目が覚めた時には、ヒーロー達に保護されていた。ヒーロー達の存在に困惑していた結城だが、すぐに事情は説明された。どうやら、自分が子供を追いかけた姿を見た人がヒーローを呼んだらしい。そのヒーローが駆けつけた時には、子供と一緒に倒れていたらしい。
何があったのか事情聴取され、結城は自分に起きたことを普通に話した。その結果、ヒーロー数名からは説教された。連絡しようとした携帯を壊されたことを話したら、逆に謝られた。理不尽に怒ってしまいすまない、と。
その事に関しては仕方ない、とは思う。なんせ無個性が勝手な行動をしたのだから。助けられたから良かったものを、犠牲者が増えるだけの可能性もあった。だからこそ、結城としては説教を素直に受け止めるしかない。
魔獣の話に関しては、だいぶ危なかったらしい。最近地方では知能を有した魔獣が見られると。子供を引きずり込んで囮にして他の人間を狩る個体もいるとか────最悪の事例は、ヒーローもそれに襲われているとのことだ。
因みにだが、子供は無事だったらしい。魔獣によって埋め込まれた幻覚作用の種で操られていたらしく、あの後病院でたねを摘出され、先ほど目が覚めたと聞く。
その後、ヒーローからの話も終え、子供とその親から謝礼を受け、帰宅した結城は一息ついた。
────彼は、少しだけ嘘をついた。全部を話したと警察やヒーローには伝えたが、隠していたことが複数ある。それは、記憶の中に残った微かな出来事だった。
一つは、食い千切られたはずの自身の腕が綺麗に戻っていること。あの痛みは、あのショックは嘘偽りではなかった。引きちぎられたはずの部位には断面や傷すら残ってなく。警察やヒーローも検査の結果、何もなかったと言っていた程に完全に治っていた。
そして、意識が途切れる前に自分を助けたと思われる声の主。自分はその人物を姉と認識していた。腕を千切られた直後に見えた走馬灯らしきものに、彼女のものと思われる声が何度か響いてた記憶も懐かしい。
「……………姉さん、か」
そんなものはいない、ずっとそう思っていた。何故なら自分の家にある写真の殆どに映ってる家族写真には姉らしき人物の姿はなかった。そう思っていた結城だが、自分の部屋に帰った時、ベッドの下に落ちた写真立てに求めていたものがあった。
自分と同じく、黒髪で長髪の女性。子供らしき自分 上坂結城の頭を撫でながら、猛々しい笑顔で笑うヒーローらしき女性。それが微かに見えた、自分の姉であることに間違いはなかった。
写真の裏側には、自分の名前と共に一つの名前が刻まれていた。
──────上坂ユイ
「…………上坂、ユイ」
自身の姉と思われる人物の名を、何度も口の中で噛み砕いた。当然ながら知らない名前だ。なのに、胸の奥が疼いていく。ざわつきながらも気が沈むように、落ち着いていく感じに包まれる。
少なくとも、やるべきことは決まった。
────英雄になれ、ユウキ。世界を救う英雄に
言われるまでもない。そう呟いた結城はあらゆる謎や疑問を握り潰し、前に進むことを決めた。姉と思われる人物との約束、それを果たすために。
◇◆◇
唐突だが、彼が警察やヒーローに黙っていたのは、それだけではない。他にも一つ、重要な変化の事実を明かしていなかった。
上坂結城に発現した────一つの力についてだ。
青白い光の粒子。それが全身から吹き出すように生じるというもの。どんな個性かも分からない、いや本当に個性かと疑ったが、こんなこと普通の人間には出来ないはずだ。
その力を扱い続けた結果、分かったことが幾つかある。
一つ、この青白い粒子は何らかのエネルギーのようなものであり、体内から生成されていると見られる。制限はない、試してみた限り、一日以上は続けられる。もしかしたら無尽蔵なのかもしれない。
二つ、このエネルギーは人体や物体に何らかの変化をもたらす性質を持っている。普通であれば単なるエネルギーに過ぎないのだが、意識さえすればエネルギーの効果を自分自身で決めることが出来る。
それによって、ある程度使いこなせるようになってきた。このエネルギーを自分自身に定着させることで、一部身体能力の向上や能力の発揮が出来るようになった。
『
身体能力を増強させる能力。全身に効果を与えることも出来るだけではなく、一部分だけに付与すること可能。巧く使えれば新しい力も発言するだろうが、まだ改善の余地は見えない。
『
エネルギーを体外へと放出する能力。破壊力があり、どちらかというと無機物を壊したり、圧倒的に強い敵などに使った方がいいかもしれない。
『
文字通り、傷やダメージを癒す能力。エネルギーの効果を回復のようなものへと切り替え、触れたものの怪我や欠損を治すことが可能。怪我が大きかったり、失った手足を生やしたりする場合は消費が激しい。
この三つの能力を扱えるこの力、エネルギーの呼称を決める必要があった。無個性として登録されていたが、この力がある以上、個性の更新は出来るはず。その名前を何するべきか前までは悩んでいたが、今は既に決めてある。
────『エーテル』
◇◆◇
そして数ヵ月が経ち、多くの学生にとって大事な日が来た。
雄英高校。多くのヒーローを排出してきたヒーロー育成機関にして、ヒーローを目指す者達が目指す養成校。
プロヒーローの何人も卒業しており、この国で天皇などの一族を主体とした組織『皇グループ』の『エタニティ・トライアル』の一つ、クレセント機関が共同運営していることからも、人気が最も高く、倍率も例年300という数字を越える程である。
上坂結城はその雄英の入学試験会場へと立ち入った。ヒーローを目指すならば、当然この学校に入ることを望むのが普通である。彼も個性を得るまでは憧れていたが、当初は無理だと思って諦めていた。しかし、今は違う。
入学のため、ヒーローになる為に────約束を守るために、上坂結城は入試を受ける決意を深め、前へと進んでいく。
その後ろで、緑髪の青年が転けそうにって一人の女子な助けられていたが、そこに関しては省くことにする。
◇◆◇
『今日は俺のライブへようこそーッ!エヴィバディセイヘイ!』
周りに挨拶を求めるも、静寂で返されて尚笑う男────プロヒーロー『プレゼントマイク』。真剣に受験に取り組もうとするあまり緊張したことで、返答すら出来ぬ学生達によって、沈黙が続く。唯一喋っているのは、オタクらしき緑髪の青年くらいだ。感動したように小声でボソボソと呟いている。
そうした合間にも、プレゼントマイクによる説明は続く。入試の、実技試験の内容は「模擬市街地演習」。複数に分けられた市街地内で十分の間、高校側が用意した仮想敵を撃破するというものだ。
しかし、単に撃破するだけでは終わらない。仮想敵には四つの種類があり、1~3P(ポイント)の仮想敵が存在している。ポイントが多い仮想敵ほど手強いが、そうしてポイントを増やしていくのが受験生達の試験目的である。
素直に納得した結城だが、その説明に疑問を覚えた。何故なら、紹介されたのは三体の仮想敵だけ。もう一体の存在はまだ明かされていない。説明会が始まった瞬間に配布された資料には普通に四体と記されている。
そのことに疑問を覚えた生徒が自分以外にもいたのだろう。彼はビシッと手を挙げ、「質問よろしいでしょうか!」と大きな声でプレゼントマイクの進行を呼び止めた。
「此方のプリントには四種の敵が記載されています!これが誤載であるのなら、日本最高峰の雄英において恥ずべき恥態!
ついでにそこの君!先程からボソボソと気が散る!物見遊山のつもりなら即刻 ここから立ち去りたまえ!」
真面目な雰囲気を匂わせる眼鏡の受験生は淡々と指摘しながらも、小声で呟いていた緑髪の学生に鋭い視線と共に吐き捨てる。言われた本人は意識してなかったのか、小さな声で「………すみません」と頭を下げ、周りから小さく笑われながら席に着いた。
その様子を見ていた結城はムスッ、と顔をしかめる。確かに眼鏡の青年が気を悪くするのは分かるが、あれは流石に言い過ぎではないのか。ここに来ている以上、遊びであるはずがないのは、考えれば分かるはずだ。なのに、あんな風に言うのは少し酷だと思う。少し文句を言うべきかと思ったが、プレゼントマイクが答え始めた為、邪魔してはいけないと大人しく引き下がった。
そして、眼鏡の受験生に注意された青年───緑谷出久は落ち込んだように話を聞いていたが、ふと隣にいた受験生が声をかけてきた。
「…………よっ、大丈夫か?災難だったな」
「い、いや………僕の方こそ、注意されるようなことをしたのは事実ですし………」
「でもよ、こんな場所で一々言う必要ねーよな。少し感じが悪いと思わねぇか?」
軽いノリで話しかけた受験生の青年にしどろもどろになりながらも答える出久。そんな調子で話そうとしていた青年だが、自分が名乗っていないことを思い出したのか、軽く謝りながら続ける。
「おっと、俺は雪風シオン。気軽に呼んでくれや。そんで、モジャモジャのお前は?」
「あ、僕は緑谷出久。よろしくね………えっと、雪風君」
「おう、出久。互いに頑張ろうぜ、実技」
ニカッと笑いながら拳を突き出すシオンに出久も真似するように拳を前に出すと、彼が軽く拳をぶつける。カツン、と拳同士で叩いた後、彼は切り替えたように話を聞き始める。出久もすぐに話に戻り、試験の内容の続きに耳を傾けた。
最初に明かされなかった四体目の存在。それは0Pの仮想敵であった。当然ながら、倒す必要のない障害物であり、プレゼントマイクの言う通り『お邪魔虫』となる害悪モブである。
要するに、0Pのお邪魔虫を掻い潜り、仮想敵を倒せるかというのが今回の実技なのだろう。最後の話を聞き終えた数人の生徒達は余裕に満ちた笑みを浮かべ、大半が緊張のあまり気を引き締める。
プレゼント・マイクの激励を受け、生徒達は各々の受験会場へと向かっていく。
◇◆◇
「………ここが今回の試験会場かぁ」
模造の市街地を前に感心したように頷く結城。こんなに広いエリアが他にも幾つかあるのだ。スゴいと思うのが普通だろう。ジャージに着替えた受験生達を見渡しながら、結城は心から気を引き締めていく。
必ずヒーローになる。その決意を胸に秘めた彼だが、ふと周りを見ていた視線がある人物へと集中した。
────いつの間にか現れた、小汚ない男性に。
「……………え?」
髪もヒゲも生えきっており、整えていないのかボサボサとしている。当人も気にしていないらしく、その姿はどちらかというとホームレスに近い。眠そうに目を細めた姿もあり、不審者その人である。
他の受験生達も結城の視線の先に気付いたらしく、ボソボソと囁き始める。誰だの、何だあのオッサンだの、少し汚くね? だの。同感ではあるが、本人の前で言うのはどうなのだろうか。
そんなざわめきが多くなる中、小汚ない男はポケットからストップウォッチを取り出すや否や、
「…………はい、スタート」
カチッ、とストップウォッチを押し出した。その光景に、全員の理解が追いつかない。呆然と、目の前の出来事を前に硬直するしかない。
その言葉の意味を理解できた結城は、何とか咄嗟に動く。走り出すよりも先に、体内からエネルギーを───『エーテル』を生成する。充満する青白いエネルギーをある部位、両足へと収束させ────能力を付与する。
「『
両足に付与された倍加の能力が、身体能力を二重に引き出す。膨張した脚が地面に力を込め、蹴り飛ばした瞬間には、ロケットのように飛び出す。
何倍もの速さで走り出した結城はスタートラインを突き抜け、市街地へと踏み込む。その瞬間、市街地内にたむろしていた仮想敵が此方を認識し、突撃してきた。
『標的補足!ブッ殺ス!!』
(よし!来た!────まずは一回飛んでから)
迫り来る1Pの仮想敵を前に、結城は前へと突き進む。踏み込んだ片足に倍加の能力─────特殊な力を有したものを付与し、意識を集中させる。
(『
脚に込められた倍加の機能が変化し、バネのように縮まった筋肉が膨らむと同時に結城が一気に跳ね上がる。即座に跳躍した結城は振り下ろされた仮想敵の上空へと飛び、瞬時に掌を突き出し、『エーテル』を収束させる。
「『
掌から放出されたエーテルの閃光が、仮想敵を貫通し、撃破する。仮想敵を撃破した結城は巧く扱えたことに安堵しながらも、次の仮想敵に対応するために市街地に駆け出していく。
他の受験生達が動き出したのも、彼の戦いを認識してようやくのことだった。
「…………他の奴等は遅すぎるが、あそこまで速いとはな。素直に感心するよ」
慌てて追いかけるように走り出した受験生達を尻目にスタートを示した男が結城への興味を覚えたように笑う。タブレットを操作していた男はふと指を止め、食い入るように見つめたその名前を噛み締めた。
「────上坂…………アイツの弟か」
複雑そうに呟いた男は静かにその場から離れていく。こうしている間にも、他の会場でも同じように入試が始まっているのだった。
用語解説
『皇グループ』
この世界の日本の中核を担う組織。トップであり天皇の一族『皇』と、その下にある三つの組織『エタニティ・トライアル』が主になっている。尚、『エタニティ・トライアル』は『アースランド・プラント』、『クレセント機関』、『天照重工』の三つの組織兼企業の総称である。
『皇グループ』及び『エタニティ・トライアル』は国の中枢とも呼べる存在であり、政治や経済に口出しできるほどの権力と軍事力を有している。唯一口出しできるのはプロヒーローでも数名と言えるほど、この国では重要な立ち位置に存在している。