ゲボ吐きそう、もうやだおうちかえるぅ!!!   作:星ざくろ

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 異譜(もしも)の話はよして、現実の話をしよう。


【青のすみか】-弐- ③

2017年4月24日 15時12分

ファミレスチェーン『Radish 浦見店』前

 

 「ええ!?禪院さんは食べていかないんですか?」

 

 「嫌よ、ラディッシュなんてどこにでもあるじゃない。それに女性店員の制服が下品なのもいただけないわね」

 

 「え~?かわいい制服だと思うけどなあ」

 

 「そう、趣味の悪い事」

 

 「そんなぁ~・・・」

 

 呪術高専京都校の1年、三輪霞と禪院真依は呪術実習を兼ねた遠征任務に遥々この埼玉は浦見までやって来ていた。

 

 祓除対象の呪霊は数こそいたが、四級の二人から見ても大した強さはなくあっさりと祓われた。

 

 任務を終え、補助監督にJR浦見駅前まで送迎された二人は本来なら東京校で所用を片付けている京都校の教員である庵歌姫と東京駅で合流し、帰路に着くところだったがちょうど昼下がり、お腹を空かせた三輪が駅前にあるラディッシュを見つけて親睦も兼ねて二人で遅めの昼食にしようと提案し今に至る。

 

 「わるいけど私、あなたと馴れ合う気はないの」

 

 そう言ってすたすた歩き去ろうとする真依を三輪が呼び止める。

 

 「えっ、あ、ちょどこへ!?」

 

 「どこでもいいでしょ?集合は改札前に16時半。それまで自由行動よ」 

 

 今度こそ話す事はないとばかりに、歩き去っていく真依を半端に伸ばした手を彷徨わせながら、寂しげに見送る三輪なのであった。

 

 

 

 三輪を駅前に放置し、辺りを散策しながらさて集合時間までどの様に時間を潰そうかと思案する真依。

 

 別に小腹が空いてないわけではない。

 

 どこか喫茶店にでも入って昼食を済ませるのもいいかもしれない。

 

 と、そこでそういえば以前顔合わせをした親類、伏黒恵が住んでいるのが丁度この辺りだった事を思い出す。

 

 たしか、家のすぐ近くに競馬場があるだとか、彼の隣にいた五条悟がそんな事を言っていたのを憶えている。

 

 目についた店でクレープを一つ買い、真依は散策を続ける。

 

 彼の住む家の詳しい所在なんて知らないし、この際会えなくても別にいいのだ。

 

 目的もなく散策するのもつまらないから、暇つぶしに伏黒と書かれた表札でも探してみようかと、ただそれだけの事。

 

 

 それが自身を死地に追いやる選択になるとこの時は思ってもみなかった。

 

 

 

 

 

 

 

2017年4月24日 15時52分

 

 目の前には額に大きな縫い目のある女。

 

 背後には髪を後ろで結んだ学生服の少女。

 

 女は興味深げに、少女は困惑気味に僕を見る。

 

 埼玉は浦見にある人気がまるでない裏路地で僕らは出会ってしまった。

 

 テーマパークに来たみたいだぜ。

 

 テンション上がるなぁ~

 

 

 上がるかバカタレ!!!

 

 

 もうだめだ、おしまいだぁ・・・・

 

 いったい何をやっているんだ僕は!

 

 回れ右して逃げればよかったんだ!!

 

 それを、なんで僕は初対面の少女を背に庇っているんだ!!?

 

 ヒーローなんて柄じゃないだろうが!!!

 

 「常駐の術師がいると踏んで、帳を張らずに済ませようとしたのが仇になったかな?」

 

 縫い目の女が僕を見てそう言う。

 

 そう、この女こそが呪術廻戦の黒幕。

 

 肉体を乗り換え、千年の時を生きる呪詛師。

 

 名を羂索。

 

 本体が脳みそである事から、ファンの間では『メロンパン』の蔑称で呼ばれる存在だ。

 

 今の肉体の名前はおそらく【虎杖香織(いたどりかおり)】。

 

 彼女のガワを被ったまま原作主人公 虎杖悠仁を妊娠出産した変態である。キッショ。

 

 こんなのでも千年生きているだけあって特級相当だ。

 

 今の僕が勝てるべくもない。

 

 万事休すか?

 

 「あんた、今自供したようなもんだけどそういう事でいいんだよな?」

 

 「自供?はてさて、なんの事かな?私はただ、彼女に少し用事があって声を掛けただけだけれど」

 

 「今のご時世、声掛けも立派な通報事案だろ。不審者とくだらない問答をするつもりはない。きえろ、ぶっとばされんうちにな」

 

 僕の記憶違いでなければ、わざわざ伏黒津美紀を狙ったわけではなかった筈だ。

 

 器としての何らかの適性とかはあったのかもしれないが、たとえば夏油とは違い、計画上必ずしもこの少女である必要性はない。

 

 術師とのいざこざを面倒くさがってこの場は引き下がってくれる可能性!

 

 もはや、僕の活路はそこにしかない様に思えた。

 

 「不審者ね。君の方がよっぽど不審者といった風体だと思うけれど?」

 

 僕の装いが不審者のそれだって?

 

 別におかしなところなんて無い筈だ。

 

 赤いTシャツにサックスブルーのジャケット、黒のスキニージーンズと革靴。

 

 ああ、あと人の目から逃れるべく、その辺の店で買った黒の野球帽に白マスク、デフォルト装備のサングラスくらいか?*1

 

 「あ、あの・・・」

 

 背後から声が掛かる。

 

 「〝俺〟を呼んだのは君だろ」

 

 「え?」

 

 「ボディーガードからデートのエスコートまで、何でもお引き受けしましょう。人呼んで、シティーハンター!」

 

 僕の素性を羂索に知られたくない。

 

 顔を隠していたことが幸いした。

 

 丁度それっぽい恰好をしているんだし、このまま自分を【冴羽獠(さえばりょう)】と思い込んでいる精神異常者のふりをしていよう。

 

 「シティー・・・ハンター・・・・?」

 

 「冴羽獠だ。お嬢さんのお名前も聞いておきたいところだが、まずはそっちのをなんとかしようか」

 

 少女の方から女の方へと向き直る。

 

 「それで?退くのか退かないのかどっちにする?」

 

 呪力を練り上げる。

 

 それでいて全身から力を抜き、いつでも動き出せるように備える。

 

 

 「・・・そうだね」

 

 

 

 女は両の手を胸元に持っていき、まるで手の甲側で合掌するかのような素振りを見せ―――

 

 

 

 「いや、やめておこう」

 

 

 両の掌を顔の横でひらひらさせる。

 

 「やってやれなくもないが、今手札を無意味にひけらかしても仕方がない」

 

 その言葉に安堵する。

 

 あとは伏黒恵経由で五条悟に保護させれば、伏黒宿儺フラグを一つへし折れる。

 

 まだまだ油断はできないが、両面宿儺の手札を一つ削ぎ落とせるかもしれない。

 

 原作の続きがあの後どう転んだのかは分らないが、五条悟がなんらかのデバフ無しに復活したなら敗北する事はまず無い筈だ。

 

 とはいえ、腐っても千年前の最強。

 

 十種影法術が有する最強の式神、『八握剣異戒神将魔虚羅(やつかのつるぎいかいしんしょうまこら)』と合わせて挑まれれば万が一にも相討ちに持ち込まれる恐れがある。

 

 つまり、五条悟を欠いた状態で羂索と『一億呪霊』を相手取る事になる恐れがあるという事だ。

 

 一億呪霊がどれほどの怪物なのかは分からないが、仮に『シン・ゴジラ』クラスの超存在が爆誕すれば残りの戦力で勝ち目があるとは思えない。

 

 いや、そもそも死滅回遊の終了条件が宿儺と羂索以外のプレイヤーの全滅だっけか。

 

 なら、羂索を残りで袋にすればなんとかなるのか?

 

 いや、裏梅もいたか。

 

 というか、あいつもプレイヤーじゃないのか?

 

 しれっと見捨てられてない?*2

 

 だめだ、わからない。

 

 原作知識も所々あやふやだ。

 

 こっちに来てもうじき八年か。

 

 そらそうなるというもの。

 

 そもそも、原作を当てにするわけにはいかないのだ。

 

 大前提として、死滅回遊はもちろん渋谷事変も断固阻止だ。

 

 ただでさえクロスオーバー時空。

 

 僕のやらかしもある。

 

 原作でそうだったからと言ってこっちでも必ずそうなるとは限らないのだ。

 

 下手な原作改変もまずいが、逆に原作通りに事態を推移させようとごり押したり放置して、高専側の死傷者が増えて自然呪霊側が生き残るなり羂索に取り込まれるなんて事態になったらホントに笑えない。

 

 泉美ちゃんの例もある。

 

 いや、僕はアニメの方しか知らないわけだけど原作小説だとひょっとして泉美ちゃんって生存してたのか?

 

 そもそも僕の知る彼女が『死者』であるという可能性もある。

 

 とはいえ、事務所内のデスクだとか書類を漁ってみたが何ら不審な点は見つからなかった。

 

 恐らくそっちは杞憂だろう。そう思いたい。

 

 だいたい現象が起こるのは夜見山市だけだった筈だ。

 

 いや、水着回の時は『死者』が運転する車で夜見山の外に出てなかったか?

 

 細かな設定なんて最早思い出せない。

 

 それこそ何年前の話になるのか・・・・*3

 

 彼女の話を信じるならば、詳しくは知らないらしいが2005年以降は〝専門家〟が夜見山の諸問題に対処していて〝ある年〟の死人もほぼほぼ0に抑えられていると聞く。

 

 恐らく呪術高専の関係者だろう。

 

 こっちだと呪霊の仕業になってるのか?

 

 だとするなら既に祓われている筈だが、毎年対処していると言うあたりそう単純な話でもないんだろう。

 

 いずれ泉美ちゃんの顔見がてらに夜見山を見て回るのもいいかもしれない。

 

 

 ひょっとすると、そんな今はどうでもいい事に頭を巡らせていたのがいけなかったのかもしれない。

 

 

 「ホントにね、見逃してあげても良かったんだけど。君さ、運が悪いね」

 

 「あ?」

 

 

 「氷凝呪法 霜凪」

 

 

 咄嗟に女学生を庇うように抱き寄せ足裏で地面を素早くタップ!

 

 羂索の言葉がなければきっと間に合わなかった。

 

 タップした地面から波紋が広がるように簡易領域が展開される。

 

 結界術の基礎、その本質とは内と外を分かち隔てる事。

 

 結界術である以上、簡易領域においてもその機能は備わっている。

 

 この隔離の性質、結界術としての基本性能を瞬間的に増幅できる最大値まで術式で強化!

 

 自身の背を盾にして、簡易領域が突破されても女学生に少しでも冷気が及ばぬ様に包み込むようにして固く抱きしめる!!

 

 直後、簡易領域が背後から押し寄せる冷気を堰き止め受け流していった!

 

 辺り一面が一瞬にして凍り付き、大きく飛び退いた羂索の足元近くまでそれが続いている。

 

 「簡易領域で術式を中和した?いや、なんらかの縛りで強化した簡易領域の外殻で冷気、いや過冷却された呪力を受け止めいなしたのかな?それとも・・・・」

 

 「ちっ、シン陰か」

 

 白黒の袈裟姿、後頭部から側頭に半円状に伸びる滲んだ朱色で彩られた白髪のおかっぱ。

 

 中性的な見た目、実際に見た印象としては骨格、しゃれこうべの形からして恐らく女か?

 

 名を【裏梅(うらうめ)】。あの両面宿儺が重用する料理番である。

 

 つまり、こいつも千年前の術師。特級相当の恐らく受肉体だ。

 

 「ところで裏梅、ひょっとして私まで氷漬けにするつもりだった?」

 

 「おまえはちゃんと躱すだろうが。それよりもこんな餓鬼共相手に何を手を拱いている?」

 

 「ほら、今の私って戦闘向きじゃないからね。伏せ札は使いたくないし。そんなわけで手早く頼めるかい?裏梅」

 

 「世話の焼ける・・・」

 

 僕を挟んで話をするな。

 

 前と後ろを塞がれた!

 

 直感、肌感覚でわかる。

 

 今の僕ではこの二人をまとめて相手にするのはいくら何でも荷が重い!

 

 いくら戦闘向きではないと言っても、羂索から感じるこの圧力は間違いなく特級相当!

 

 口ぶりからして、おそらく重力の術式や領域展開を天元様に見られたくはないのだろう。

 

 というか、そもそもこいつは術式をいくつストックしているのか?

 

 薨星宮(こうせいぐう)における戦いでは『呪霊繰術』と『反重力機構(アンチグラビティシステム)』の二つを使用していた。

 

 『呪霊繰術』は今は考えなくていい。

 

 『反重力機構』は確定として、最低でもあと一つ何らかの術式を所持している可能性がある。

 

 立ち回り次第では羂索がそのカードを切ってくるかもしれない。

 

 そして、裏梅だ。

 

 こいつの術式『氷凝呪法(ひこりじゅほう)』。

 

 その練度、出力共に凄まじく、反転術式の使えない僕では一発でも貰えば即お陀仏くらいに考えておいたほうがいい。

 

 半端に氷漬けにされるくらいなら対抗策が全く無いわけではないが彼女は絶対に持たない。

 

 「冴羽さん・・・」

 

 胸元で不安そうに僕を見上げる彼女に大丈夫だと微笑みかける。*4

 

 「ちょっと失礼」

 

 「きゃっ!?」

 

 「そういえば、君の名前を聞いてなかったね」

 

 「えっあっ・・・津美紀です。伏黒津美紀・・・・」

 

 「津美紀ちゃんか。いい名前だ」

 

 伏黒津美紀で確定と・・・

 

 全てをかなぐり捨てて逃げ出したい弱気な心に鞭打ち、彼女を姫抱きにして呪力を滾らせる。

 

 こいつらをこの場で打倒する必要はない。

 

 今必要なのは、津美紀ちゃんを連れて一刻も早くこの場から離脱する事だ!

 

 呪力で強化した脚力をさらに増幅し、羂索の横を一気に駆け抜ける!

 

 すれ違いざまに何かしてくるかと思ったが視線が交錯するだけで何もして来ない!

 

 不気味だが今は都合がいい!このままこいつらを撒いて逃げるだけだ!!

 

 飛来する氷の礫を躱しながら背後を見れば裏梅が手を宙に挙げ氷の槍を回転させ今まさに投擲せんとしている!

 

 回避!と考えて、ハッとする。

 

 先ほどの氷の礫が氷の壁に変形し行く手を阻んでいる!?

 

 「いやいや、殺意高すぎでしょ!」

 

 逃げ道は最早上くらいにしかない!

 

 だがそれは明らかな悪手だ!!

 

 さっきみたいに簡易領域で防ぐ?

 

 いやだめだ、食い破られる!

 

 あの螺旋槍にはそれだけの凄みがあった。

 

 「死ね」

 

 放たれる刹那、僕は空へと跳び上がる!

 

 つい数瞬前にいた場所を槍が貫き壁となっている氷の悉くを薙ぎ払った。

 

 あれに当たらなかった事への安堵。

 

 その気の緩みから薄ら寒い現実に突き戻したのは眼下で次弾の準備を既に整えつつある裏梅の姿だった。

 

 それだけに留まらず、今しがた薙ぎ払われた氷の残骸が再び礫となりその矛先がこちらに向けられている!

 

 隙の生じぬ二段構えッ!!

 

 だから殺意が高すぎなんだって!!!

 

 武空術を使えない僕に最早逃げ場はない。

 

 いちかばちかで術式を用いて『月歩(げっぽう)』に挑戦してみるが脚はただ空を切るだけだ。

 

 裏梅は既に投擲体制に入った。

 

 その背後で薄ら笑いを浮かべている羂索のなんと憎たらしい事か。

 

 ああ、今槍が放たれた。

 

 この瞳に映る全てがひどく緩慢に感じる。

 

 これが今際の際ってやつなのかな?

 

 自称『魔女』も人が悪いよな。

 

 こんな事なら〝去年の夏〟みたく助言してくれりゃあ良かったのにさ。

 

 僕の生き死には彼女にとって些末な事だったのかもしれない。

 

 だからって別に妬ましいだとか、〝あの子〟を助けなきゃよかっただとかそんな事は露ほども思わない。

 

 魔女にその場所まで導かれたのは事実だ。

 

 けれど、結局あの子に手を伸ばしたのは僕なのだから。

 

 〝2014年のパリ〟でのアレにしてもそうだ。

 

 口車に乗せられたとはいえ、結局それを選んだのは僕なのだから。

 

 

 

 なにはともあれ、〝詰み〟かな。

 

 これが将棋なら形作りをするところだろうか。

 

 まぁ、僕の場合は最後まで意地汚く足掻くスタイルだったが。

 

 そもそもボードゲーム全般が苦手だ。

 

 『有栖ちゃん』には結局負け越しっぱなしだったな。

 

 その分じゃんけんでアホほど負かしてやったが。

 

 槍が中ほどに差し掛かった。

 

 この窮地を脱する術があるのか念のために考察しておこう。

 

 『シャウト』で薙ぎ払う?

 

 ダメだ、一瞬遅い。

 

 『月歩』が完全に余計だった。

 

 放つ前に槍がこの身を穿つ。

 

 津美紀ちゃんを盾にする?

 

 論外だ!

 

 盾になるべきなのは寧ろ僕の方だろう。

 

 とはいえ、それは後に続かない行動だ。

 

 この高度から落ちれば彼女は恐らく死んでしまう。

 

 何かないのか?

 

 なにか―――

 

 

 

 ―――ジッ

 

 「簡易領域は習得しといて損はない。この業界でやっていくならそれこそ習得は必須項目と言ってもいいだろう」

 

 幽々さんと二人並んで店主の話を聞く。

 

 「昨今、この簡易領域の習得にある種のセンスが求められるかのように思われがちだが別にそんな事はない。教える側が下手くそなんだろうさ。俺に言わせりゃあ精々早いか遅いかの違いだ」

 

 そう言って、店主が地面を足裏でタップして簡易領域を展開してみせる。

 

 「簡易領域は、シン陰流の開祖が彌虚葛籠(いやこつづら)を基に開発した弱者の領域」

 

 「イヤコツヅラ?」

 

 幽々さんが首を傾げる。

 

 「簡易領域の普及以前に術師の間で使われていた領域対策の結界術だ。簡易領域の方が使い勝手がいいのもあって失伝してしまった」

 

 「葛籠って言うくらいだから蓋の付いた網籠みたいな形なんじゃないかな?」

 

 更に言えば球状である事を僕は知っているが、知るはずのない事なので黙っておく。

 

 「そうだな、せっかくだから見せてやろう」

 

 「「え?」」

 

 「言いたい事は分かる。失伝してしまったものをどうやってと言いたいんだろ?」

 

 店主は珍しくどこか自慢げにこう続ける。

 

 「散逸していた彌虚葛籠について記述された古文書を寄せ集めて研究して、遂には再現に成功したのさ」

 

 「おお~」

 

 「なるほど」

 

 結構時間掛かったんだろうなあとしみじみ思う。

 

 「では、お見せしよう。これが」

 

 ――――

 

 

 津美紀ちゃんを落とさないように気を付けつつ手を組み、振り降ろしざまに指先を掌の内に納める。

 

 奥義 彌虚葛籠

 

 

 ―――ジジッ

 

 「呪力特性というものがあるのを知ってるかな?」

 

 「呪力そのものが電気だとか、炎に似た性質を持ってたりするアレの事か?」

 

 夏油がスパーの合間、小休憩の最中にそんな事を聞いてきた。

 

 「そうそう、変わり種で言うとただ花の香りがするだけなんてものもある」

 

 「へぇ・・・」

 

 それはさぞかし残穢とか見つけやすそうな。

 

 隠密行動には向かなそうだな。

 

 「誰もが持っているわけではない。高専時代に親交のあったメンツで言うと君くらいだったね」

 

 「いや、持ってねえし。そもそも親交もねえし生まれてねえし」

 

 またぞろ可笑しな事を言い出したと辟易していると夏油がこう続ける。

 

 「そうと知らなければ、自覚が出来ない程度には微弱なものだからね。悟に指摘されるまで気付いてなかったみたいだし」

 

 「五条悟とかあった事もねぇんだけど」

 

 「フフッ、話を戻そうか」

 

 あった事ねぇんだけど(震え声)

 

 「君の呪力はほんの少しだけ粘り気、粘性を持っている」

 

 「お餅みたいに?」

 

 「まあそうだね。とはいっても君のそれはとても微弱なものだ。単体では大した意味を成さなかっただろう。君以外では・・・」

 

 「僕以外では?」

 

 「呪力特性の粘性を増幅するんだ」

 

 「粘性を増幅ってなんだよ」

 

 「言いたい事は分かる。けど、出来てしまっていたんだから仕方がないよ」

 

 「えぇ・・・?」

 

 「頭は柔軟にした方がいい。一貫性は必ずしも重要ではないのさ。それが術式の解釈を広げる上でもカギになる」

 

 「そんなもんか?」

 

 「そんなもんだよ。この業界、適度に馬鹿な奴の方が強い」

 

 悟とかもその口だね。はははと笑う。

 

 「粘性を増幅して鳥黐みたいにして呪詛師や呪霊の動きを制限したり、そうだ!鳥繋がりで言えば冥さんの神風(バードストライク)を彌虚葛籠の外殻に纏わせた粘性呪力を回転させて往なしてみせてたよ。たしか、灘神影流―――」

 

 

 ―――

 

 迫る螺旋槍を葛籠の外殻に沿う様に回転させた粘性呪力で絡め取り軌道を変えて受け流す。

 

 弾丸滑り

 

 続けざまに飛来する氷の礫も同様に受け流し、それら全てを眼下の裏梅とその後ろに控える羂索へと投げ返した。

 

 「ちっ」

 

 決殺の布陣だったから、油断というか意表を突けるかと思ったが、裏梅にしろ羂索にしろ難なく全弾交わされる。

 

 しかし着地までの時間稼ぎには十分!

 

 「津美紀ちゃん、目と耳を塞いで口を開けて!」

 

 「え・・・はい!」

 

 目と耳を塞ぎ口を開く津美紀ちゃんを視界の端に捉える頃には、僕の肺は容量いっぱいの空気に満たされていた。

 

 そしてそれだけの時間が取れたのなら!!

 

 「イエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエェーーーーイ!!!!」

 

 道幅に沿う様に収束させた『シャウト』を放つ!

 

 口元のマスクは弾け飛び、地面のコンクリートが捲りあがっていく!家々の外壁や塀を削り取りながら衝撃波が裏梅らを飲み込む!!

 

 一拍遅れて、或いはほぼ同時に隣家の窓ガラスが砕け散っていった。

 

 残心。

 

 キーンと耳鳴りがする中、土煙に包まれた前方を見つめる。

 

 裏梅は確実に直撃したように見えたが、羂索に有効打を与えられたかは不明だ。

 

 そもそも反転術式がある以上、当たっていても復帰してくる公算が高い。

 

 抱えている津美紀ちゃんが無事なのを確認して、急いでこの場から離脱すべく走り出す。

 

 とにかく距離を稼がなければ!

 

 それかひと気の多い所までいけば流石に諦めてくれるかもしれない。

 

 取り敢えずの目的地を浦見駅にして、恐らく先ほどの螺旋槍でぶち抜かれたであろう電柱を跨いで角を右に曲がる。

 

 

 「ッ!!?」

 

 

 曲がったすぐ傍で人が倒れている。

 

 左の肩口から先に腕は付いていない。

 

 抉り取られたかのような傷口から溢れる鮮血が地面とその人物、女の顔と衣服を汚している。

 

 黒の学ランを思わせる装い、サルエルパンツに似た構造のパンツにハイカットブーツ。

 

 残されたもう片方の腕にはリボルバータイプのピストルが握られている。

 

 学ランについたボタンの校章にも見覚えがある!

 

 「!!?さ・・冴羽さん!!」

 

 「なんて事だ・・・!?」

 

 浅い呼吸をしながら辛うじて意識は失っていないのか、どこか眠たげにそれでいて睨むように僕の事を見つめている。

 

 まさか【禪院真依(ぜんいんまい)】!!?

 

 なんでこんな所に!!!?

 

 「君、呪術高専の生徒だな?」

 

  とにかくそのままにはしておけない!

 

 そう思い、彼女に手を差し伸べるが―――

 

 「―――ッ」

 

 残された右腕、リボルバーを握る腕に力が入る。

 

 「俺は君の敵じゃない!」

 

 リボルバーを握る腕が徐々に上がっていく。

 

 「津美紀ちゃん、俺の背中に」

 

 津美紀ちゃんを後ろに下がらせ、リボルバーのグリップの下に手を添えて銃口が僕の心臓に向くように持ち上げる。

 

 「ッ!?」

 

 「冴羽さん!!?」

 

 「状況を端的に説明すると敵は特級相当の呪詛師が二人、戦って勝てる相手じゃないから今からこの子と君を担いで浦見駅まで撤退する。分かったら瞬きを一回だ」

 

 暫くの逡巡の後、瞬きが二回返される。

 

 「君を置いて行けって言うのか!?」

 

 瞬きが一回。

 

 「見捨てられるわけがないだろ!!?」

 

 クソッ、埒が明かない!

 

 「津美紀ちゃん、背中におぶさって!」

 

 「冴羽さん!?彼女を見捨てるんですか!!?」

 

 「時間がない!早くしろ!!」

 

 次の瞬間にも奴らが復帰してくるかもしれない!

 

 何か言いたげな顔をして渋々僕の背に津美紀ちゃんが負ぶさる。

 

 津美紀ちゃんの膝の裏に腕を通し、推定禪院真依を姫抱きにして持ち上げる。

 

 「ッ!!?」

 

 「冴羽さん!!」

 

 「君一人を死なせやしない!」

 

 推定禪院真依が藻掻いているが碌に力が入らないのだろう。

 

 僕の腕から逃れられずにいる。

 

 失血がだいぶ進んでいるのかもしれない。

 

 体内の血液を増殖させ走り出す。

 

 肩口から流れ出る血の量が増し、僕の胸元から下が彼女の血で染まっていく。

 

 服がベトベトと肌に密着して動きづらい。

 

 脚を伝い地面を汚すそれが、残穢どころじゃない痕跡を派手に残してしまうが止むを得ない。

 

 

 闇より出でて闇より黒く、その汚れを禊ぎ祓え

 

 

 「ッ!!」

 

 「失敗失敗。ホント、最初から帳を張っておけばこんな事にはならなかったのかな?」

 

 僕らの前方からひたひたと羂索が歩いてくる。

 

 回り込まれた!

 

 時間をかけ過ぎたか・・・

 

 「裏梅も大口を叩いた割に油断して結構いいのを貰っちゃうしさ。厄日だね、ホント」

 

 「厄日ね、それはこっちのセリフなんだけど」

 

 「たはは、違いない。ちょっと目を離したすきに手荷物も一つ増えてまあ」

 

 「厄日ついでに見逃してくんない?俺はもう帰って不貞寝するからよ。お前らもそうしろよ」

 

 「残念ながらそれは出来ないね。君、見逃してあげるにはちょっと強すぎるんだよ」

 

 私の計画の邪魔になりそうだしだめー。と、憎たらしい笑顔を浮かべて肩に下げたトートバッグから水筒を取り出す。

 

 「まあ、私も鬼ではないから選ばせてあげるよ。私有利の雁字搦めの縛りを受け入れるか、ここで死ぬかの二者択一でどうかな?」

 

 羂索が水筒の蓋をくるくると回して開けると中からどす黒い何か、群体のそれが飛び出てくる。

 

 「『呪蜂繰術(じゅほうそうじゅつ)』、自分の呪力に浸した蜂を自在に操る術式さ」

 

 術式の開示か!?

 

 「見た目が随分と変わってしまったけど、この呪蜂達のベースになっているのはオオスズメバチという種類でね。あ、勿論この種に限定しているのは縛りだよ」

 

 「術式の開示とか狡い真似しやがって」

 

 「その呪蜂達を一つの壺に入れて絶えず殺し合わせてるんだ。蟲毒って知っているかな?そうして選りすぐった呪蜂がこの子達だ」

 

 両手が塞がり、脚も血に濡れて重い。

 

 やれるのか?

 

 「さて、答えを聞こうか?」

 

 今度こそ詰みではないか?

 

 「私を捨ててあなた達だけでも逃げなさい!」

 

 そう言うのは生気の戻ってきた推定禪院真依だ。

 

 「・・・参考までに君の名前と術式を教えてもらえたりできる?」

 

 「ッ。お生憎様、私の術式は『構築術式』。この状況をひっくり返せるような術式じゃないわ」

 

 「名前は?」

 

 「そんな事――」

 

 「いいから」

 

 彼女の口元に耳を寄せる。

 

 「・・・禪院真依よ」

 

 「真依ちゃんか、良い名前だ」

 

 禪院真依で確定と。

 

 「呪力効率はこっちでなんとかする。生憎と手が塞がっているから攻め手は任せるよ」

 

 「え?」

 

 「あと、僕が息を大きく吸い込んだら目と耳を塞いで口を開けといて」

 

 「ちょっと待って!」

 

 「どうやら交渉決裂のようだね」

 

 「痛っ!!?」

 

 背負っている津美紀ちゃんが突然痛みに身を捩じらせる!

 

 振り向けば彼女の首元に蜜蜂が留まり、そこを基点に彼女の体に紋様が広がっていく。

 

 「縛りでオオスズメバチに限定していると言ったね。あれは嘘さ」

 

 「ッ!!?」

 

 「強襲用のこの子達の他にもいくつか取り揃えているのさ。その子は隠密用。普通の蜜蜂と違いはほとんどない。君達の前に姿を現す前に放していたんだ。たはー」

 

 威圧的な翅音と共に仕掛けてくる呪蜂たち!

 

 真依ちゃんがリボルバーで応戦するがひらりと躱される。

 

 「クソッ!弾切れよ!」

 

 「排莢して弾丸は構築術式で補充して!呪力は俺が何とかする!!」

 

 「その術式、なかなか興味深いね」

 

 「ッ!!?」

 

 「背中の彼女、非術師じゃあんまり長く持たないだろうね。ほら、急いで私を倒さなくちゃ」

 

 なんなら君も術式の開示でもしてみたらどうだい?そしたら勝ちの目も出てくるかもよ?と宣う羂索。

 

 「クソッ最悪だ」

 

 もうこいつをどうにかして倒すしか道はない!

 

 スゥゥゥゥッ―――

 

 大きく息を吸い込む。

 

 馬鹿の一つ覚えなのは分かっている。

 

 だが両手を塞がれている以上、もはやこれしか手段がない。

 

 「イ――ッ!!!?」

 

 背後に突然現れたそれに回し蹴りを叩きこむが血みどろの両腕がそれを受け止められ凍り付くッ!

 

 「屈辱だ。こんな餓鬼相手にこの様な深手を・・・宿儺様に知られれば何と言われるか・・・・」

 

 クソッ、術式で威力を増幅すべきだった!

 

 もはや火傷とか炭化を気にしている場合じゃない!!砕かれる前に『燠火(おきび)』で―――

 

 「ッぅあああああああああ!!?」

 

 「があッ!!?」

 

 ―――絶叫。

 

 自身のうめき声なぞ覆い隠してしまうほどの、背中にいる彼女の叫び声が響く。

 

 彼女と彼女に覆われていない背中を呪蜂の毒液が灼く。

 

 「まずは足をひとつ」

 

 そちらに気をやっていた一瞬で右足を砕かれたッ!!?

 

 反撃せんと息を吸い込むが―――

 

 間髪入れずに飛来した呪蜂に喉を裂かれるッ!!

 

 裂かれた傷から血が溢れ、口からは衝撃波は放たれずただ喀血するばかり。

 

 裏梅の手が僕の胴へと伸びる。

 

 せめて二人を巻き込むまいと、一瞬でも長く生き永らえるように手放し振り落とす。

 

 苦し紛れに術式で威力を増幅した拳を揮うが、手打ちなせいもあってか片腕を犠牲に受け止められ、もう片方の手を横から添えられ氷結し握り潰される。

 

 片足じゃ腰が入らない。

 

 残ったもう片方の腕を振りかぶるが振りぬくより早く内に入られ抱き締められた。

 

 ああ、だめだ。

 

 今度こそ―――

 

 「死ね」

 

 胴が凍り付き胸元から鯖折にされ砕けて上半身が後ろに倒れる。

 

 腹から下の一本足で直立する下半身を眼下に納めながら地面に落ちた。

 

 「ッぅ」

 

 僕の上半身と地面に挟まる少女の呻く声がかすかに聞こえる。

 

 もしも僕が余計な事をしなければ、真依ちゃんは死なずに済んだかもしれない。

 

 津美紀ちゃんも守れなくてごめんね。

 

 ひたひたと歩いて来た羂索が僕の今際の際の顔を上から覗き見ている。

 

 「念のために頭も潰しておこうか」

 

 最後に見る光景が中年女の履いてる靴裏になるなんてついてないなぁ。

 

 ぐしゃりと顔に広がる痛みを最後に僕の意識は途絶えるのだった。

 

 

 

2017年4月24日 16時37分

苺プロダクション 談話室

 

 「―――二人もひどいと思うよね!?」

 

 「まったくだよ!マじゃなくてアイ以上のアイドルなんていないのに他に目移りしちゃうなんてまじありえない!!」

 

 「あいつ、どんだけ高田ちゃんが気になってんだよ・・・」

 

 学校の授業を終えて放課後、迎えに来てくれたミヤコさんの車に乗り収録を終えてもう間もなく事務所に帰ってくるというアイを出迎えるべく俺とルビーの2人は自宅ではなく事務所に寄る事とした。

 

 アイは事務所の方針で苺プロの誰がしかが必ず送迎する事になっているのでその時に一緒に帰ろうという腹積もりだ。

 

 事務所の談話室で待つこと十数分、アイが事務所に帰ってきたが俺達二人の顔を見るなり泣きついて来た。

 

 「ルビー、今は他に人がいないからいいけどお願いだからみんながいる前で失言とかしないで頂戴ね。アイも」

 

 「うぇ、わたしも!?」

 

 「はーい」

 

 「伸ばさない」

 

 「はいはい」

 

 「ハイは一回!」

 

 「ハイ!」

 

 「よろしい。まったく、自分の腹を痛める前からこんなやんちゃな子供たちが4人も出来ちゃうなんてね」

 

 タブレットを操作しながら、ミヤコさんが横目にアイとルビーを窘める。

 

 「そういえば、ミヤコさんは社長とは子供つくんないの?」

 

 ルビーがすごくセンシティブな事を話題にしてしまう。

 

 「そうだよ!高齢出産?は危険だって言うし急いだほうがいいよ!早くしないと羊水腐っちゃう!」

 

 「だまらっしゃい!」

 

 「ぶぇ、いひゃいいひゃい!」

 

 アイが地雷を踏み、ミヤコさんに鼻を引っ張られる。

 

 「とれひゃうとれひゃう!」

 

 「アイ!早く謝るんだ!」

 

 「ご、ごべんなしゃいぃ」

 

 「よろしい」

 

 アイの鼻を引っ張り上げていた手が離される。

 

 「う~、取れちゃうかと思ったよ」

 

 「失礼しちゃうわ、これでもガーネットのおかげで肉体年齢は若いままなんだから」

 

 ガーネットの能力、術式とかいう超常の力。

 

 どんなものでも1を10にも100にも増やす事が出来る能力。

 

 ミヤコさんはその能力の恩恵を受け、生命力に溢れ未だ20代前半―――ひょっとすると10代でも通用するかもしれない。

 

 「それで、子供は作らないの?」

 

 ルビーが改めて聞く。

 

 「そうねぇ・・・」

 

 と、ほんの少し逡巡したのちに

 

 「わたしもあの人も色々と多忙だもの。きっと子供をつくる事はないでしょうね。苺プロにとってはまだまだ大事な時期が続いていくだろうし」

 

 「そっかぁ・・・」

 

 「それに、もう子供はいるんだもの。わざわざ無理して作ろうとは思わないわよ」

 

 「後悔しない?」

 

 アイが問う。

 

 「ええ」

 

 ミヤコさんが答える。

 

 「そっか」

 

 「そうよ」

 

 「あ、けどそういえばガーネットが自分より下の子が欲しいとかこの前言ってたような?」

 

 「え?」

 

 「へ?」

 

 ルビーがそんな事を言い出した。

 

 「なんかね、この前ウィーンに行った時にかずき君?って子と遊んであげたらしいんだけどその時に自分も下の子が欲しくなったんだって」

 

 「下の子・・・下の子かぁ・・・・ヒカル君に頼むわけにもいかないし他に誰か探さないとかぁ・・・・・」

 

 「馬鹿言ってんじゃないの。あの子がどうしてもっていうならいざという時は私が何とかするわよ。あの人、まだ勃つかしら?」

 

 「おいおい」

 

 この際ミヤコさんはともかく、アイは勘弁してくれよ。

 

 このなんとも言えない空気を換えたくて、なんとなく俺は部屋に備え付けられたテレビを点ける事にした。

 

 『―――御覧の通り、辺り一面焼け野原!瓦礫の山です!浦見区での原因不明の大爆発で浦見競馬場近くの住宅街が完全に焼失!既にほとんどが鎮火していますが現場に駆けつけた消防隊員たちによって未だに残る火の消火と生存者の捜索が今も続けられて』

 

 「え?」

 

 ヘリから見下ろされた所々に赤が残った黒々とした何かの映像。

 

 俺たちはただ、テレビのその光景に釘付けになった。

 

 「ガーネット・・・?」

 

 はっとして、それぞれがいっせいにガーネットに連絡を取ろうとしたが結局繋がらなかった。

 

 ラインの既読が付くことはなく、折り返しの電話が掛かってくる事もないまま。

 

 何十、何百とコールを続けながら空しくもただただ夜が更けていくばかりだった。

 

 

 

*1
不審者御用達の装い

*2
本誌では記述がなかったが、単行本25巻においては裏梅の受肉体の名と思しきものが追記されている。

*3
綾辻行人原作・いとうのいぢキャラクター原案の学園ミステリホラーTVアニメ『Another』は 2012年1月から3月にかけて放送されていた。2023年の4月から遡って凡そ11年と少し。今作の経過時間と合わせて19年弱になる。

*4
マスクとサングラスで彼女からは見えていない




『Radish』
 神奈川発祥のファミレスチェーン店
 店によって様々だが、女性店員の制服が過激な支店がそこそこ存在する。
 オーナーは医師を兼業する老実業家で最近は芸能事務所も立ち上げたとか。

【三輪霞】
 呪術高専京都校の1年。4級術師。
 ちょうどいい等級の任務が関西圏にたまたま存在せず、同級生の禪院真依と共に埼玉まで遠征しての呪術実習に来ていた。
 当初は担任の庵歌姫が引率する予定だったが、東京校での所用が出来補助監督に二人を任せる形に。
 任務自体はそう難しくなく無事に対象呪霊の祓除は完了。
 補助監督側に別の仕事が入り、二人は公共交通機関を使い東京まで戻る事になる。
 空腹もあって、東京に戻る前に禪院真依に駅前のファミレスで親睦を深めようと提案するが断られてしまった。
 一人寂しくファミレスで食事を済ませ、時間までオレンジエードをちびちび飲みながら暇をつぶしていたが担任の庵歌姫から連絡が入りファミレスから飛び出す!
 お会計を済ませていなかったので食い逃げ。

【禪院真依】
 呪術高専京都校の1年。4級術師。
 呪術御三家が一つ、禪院家の女。
 姉の真希のせいでなりたくもない呪術師への道を歩まされて不貞腐れている。
 周囲がすべて敵に見えているかもしれない。
 任務終わりに時間まで散策していたらうっかり死域に足を踏み入れてしまった。
 帳も張らずに術師同士が争っている現場に遭遇。担任の庵歌姫に連絡を入れるが流れ弾が飛来し盾にして隠れていた電柱ごと肩口から腕を持っていかれた。
 通話中だったスマホはその時に破損してしまう。
 見つかるまいとなんとか悲鳴を上げず声を押し殺していたが、吹き飛んだ肩口から血が溢れ失血状態で意識が朦朧とし出していたところに争っていた術師の片割れに助けられる。
 冴羽と呼ばれる呪術師と共闘するが相手が強すぎた。
 増血状態が断たれているのでなる早で処置をしないと失血死する。
 三輪ちゃんの提案に乗ってファミレスで親睦を深めていればデッドエンドフラグが立たずに済んだが後の祭り。

【伏黒津美紀】
 伏黒恵の義姉。
 下校途中に額に縫い目のある中年女性に呼び止められ手を翳されていたところに覆面の不審者が割り込んできて困惑していた。
 そこから目まぐるしく事態が推移。
 命の危険を肌で感じ取り、一時的に呪いが見えるようになっている。
 シティーハンターを名乗る男の心臓の音がバクバク鳴る中で自身の鼓動がそれに共振し吊り橋効果が発生。
 マスクの取れた冴羽の顔を見てどこかで見た様な?とか思っているが出てこない。
 羂索の呪蜂に刺されて体を呪毒に侵され、挙句背中にも呪毒を散布されて焼け爛れてしまっている。
 瀕死の重体。今この瞬間に息があるのが奇跡。

【羂索】
 来年あたりの開催を目標に祭の準備をしていたら変なのが湧いて出てしまって困り顔な主婦風の中年女性。
 額に一本線の縫い目がある。本体はメロンパン。
 当初、覆面の男も女学生も見逃してあげても良かったのだがタイミングよく適任者が来たので方針を変更した。
 お手伝いを頼んでいる知り合いが思った以上に役立たずの醜態を晒していてしょうがないので手伝ってあげる事に。
 虎杖香織の前の身体の術式『呪蜂繰術』を使う。
 強襲型のオオスズメバチタイプは蟲毒でその見た目も大きく変わり禍々しく機動力、攻撃性能、毒性ともに更に凶悪になっている。
 隠密型の蜜蜂は見た目も呪力の質もその性能も自然界のそれとほとんど変わらないが、非術師が死に瀕するほどの毒性を持つ呪毒を身に宿している。
 他にも何タイプかを水筒を分けてトートに忍ばせている。
 覆面の男には結構興味をそそられる部分があったが、千年越しの大事業の総仕上げが間近なので実力的に障害になり得る彼はここで排除する事に決めた。
 すごく勿体なくも感じながら腰をひねって目が虚ろな彼の頭を足で踏みつぶしにかかった。

【裏梅】
 早く主に会いたい料理番の氷室女。
 痒い所に手が届くらしい。
 大味な凍結攻撃や氷の刃を辺り一面にまき散らしている。
 ひょっとすると野次馬に来た住民とか建物の中にいても流れ弾を受けて死人や怪我人が出ているかもしれない。
 優勢だったがなめてかかって若造相手に大ダメージを受けてしまう。
 地味に反転術式が使えなかったら死んでたかもしれない。
 人生においても屈指の大失態。3指には入るほどの屈辱を味わう。
 協力者の羂索の助けを受け片足を砕き、片腕も砕き熱い抱擁をもって胴も砕いて若造を屠ってみせた。
 〝特級〟の戦跡、浦見(ここ)に刻む!!

『有栖ちゃん』
 ガーネットと担当医が同じの女の子。
 先天性の心疾患を患っているらしい。
 待合スペースでよく一緒になったのが交流のきっかけ。
 そこでチェスをはじめとしたボードゲーム全般で襤褸雑巾のように負かされたり、じゃんけんのような動体視力だったりあるいは瞬発力を求められるような遊びで逆に負かしたりして遊ぶ仲だった。
 チビッちゃいがこう見えて今年から高校生。
 ある全寮制の高校に入学しており、校則が厳しいらしく在学中は連絡が取れないらしい。

【冴羽獠/演:星野我愛熱斗】
 俺を呼んだのは君だろ。
 ボディーガードからデートのエスコートまで何でも引き受ける無敵のスイーパー。
 その名もシティーハンター!だと自分の事をそう思い込んでいる精神異常者のふりをするクソガキ。
 愛銃は真依ちゃんから借りてどうぞ。
 空中でなんとか移動しようと無謀にも『月歩』に挑戦するが、いくら脚力が足りていても空気の面を捉えていないので空しく空を切る。
 『弾丸滑り』に彌虚葛籠を使っていたがアレに必要なのは球状の結界なので必ずしも彌虚葛籠が必要というわけではない。クソガキが使える結界術のバリエーションで球形なのがアレしかなかっただけである。内と外を隔てる結界としての外殻を形成、強化。落花の情に近い挙動で粘性呪力に触れた呪力や物質を自動で絡め取り球状結界の外殻に沿って後ろに流したり逆に相手に投げ返したりする。
 神風クラスにもなると完全に受け流すのは困難で体に当たらないように逸らすのが精々。防御性能で言えば簡易領域を素直に強化した方が強度が高い。
 性能だけで言えば裏梅の螺旋槍も簡易領域で防御できる可能性はあったが、使い手のクソガキが防ぎきるイメージを出力できずにいたのでやっぱり貫通されていたかもしれない。
 だってあれドリルだぜ?防げる気がしない。と、グレンラガン履修者の弊害が出ている。
 1対1なら、あるいは足手纏い無しならひょっとすると逃げ切れたかもしれない。
 回し蹴りを裏梅に受け止められて凍らされた時には中まで完全に凍り付く前に、対象の分子振動を増幅して発熱させて発火させたりする拡張術式である『燠火』を自傷覚悟で行使しその熱を伝播増幅して氷を解かそうとしたが羂索の呪毒散布に気を取られた隙に芯まで凍らされ足は砕きもがれた。
 それなりに善戦したが当然敗北。
 次元斬で空港送りにされた五条悟みたいになっている。
 傷口が凍結していて喉以外はほとんど出血していないので五条よりは死ぬまで幾許かの猶予があるかもしれなかったが念入りに頭部をグシャリされた。
 繰り返しになるが、オイルマイトは間に合わない。
 え、今からでも入れる保険があるんですか!?

 お願い、死なないで我愛熱斗!

 あんたが今ここで倒れたら、真依さんや津美紀さんの命はどうなっちゃうの?

 ライフはまだ残ってる。ここを耐えれば、羂索たちに勝てるんだから!

 次回『我愛熱斗死す』デュエルスタンバイ!


 反転術式は頭で回すが、呪力は腹で練るもの。

 頭と腹が分かたれた状態ではあの五条悟ですらそのまま絶命した。

 星野我愛熱斗も裏梅に胴を砕かれ頭と腹が分離してしまっている。

 もし仮に、死の淵で反転術式に目覚めても素となる呪力を練る事が出来ないという事だ。

 つまり―――

 「これって……」

 「ああ、裏梅の勝ちだ」



『魔女』
 まったく、人が悪いだなんて失礼しちゃうわ。
 この件については、〝去年の夏〟に既に手は打ってあるのだけど。
 いえ、正しくはあなたが―――

七海「虎杖くん、見えますか?これが呪力の残穢です」

  • いや、全然見えない
  • 凝!(範囲指定反転pc勢)
  • オレでなきゃ見逃しちゃうね(メモ帳転写)
  • 本当だ混じってるよウケる(誤字報告)
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