その1
2016年 6月10日
小学校に入学して初の誕生日。
僕たち三つ子は七歳になり、例年よりも少しだけ豪華な誕生日会が開かれた。
我らが最推したる星野アイといつも何かとお世話になっているミヤコさん、社長も忙しい中しっかりと時間を作って駆けつけてくれた。
テーブルの上に並べられている料理もさることながら、今年はゲストが6人。
内3人は有馬かなとそのお母君、あと五反田監督。
有馬は子役として切磋琢磨し合いながら兄とは随分と親密な関係になったようである。
腕を絡ませてまるで恋人の様に兄に寄りかかっている。微笑ましい。
これ、高校生編が始まる前に兄を取り巻く色恋の勝負とか決まってしまうんじゃなかろうか?
もし恋敵とかいたのなら、有馬かなのパーフェクトゲームか?
そんな二人の間に割って入って有馬に威嚇する姉。
絶賛厄介な小姑として有馬の恋?の行く手を阻んでいる。
ところで兄に向ける姉の視線があれ以来、どうにも熱っぽいというか湿度高めなものに変化したように感じるから少し不安だ。
恋敵としてではなく、小姑として威嚇してるんだよね?そうに違いない!*1
やいのやいのと3人が騒いでいるのを尻目に僕は大人たちの側に混ざってなんて事はない談笑にふける。
残る3人はB小町創設メンバーである【高峯】【ニノ】【渡辺】である。
ここにデビュー直前で滑り込んだアイを合わせてB小町の初期メンバーというわけだ。
割とつい最近まではギクシャクというかグループ全体で関係最悪だったのだが、僕がある企画を持ち込み社長に直談判。紆余曲折を経てこの三人については関係がいくらか改善しつつある。企画の都合上、ある種の対立構造は残ったままとなったがその調子で腐らず『打倒アイ!』を目指してほしい。軌道に乗ったしそろそろ他メンバーも順次追加していってもいいかもしれない。アイと別に険悪というわけでもなかった【芽依*2】あたりでもぶち込むか。彼女、僕の考え違いでなければどうにも熱を失いつつありそうだしカンフル剤が必要だよね。
ところでかあさん、僕の方が3人と仲良さげだからってそんな拗ねないでほしいんだけどなぁ。テーブルの下で僕の足をゲシゲシ蹴るのやめようよ。
3人も分かっててやってる節がある。言っとくけど企画で無茶振りしまくったのは謝らんからな。
僕が持ち込んだ『企画』というのはyoutubeチャンネルでの体当たり企画というか、『打倒アイ!』を目指して様々なことに挑戦して
けれどこのままだとB小町はジリ貧だ。アイがいるうちはいい。けれどその後は?
他のメンバーの成長は急務だ。アイ抜きのB小町は他の人気アイドルグループと比べて一段劣っていた。
別に素材が悪いわけじゃない。ただみんな心のどこかで諦めてしまっている。
アイという一番星には勝てない。自分たちは脇役でアイの引き立て役なんだと。
別に適当にやっているわけじゃないだろうけれど熱量が足りていなかった。
僕はその熱を掻き立てただけ。燃料を投下したに過ぎない。負けっぱなしでいいのかと。
動画制作にあたって兄経由で毎度おなじみの五反田監督にもご助力賜った。
素人がただ撮るよりやっぱプロに構図とか考えてもらった方がいいよね。
今回の企画には結構な額の私財を投じたがビットコインで稼いだ額が額なのでこの程度なら痒くもない。
やっぱ倒すべき敵のイメージは明確な方がいいよなと思ってアイには企画の意図を敢えて伏せ、数秒ほどのイメージムービーを撮影したりもした。イメージした設定は3人の勇者が倒すべきメスガキ魔王アイだ。
アイにちょっと扇情的な魔王っぽいコスを着せ「ざーこ♥ざーこ♥よわよわー♥」とか腹立つ笑顔で煽り散らかしてもらう。最初あんまうまく演じられていなかったので姉にお手本をお願いすると撮影はスムーズに進んだ。
3人に話を持っていくところから定点カメラで撮影をスタート。
企画の趣旨説明役の社長と僕も企画立案者として同席した。当時まだ小学生くらいの体躯だった僕の事を3人は奇異の目で見つめていた。
企画の趣旨、つまり「おまえらこのままだとアイに負けっぱなしのまま終わるけどそれでいいのか?」と投げかけイメージムービーを見せる。腹立つよな?このメスガキ魔王わからせたいよな?
そんなこんなでyoutube企画『勇者びーこま!わからせの旅』がスタートした。
まぁ、決め手になったのはやっぱブログに残された書き置き*3の存在を知らせた事なんだろうけど。
記念すべき第1回のチャレンジ企画はバンド挑戦。
企画動画の主題歌を自分たちで演奏して歌おうぜということだ。
楽曲の方はちょうどいい曲が前世の記憶の中にあったのでそれを丸パクリ輸入してきた。
こっちには存在しないのだから著作権の問題はクリアだ。*4
あるアニメの2期オープニング。グエル先輩、学園襲撃の最中どこでなにをしてたんだろう?*5
アカペラで歌ったものを社長の伝を使いプロの作曲家だか編曲家だかに依頼。形にしてもらう。
多少の違いはあるが概ね僕の知る通りの曲が完成する。
あとはこれを彼女たちに演奏させるだけだ。
とはいえ、3人とも楽器未経験。不平不満がこぼれるがつべこべ言わずやるんだよ!
言い出しっぺの法則。当然僕もやる。まさか小学校入学前のガキに負けたりしないよなぁ?
「このクソガキ!アイの前にまずこいつからわからせてやる!!」「やったらぁあ!」「大人の力を思い知れ!」
Dr.高峯、Vo.Gu.ニノ、Ba.Cho.渡辺、Key.僕だ。どのパートにするかはくじで決めた。
ニノも渡辺も歌はうまい*6方だから運任せにしてはいい感じに割り振れたように思う。
それぞれのパートの指導者を迎え、あとはひたすら練習練習&練習だ。
その風景を定点カメラを中心に時折スタッフにも撮影させ編集して練習の様子や僕と3人の煽りあい動画を順次投稿。
演奏はおおよそ半年ほどで一応は形になった。
僕も3人の事をわからせるつもりで寝る間も惜しんで*7練習したし向こうもきっとそうだ。
指導者の皆さんがたいへん驚いていた。やっぱわからせ欲は成長への一番の原動力だよなぁ?*8
完成した主題歌の演奏動画を投稿。動画は3日間でまさかの100万再生を記録した。
こうして、3人は自信をつけ企画は幸先のいいスタートを切った。
まぁ、第一回の企画立ち上げ動画*9は投稿から3日で驚異の1000万再生を突破してたわけだけど。それは言わぬが花だよね。*10
バンドを皮切りに勇者チームは様々なことに挑戦していった。
物理で勝つ!をテーマに社長の飲み仲間がやってる琉球古武術の道場でひたすら稽古。最後は4人でトーナメント戦をしたり。女子力で勝つ!をテーマに調理学校にご協力いただき調理の腕を磨き、最後は社長を審査員に4人で料理バトルをしたり。ある劇団で演技の腕を磨いたりもしたし、各々が作った非エロの同人誌で夏コミに参加して売上を競ったりもした。
この3年間、色々な事に手を出した。
その過程でそれぞれ思いも寄らぬ長所や才能が見つかり芸の肥やしにしていった。
高峯はアクションを熟す女優として、ニノはシンガーソングライターとして、渡辺は声優として躍進を遂げた。
そして、色々な企画で身に着けた多才さでバラエティからも割と引っ張りだこな様子。
今年、僕は小学校入学に合わせてレギュラーメンバーからは卒業。学業に専念することになった。
3人の方は日曜ゴールデンのバラエティに出演。youtube企画とのコラボで島開拓に勤しむそうだ。
いいなぁ・・・
ゲシゲシといまだに蹴りを入れてくるかあさんを構いながら有馬と姉に引っ張られながら網の気持ち*11を理解しそうになっている兄を眺めてみんなでゲラゲラ笑うそんな他愛のない幸せな誕生日。
その2
2017年2月13日
明日はバレンタインデー。
僕は放課後、家族や日頃世話になっている人たちへ送るチョコレートを買いに渋谷の東急東横店に来ていた。
ここもあと3年ちょっとで閉店*12してしまうんだと思うと少し悲しくなる。
どれにしようかと店内を物色していると後ろから見知った人に声をかけられた。
よっちん―――【
ライブハウス『新宿FOLT』で活動しているガールズバンド『SIDEROS』のリーダー兼ギターボーカルである。
あの忌々しきゲボ事件、去年の『SICK HACK』バレンタインライブ以来だからちょうどまる一年ぶりくらいか。
志麻さん経由でした約束をあのゲボカスは未だ果たせずにいる様なので僕は未だあの場所には戻れていない。
禁酒3か月。そんなに難しいものなのか?
かつての僕もお酒は友人と結構嗜んだ方だとは思うがそこまでの中毒性は感じなかった。
明日やめようと思えばやめてしまえる程度のもの。
なにか、身体の相性とかがあるのかもしれない。
よっちんもチョコを買いに来ていたようなので一緒に店内を見て回る。
「あんた、いつになったら戻ってくるつもりなのよ?」
「ゲボ姐さんが約束を果たしたら」
「もう私のライブ、観に来てくれないってこと?」
「そうは言ってないじゃんか」
「廣井姐さんが酒断ちできるわけないでしょ。この1年、頑張ろうとはしてたみたいだけど結局できなかったんだし」
「・・・・」
良さげなチョコを各々買い漁り、店を出る。
駅に向かって二人連れだって歩き出す。
「ねぇ」
よっちんの言葉に「なに?」と返す。
「明日、私たちバレンタインライブするのよ」
「へぇ」
もちろん知っている。
今のところ、僕の最推しバンドは『SIDEROS』なんだから。
改札前に着いてしまう。
「じゃあ僕、目黒のほうだから」
改札を潜ろうとしたところで腕を掴まれる。
「明日のライブ、観に来なさいよ」
「・・・・・よっちん」
「よっちん言うんじゃないわよ!がーぴー!」
「がーぴー言うなし。気付かれたらどうすんだよヨヨコ」
あたりを見渡す。
露出は大きく減ったとはいえ、まだ1年も経っていない。騒ぎになったらどうしてくれるんだ。
「いっちょ前に有名人気取り?バレたって大した騒ぎになりゃしないわよ。そもそも、この一年でバカみたいに背が伸びたみたいだしバレるわけないじゃない」
確かにこの1年で僕の身長は大きく伸びた。
165そこいらだったのが今じゃ195とかである。この一年で服とか靴をアホほど買い替える破目になった。
「我愛熱斗、もう一度言うわよ。明日のライブ、観に来て」
ものすんごい行きたい。けど・・・
「それはできない」
ヨヨコは顔を歪め、俯く。
「どうして・・・・」
絞り出すようにそう言って僕の鳩尾付近に顔を埋める。そろりとコートのポケットに忍ばせる。
「約束したから。ここで安易に僕が反故にしてしまったら、ひろ姐のこの1年のがんばりを無駄にしてしまう」
だから、それはできない。
「そう・・・もう良いわよ」
そう言って、ヨヨコは僕を突き放すように離れる。
「この分からず屋!」
一言そういうとズカズカ離れていく。
暫し、それを眺めていると突然振り返ったヨヨコが何かを投げてくる。
ぱしりと受け止めて確かめるとそれは先ほど買っていたチョコのうちのひとつであると気付く。
「言っとくけど義理だから!けど!」
―――ちゃんとお返ししにきなさいよね。
そう言って今度こそヨヨコは立ち去って行った。
「そっちこそ」
3月の楽しみがひとつ増えた。
2017年3月某日
「じょ゙ゔね゙ぇ゙ぇ゙え゙ん゙、ゆ゙る゙じでぇ゙え゙え゙え゙!!」
僕に酒瓶片手に泣きすがる酒カスの姿がそこにはあった。
「お゙ざげばむ゙り゙だ゙げど゙ゆ゙る゙じでぐれ゙る゙な゙ら゙な゙ん゙で゙も゙ずる゙がら゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙!!!」
おいおい・・・
「ぞゔだ゙じょ゙じ゙ょ゙!わ゙だじの゙じょ゙じ゙ょ゙あ゙げ゙る゙がら゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙!!」
えぇ・・・・(ドン引き)
仕方がないので、禁酒3日に負けてあげることにした。
「夏油様!早くしないと抹茶バニラミックス売り切れちゃう!!」
「・・・夏油様?」
「ああ、ごめん。少し知った顔を見かけてね」
五条袈裟の男がそれに不釣り合いな今風の女子高生を二人連れて新宿の街を練り歩く。
「猿という生き物はなんとも醜悪で度し難い」
つい今しがたの、あの子の事を想う。
「やはり君をあんな環境に置いてはおけないね」
星野我愛熱斗くん、私は君の事もきっと救ってみせるよ。
七海「虎杖くん、見えますか?これが呪力の残穢です」
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いや、全然見えない
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凝!(範囲指定反転pc勢)
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オレでなきゃ見逃しちゃうね(メモ帳転写)
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本当だ混じってるよウケる(誤字報告)