ。
さしあたり当座のやるべき事はこの身に宿る『
フィジカルも大事だが、術式ガチャはもっと大事なのだ。頼む!出てくれSSR!!!
2010年3月某日
ミヤコさんのストレスがついに爆発した。
およそ9か月、むしろ良く持ったほうだと思う。
つまり、今日がアニメで描かれた双子による家政婦わからせの日なのだろう。
ミヤコさんがアイの母子手帳をスマホで撮っているのを尻目に
二人に僕が同類であるという話はしていない。あるいは気取られている可能性もあるが、とにかく話してはいないのだ。始終、反応の薄い赤ん坊で通している。ばぁぶ。
あれからのこと、僕は自身の中にある呪力を知覚し制御するため瞑想に努め手探りながら一定の成果を収めていた。そして、自身に宿る生得術式についても。
ひょっとすると、呪術師の長い歴史の中で正式名称が別にあるのかもしれないが仮称として『
その効果は、1のものを10にも100にも増幅、或いは増殖させることができるというもの。エネルギー的なものを増幅もできれば、物質を増殖させることもできる。副次効果として、術式に呪力を通すと通した分だけ自身の呪力量が増大するオマケまでついてきた。器の限界というものがあるのでそこから溢れた分を蓄える事はできないが、増えた分はそのまま使えばいいのだから呪力切れとは無縁だろう。
汎用性も高く、強いかはともかく間違いなく術式ガチャSSRクラスだと思う。
使える幅が相当に広い分、頭を使う羽目になりそうなのが玉に瑕だが。
とはいえ、これでも全く安心できないのが呪術師の戦いの恐ろしいところだ。
そして、この術式に関係して僕の体にもある大きな変化が起きていた。
9か月の赤ん坊にしては、発育が良すぎるのだ。
体格はもちろんのこと、乳歯も20本すべてとはいかずとも軒並み生え揃っている。
自分ではよくわからないところもあるが、もう2歳くらいの肉体に成長しているのではないかと考えている。
おそらく僕の術式が無意識的に成長ホルモンか何かに作用した結果なのだろう。
僕の異様に早い成長速度もミヤコさんの精神を苛む原因の一つなのではないかと思うとホント申し訳ない限りだ。逆に、アイは「うちの子すっご!将来は横綱さんだ!!」とかよくわからない喜び方をし、社長はそんな反応のアイにも将来横綱な僕にもドン引きしていた。
さて、現在進行形で神だか神の使いだかを演じる兄姉と恐れおののくミヤコさんを見る。
ここで一つ考えるべきなのは、この流れに自分も乗っかれば行動範囲を大きく広げる事ができ、資金面を筆頭にその他あらゆる面で融通を聞かせる事が出来るのではないかという事。子供の、況してや赤ん坊というか幼児では限界がある。協力者の存在は不可欠だ。
しかし、僕にはそれをするのが憚られた。
何故なら、かなう範囲で徹底して普通の赤ん坊のふりを心掛けたからだ。赤ん坊の当然の権利を行使したからだ。もしも、転生者であることを晒せば兄姉の僕を見る目は汚物を見るそれへと変わるだろう。
この日、僕は究極の選択を迫られた。
2010年4月某日
結局、僕は乗っかることにした。
姉がミヤコさんにイケメン俳優との再婚を約束したあたりで、「とはいえ、手付けもなしではあまりに不憫だ。どれ、汝にささやかながら祝福を授けよう」と術式でミヤコさんの体に流れる正のエネルギーを増幅させる。元々若々しかったがそれに更に磨きがかかり、10代で十分通用するかもしれない。あとついでに両の乳房の膨らみも少しだけ大きくしておいた。
弱った心に兄姉の小芝居によって既にほぼほぼ洗脳は完了していたが、僕のオカルトパワーを前に完オチした。
直接、施術部位に触れている方が術式効果の通りが良いので、増胸手術の過程でミヤコさんの乳房を少し揉みしだいたのもあり、姉の僕を見る目は絶対零度だ。そして、兄に至っては僕が実は転生者だったという事実、僕がミヤコさんの胸を揉みしだく現実、僕がオカルトパワーを持ったサイキックであるという真実を前に驚愕のあまり漫画的表現をするならエネル顔をさらしていた。
かくして、僕が転生者である事が兄姉の知るところとなった。
当然、僕の赤ちゃんプレイについて二人から非難轟々であったが、そこは完全に開き直って対処した。
われ、あかちゃんぞ?ごうほう!
取っ組み合いの喧嘩になった。
「ふたりにかてるわけないだろ!!」
「ばかやろうおまえおれはかつぞおまえ!」
ホモガキなんぞに僕は負けない。*8力こそパワー!これだけ体格差があればふたり掛かりだろうとそうそう負けることはないのだ。あいつら好き放題噛みつきやがって。
アイドルは薄給であるという話をアイとミヤコさんがしている。
姉はその事にショックを受け、兄はまぁそうだろうなと達観している。
「あんたの超能力でママのお金増やしてよ!」とか姉が無茶ぶりをしてきたので、「記番号が全部同じになっていいのなら出来るかもだけどそんな事したら普通に犯罪」と返しておいた。
あれから姉は、色々と容赦がなくなった。やれこのお菓子を増やせだの。「太るぞ?」とか言った日には噛みつき攻撃が飛んでくる。あれ、まじで痛いからやめてくれ。
「なら貴金属とか宝石類はどうだ?」とか兄まで呆けたことを言い出したので、「そいつの出どころを聞かれたらどうする気だよ。税務調査なりが飛んできて面倒なことになる」とこれも窘める。
「超能力つかえねー」とか、失礼なことを言う兄姉。おまえらおぼえとけよ。
まぁ、僕の頭では金儲けに有効な術式の使い方なんて思いつかないのも事実。なので、術式を使わないやり方での金儲けを提案してみることにした。
アイにとって僕がはじめて喋った言葉は、「ユーチューブの広告収入で稼いでみたら?」である。*9
僕はここでちょっとした賭けに出たのだ。
当然、兄姉はエネル顔で何やってんだお前!と声にならない声を上げる。当然だ。普通に考えて、生後10か月とかでこんな事喋るやつはいない。気味悪がられるに決まってる。
ミヤコさんは僕がアイの前で流暢に喋り出したことには特に驚くことはなく神の御心のままといった感じでスルー。僕が投げたユーチューブ広告収入案について真剣に検討してくれているようである。
そして、肝心のアイの反応はといえば、とても驚いた様子ではあったが「うちの子天才!」で済ませていた。生粋の噓つきみたいなところがあるから案外、内心でエネル顔してるのかもしれないし気味悪くも思っているかもしれない。しかし、決してそれを表に出すことはなかった。いつものアイがそこにいた。
後日、僕が流暢に話すのを見て社長は考えるのを止めた。「ガーネットはすごいな!」である。
これを見て、開き直った兄と姉の二人もそう間を置かず喋り出すようになる。「おまえらすごいな!!!」(開き直り)である。
B小町の販促ミニライブ。
兄姉が駄々をこねた事によってミヤコさんに連れられ、僕ら三つ子はそこに来ていた。
ライブ開始直前、くれぐれも目立つ行動はとらないでくださいと兄姉と共に注意される。
ママが心配で来ているのであって遊びで来ているわけではないと宣う二人だがその手に持つコンサートライトは明らかに楽しむ気まんまんである。
ライブが始まり、案の定二人は暴走。無駄に洗練されたオタ芸を披露し、アニメ同様、SNSでたいそうバズった。
そして、ミヤコさんは社長に引き摺られていった。哀れ。
2011年5月某日
兄が以前見学に行ったドラマの監督に気に入られたようで、自分とアイの仕事を取ってきた。映画の仕事である。
僕は最近買い与えられたスマホを使った調べ物を優先してドラマの見学には行かなかったのだが、概ねアニメ通りに【
調べ物というのは、この世界の事。
この世界は呪術廻戦の世界であり、【推しの子】の世界であり、かぐや様は告らせたいの世界でもある。
ぼくはそう推察しているが、実際のところどうなのかはまだ確証を持てずにいた。
だから、そのまる1日。一人になれる時間を利用し、スマホを使いネットサーフィンに勤しむ。
ワンチャン、呪術廻戦ではなく『見える子ちゃん』である可能性に夢を見たが、普通に『
秀知院学園も普通にあった。四宮グループの総帥も【
あとは他にクロスオーバーとかないか、思いつく限りの地名だとかワードを検索に掛ける。これ以上厄ネタは増えてほしくないが、知らずに不意に現れて取り乱したくはない。病巣は早期発見するに限るのだ。
幸い、今のところ他は見つかっていない。今後、現れないとも限らないのでそれほど安心もできないが。
話を戻そう。
つまり、今日はアニメで描かれたメスガキわからせの日。
兄が転生者特有の気味の悪さで以て、鼻の伸びた子役を号泣させるのだ。
重曹を舐めるもとい、十秒で泣ける天才子役と呼び声高い【
アニメ1話以降の展開は知らないが、ここで兄と因縁だか腐れ縁だかを結ぶ事になるのだろう。
あるいはこの子がメインヒロインなのかもしれない。
2012年6月11日*12
満3歳になった僕ら3人は幼稚園に入園した。*13
10月でアイは20歳になる。
そう、タイムリミットまで4か月を切っていたのだ。
あれから体格は小学一年生のそれにまで成長した。ようやっと、コナン君に追いついた運びだ。このまま成長を続けられれば渋谷事変までに「で…俺 小学生だけどどうする?」を地で行き大人の女性を血迷わせるナイスガイに成長できるかもしれない。これからの事を考えると、男性ホルモンだとか筋繊維にも術式を行使して肉体改造を施していくのも手か。目指すは【
呪力制御も術式の運用も自分で言うのもなんだが素人にしてはなかなか洗練されてきたと思う。
児童が集まるからか、幼稚園には蠅頭のような低級の呪霊が散見された。
街中でもそこそこ見かけるが、ここはどうにも少し多い。呪霊が多いといえば何度か行ったテレビ局だとかは建物が広いというのもあるのだろうがとても多かった印象だ。
低級呪霊を的にしながら『
ワンパンで祓えているあたり、バットでフルスイングくらいの威力は問題なく出ているようである。
物を壊すわけにもいかないので、現状これ以外での確かめようがないがこれなら当たりさえすれば仮に戦闘になったとしても、刺殺犯を沈められるだろうと思う。勢い余って、過剰防衛にならなければいいが。『
まぁ、一番無難なのは玄関を開けさせない事であるが、僕が制止しようとチャイムが鳴ればアイは何の気なしに開けてしまうだろう。何かうまい手を考えなければいけない。
ところで僕が言うのもなんだが、兄はもっと擬態すべきでしょ。*14
2012年9月29日
新居に引っ越し、アイの誕生日とドームでのライブを来週に控える中、新居祝いのパーティーを開いた。
社長はアイとB小町の好調ぶりにウハウハで気分良く酒を飲みすでに出来上がってる。
ドームの夢の話。そして大事な時期なのでスキャンダルを起こすなとアイに釘が刺される。
「くれぐれも父親と会おうとはするなよ?」という社長の言葉。
「もちろん!」と頷くアイの言葉が嘘である事を僕は知っている。鎌をかけるなら今か。
「カミキヒカルに電話なんかしちゃだめだからね」
「わかってるわかってる!」とアイが返事をして刹那、顔をひきつらせた。
思ってもみない名前が、思ってもみないやつから出たからだ。そして、それは核心をついていたのだろう。
アイは取り繕おうとしているが、その相槌は致命的なミスだ。
社長も一気に酔いが醒めたのか慌てて問い詰めている。
ここでダメ押しにアイと目を合わせて「公衆電話でカミキヒカルに連絡を取っちゃダメだからね?」と、転生者特有の気味の悪さでもうひと押し。*15
暫く見つめ合い、ため息ひとつ着いた後に観念したのかアイは「何で知ってるの?ガーネットぉ~」と項垂れた。
そこからはお祝いなんて空気ではなくなり、夜が更けても社長によるアイへの説教の嵐。
結局、父親の件についてはドームでのライブが終わった後で色々と詰めていくことになったみたいだ。
2012年10月6日
ついにこの日が来てしまった。
兄と姉は、これから起こることを何も知らずに眠っている。僕は早々と起き、身支度を済ませて「ちょっと外の空気を吸ってくる」と、玄関に向かう。
当然、アイに制止されるのだが「玄関前にいるだけだから大丈夫」と言って扉を開ける。
「一人で平気?ガーネット」
「うん、すぐ戻るから。あっ、それと」
―――僕が戻るまで絶対にこのドア開けないでね。
閉まるドア越しに首を傾げているアイの姿が見えた。*16
玄関の扉に背を預けて待つこと少し、花束を持ったフードの男が現れる。
男は僕を睨み、「まさか、おまえもアイの子供か?」と問うてくる。
僕が「そうだ」と答えれば、男は顔を歪め「ずっと前から裏切ってたのか!?許せない許せない許せない!」と唸るような声をあげる。手に持つナイフに朝日が当たりきらりと光る。
【推しの子】のアニメ第1話を見てから、アイのあの最期を見てからずっと思っていた。この男に聞いてみたかったことがある。
「失われた命は回帰しない。二度と戻らない。なぜ奪う?なぜ命を踏みつけにする?」
「許せないからだ。アイは俺を、ファンを裏切った!アイドルのくせに子どもなんか作って!!馬鹿にしやがって!!!」
男は口角を歪めうすら笑いをし、こちらにナイフを向けて歩み寄ってくる。まずはお前からだと言わんばかりに。
「それが身勝手に命をどうこうしていい理由になるものか。何が楽しい?何が面白い?命を何だと思っているんだ」
心の澱み、僕の心の裡にある仄暗いものが腹の底で焚べられていく。自分でも驚くほどの、たしかな怒りが体を巡る。
体から呪力が溢れ出る。このまま拳を揮えば間違いなく殺してしまうだろう。
男をねめつける。
「っ!??」
男はまるで蛇に睨まれた蛙のように動かなくなる。
殺さず収めるなら狙うは足か。よし、脛を蹴り砕こう。
僕が男に向かって歩を進めようとしたその時だ。ガチャリと後ろの扉が開いた。
「ガーネットぉ、朝ごはんを・・・えっと、あなたは・・・・たしか、【リョースケ】くん?」
男が息をのむ。
「あれ?違った?わたし、人の顔と名前覚えるの苦手だから・・・けど、あなたから貰った『
アイはなんでもない様に話を続ける。男のナイフが見えていないわけではない。僕と男を遮るように僕の前に立つ。
「その花束、もしかしてわたしの誕生日を祝いに来てくれたの?だとしたらとっても嬉しいな」
言葉を紡ぐ。アイから目が離せなくなる。
「今日のライブは来てくれるの?」
男に歩み寄り、ナイフを持った手を両の手で優しく包む。
「最高のライブにするからさ、楽しみにしててよ!」
手からナイフが零れ落ち、それに遅れて花束も地に落ちる。
「ぁ・・ああぁ・・・ぅわぁあああああああ!!!!」
男はアイの手を振り払い、絶叫と共に逃げていった。
騒ぎを聞きつけて近隣住民がちらほら扉を開けて出てくる。
アイは暫く男の逃げていった先を眺めていたが振り向いて、
「どこも怪我してない!?平気?あぶない事しちゃダメでしょ!ガーネットぉ、無事でよかったぁ」*17
へたり込み、僕のことを強く抱きしめる母親の姿がそこにはあった。
2012年11月某日
あれからひと月。
僕たちはあの家からまた引っ越すことを余儀なくされた。
あのあと社長に連絡するとすぐに血相変えて飛んできた。
警察に通報し、やってきた警察官に事情を聴かれる中、ドーム公演は中止だぁとしょげてる社長に向かって「何言ってんの社長!やるに決まってんじゃん!」と、かあさんの強い意向で開演時間に30分ほどの遅れは出たものの、無事開催される運びとなった。
ドーム公演は大盛況で、僕の隣で見ていた兄姉も事件があったばかりなのにそんなこと忘れたかのようにライブに夢中だった。
あの男、リョースケの足取りはすぐに判明した。
駅のホームから線路に飛び込み自殺したそうだ。
何も死ぬことはないだろうに。そもそも、ホントに自殺したのだろうか?
黒幕に消された?わからない。
真相は闇の中だ。
目下の問題は片付いたと言えるが、二の矢三の矢が飛んでこないとも限らない。引き続き警戒は厳にしなければならないだろう。
僕の【推しの子】についての知識はおおよそ使い切ってしまった。
そもそも死ぬはずだったかあさんが生きているのだから、原作展開もなにもないだろう。なんならクロスオーバーしてるし。
新居での荷ほどきも終わり、ここいらで兄と姉、そしてかあさんには僕の身の上を話すことにした。
兄姉は、もともとその特異な境遇から僕の話を受け入れやすいだろうと思ったから。
そして、かあさんについても僕たちがどこかおかしい事はちゃんと解かってくれているだろうと判断しての事だ。
僕の前世について。そこで見た【推しの子】というアニメについて。
兄と姉は最初こそ困惑していたが、僕の話をちゃんと聞いて一応は受け入れてくれた。
【推しの子】の話の過程でついでだからと、兄と姉の前世についても暴露。ホントの意味で二人は感動の再会を果たす事となった。
かあさんはその話を聞いて、「そっかー、それでアクアはわたしのおっぱい飲もうとしなかったんだね」と、長年の疑問に答えが見つかった様子だ。そこでふと、僕と姉を見てニヤリと笑い、「そういえば、ルビーとガーネットはおっぱい大好きだったよね?えっち」と、姉は「私は女の子だったから!セーフだから!」とか必死に反論しているが、僕の方は反論のしようもないことを言われてしまう。結局、恥ずかしさと申し訳なさで、二人で顔を赤くして謝った。
「けど、せんせーってばわたしのこと放り出してどこ行っちゃったんだ!って思ってたけど死んじゃってたんだねぇ」
母さんは兄をまじまじと見てそう言うと、兄は「わるかったよ」と頭を下げる。
「ねぇ、かあさん」
僕の呼びかけに「なあに?」と答えてくれる。
「だいすき、愛してる」
かあさんに抱きつく。
口を開けて呆けるかあさんと、僕を見て目を見開いてる兄妹。
一拍おいて、兄と姉が「俺も!」「わたしも!」とかあさんに飛びつく。
自分にしがみつき抱きつく僕たちをしばし見つめ、
「わたしも、アクアの事が、ルビーの事が、ガーネットの事が大好き。愛してる」
その言葉の後に、両の目から涙をこぼしながら
「ああ、大丈夫!ちゃんとあなたたちの事を愛せてる!!」
この日、僕たちは本当の意味で家族になった。
2016年4月6日
僕たちは小学校に入学した。
クラスは3人、見事にばらけた。
姉はクラスに馴染めているようであるが、兄は幼稚園の頃と同様ひとりぼっちだ。
ぼっちといえば、習慣化しているネット検索でのクロスオーバー探索で『
とりあえず、チャンネル登録と最新の動画に「お前が人間国宝!」とコメントしておいた。
ひとさまのバンド活動の趨勢まで背負ってしまった。気が重い。*18
話を戻そう。
孤高を気取っているがいじめられてないか兄の事が心配だという話。
そして僕はというと、休み時間のたびに校内を見て回り呪霊を見つけた端から祓っていく。
幼稚園で見かけたやつらと違い、ここで見かける呪霊のレベルは1段か2段、上のように感じる。
やはり、幼稚園よか小学校の方が人々の思い出によく残るからなのかもしれない。
こっちとしては、都合よくレベリングが出来ているようで願ったり叶ったりだ。
いまだ黒閃を打てていないが、あと2年以内に成し遂げたいかぎりだ。
『
体格の方はもう中学生と言っても通用するかもしれない。筋肉も適度についていて大変機能的。
あれから3年半。兄は五反田監督のもとに弟子入りし、子役としての道を歩み始めている傍らで制作側の仕事も勉強している。例の重曹ちゃん、有馬かなとは現場でよく一緒になるようで事あるごとに勝負しろと因縁をつけられているようである。やはりメインヒロインでは?いや、幼馴染枠の負けヒロインかもしれない。
姉はというと、兄と同じく子役になるという事はなく、今のところはどこにでもいる夢見る普通の女の子だ。
なんでも「わたしは子役になりたいんじゃなくてアイドルになりたいの!」との事で、演技だとかはアイドルとしての実績を積んでからにしたいそうだ。よくかあさんとスタジオで踊りだの歌の練習しているのを見かける。
顔はいいし、踊りのセンスもあるが歌はどうにもへたっぴだったりする。これにはかあさんも苦笑い。
そしてかあさんは、アイドルグループB小町の日本での人気を不動のものとし、個人でも八面六臂の大活躍をしている。苺プロもそれに合わせて急成長。波に乗っていて、業界での影響力を強めている。社長もイケイケだからどこかで盛大に転んでしまわないかが少し心配だ。ミヤコさんも、今は副社長として苺プロを支える傍らでとんでもなく忙しいだろうに、僕らの参加する行事には必ずかあさん共々参加しようとしてくれるのだから頭が下がる。
神の使い云々は咄嗟に吐いたデタラメである事はすでに明かしており、あの場での真実は僕の超能力だけであるという事も明かしている。前世云々については話せずにいるが、この人と社長にはいつか話せたらなとは思っている。
あと2年半。
生き方は決めた。あとは自分に出来ることを精一杯頑張るだけだ。
大切なこの人たちをちゃんと守れるように、僕は必ず強くなる!
2017年3月某日
「その歳でもう二級を危うげなく祓えるのか。有望だね」
なんで・・・
「こうして顔を合わせるのは初めてだね。星野我愛熱斗くん。ははっ、すごい名前だ!」
どうしてこいつがここに・・・・・・
「可哀そうに。
かあさんがつけてくれた僕の名前を馬鹿にするな!ああ、嘘であってほしい・・・
「私は君の事をずっと見守っていたんだ。改めて自己紹介をしよう。私の名前は」
ゲボ吐きそう、もうやだおうちかえるぅ!!!
後は頼みます。
七海「虎杖くん、見えますか?これが呪力の残穢です」
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いや、全然見えない
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凝!(範囲指定反転pc勢)
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オレでなきゃ見逃しちゃうね(メモ帳転写)
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本当だ混じってるよウケる(誤字報告)