ゲボ吐きそう、もうやだおうちかえるぅ!!!   作:星ざくろ

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 今日はぼっち・ざ・ろっく!6巻とアンソロジーコミック2巻の発売日。
 筆者は単行本勢なので待ちに待った日。


‐閑話‐ 【ruby】

2012年11月

 

 「なぁ、ルビーはアイツの話どう思ってるんだ?」

 

 それはママから〝愛してる〟を言ってもらって何日かしてのことだった。

 

 お兄ちゃん(せんせ)が唐突にこんなことを聞いてきた。

 

 「アイツの話?」

 

 「ガーネットの言ってた異世界転生の話さ」

 

 ガーネットの話?

 

 「別に?私たちも十分ファンタジーしてるんだし、そういう事もあるんじゃない?」

 

 私たちの弟、星野我愛熱斗。

 弟は私たちとは違って異世界からの転生者だ。

 異世界とは言ってもこの世界とはあまり変わらない。

 同じ地球で似たような歴史を辿った云わば並行世界だと本人は言う。

 

 「けどなぁ、アイツの世界で俺たちは―――」

 

 弟の世界で一つ特筆すべき点があるとすれば、私たち兄妹を題材とした漫画、アニメ作品が存在するという点だ。

 

 「ガーネットも言ってたじゃん。私たちの事があっちで漫画になってるみたいにあっちの事がこっちで創作物になってないとも限らないって」

 

 「ルビー、お前はなんとも思わないのか?」

 

 「ガーネットの見たっていうアニメみたいにママが死ななくてよかった。それだけだよ」

 

 もしそんな事になってたら、私は・・・・

 がばりとせんせに抱きつく。

 

 「おい、ルビー・・・」

 

 「またせんせに会えた。今、このぬくもりを感じられるのもあの子のおかげなのかな」

 

 「さりなちゃん」

 

 「心配しなくても大丈夫だよ、せんせ。私、あの子のお姉ちゃんだもん。気味悪がったりしないよ」

 

 せんせってば心配性なんだから。

 そういうところが大好きなんだけどね。

 

 「そういえばせんせ、あの『約束』はおぼえてる?」

 

 「え?約束ってあぁ、アイドルになったら推してやるってやつか」

 

 「そっちもだけどほら、16歳になったら結婚してくれるっていう約束」

 

 「え?そんな約束したか?」

 

 「は?」

 

 拳を振り上げる。

 

 「え?いや、待て!待つんださりなちゃん!あ、そうだ!俺は確か16歳になったら真面目に考えてやるって言ったんだ!!」

 

 「言ったもん!せんせーは16歳になったら結婚してくれるって言ってたもん!!」

 

 せんせの胸倉をつかんで押し倒す。

 

 「うお!?ぐえっ!!そ、そこまでは言ってない!そもそも俺たち、今は血を分けた兄妹なんだから無理に決まってるだろ!?」

 

 「せんせの馬鹿!嘘つき!!ママに言いつけてやるぅぅう!!!」

 

 「それ、ルビーの首も締まるだけだからな!!?」

 

 約束は約束だよ!せんせー!!絶対に逃がさないんだから!!!

 

 

2016年12月31日

 

 私たちは年末の特番を見ながらガーネットが茹でた年越しそばを啜っていた。

 4人で炬燵に入り蕎麦を啜って車海老の天ぷらを頬張る。

 今年の特番は私を除く家族が総出演している。

 もともとはガーネット個人に入った仕事だったらしいが当の弟の提案、説得で他の家族も総出演する事になったのだ。

 

 「ルビー、そんなに頬を膨らませるくらいならお前も出たらよかったのに」とお兄ちゃん。

 

 「そうだよ、私はルビーとも一緒に出たかったなぁ」とママ。

 

 「一緒にサンシャインすれば良かったのにな」とガーネット。

 

 「するわけないでしょ!!?テレビ初出演であんなのは嫌!!!」

 

 「わがままだなぁルビーは。人気番組なのに」

 

 「まぁ、ルビーはアイドル志望だしな。一本目であんな芸人紛いは嫌だったんだろう」

 

 「試しにここでやってみてよ。私、ルビーのサンシャインが見てみたいな」

 

 「ママ!?」

 

 「一回だけでいいから!お願い!」

 

 ママは手を合わせて私にそうお願いする。

 うぬぬぬぬ・・・・

 

 「い、一回だからね?」

 

 「やったー!」

 

 ワクワクした眼差しを向けるママ。やったらあ!

 

 「空前絶後のぉ!超絶怒涛のアイドル志望ッ!アイドルを愛し!アイドルに愛された女ぁ!!

 

 「歌!ダンス!ビジュアル!全てのアイドルの生みの親!いずれアイドル業界に君臨し燦然と輝く一番星!!

 

 「そう我こそはぁぁぁ!!サンシャイーン!斎!ボコッ藤。イェェェェイ!!!

 

 「ジャスティス!

 

 「「「おおお!」」」

 

 ぱちぱちと拍手するみんな。

 

 我に返って顔が真っ赤に染まる。

 恥ずかしくて顔を両手で覆い炬燵の中で丸くなる。

 

 「おーい、ルビー出て来いよ。なかなか様になってたぞ」

 

 「嫌!せんせの馬鹿!」

 

 「ルビ―、出ておいで。すんごく可愛かったよぉ」

 

 「嫌!ママのいじわる!」

 

 「ルビー、来年のエイプリルフールこのネタでうちのチャンネルに出ないか?」

 

 「嫌!!ガーネットの大馬鹿!!!」

 

 炬燵のなかで丸まっていると誰かがテレビのチャンネルを変えたのか『B小町』の歌が聴こえてくる。

 

 「アイのいないB小町か」

 

 「僕が誘っててなんだけどホントによかったの?『紅白』出なくて。B小町として出られるのもたぶん今年で最後なのに」

 

 「うん、調整はできたんだろうけど同じ時間帯の『笑ってはいけない』にも出ちゃってるしね。それに―――」

 

 「それに?」

 

 「今年は家族水入らずで年を越したかったから」

 

 「そっか・・・」

 

 「そう・・・」

 

 もぞもぞと炬燵から出る。

 

 「あ、ルビー出てきた」

 

 「B小町のライブだもん。見なきゃ損だし」

 

 「それはそうだな」

 

 「かあさん抜きでどこまでやれるか。去年のB小町の視聴率ってどんなもんだっけ?」

 

 「たしか47%くらい?」

 

 ママは首を傾げながらそう答える。

 

 「焚きつけた側だけど壁が分厚いなぁ・・・」

 

 「大丈夫だよ、みんなならきっと大丈夫!」

 

 「ふふっ、かあさんがいないからかなぁ。みんな活き活きしてるね」

 

 「あ!ひどいんだ!そんな事言っちゃうんだガーネット。お母さん悲しいなぁ」

 

 ヨヨヨと鳴きまねをするママ。

 

 「アイが居ない分、気合入れて歌ってるだけだろ」

 

 「けど、ホントにみんな活き活きしてる」

 

 「星はもう一つじゃない。よかったね、かあさん」

 

 「うん!」

 

 テレビに映るB小町のみんなを観るママが本当に嬉しそうにしてて、それがとても印象に残った。

 そんな2016年の大晦日。

 

 

2017年3月14日

 

 「え?一緒に行きたいの?SIDEROSのライブ」

 

 キョトンとした顔で私を見つめるガーネット。

 

 「だって、今日家に誰もいないじゃない」

 

 「あっ、そういえばかあさんもアクアも収録で居ないんだっけ?」

 

 ミヤコさんも今日はアクアに付いて行ってたっけかと頭を搔いている。

 

 「夜の新宿は小1連れて行くには治安が悪いから止めといた方がいいと思うけど」

 

 「あんたも小1じゃない」

 

 「僕はいいんだよ。そうとはとても見えないだろうし」

 

 そういってボディビルダーみたいなポージングを決めてくる。

 一々様になっているのが何だか腹立たしい。

 

 「とにかく、私も行くからね」

 

 「う~ん、わかったよ。その代わり、僕の傍から離れちゃダメだよ」

 

 肩車しとけばいいかと独り言ちて出かける準備を始める弟。

 それに合わせて私も身支度を整える。

 お気にの洋服に着替えて弟の部屋からくすねてきたガーネットとお揃いのサングラスを掛ける。

 これで準備万端だ。

 

 「ん?それ失くしたと思ってた僕のサングラスじゃん。ルビーが持ってたの?」

 

 「たくさん有るんだから別にいいでしょ?」

 

 「それ、僕が増殖させたやつだから〝視える〟やつじゃん。普通のやつ買ってあげるから返して」

 

 返せと私の前に掌を出す。

 

 「い・や」

 

 「ああいうのは目が合うと因縁つけられて危ないって前も言ったでしょ?」

 

 「けど、私には全然寄ってこないじゃん。その呪霊ってやつ」

 

 あとミヤコさんにも。

 

 「いや、まぁ普段から僕の増殖させたお菓子パクパクしたりしてるからかなぁ?僕の残穢がこびりついてるし」

 

 「ならいいじゃない」

 

 「と言ってもそれはその辺にいる雑魚の話であってそこそこ強いやつには効かないんだって」

 

 「わかったわよ、帰ってきたら返す。それでいいでしょ?」

 

 「はぁ、もうそれでいいよ。 サイズ合ってないのに何がいいんだか・・・」

 

 「別にいいもん、まだあるし」

 

 「なんか言った?」

 

 「なんにも~」

 

 

 「ルビーはさ、怖くないの?呪霊」

 

 新宿駅を降りて、お目当てのライブハウスに行く道中でガーネットが肩に乗せた私にそう聞いてくる。

 

 「怖いというか、キモイ?」

 

 「オバケとか平気なタイプだっけ?」

 

 「別に、人並みに怖いものは怖がるタイプだと思うよ?」

 

 ホラー映画も要所要所でびっくりしたり怖くてママかお兄ちゃんに抱きついたりしてるし。

 

 「それにしてはそんな怖がってないじゃん?視ての通り、新宿にはわんさかいるのに」

 

 それはそうよ。だって、―――

 

 「だって、ガーネットがいるし」

 

 「・・・・・」

 

 「なによ?」

 

 「・・・・いや、なんでもないよ。ルビー」

 

 おかしな子。

 程なくして目的地に到着した。

 

 

 「やっほー、銀ちゃんおひさ」

 

 「え?あら?もしかしてがーくん?やだ~、いつぶりかしら~♡」

 

 年末の特番でも驚かされたけど、随分と背が伸びたわね~♡と続ける髪を後ろで結んだロン毛のおじさん。

 

 「去年のバレンタインライブ以来だから1年ちょっとかな?ご無沙汰してました」

 

 と、楽しげに話す弟を見下ろしていると

 

 「ところで肩に乗せている可愛らしいお嬢さんはどなた?」

 

 「あっ、紹介がまだだったね。こいつは姉のルビー」

 

 「どうも、星野ルビーです」

 

 「あら、どうもご丁寧に♡私はこのライブハウスの店長をしている吉田銀次郎 37歳で~す!」

 

 「銀ちゃんは心が乙女なおにいさんなんだ」

 

 「へ~」

 

 ライブハウスの第一村人からなかなか濃い。

 

 「ぅお!少年だ!!しょうね~ん!」

 

 がばりと誰かがガーネットに抱きつく。なんかお酒臭い!

 

 「ひろ姐、4日ぶり。酒臭ぇから離れてくんない?」

 

 「少年がつめたいぃ・・・ん?その肩に乗せてる子は?まさか隠し子!?」

 

 「小1に隠し子が居てたまるか。姉のルビーだよ」

 

 「ルビーちゃんかぁ、私は誰よりもベースを愛する天才ベーシストの廣井きくりで~す」

 

 「星野ルビーです」と挨拶する。

 またキャラが濃い人。

 

 「そんな事言って、またベースをどこかに置き去りにしてるんじゃないの?」

 

 「あはは、そんなわけないじゃん!ちゃんとあそこに・・・・あれ?」

 

 おやおや?

 

 「銀ちゃん、私のスーパーウルトラ酒呑童子EXがなくなってる!盗まれたぁ!?」

 

 「何言ってんのあんた?今日は手ぶらで来てたじゃない」

 

 「え゙」

 

 「お労しや、スーパーウルトラ酒呑童子EX」

 

 南無南無と手を合わせる弟。

 

 「ねえ、ガーネット。この人さっき、誰よりもベースを愛するとか言ってなかった?」

 

 名乗りに嘘偽りありだ!

 

 「あばばばば、き、きっとさっきまでいた居酒屋にあるはず!ちょっと探してくるぅうう!!」

 

 脚を縺れさせながらも走り出していった。

 

 「変わんないなぁ、ひろ姐は」

 

 「そういうあんたはこの一年で変わりすぎだけどね」

 

 後ろから声を掛けられる。

 振り向こうとしたところで掛けていたサングラスを弟に取り上げられる。

 

 「ちょ、何するのよ!返しなさいガーネット!!」

 

 「い・や、代わりにこれ掛けとけよ」

 

 そう言って自分の掛けてたサングラスを私に手渡してくる。

 

 「これ、普通のやつでしょ!私はそっちがいい」

 

 「だめ」

 

 「なんでよ!」

 

 「ダメなものはダメ」

 

 「無視すんなぁぁぁああ!!」

 

 「ひゃっ!?」

 

 大声で怒鳴られて今度こそ振り向く。

 

 「いたのかよっちん、気付かなかったよ」

 

 「嘘おっしゃい!あんた私が隠れててもすぐ見つけてくるくせにこんな傍にいて気付かないわけないでしょ!」

 

 「おっと、バレたか。そのバンドマンとしての圧倒的な〝オーラ〟はなかなか隠せないよ」

 

 「ふんっ、当然よ。ところで、その肩に乗せた女の子は誰よ?もしかして隠し子!!?」

 

 「それはもうひろ姐がやった」

 

 このライブハウス、キャラの濃い人しかいない?

 

 「ルビー、紹介するよ。こいつは大槻ヨヨコ。今日ライブするSIDEROSのギターボーカル」

 

 「星野ルビーです」と挨拶をすれば、

 

 「ああ、あんたがアイドル志望の姉って言う・・・」

 

 ちょっと待って!?

 

 「ガーネット!?なんでこの人が知ってるの!!?」

 

 「そりゃあ、僕が言ったし。このライブハウスの顔馴染みはみんな知ってるんじゃないかな?」

 

 う、うそ・・・!?

 私のプライバシー無さすぎ!!?

 ガーネットの髪を掴み思いっきり引っ張る!

 上!上!下!下!左!右!左!右!

 

 「い、痛い!や、やめ、やめろぉぉおお!!!」

 

 「私の許可なく!私の事を勝手に!!言い広めるなぁぁあ!!!」

 

 ガーネットの馬鹿ぁぁあ!!!!

 

 「ごめんて!」

 

 

 「もう!勝手に私の事を・・・・恥ずかしいでしょ!!」

 

 この馬鹿、ほんとどうしてくれようかしら。

 

 「恥ずかしがる事ないじゃん。ホントの事なんだから」

 

 「まだアイドルらしいこと何もできてないのに恥ずかしいに決まってるでしょ!!?」

 

 「それはそうだけど、ルビーがトップアイドルになるのはもう決定事項じゃん?」

 

 「んなっ!?」

 

 「同年代の誰よりも早くその道を志して努力を続けてるんだ。親譲りの才能もある。なれないはずがないじゃん」

 

 それは、そうだけど・・・・・えへへ。

 

 「僕、これで結構この業界長いけど今までこいつは上がってくると感じて外したこと、ただの一度もないんだぜ?」

 

 「だろ?ヨヨコ」と大槻さんに同意を求める弟。

 肝心の大槻さんは目を大きく見開き、口をパクパクさせて顔を赤らめている。

 どうしたんだろ・・・え?まさか、

 

 「唯一の不安材料と言えば歌唱力だけど、それも中学に上がる頃までにはどうとでもなりそうだしな」

 

 お歌がヘタクソで悪かったわね!

 

 「あれ?ヨヨコ先輩、その人達は?見ない顔っすけど」

 

 そうして、また見知らぬ人達が近寄ってくる。

 

 「どうも、ヨヨコの夫です」

 

 「先輩まさかの既婚者!?」

 

 弟がまた馬鹿な事を言い出した。

 

 「違うわよ!?」

 

 そして、大槻さんに大慌てで否定される。

 

 「ってのは冗談で、最近ご無沙汰でしたがSIDEROSの古参ファンで星野ガーネットと言います。こっちは姉のルビー」

 

 「どうも、星野ルビーです」

 

 その口ぶりと大槻さんと似通った衣装である事からこの人たちがSIDEROSの残りのメンバーなんだと気付く。

 黒いマスクをつけたロングの子とおっとりしてそうなロングの子、そして口元のほくろが特徴的な黒髪ロングの子。

 見事にロングヘアの子しかいない。

 

 「これはご丁寧に・・・ん?姉!?また冗談っすか!!?」

 

 「そっちは本当よ。あんた達もこいつの事見たことあるんじゃない?年末のテレビで」

 

 「え?年末っすか?え!?紅白に出てたんっすか!!?」

 

 「そっちじゃない方!」

 

 「え?もしかしてがーぴーさん!?」

 

 おっとりした方が気付いた様子だ。

 

 「いつもの星型サングラス持ってきてなくてあれですが、どうも!がーぴーで~す」

 

 「わぁ、本物だ~」

 

 「え!?がーぴーってまだ小学1年生とかじゃなかったっすか!!?でかっ!!!?」

 

 「良ければサインとか書いちゃいますよ?銀ちゃん、色紙ってある?」

 

 弟が調子に乗り出す。

 

 「良いんですか!?じゃあ宛名は本城楓子でお願いします!」

 

 「じゃあ、自分も!長谷川あくび宛でお願いします」

 

 「ほいほい」

 

 店長さんが持ってきた色紙に弟が手早くサインを書いていく。

 

 「こうして見ると、ほんと芸能人みたいね」

 

 「そりゃあ芸能人だもの」

 

 「あの~・・・」

 

 「ん?・・・・」

 

 「同類ですよね?」

 

 「みたいだね」

 

 え?もしかしてこの人も・・・

 

 「ガーネット、同類ってそういう事?」

 

 「あ~、うん。どうもそういう事みたい」

 

 私たちと同じ転生者・・・!!?

 

 「同類ってなんの話よ?」

 

 「あ~、えっとだな。それは」

 

 なんと答えればいいのかと言い淀む弟を遮る形で内田さんが、

 

 「幽々と同じで~〝視える人〟ってことですよぉ」

 

 「え゙」

 

 あ、そっち!?

 弟以外の呪術師というやつを初めて見た。

 二人は何やら目配せをした後、身を寄せ合ってボソボソと大槻さんを視ながら内緒話を始める。

 「頭の上の〝アレ〟、どうなってるんだろうね」

 「害意だとか敵意みたいなものはまるでないんですけどぉ、存在感というか威圧感が~」

 「小型犬くらいのサイズ感だけど間違いなく特級だよね。なんか調伏済みくさいのもわけわかんないし」

 

 「何ふたりしてぼそぼそと!私の頭が何!?いるの!!?ここになんかいるの!!!?」

 

 「「やだな~、こわいな~」」

 

 「だからなにが!!!?」

 

 「あ、そうだ。よっちん、これ先月のお返し。多めに買っといたからライブ終わりにでもみんなで食べるといいよ」

 

 「あ、ありがとう・・・じゃなくて!」

 

 「みんな~、そろそろ開場時間よ~。一番手なんだから楽屋に戻って準備なさい♡」

 

 店長さんがやってきてそうみんなに言い含める。

 

 「ほら、ヨヨコ先輩行くっすよ。それじゃあ二人とも、今日は楽しんでいってください」

 

 「ちょ、待ちなさい!話はまだ・・・ガーネット!ライブが終わっても帰っちゃダメよ!私も渡すものが!ちょっ引っ張らないで!」

 

 「がーぴーさん、ではまた!ほら幽々ちゃんも行くよ!」

 

 「続きわ~、また今度話しましょうねぇ」

 

 大槻さんは長谷川さんに、内田さんは本城さんに引き摺られ奥へと引っ込んでいった。

 

 「さて、がーくんも次からはちゃんと開場してから入ってきなさいね?」

 

 「ごめんなさい」

 

 

 SIDEROSのライブ、というか新宿FOLTのブッキングライブはなかなかの賑わいで盛況だ。

 開場後、弟と顔馴染みらしい観客が続々と集まってくる。

 

 「うぉ!?キングじゃん!でっかくなったなぁ!きくりちゃんのゲロシャワー以来だから1年ちょっとくらいか?」

 「おひさ、去年のバレンタイン以来だからそんくらい」

 「キング、観たぜ年末の!兄弟でオタ芸キレッキレだったな!〝サインはT〟とかサンシャインも笑ったわ」

 「Dr.アクアもなかなかだったけど、キングも演技とかできたんだね」

 「これでもわからせ企画で一時期、劇団に入って扱かれてたことあるしね」

 「寧ろオタ芸は素でしょ。大槻にはやってやんないの?」

 「よっちんがそういう歌唄うようになったら考えるよ」

 「ところでその肩に乗せてる女の子は?」

 「姉のルビーだよ、前に話したろ?」

 「ああ、あのアイドル志望の!」

 「ふんっ!」

 「あいた!」

 

 どうにもガーネットはこの界隈で〝キング〟だとかたいそうな名で呼ばれているようだ。

 弟に何故そう呼ばれているのか聞けば、もとは〝クソガキ〟だったのが〝クソガキング〟になり、最終的に〝キング〟に収まったらしい。クソガキ要素ほとんどなくなってるじゃん!

 

 暫く雑談に興じている間に開演の時間がやってくる。

 

 私たちは後ろの壁際に陣取り、ステージを眺める。 

 トップバッターのSIDEROSはメタルバンドらしい。

 普段、アイドルソングばかりでメタルはもちろんロックもあまり嗜まない私。けれど、

 

 「どうよルビー?」

 

 「わ、わるくはないんじゃない?」

 

 「そういう割にはノリノリじゃん」

 

 「うっさい」

 

 うん、B小町ほどじゃないけどわるくない。

 

 「新生SIDEROSは気に入っていただけたみたいね」

 

 「銀ちゃん」

 

 「この一年でヨヨコちゃん以外のメンバーは総入れ替え。今のメンバーが集まって再始動したのも今年に入ってからなのよ」

 

 「なにかあったんですか?」

 

 店長さんに投げた問いを横取りする形でガーネットが答える。

 

 「よっちんって攻撃的コミュ障なところがあるから、ある程度耐性というか理解がないと長続きしないんだよね」

 

 「そうなのよ、腕はいいんだけどね。そういうところで損してる子なの」

 

 「前の子たちが悪かったわけじゃないけど、今回の子達は相性良さげだね。これなら今年中にワンマンもいけんじゃないの?」

 

 「そうね。今度こそはって期待してるわ」

 

 「長かったね。ようやっとだよ」

 

 「ホントにね」

 

 

 SIDEROSの演奏が終わり、後続のバンドが入れ代わり立ち代わり演奏していく。

 素人ながらに、どのバンドもレベルがなかなか高いのではないかと思う。

 

 「しばらく来てない間に知らないバンドが増えたなぁ」

 

 ガーネットはステージを眺めながら、しみじみと何かに感じ入っている。

 その声色がどこか寂しげだったのが印象的だった。

 

 

 そうこうしている内に今日の全演目が終了した。

 時間にして3時間ほどのステージだったが、中だるみを感じる事もなく概ね楽しめた。

 壁に掛かった時計を見れば21時半を過ぎたところだ。

 観客たちはそれぞれ家路につくなり、飲みに行くなりする様でライブハウスから去っていく。

 ガーネットは顔馴染みに晩飯に誘われていたが、私を理由に固辞していた。

 そうして観客が一通り捌けたあと。

 

 「私たちは帰らないの?」

 

 「よっちんが勝手に帰るなって言ってたしね。もうちょっとだけ待ってようか」

 

 「ガーネット、まさかとは思うけどそういう仲じゃないわよね?」

 

 「・・・・ルビーってば、すぐそういう事に繋げたがるね。別にそういうんじゃないよ」

 

 「ま、そうだよね。ガーネットは小学生で大槻さんはたぶん高校生とかでしょ?」

 

 「そうそう、4月から高校2年生らしいよ」

 

 「へえ、そうなんだ」

 

 そうして待つことしばらくして、

 

 「待たせたわね」

 

 「うん、そこそこ待ったね。何してたの?」

 

 「・・・・何でもいいでしょ?悪かったわよ」

 

 「それで?渡したいものって?」

 

 「分かってるくせに、意地が悪いわよガーネット」

 

 「それほどでも」

 

 ガーネットは大槻さんの睨みを涼し気に受け流す。

 

 「はい、これ。先月のお返し」

 

 大槻さんから紙袋を受け取る弟。

 

 「これはどうも、クラブハリエってことはバウムクーヘン?」

 

 「そうよ、大きめのを買っといたからご家族と分けるといいわ」

 

 「へえ、ありがとう」

 

 「ガーネット、これからはちゃんと観に来てくれるのよね?」

 

 「うん、ひろ姐とは禁酒3日で手打ちにしたから」

 

 「そう、ならいいのよ」

 

 「僕が来なくて寂しかった?」

 

 「寂しかった」

 

 ガーネットが口をぽかんと開けている。

 

 「当然でしょ?あんたは私の一番のファンなんだから。観に来てくれなくなったら寂しいし悲しいわよ」

 

 「・・・・そっか」

 

 「そうよ・・・・」

 

 そういう仲じゃないんだよね?

 

 

 あれから新宿駅まで一緒に歩いて、解散になった。

 二人並んで電車に揺られながらそういえばと聞いてみる。

 

 「そういえば、先月のお返しってバレンタインチョコのこと?」

 

 「そうそう、義理チョコというか友チョコ的なのを贈り合ったんだ」

 

 「へえ、そういえばガーネットは大槻さんに何をお返ししたの?」

 

 「SIDEROSの他のメンバーとライブ終わりにでも摘まめるようにと思ってマカロンにしたよ」

 

 「マカロン?」

 

 「マカロン」

 

 「・・・・・・・やっぱりそういう仲?」

 

 「違うよ?」

 

 疑惑は深まるばかりだ。

 

 

 




『サンシャイン斎藤(セクシー)』
 全てのセクシーの生みの親。科学研究所所長のセクシーな姿。
 読者諸兄もよく知る彼。
 後々、某アイドルのある秘密が露見した際に今回の共演も併せて、その苗字ゆえに世間からあらぬ疑いを掛けられることになるかもしれない不憫な人。本名は齊藤なので字が違う。
 方正が軽はずみに押してしまったスイッチが原因で所長目掛けて劇薬が噴射、後述の人格が彼から肉体ごと分裂してしまう。つまり、蝶野による方正へのビンタは2回に。

『サンシャイン斎藤(アイ)』

 「空前絶後のぉ!超絶怒涛のスーパーアイドルッ!アイドルを愛し!アイドルに愛された女ぁ!!

 「歌!ダンス!ビジュアル!全てのアイドルの生みの親!アイドル業界に君臨し燦然と輝く一番星!!

 「そう我こそはぁぁぁ!!サンシャイーン!斎ボコッ藤。イェェェェイ!!!

 「ジャスティス!
 
『サンシャイン斎藤(アクア)』
 「空前絶後のぉ!超絶怒涛のスーパー子役ッ!子役を愛し!子役に愛された男ぉ!!

 「演技!ビジュアル!コネ作り!全ての子役の生みの親!子役界隈で破竹の勢い!向かうところ敵なしのスーパー子役!!

 「そう我こそはぁぁぁ!!サンシャイーン!斎ボコッ藤。イェェェェイ!!!

 「ジャスティス!

『サンシャイン斎藤(がーぴー)』
 「空前絶後のぉ!超絶怒涛のわからせプロデューサーッ!わからせを愛し!わからせに愛された男ぉ!!

 「高峯!ニノ!渡辺!全てのわからせの生みの親!わからせ界隈に彗星の如く現れた!!スーパーわからせクリエイター!!!

 「この間、興味本位で高田ちゃんのライブイベントに行こうとしたら家族総出でわからされた男ぉ!!!

 「身長178cm、体重102kg、貯金残高4771万円、キャッシュカードの暗証番号4848、財布は今、楽屋に置いてあります!松本さん、今がチャンスです!もう一度言います!4848!〝よわよわ〟って覚えてください!

 「全てをさらけ出したこの俺はぁぁ!!サンシャイーン!斎ボコッ藤。イェェェェイ!!!

 「ジャスティス!

『サンシャイン斎藤(ルビー)』
 設定のみの登場。
 分裂後行方不明とされ、方正が拉致監禁しているのではないかと疑われるが証拠不十分で3回目のビンタは免れる。

『Dr.アクア』
 ガースー黒光り工科大学を飛び級で卒業した若すぎる天才。ロボット工学の権威。普段は自身が開発した技術実証用の試作型ヒューマノイド G-3POに身の回りの世話を任せ自身は研究に没頭している。このほど、世紀の大発明 ヒューマノイドアイドル I-800の開発に成功。
 前述のサンシャイン斎藤(アクア)に瓜二つだが、別人である。

『G-3PO』
 静かに。まだ博士の話の途中です。
 稀代の天才 Dr.アクアが開発した試作型ヒューマノイド。
 家事からオタ芸まで何でも熟す万能型。
 博士への篤い忠誠心が特徴。パチパチパチパチパチパチパチパチ。拍手を。
 松本らにサイリウムを配り、I-800のパフォーマンスに合わせて自身は博士と共にオタ芸を披露。
 前述のサンシャイン斎藤(がーぴー)に瓜二つだが別物である。

『I-800』
 Dr.アクアの開発した世紀の大発明。
 博士曰く、すべてのアイドルを過去にする傑作機。
 松本らの前で〝サインはT〟を披露。無事、田中をタイキックへと導いた。
 前述のサンシャイン斎藤(アイ)に瓜二つだが別物である。

【吉田銀次郎】
 ライブハウス 新宿FOLTの店長。
 ゲボ事件以降、ご無沙汰だったガーネットとの再会を喜ぶ。
 それはそれとして、次からはちゃんと開場してから入ってきなさいね~♡

【廣井きくり】
 自身の事をよく、〝誰よりもベースを愛する天才ベーシスト〟と称しているが結構な頻度でベースを置き去りにはしご酒をしている。
 ベースを取りに戻った居酒屋で、顔に大きな傷のある女と意気投合。
 そのままそこで飲んだくれ、その場に居合わせた目元の隈が濃い女に傷の女共々介抱される。

【長谷川あくび】
 年末はどちらかというと紅白派のドラマー。
 ネットでがーぴーが急成長しているらしいとは聞いていたが、実際に会うとデカすぎてビビる。
 ふーちゃんに便乗してがーぴーからサインをもらう。

【本城楓子】
 年末は裏番組派のギタリスト。
 わからせ企画の視聴者だったが、彼女視点では年末以降も急成長している事もあって気付くのが少し遅れた。
 サインを書いてもらってご満悦。

【内田幽々】
 口元のほくろがチャームポイントのベーシスト。術師。
 後日、ガーネットが良かれと思ってしたある事が原因で会う度にくっついてくるようになる。五条袈裟の男 襲来の日は流石に自重した。くっつくのはヨヨコ先輩をからかい半分でもある。

【大槻ヨヨコ】
 私の頭の上に何かいるの!?ぷるぷる
 チョコのお返しにマカロンを貰いご満悦。
 バンドメンバーに一つずつ分けてあげた。
 顔の緩みが収まるのに随分な時間を要した。
 こちらからのお返しはバウムクーヘン。
 くどいようだが、そういうのではないらしい。

『頭の上のアレ』
 いまいち等級の区分、その境目の感覚が曖昧なガーネットが間違いなく特級だと断じるほどのナニカ。害意や敵意の類は感じられないが、知覚できるものにとってはそこにあるだけで圧を感じる。おそらく調伏済みだと思われる。なんで?

【星野愛久愛海】
 実の妹に結婚を迫られている兄。
 ガーネットの暴露直後暫くはいろいろ気を揉んでいた。
 2016年、弟の提案により家族で年末の裏番組に出演する事に。
 斎藤社長と養子縁組が成立しているので戸籍上は斎藤性。

【星野瑠美衣】
 実の兄に結婚を迫る妹。こわい。
 アクアにガーネットとの関係を心配されていたが杞憂。
 年末特番出演のチャンスに少し迷うも、初志貫徹を決意。
 新宿FOLTに行って以降、ロックが気に入り時たま弟に付いてライブを観に行くようになる。
 斎藤社長と養子縁組が成立しているので戸籍上は斎藤性。

【星野我愛熱斗】
 懇意にしている鏑木P経由で打診が来た年末裏番組に家族で乗り込むクソガキ。
 11月の収録時点で178㎝だった身長が3月には195㎝へと成長を遂げている。こわい。
 貯金残高はあくまで普段遣いしている普通預金口座に入っているお金で証券口座などは含めていない。
 2017年ホワイトデー、満を持して新宿FOLTに帰還。開場前に入ってくる厄介ファンぶりを発揮して店長にやんわりと怒られる。
 大槻ヨヨコにチョコのお返しとしてマカロンを渡し、相手からはバウムクーヘンを貰う。くどい様だが当人ら曰く、そういうのではない。
 斎藤社長と養子縁組が成立しているので戸籍上は斎藤性。

【星野アイ】
 末息子の誘いに乗り、紅白出演を蹴って裏番組に出演してしまうトップアイドル。
 ガーネット曰く、今年の紅白がB小町として出演できる最後の機会かもしれない。
 というのも、2017年秋に開催予定のB小町5大ドームツアーの最終日 東京ドーム公演を最後にグループからの引退を予定しているから。
 斎藤社長と養子縁組が成立しているので戸籍上は斎藤性。

『B小町』
 アイなきB小町の予行演習を紅白でする。
 昨年の最高視聴率47.2%を47.3%とほんの少し上回る快挙を達成。
 ぽつんと星一つだった頃とは雲泥。
 星は連なり、星座になれた。
 これには命の輝きくんもにっこり。

『命の輝きくん』
 選り取り見取りでテンション上がっているかもしれない。
 今年は趣向を変えて派手に行くべく色々準備中。

七海「虎杖くん、見えますか?これが呪力の残穢です」

  • いや、全然見えない
  • 凝!(範囲指定反転pc勢)
  • オレでなきゃ見逃しちゃうね(メモ帳転写)
  • 本当だ混じってるよウケる(誤字報告)
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