最近色々と流行っている様なので読者諸兄もお気をつけて。
本編の更新はまたそのうちに・・・
2016年7月24日
「この山積みの段ボールは何だ?」
「あ、アクア。丁度いいや、荷解き手伝ってよ」
俺には弟がいる。
俺と同じ日に生まれた三つ子の末弟。
俺や妹のルビーと同じく二度目の生を受けた所謂転生者であるが、その魂の来歴は俺たちとは些か異なる。
「なんだ?これ全部漫画か?」
段ボールを開けば梱包された漫画がぎっしりと詰まっている。
「別に全部漫画ってわけじゃないよ。普通の小説もあればライトノベルなんかもあるし、ゲームも何タイトルか」
「こんなにたくさん買ってどうするんだよ?」
「夏休み期間中に読んだりプレイしようかなと思って」
「宿題を三日で片付けたと思ったらそういう・・・」
「〝あっち〟で見掛けなかったやつとか結構あるからさ」
〝あっち〟というのは弟が元居た世界のこと。
弟のいない星野家を主題に据えた漫画が刊行され、アニメ化されていた世界。
「たとえば、この『ドクロニンジャコノハ』とかこっちだと結構評判だったのに向こうじゃ聞かなかったし」
コミック片手に弟は話を続ける。
「別にコアなオタクって程でもなかったから絶対になかったとは言い切れないんだけどさ」
「なるほどなぁ」
「ゲームで言うとこの『FAIRIES STORY』シリーズなんかも向こうじゃ聞かなかったんだよね」
段ボールからコミックを取り出しながら相槌を打つ。
「ん?少女漫画なんかも読むんだな」
段ボールから『君色オクターブ』なる少女漫画を取り出しながら弟に問いかける。
「少女漫画も面白い奴は結構面白いよ。あ、そうだ」
弟はこっちじゃないあっちでもないと段ボールを漁り回り、一つのコミックを取り出す。
「この『今日は甘口で』って少女漫画なんだけど、『推しの子』のシェアワールドらしい『かぐや様は告らせたい』って漫画に登場した劇中作で登場キャラがみんな絶賛してたんだよね。かあさんも雑誌買って追いかけてるやつ」
『推しの子』。
目の前の弟がいなかった場合の世界で、俺とルビーを主題とした漫画。あるいはアニメ作品。
アイがあのドーム公演の日に刺されてその生涯を閉じてしまう悲劇から始まる復讐劇の話。
弟はアニメ化作品の第一話しか観ていないらしく、その物語がどういう軌跡を辿っていったのかはわからない。
けれど、碌な事にはなっていないんじゃないかと自己分析している。
「ただいまぁ、って二人とも何しているの?」
「なにこれ、漫画?」
二人で出かけていたアイとルビーが帰ってきた。
「そ、夏休み中に読もうと思って注文してたんだ。良かったら二人も読む?」
「今日あまだ!」
アイがコミックを手に取りパラパラと捲る。
ルビーも段ボールを暫く漁ってお目当ての漫画があったのか取り出して読みだす。
『風のタイツ』・・・そういえば、『キンタマシマシ』よく読んでたっけ、さりなちゃん。
ガーネットの方を見れば、『第三飛行少女隊』なる漫画を読んでいる。
これは片付けが長引くやつだなと自分ひとり段ボールからコミックを取り出し整理していると随分と懐かしい漫画を見つける。
『超ヒーロー伝説』。
昔読んでたっけとぱらぱらと捲っていく。
そんなこんなで懐かしさに押されてついつい読み進めてしまい気付けば夕暮れ時。
ガーネットを見れば、先ほどの漫画は読み終えたのか今度は『恋するメトロノーム』なるライトノベルを読んでいた。
ガーネットの隣を見ればいつの間に来ていたのかミヤコさんが座っており、彼女もコミックを手にして読み耽っている。
『生徒会長はNo.1ホスト』。ドラマ化や映画化もしてたな。
残りの2人に目を向ければ、ルビーは懐かしくなったのか『きんたましまし』を、アイは『ももいろ姉妹』なる漫画を読んでいる。
あ、これ本当に終わらないやつだ。
今日中に片すのを諦めた俺は、目についた『緋色のアリステリア』なる漫画を手に取る。
言うまでもなく、その日はリビングを散らかしたまま床に就くことになり片付けは明日に持ち越しになった。
2016年8月2日
「お前ら、頼むから大人しくしててくれよ?」
「社長ってば、僕らの事子供かなんかだと思ってない?」
「いや、お前ら子供だろうが」
「それはそう」
今日は苺プロの新卒及び中途採用面接に弟に連れられて面接官の一人として参加している。
「気になる人に二つ三つ質問を投げかけたりはするかもだけど、別に邪魔なんてしないよ」
「ホント頼むからな?」
「任せてよ、アクアも今日は頼りにするからね」
「そんな期待されても困るんだが」
何故、俺たちがこの様な場にいるのか。
それは、俺たちの生物学上の父親が放っているかもしれない刺客の有無を確認するためだ。
このほど、長年苺プロを支えてくれた事務の【赤沢泉美】さんが年度末で寿退社する運びとなり地元の富山に帰られる事になった。
赤沢さんの地元を聞いたガーネットが顔をひきつらせながら彼女と何かを話し込んでいたが何かあるのだろうか?『夜見山市』。
ともかくそれに合わせて、今まで個々の負担が大きかったこともあり人員の拡充をすべく今日に至る。
アイと俺たち三つ子、そしてそれを狙うカミキヒカルという特大の爆弾を抱える苺プロにとっては今まで及び腰にならざるを得ない選択だったが、赤沢さんの抜けた穴を今の人員だけで埋められるかと言えば土台無理な話だ。
曰く、弟の扱うオカルトパワーは負の感情が力の根源になっているらしく、そういったものをオーラとして視認できるのだと言う。
つまり、就活生の中に他と比べて禍々しいオーラを纏うやつだったり、放出量が多い奴なんかが居れば要警戒という事だそうだ。
フィルターの役割は弟だけで十分な気もするが、万が一にも見落としがあってはならない。
俺にも医者の見地で怪しい奴がいないか見極めてほしいのだと言う。
とはいえ、俺は精神科医ではなく産婦人科医だった。
もちろん、医師として診察という形でこれまで多くの人々と面談してきた経験から洞察できる事もあるだろう。
だが、俺に物語に出てくるような探偵の真似事など出来ようはずもない。
ここまで来た以上、やるだけやってみるしかないがあまり頼りにされても困る。
結果として、特に怪しい人物は見当たらなかった。
弟の方も要注意人物はいなかったと言うが、面接中におそらく別の理由から気になる人物がいたようである。
【木春由乃】という今年度で短大を卒業する女性だ。
目鼻立ち、スタイル共に整っており裏方でなくともひょっとするとやっていけるかもしれない。
そんな彼女の事を最初の方は特に気にした風でもなかったが、〝これまで生きてきて一番嬉しかったことは?〟という質問の答えを聞いた途端顔色を変えスマホで何がしかを調べ出した。
「・・・・椿由乃・・・7年前・・・・間野山・・・チュパカブラ・・・・全部ある・・・・・」
社長の方を見れば、結構好印象そうな雰囲気を醸し出している。
どっちの方でかはともかく、彼女は採用されそうだなとそんな風に思っていた時だった。
「不採用!木春さんの今後より一層のご活躍をお祈り申し上げます!!」
「ええ!!?そんな~!!!?」
「待て待て待て!勝手に決めんな!!」
「社長はちょっと黙ってて!!!」
「んな!?」
「木春さん、悪いけどウチではあなたを雇えない」
「ど、どうして・・・」
「あなたに向いている仕事、あなたを必要とする仕事が他にあるから!」
「そ、それは?」
「国王とか?」
「・・・ガーネット、お前ふざけるのも大概に」
「社長お口チャック!」
顔をひきつらせながら睨み付ける社長を尻目に弟は話を続ける。
「今は意味が分からないと思う。けど、来年の春先にはその意味が理解できるはずだよ」
「いや、でも国王って・・・?」
「2018年度に入ってまだやりがいのある仕事を見つけられてなかったらもう一度おいで。その時はウチでちゃんと面倒見るよ」
木春さんはガーネットと社長の名刺を受け取り狐につままれた様な面持ちで帰っていった。
このあと、弟共々叱られたのは言うまでもない。なんで俺まで・・・
2017年4月24日
「ごめんね朝早くに。助かるよミヤコさん」
「まったくよ、その理由が学校をズル休みしたいからだなんてね」
朝早く、ミヤコさんが家に訪ねてきた。
なんでも弟がズル休みするらしく、俺たちを送迎するためだそうだ。
「どうしても外せない急用が出来ちゃったんだよ。なるべく急ぎのね」
「急用・・・ね。学校サボってまでどこに行こうって言うのよ?」
「ちょっと埼玉は浦見まで。人捜しにね」
「人捜しって・・・探偵でも雇えばいいじゃない」
「そういうわけにもいかないんだよ。厄ネタ系のオカルト案件って事で納得してよ」
放っておくとこっちにまで危害が及ぶかもしれないので知らんぷりも出来ないのだそうだ。
「あまり危ない事はして欲しくないんだけど」
「うん、わかってる。あくまで件の人に会ってちょっとだけ助言をしてくるだけだから心配ないよ」
「まぁ、いいわ。何度も言うようだけど、くれぐれも危ない事はしないように!」
「わかってるって・・・・ところでミヤコさん、最近なんかスポーツとか始めた?」
「あら、わかる?ついこの間からジムに通い始めたのよ」
「そうなんだ?ジムに通わなくても言ってくれれば僕が面倒見たのに」
「うちの近くに去年出来てから気になってたのよ。シルバーマンジム」
「ああ、大手の」
現役の格闘家やボディビルダーなどが多数在籍しており、たしか高峯ら3人も会員だった筈だ。
「そこのトレーナーさん、ガーネットより凄い体してるのよね」
「そうなの?」
「身長は2m超えだし、体格も一回りか二回りくらい違うんじゃないかしら?」
「ま、まぁ?僕の場合、実用重視で動けるように鍛えてるからビルダーさん相手だとどうしても見劣りしちゃうかもね」
「何張り合ってんだよ」
こういうところホント負けず嫌いなんだよな。
「べ、別に張り合ってるとかじゃないし?それはそうとアクアは筋トレとかしないの?」
「話の逸らし方が雑だなぁ。子供の内から変に鍛えても成長に影響するからな。もう2~3年もしたら水泳でも始めるよ」
「水泳かぁ。僕もバタフライだけ習いに行ってみようかな、スイミングスクール」
「バタフライだけ?」
「クロールも背泳ぎも平泳ぎも泳げるからね。〝前〟はバタフライだけ習わずじまいだったから」
「前?」
「いや、こっちの話。ところでミヤコさんって泳げるの?」
「小学校の頃、スクールに通ってたから一通りはね。もう何年も泳いでないけど」
「へぇ。あ、そうだ!今年の夏、みんなで海行こうぜ!!」
「どうした急に」
「思えばみんなで海水浴とか行ったことないなって」
「そういえばそうか」
「みんなで海行くの?」
「あ、ルビー起きてきた」
寝ぼけまなこのルビーがリビングに入ってくる。
「そう、今年はみんなで海水浴行こうぜって話」
「・・・・私、泳げない」
「初めはみんなそうでしょ。浅瀬で水遊びするだけでも楽しいもんだよ。なんなら、海行く前にプールで泳ぎの練習とかしてみる?」
「・・・うん」
「じゃあ、プール開きしたらアクアと友達何人か誘って一緒に行くか!」
「俺も行くのか?」
「当然!アクアもちゃんと泳げるのか確認しとかないとね」
「まぁ、別にいいけど。友達って誰誘うつもりだよ?」
「学校の友達でもいいし、ここはあえて学校違うから普段あんま遊べてないひなちゃん*1とか誘うのもいいんじゃない?あと都合ついたら有馬ぱいせんとか」
「重曹先輩も呼ぶの?」
「都合ついたらね?声かけないといじけちゃうかもだし」
「ぶぅ」
「こっちがいじけてしまったな」
「アクア、役目でしょ。なんとかして」
「無茶振りするな」
「アクアの天然ジゴロっぷりがそもそもの元凶じゃん」
「えぇ・・・・」
人を女たらしみたいに言うな。
「あなた達、海水浴だとかプールだとか言っているけど自分たちの立場を忘れてないわよね?」
「あっ」
アイはもちろんの事、俺や弟も結構な有名人だ。
公共の場だと結構な騒ぎになるかもしれない。
「流石に市民プールだとか普通のビーチに行くのはまずいか?」
「ん~~、あっ例のプールなら」
「いや、論外だろ」
何言ってんだこいつ。
「例のプールって?」
「ルビーにはまだ早い」
ルビーが興味持ってしまったじゃないか、どうしてくれる。
「グラビア撮影とかでよく使われる貸しスタジオのプールがあるんだよ」
「あっ、そういえばB小町のグラビアでも使われてたな」
俺がまだアクアになる前の事だっけか。
「へえ、ところでそれのなにが早いの?」
「それは・・・」
言い淀む。なんと言い繕おうか?
「エッチなビデオの撮影にも使われてるからじゃない?僕はよく知らないけど」
「んな!?」
「僕はよく知らないから詳しくはおませなアクアに聞くといいよ」
「おまえおぼえとけよ」
「別にいかがわしい場所というわけでもないんだけど、あそこ飲食とか厳禁なのよね。気になるならホテルのプライベートプールのある部屋を取ればいいんじゃないかしら?たしか、六本木のグランドハイアットのプレジデンシャルスイートがプール付きなのよ」
「それだ!」
ミヤコさんの提案に弟が名案とばかりに飛びつく。
というか、例のプールだのホテルのプライベートプールだの使わなくても、
「いや、普通に区民センターのプール貸し切ればよくないか?」
「「あ」」
プールの件は、区民センターのプールを貸し切る方向で話が纏まった。
ミヤコさんの作ってくれた朝食を4人で食べているときの事。
「そういえばガーネット、ニュースバリュージャパンさんから連絡があってね。蒸留所の方々、あの話に乗り気なんですって」
「え?何の話?」
「ほら、去年壱護と一緒に取材受けてたでしょ?」
「ああ!そういえばあったね、そんな事も。皐月ちゃんから?」
「松前さんはフリーで活動してる方だから・・・というかガーネット、40半ばの女性にちゃん付けはどうかと思うわよ?」
「本人から許可もとってるんだし別にいいじゃん。なに?ミヤコさんもちゃん付けで呼ばれたい?」
「結構よ」
「ちぇっ、ざんねん」
「言い出しっぺなんだから、先方とスケジュール調整して話を聞いてきなさい。これ、担当の安元さんの連絡先」
弟がカバンから取り出したメモをミヤコさんから受け取る。
「う~い」
「言い出しっぺって?」
ルビーの質問にガーネットが答える。
「びーこまのみんなでウィスキーのテイスティングとブレンドに挑戦して完成品の味を競うみたいな企画をね、取材のときに思い付きで話したんだけどたぶんそれかな?」
「ウィスキーってお前未成年だろ?参加できないじゃん」
「僕は飲まないよ、香りだけ。ホントにやるなら助っ人を呼ぶつもり」
「助っ人?」
「そ、助っ人。スケジュール押さえられるかは分かんないけどね?」
ガーネットはその助っ人については濁したが、なんとなく察しは付く。
「取材の時にどういう流れからだったか忘れたけど、お酒の話になってさ。そこから話が広がってウィスキーの話になったんだ」
麦茶の入ったグラスを軽く回しながら、弟は話を続ける。
「んで、初めて飲んだウィスキーの銘柄はなにかって話になったんだけど二人とも同じで『駒田蒸留所』で製造されてた『独楽』ってやつらしいんだ。社長は大学の先輩に連れられていったバーで、皐月ちゃんは旦那さんが飲んでるのをかっぱらって飲んだんだって。当時、未成年だったっていうんだから飛んだ非行少女だよねぇ」
『独楽』。
随分と懐かしい名前を聞いた。
昔よく飲んでたっけ。けど、
「私も壱護から独楽の事を聞いて気になって調べた事があるんだけど・・・・」
「東日本の震災で設備だとか原酒がダメになっちゃったみたいで作れなくなっちゃったんだってね。で、今残ってる分もほとんど市場に出回らないし、あっても数百万とか平気でするし。社長の誕プレ用に結構な散財する羽目になっちゃったよ」
「いや、お前買ったのかよ」
「この前見たら出品されてたから。ミヤコさんと出し合ってね。あと成人した自分用に一本、確保しといた」
「自分の分も買ったのか」
「だって幻のお酒とかちょっと気になるじゃん。心配しなくてもアクアとルビーにも飲ませてあげるよ。てか、成人祝いに家族みんなで飲む用のお酒だから」
「てか、そんなの家にあったか?」
「天王洲にある貸金庫に入れてるから家にはないよ」
麦茶を呷ったガーネットはグラスに新たに注ぎ、
「どこまで話したっけ?」
「独楽が作れなくなったところまでじゃないか?」
「そうだった。設備だの原酒だのを失った蒸留所はウィスキーの製造から一度は撤退したんだけど、そこの娘さんがお父さんから引き継いで新社長に就任して一昨年にクラフトウィスキーの『わかば』ってのを造ってヒットさせてるんだって」
麦茶で口を濡らしてから話を続ける。
「で、二人ともそのわかばも飲んだらしくてヒットしてるだけあって好評だったよ。」
「ねぇ、さっきから言ってるゲンシュって何?」
ここでルビーが話に加わってくる。
「原酒ってのはウィスキーの素になるお酒かな?材料とか作り方とか保管方法が違う原酒を混ぜ合わせてウィスキーは作られるんだって」
「へ~」
ルビー、よくわかってなさそうだな。
「僕もテイスティングだとかブレンドだとかはあの日初めて知ってね、その時 思いつきでびーこまのみんなでブレンデッドウィスキー作れたら面白いよねって話をしたんだ。せっかくなら話に出た駒田蒸留所さんに協力してもらって~とかなんとか。皐月ちゃんが駒田さんのところと懇意にしてる記者を知ってるから今度聞いといてあげるって言ってたからお願いしてたんだけど、その後音沙汰もなかったしダメだと思ってたら知らない間に話が進んでたみたいだね・・・・ってやべ、もうこんな時間だ」
残ったご飯を掻きこみ、グラスに残った麦茶を飲み干してから弟は席を立つ。
「時間だから僕はもう出るけど、ミヤコさんあとお願いね」
「はいはい、あなたも気を付けて行ってきなさいね」
「うん、じゃあ行ってきます」
弟は身支度を整え、リビングを後にし玄関のドアが開閉する音が弟の出立を俺たちに知らせてくれた。
「あ、そういえば言い忘れてたわね」
皿を洗いながらミヤコさんが唐突にそんな事を言う。
「何を?」
ルビーの問いに、ミヤコさんが返す。
「今日、浦見にはアイが散歩番組のロケで行ってるはずだからひょっとすると出くわすかもって話。知らせてあげたほうがいいかしら?」
「別にいいんじゃないか?それくらい」
「それもそうかしら」
さっきのうらみだ。出くわしてズル休みをこってりと絞られるといいぞ。
2017年4月24日 16:03
さいたま市大宮区 焼肉 高麗庵
「え?真希ちゃん死んだん?」
広々とした高級感漂う個室で、雲丹とキャビアで彩られた和牛のユッケを摘まみながら、片手間にタン塩を焼く書生風の男が薄ら笑いを浮かべて黒のスーツ姿の女の話を聞いている。
「いや、禪院真希四級術師じゃなくて禪院真依四級術師ッス。禪院直哉特別一級術師。あと、まだ死んだと決まったわけでは・・・」
「ああ、真依ちゃんの方か。若い身空で可哀そうになあ、真希ちゃんがあないな身の程知らずやなかったら死なずに済んだのに」
「いや、だからまだ死んだと決まったわけでは―――」
「死んどるよ、報告途中に通話途切れてから連絡取れんのやろ?」
「――――」
閉口する女を余所に禪院直哉と呼ばれた男はユッケを食べ終え、焼けたタン塩をレモンダレに漬けて口に放り込む。
「とりあえず、首が疲れるから座ったら?」
「え?あっはいッス」
女が向かいの椅子に座ろうとするが、直哉はそれを制止し
「そっちやなくて、こっち」
直哉が指さすのは足元。つまり床である。
女は引きつりそうになる顔を努めて抑え、直哉の足元に跪く。
女が跪いたのを見計らったかのようなタイミングで、一言断りを入れた店員が赤身肉の盛り合わせと白ご飯を持って入ってくる。
跪く女に気付いている筈だが、一瞥もくれる事なく「ごゆっくりどうぞ」の一言を残して早々と去っていった。
「で、なんやっけ?真依ちゃんが死んどると思う根拠やっけ?」
直哉はトングで赤身肉を次々と網の上に乗せながら話を続ける。
「高専の担任のところに連絡が入ったのが今から10分前の15時55分頃。同じ一年の子との任務終わりに現地で解散して散策してたところで帳も張らんと街中で争ってる術師だか呪詛師に遭遇やっけ?」
「・・・ハイッス、野球帽にマスクとサングラスで顔を隠して水色のジャケットを羽織った大柄な男の術師と白髪の一部を朱色に染めた小柄のおかっぱで袈裟を着た術師が交戦。おかっぱの後ろには額に大きな縫い目の付いた40代頃の女性術師が控えていて、男の方は非術師の女学生を一人庇っていたみたいッス」
「おかっぱの術師は氷の術式使うてて、周囲一帯氷漬けなんやろ?甘く見積もっても準一級、下手したら特級かもやね。その三人の術師の実力が実際どうか知らんけど、仮に等しく一級相当としようか。おかっぱ達が呪詛師で女学生庇ってる方が在野の呪術師と仮定して、呪詛師が一人戦力を温存してる中で呪術師の方は足手まといがおる。真依ちゃんが見つかって攻撃されとるやろうから足手まといが二人や。一級言うてもピンキリやけど、庇いながらとなると上澄みの俺でもちょっとしんどいやろね」
焼きあがった赤身肉をタレに漬けて次々と頬張り、新しく赤身肉を網に乗せていく。
「ともすると呪術師の男がとれる道は大きく分けて三つ。一つ目は足手まといを置き去りにしてしっぽ撒いて逃げる。呪詛師が女学生の子をどうしたいのかは知らんけど、目撃者の真依ちゃんを生かしとく理由はないやろうから殺される。二つ目はこれも足手まといを見捨てて自分のリソースのすべてを呪詛師に向けて戦う事。足手まといが居らんかったら二対一でも勝ちの芽があるかもや。この場合も真っ先に目撃者として消されるか、おかっぱの術式の範囲攻撃なりに巻き込まれて死ぬ。んで、三つ目」
焼き上がった肉を一度たれに漬け、白ご飯と一緒に口の中に掻きこむ。
もぐもぐと咀嚼したのち、嚥下してからこう続ける。
「三つめは足手まといを見捨てられずに三人仲良くお陀仏や。ほら、どのパターンでも真依ちゃん死んどるやろ?」
「けど、今からでももしかしたら間に合―――」
「間に合わんよ。俺は何も真依ちゃんが憎くて言うとるわけやないんやで?真希ちゃんなら喜んで見捨てるけど」
心底楽しそうな顔で直哉は語る。
「朝から飲まず食わずで今やっと昼飯に、時間考えたら夕飯か。夕飯にありつけとるわけやけど、腹ごしらえ先に済ませんと力出せんくて勝てる戦いも勝てなくなるやん?高位の呪詛師二人、場合によっては男の方も呪詛師って可能性もあるんやし。せやからこんな美味いもん食うてるのに酒は入れとらんのやで?」
うちのパッパやったら構わず酒かっ食らっとるわと締めて食事を続ける。
「し、しかし―――」
「分からんやっちゃなあ」
尚も食い下がろうとする女に直哉はただでさえ吊り目の眼を更に吊り上げ睨み付ける。
「補助監督風情がこの俺に意見するんか?」
呪力を滾らせ睨まれた女は恐怖で体を竦ませて呼吸も出来ず何も言えなくなる。
「なんて冗談冗談♡」
途端に威圧感が霧散、思い出したかのように窒息寸前の体が嘔吐きながら荒々しく呼吸を繰り返す。
「けど、ホントに助ける気あるんやったら近くにおるからって任務でくたくたの俺やなくて、悟君に話持っていくべきやったね。飯食わずに向かったとしても、悟君の方がどこに居ってもはよ着いたんやない?」
「エホッエホッ・・・五条さんは今、特級案件で北海道に・・・・」
「ふ~ん、真依ちゃんもつくづく運がないなあ」
直哉は楽しげに笑い、肉を食らう。
「明ちゃんやっけ?デザート食ったら現場向かうから、エンジン掛けて準備しとき」
「は、ハイッス!!」
息も整いつつあった補助監督 新田明は早々と部屋から立ち去り逃げるように車へと向かっていった。
「真依ちゃんが死んだって、真希ちゃんが知ったらどんな顔するんやろうね?」
くつくつと笑いが漏れる。
「まあ、骨は拾ったげるよ」
それから直哉が会計を済ませて店を出たのは16時半を少し過ぎた頃の事である。
『ドクロニンジャコノハ』
月刊シノビでかつて連載していた大人気漫画。
現在は完結済み。
『FAIRIES STORY』
イーグルジャンプ制作のRPG。
現在は4まで出ている。
『君色オクターブ』
君に届け風のピュアな少女漫画。
『今日は甘口で』
吉祥寺頼子先生による大人気少女漫画。
絶賛連載中。
『風のタイツ』
後藤可久士先生による大人気?ギャグマンガ(オブラート)。
週刊少年マガジンにて大人気連載中。
『キンタマシマシ』
後藤可久士先生の前作。
こちらも人気を博したギャグマンガ(オブラート)。
死の淵で〝ある少女〟が趣味のアイドル鑑賞や片恋相手との語らい以外で、一時笑う事が出来た。
完結済み。
『第三飛行少女隊』
月刊トップスにて連載中の野亀武蔵先生作の漫画。
単行本100万部を超えるヒット作でアニメ化もされた。
『超ヒーロー伝説』
90年代に週刊少年ジャンプで連載していた川口たろう作の漫画。
『恋するメトロノーム』
霞詩子著のライトノベル。
全五巻。完結済み。
『ももいろ姉妹』
百合姉妹が主人公の漫画。
『緋色のアリステリア』
高良田概 作のファンタジー伝記ものの漫画。
アニメ化もされている。
【赤沢泉美】
富山県夜見山市出身。33歳。
苺プロで事務をしていたが、2017年3月末で寿退社。地元に帰る。
【木春由乃】
2017年の春に短大を卒業。
昨年の面接で言ってた通りの状況になりつつあり、狐につままれた様な顔をしている。
国王ってこれの事ぉ!!?
『シルバーマンジム』
世界的にも有名なフィットネスジム。
東京都首括市の支部では一部界隈からマッスル大明神と称される男がトレーナーを務めている。
『例のプール』
皆さんご存じのアレ。
プール構内での飲食厳禁の貸しスタジオ。
七海「虎杖くん、見えますか?これが呪力の残穢です」
-
いや、全然見えない
-
凝!(範囲指定反転pc勢)
-
オレでなきゃ見逃しちゃうね(メモ帳転写)
-
本当だ混じってるよウケる(誤字報告)