「はぁ・・・」
溜息を吐く僕は骸骨(Lv15)のモンスターです。どうして溜息なんか吐いてるかというと、暇だからです。
「あ〜暇、超暇、やることナッシング」
本当だったら冒険者とかと戦ったりするんでしょうけど、ほら僕って骸骨なんで。そこらへんによくいる骸骨なんで経験値も少ないんすわ。スルーされるんですよねぇ・・・超スルー。襲いかかってもいいんですけど、ほら、僕ってレベル15じゃないですか?僕のいるこの沼地って基本的にレベルの高いモンスターが多くて、冒険者もレベル高いんすわ。襲い掛かろうもんならそりゃあもう返り討ちですよ。即殺ですよ即殺。嫌ですよ、死にたくないですよ。いや、もうアンデッドなんで死んでるんですけど、骨なんですけど、それでもやっぱ死にたくないんすわ。
「はぁ・・・何か起きないかなぁ・・・」
「おいおいどうした?溜息なんか吐いて」
「あ、ビッグスライムさん!どもっす」
このビッグスライムさんはこの沼地にたまにいるいわゆるレアモンスターなんですけど、何とこの人俺の倍のレベルあるんすわ。何やったらそんなレベル上がるんすかね?羨ましい。
「んで?なんで溜息吐いてたの?」
「いや、何か最近何もないなぁって。刺激、欲しいなぁって思っちゃって」
「冒険者に凸ったら?」
「嫌ですよ!死ぬじゃないですか!」
「お前もう死んどるやんけ」
「でも嫌ですよ!死なない方向性で刺激が欲しいんですよ」
「死なない方向性ねぇ・・・あ、そうだ。ならさ、人間になってみないか?」
ビッグスライムさんはそういうと僕の目の前で黒髪ロングでスタイル抜群の人間の女の姿に変身した。
「どうだ?見分けつかねぇだろ?」
「すげぇ・・・変身能力あったんすね。いや、マジで美人ですわ、すいません。見抜き、いいっすか?」
「別にいいけどその体でどうするんだよ」
「心で」
「心で見抜くってなんだよ」
「もう抜きました」
「早いなおい・・・まぁいいや。ところで、さっきの話、どうよ?」
「それなんですけど、人間になるとは?」
「察しが悪いな。お前が文字通り俺の骨格になるんだよ。こう、お前を俺の中に入れてな?」
「・・・それ、消化されないっすか?」
「しねぇよ、ダチだろ?俺達。」
そう、ビッグスライムさんは僕の唯一の友達なんです。たまたま出会った時に意気投合してよく僕の愚痴に付き合ってくれる優しい先輩・・・
「なります、僕、人間になります!!!」
「よし!よく言った!それでこそ男や!・・・本当に男か?お前?」
「・・・さぁ?どっちなんすかね?」
とりあえずビッグスライムさんの中に入ることになった。
「うわ・・・すっご・・・ひんやりしてて・・・それでいてベタつかなくて、なのにヌルヌルでまとわりついてきて・・・」
「実況しなくていいから。これでOKだろ、動いてみ?」
軽く腕を動かすと、まるで自分の体のようにひょいっと動いた。・・・感動。
「ところで、なんで女の体なんすか?」
「え?趣味。あと、馬鹿な人間が寄ってきやすいから」
「あぁ、なるほど」
「なぁ、これで街行ってみようぜ」
「街って人間の街っすか!?冒険者だっているんですよ!?レベルの高い奴だったら速攻でバレちゃいますよ!!」
「大丈夫大丈夫、なんとかなるだろ。それにほら、今は中身あるし」
「そういう問題じゃないと思います・・・」
とにかく、そういうことになった。ここからちょっと離れた場所に人間の街、名前なんてったっけな?まぁいいや。人間の街があります。そこに行って人間観察することになりました。
「着いた・・・これが人間の・・・街・・・」
実は僕、人間の街、初めてだったりします。
「(おい、あんまキョロキョロすんなよ。堂々としてろ堂々と)」
「(そんなこと言ったって・・・こんな綺麗な場所初めて来るんですよ?ビッグスライムさんは来たことあるんですか?)」
「(いや、ねぇけど・・・とりあえず少し歩いてみようぜ)」
街に入った時からそうだったんだけど、人間がめっちゃ見てくる、ヒソヒソ話とかしてる。バレてんのかなぁ?いや、バレてないよなぁ、だって、ガワすっっっごい美人なんだもん。心にクるもん、勃起もんですもん。きっとみんなもそうに違いない、きっとそうだ。そう考えていると、店の人間が話しかけてきた。
「おい!そこの美人な嬢ちゃん!何か買ってってよ!」
「・・・僕達のことですかね?」
少し辺りを見回して近付いていく。人間は両手を広げて目の前の果物とかを見せてくる。人間の金、持ってないんだよなぁ・・・
「今は遠慮しておきます、また機会があれば」
「ありゃ、そうかい。それは残念だ。んじゃ、これはサービスだ、持ってきな!」
そういうと人間は林檎を一つ手渡してきた。僕はそれを口に運んで咀嚼するフリをする。
「(ビッグスライムさん、どうっすか?)」
「(おいこれマジでうめぇぞ!甘いしジューシーだし、汁がどんどん溢れてくる!めちゃうま!最ッ高!)」
「ガハハ!美味そうに食ってくれるじゃねぇか!次来た時は沢山買ってってくれよな!」
ビッグスライムさんが林檎を丸呑みしてしまう前に人間に手を振ってその場を後にした。誰にも見られないように路地裏に隠れて、ビッグスライムさんが林檎を消化するのを待った。深く味わうようにゆっくりと消化していく。
「はぁ・・・うっま・・・人間の金、欲しいなぁ・・・」
「いいっすねぇ、ビッグスライムさんは味覚があって・・・僕なんかただの骨ですからね、味なんてもう・・・」
その時、4人の人間が僕達を囲むように寄ってきた。
「なぁ嬢ちゃん、俺らと一緒に遊ぼうや」
えーっと、1、2、3、4・・・これやばくね?
「(やばいっすよ!ビッグスライムさん!マジやばです!!人間が!しかも戦えそうな奴が寄って来ちゃいましたよ!)」
「(あ?うるせぇなぁ・・・今堪能してるところだろうがよ・・・)」
「おい、話聞いてんのか?」
1人の人間がビッグスライムさんの肩に触れた。あー、これは終わったわ。
「・・・すぞ」
「は?」
「俺の邪魔しやがって・・・殺すぞ人間」
ビッグスライムさんは一気に4人の顔面に自分の体を貼り付け、そのまま体全体を包み込んで一瞬で消化してしまった。
「うっげ、まっっっず・・・あの林檎に比べたら人間ってこんなに不味かったんだな・・・今まで井の中の蛙だったわけだ。てか、もう最悪だぁ、林檎の味が上書きされちまったよぉ・・・」
「ビッグスライムさん・・・」
悲しそうなビッグスライムさんを見て何かしてあげられないかと言葉を紡ごうとした時、ふと残った人間の衣服を見て思った。あれ?これもしかして・・・
「ビッグスライムさん、ビッグスライムさん!」
「んだよ、今落ち込んでるって時によぉ・・・」
「今さっきの人間の服に金入ってたらしませんかね?」
「・・・お前、天才か?」
ビッグスライムさんは素早く人間の衣服に体を伸ばし、見つけた。
「4人とも持ってやがったぜこの金をよぉぉ!!!」
ビッグスライムさんは大喜びで金の入った袋を掲げる。
「良かったっすね!ビッグスライムさん!・・・あっ、でも・・・」
「どした?」
「僕達って、お金の計算出来なくないっすか・・・」
「・・・そう思うだろ?実はな、俺、吸収した物の記憶が自分の物になるんだよ」
「流石ですわ・・・てか、あれ?僕・・・何かレベル上がってる?」
レベル15だったはずのぼくがいつのまにかレベル20になっていた。
「あぁ、多分今俺とお前がパーティー組んでる状態になってるんだと思うわ。良かったな、これでレベルガンガン上がるぜ?」
「強くなれるんですね、僕・・・」
再び感動、そしてビッグスライムさんも再び林檎が食えることに感動。2人して感動。
「よし!そうと決まりゃ早速買いに行こうぜ!林檎をよぉぉ!!」
「お〜!」
この喜びを人間にバレないように歩きつつ、しかし、ビッグスライムさんの顔は満面の笑みで林檎を買いに向かった。・・・そんな僕達を見つめる者がいたことに僕達は気付かなかった。
「・・・あいつらは・・・」
再びあの人間の元へやってきた僕達は、ひとまず林檎を10個買って街を出た。そして故郷の沼地へと帰ってきた。ビッグスライムさんは10個林檎をほうばると、幸せそうな顔でゆっくり林檎を消化し始めた。
「良かったっすねぇ、ビッグスライムさん」
「あぁ、人間最高だぜ・・・金にもまだ余裕があるし、また行こうぜ・・・これから無差別に人間食うのやめよ」
「そんなに林檎気に入ったんすか」
「気に入っちまったなぁ・・・マジで。他の果物も食いてぇぜ・・・」
林檎を消化しきって愉悦に浸るビッグスライムさんを見ていた時、誰かが話しかけてきた。
「おい、お前ら」
「え?なんでしょうか?」
振り返るとそこには完全武装の冒険者が1人立っていた。
「(ぼ、ぼぼぼぼ、ぼ、ぼ、冒険者ァァァ!?はぇぇぇ!?)」
「(というか、おい、こいつさっき、お前らって言わなかったか?・・・バレてるぞ、俺達のこと)」
警戒する僕達を見ながら、冒険者は言った。
「お前らさっき人間食ったろ」
「(あ、これ、殺されるやつや)」
僕は死を悟った。いつもなら先手を打つビッグスライムさんが何もせず様子を見ている時点でこの冒険者は並々ならぬ強さを秘めているのが分かる。終わった、さようなら僕の骨人生。冒険者は僕達に近付くと、肩に手を置き、言った。
「お前らが食った奴等な、ここら辺じゃ有名な指名手配されてる奴等だったんだよ。恐らく偶然だとは思うが、よくやった。最初は街を襲う為に来てたのかと思ったが、そうじゃなかったみたいだし良かった良かった」
冒険者はそう言って笑った。でも、次の瞬間、僕達は文字通り震えることになった。
「でももし、お前らが街の人達に危害を加えようなんて思ってるんだとしたら・・・ここで殺さにゃならん。分かるか?」
とてつもない殺気。ビッグスライムさんが人間の形状を保てないほどブルブルと震えている。圧倒的な力の差を前に僕達は震えることしか出来なかった。でも、ビッグスライムさんが勇気を振り絞って喋り始めた。
「昔は見境なく襲ってた、それは認める。だが、今の俺は人間なんぞに興味はねぇ・・・林檎だ、それか別の果物が食いてぇ・・・ただそれだけだ。」
冷たい目がビッグスライムさんを見つめる。しばらくその状態が続いたが、次に瞬きをした時、冒険者の目は優しいものになっていた。
「そうか、林檎が食いてぇか。なら、俺と一緒に来い。人間の為に働け」
「は!?なんで俺達が人間の為なんかにーーー」
「人間の為に働けば金が手に入るぞ?金があれば飯が食い放題だ。・・・それともさっきの話は嘘か?」
また冷たい視線が僕らを襲う。
「分かった、付いてきゃいいんだろやるよ。どうせ金が欲しいの本当なんだからな」
「なら良し」
再び冒険者の目が優しいものになった。この光景をずっと見ていた僕は震えっぱなしだ。
「(こんな怖い冒険者と話せるなんて・・・やっぱりビッグスライムさんはすげぇや・・・)」
改めてビッグスライムさんを尊敬した。
「すまねぇな、俺の我儘のせいでお前まで巻き込んじまうことになっちまって・・・」
「いや、全然いいですよ!僕、ビッグスライムさんが喜んでるところ見るの好きなんで!」
「お前・・・馬鹿じゃねぇの・・・」
ビッグスライムさんが少し照れたような気がした。そうして僕達はこの冒険者について行くことになった。
「俺の名はガロウ、よろしくな」
どうやら冒険者はガロウという名前らしい。人間って名前があるんだなぁ・・・。そうして、僕達とガロウさんの冒険が始まった。
ガロウさんについて行くと沼地の洞窟へとやってきた。ガロウさんいわく、ここに討伐対象のモンスターがいるらしい。
「なんて名前なんですか?」
「オオトカゲだったかな?金は安いがオオトカゲを2体街に持って帰ればいい」
「ちなみにオオトカゲのレベルは・・・」
「50だな」
「ごっっ・・・」
「まぁ、倒すのは俺に任せておけ。お前らは運ぶのを手伝えばいい」
ガロウさんはそういうと光魔法で洞窟を照らしながら進んで行った。僕達はその後をただついて行った。そして、お目当てのオオトカゲと遭遇した。
「お、ようやく1匹。そんじゃサクッとやりますかねぇ!」
背中に背負っていた大きな剣を手に取り、一気に振り下ろすと一撃でオオトカゲを倒してしまった。強い・・・
「ところで、ガロウさんが受けてるクエストって一体どう言う・・・」
「ん?あぁ、何かこのオオトカゲ、街では美味いって人気でな?度々取ってきてくれ〜っていう依頼が入るんだよ。んで、このサイズだろ?2匹で1、2日くらいは持つからな」
「美味い・・・じゅるり」
ビッグスライムさんの口からヨダレが垂れる。
「さて、こいつを縛って・・・」
ガロウさんが振り返るとそこには何もいない。えぇ、見てました。見てましたとも。ビッグスライムさんが食べちゃうところ!
「・・・お前、食ったろ?」
「食ってないです」
「いや、食ったろ?」
「ないです」
「・・・正直に言ったら林檎をやる」
「食べました、美味かったですご馳走様でした。」
その後普通にしばかれました。僕も痛かったです。
「はぁ、まぁいいや。また狩ればいいし。次は食うなよ?」
その後、2匹のオオトカゲを無事倒しました。僕達のレベルも上がりました。美味しいです。そうして僕達はオオトカゲをズルズルと引きずりながら街へと帰ってきました。何か、あの嬢ちゃんすげぇなって声が聞こえたりします。・・・何がですか?依頼主にオオトカゲを引き渡した後、ガロウさんが報酬金を半分分けてくれました。少ないとは言っても僕達にとっては大金です。林檎2つ分です。お金に喜んでいると、ガロウさんがこんな提案をしてきました。
「なぁ、お前ら。俺と一緒に冒険者にならねぇか?」
「いいよ」
「ビッグスライムさん!?」
「即答か、面白いなお前」
「金が手に入るんならただのモンスター何かやめて冒険者になるわ、次はあの桃ってやつが食いてぇ・・・」
ビッグスライムさん・・・もう食い物にしか目が行ってないですね・・・流石スライム種
「そうだ、お前らいちいち沼地に帰るのも面倒だろ?俺の家に泊まっていけ」
「いいんですか?」
「良いも何も、もう俺達はパーティーだからな」
「それはいいけどよ、この俺の姿に欲情すんなよ?股間溶かすぞ」
「誰がするか!お前らが何者か分かってるってのに」
「分かってなかったらしてたんですか?」
ガロウさんはノーコメントだった。つまりはするんですね?するんですか?そうですよね?ソウルブラザー・・・
そうして僕達はガロウさんと一緒に暮らすようになりました。
あれからガロウさんのダンジョン攻略について行って自分達の装備も持てるようになった。というか買ってもらった。いつまでも手ぶらはどうなんだってことで。容姿が良いから魔術師になることになった。まぁ、あくまでも仮の姿として。しかし、レベルもだいぶ上がったなぁ・・・昔はたったの15だったのがいまでは何と50!ビッグスライムさんに至っては70ですよ70!バケモンかっての、いや、僕らバケモンでしたわ。討伐される側でしたわ。とまぁ、そんなこんなでもうビビってたあの頃とはさよならバイバイ、俺はビッグスライムさんとガロウさんと旅に出てるって感じですよ。
「そういえば〜、ガロウさんってぇ〜今ぁ、レベルぅ〜なんぼくらいなんですかねぇ〜?」
流石に人間のレベルの上がり方はモンスターと違って遅いと聞く。これはもう、勝ったな。
「ん?今の俺か?90くらいだけど」
「きゅっっっ」
あ、そうですか。そうですよね。僕らがレベル上がるってことは、それすなわちガロウさんもレベル上がってるってことですもんね。ですよねぇ〜・・・あ〜涙でそう、出ないけど。
「というか、そうか、気にしてなかったがもうそんなにレベルが上がったんだな、驚きだわ」
驚いたのはこっちなんですけど。
「まぁ、そうですねぇ、今まで確認とかしてこなかったですもんねぇ・・・」
「そんなことより林檎食いてぇ」
ビッグスライムさんはもう林檎食いてぇマシーンと化しちゃってるし・・・どんだけ食いたいんすか、レベルより林檎っすか、もしかして俺だけですかレベルに固執してるの。もうやめようかなぁ!?固執するの。
「まぁ、レベルなんてここら辺まで上がってくると飾りみたいになってくるよなぁ・・・スキルとかだって欲しいもんは大概取っちまってるしよ」
スキル、そういやスキルとかあったなぁ・・・昔じゃスキルとか取りたくても取れない、喉から手を伸ばしても取れないものだったのに今では取り放題ですよハハッ。てか、スキルそういや取ってないなぁ・・・なにか適当に取ろうかなぁ・・・
「そういえばビッグスライムさんはスキル何か取ってるんですか?」
「ん?あぁ、取ってるよ、取れるもんは全部。何かさ、取っとかないとずぅっと取れますよアピールされてウザイから」
そんな理由で取ってるんだ・・・じゃあ僕も何か取っとこうかな・・・え。何この変形って・・・かっこよさそう、取っとこ。合体とかもある・・・え、誰と合体するの!?あなたと!?というかもう僕合体してるんですけど。まぁ、いいやこれも取っとこう。あとはーーー
「お〜い、何してんだ?さっさと帰るぞお前ら〜」
「あ、は〜い。今すぐ行きま〜す。取るのはあとでもいっか」
僕達はさっさと街に帰ることにした、目的も果たしてたし。家に着いてから僕はスキルの吟味を始めた。
「骨投げ・・・え、これスキルだったの?ブーメランみたいに手元に戻ってくるのかな?それなら欲しいけど」
「スキル選んでんのか?」
「そうです、ビッグスライムさんはどんなの取ってるんですか?」
「ん〜?そりゃ捕食とか吸収とか合体とか」
「あ、合体取ってるんだ」
「何か面白そうだろ?合体。まぁ、使ったことないけど。というか使う場面どこだよ」
「それもそうですよねぇ」
合体、面白半分で取ったの間違いだったかな・・・まぁいっかもう取っちゃったし。それよりも他に何を取るか決めないと・・・そうこうしてるうちに、朝が来て太陽の光が差し込み、僕らを照らした。
「あ、もうこんな時間か・・・そろそろガロウさん起こさないとですね」
「そうだな、次の依頼ってなんだっけ?」
「次は確かダンジョンでの落し物の回収でしたっけ?」
「落し物回収って・・・めんどくせぇなぁ・・・」
「まぁ、どうせ僕らはついてくだけなんでそんな面倒なことにはなりませんよ、多分」
「そだなぁ、んじゃさっさと起こしに行くかぁ」
「はい!」
僕らはこの時知らなかった、自分達が取ったスキルであんなことが起きるなんて・・・
ガロウさんを起こしに行った時、異変は起きた急に体が光り始めたのだ。
「え!?なんですかこれ!?」
「なんだなんだ!?」
「ん〜、眩し・・・カーテン一気に開けんなって毎回言ってるじゃねぇかよぉ・・・ってうぉ!なんだ!?」
その光は収まり始め、消えた。・・・特に体に変化はないみたいだが。
「・・・ん?おい、お前ら。何か、名前変わってんぞ。スライムボーン・・・?なんじゃそりゃ初めて聞いたぞ」
「俺達も初めて聞きましたよなんですかそれは」
「ん?今どっちが喋ってるんだ?」
「え?どっちって・・・」
・・・どうやら俺達、合体して別のモンスターになってしまったようです。超林檎食いたいっす。
「まぁ、いいじゃん、さっさと捜し物探しにいこうぜ」
「別のモンスターになっちまったのか、これは進化でいいのか?というか、進化ってことは・・・あ〜やっぱりな」
「どうかしたんですか?俺の事見つめて・・・欲情したのか?」
「してねぇよ!お前ら、というか今はお前か、レベルが下がってんぞ?」
「え!?」
あ、ほんとだ。すげぇや、レベル1になってる。スキルは残ってるのに。
「夢の高レベルが・・・一気に・・・ハハッ。現実って残酷ですね」
「まぁ、良いじゃねぇか、捜し物ついでにレベル上げてきゃ・・・どうせお前らついてくるだけなんだし」
「それもそっか!んじゃお願いしま〜す」
「今考えると何も手伝わずにレベルだけ貰ってるとか腹立つな・・・やっぱ少しは手伝え!」
「嫌です〜レベル1の非力な女の子なんですぅ」
「お前に性別なんかねぇだろうが!」
「あ、それで思い出したけど、変身能力も制限かかっちまってる。性別は変えれるくらいは出来るけど」
「スライムとしての機能が落ちてんのか、じゃあスケルトンとしての能力はどうなんだ?名前似てるしボーンスライムみたいに骨飛ばしたりすんのか?」
「骨飛ばしは〜、あ、ありました。新スキルとして勝手に会得してますねこれ。」
「なるほど、ボーンスライム系統寄りってわけか。とりあえずレベル上げも兼ねてさっさと行くとするかね」
ということで、ダンジョンへ出発することに。そんな俺達を見つめる者がいることにその時は気付いてなかった。
「・・・スライムボーンねぇ」
さて、ダンジョンに来たはいいものの、落し物が全然見つからない!あ、レベルは上がりました。50くらいには。もう5時間ぐらいさまよってます。
「・・・見つからねぇな」
「だなぁ・・・腹減った、林檎食いてぇ」
「・・・お前、本当に混ざっちまったんだな一人称僕と俺だったのに俺に統一されてるし」
「あれ?そうだっけ?・・・ん?てか、あれじゃね?あの無駄に光ってるやつ」
「お?おー!あれだぁぁぁぁ!やっと見つけたぁ・・・疲れたぁ・・・」
「確かに疲れたな、結局戦闘手伝わさせられたし」
「当たり前だ、レベル50もあるやつが弱いわけねぇだろ」
「ま、いいけどさ。んじゃさっさと帰ろーぜ」
ガロウはちょっと泣きそうになってる、というか涙溜まってる?泣いてる?ねぇ、泣いてんの?ま、そんだけ疲れたってことだな。さっさと帰って林檎食って寝ようぜってことだな!そうして帰ってきた後、ガロウは死んだように眠りについた。俺も少し仮眠をとる事にした。流石に疲れた。明日も荒野ダンジョンへ行かなきゃだしな。
「・・・まさか、合体が条件だったりするのかな」
そんなことを思いつつ、眠りについた。
荒野ダンジョンに向かった俺達はレベルも相まってスルスルと下っていた。今回の依頼は、キングオオトカゲの討伐。これでしばらくは飯に困らねぇって感じらしい。
「キングオオトカゲ・・・一体どんな味がするんだ・・・」
ヨダレが垂れる。口の中がもう大変なことになってる。食うのは街に帰ってからなんだが、もう待ちきれねぇぜ。そうしてようやく最下層へと到着。すると、地面が揺れるほどの大きな音がこちらに近付いて来ていた。
「お、ようやくお出ましか?」
どうやらその通りだったようだ。めちゃくちゃ大きいオオトカゲが目を血走らせてこちらを睨みつけていた。
「この裏切り者め!」
「ん?」
辺りを見回しその裏切り者とやらを探す。
「貴様だ!貴様!スライムボーンとかいう謎のモンスター!人間の味方なんぞしよって!!」
「勘違いするな、一緒に行動してるのは利害の一致ってやつだ」
「知ったことか!貴様はこの俺が今ここでーーー」
「えい」
ガロウがキングオオトカゲの言葉を遮って斬りかかった。
「この非常識者めが!!話してる時に攻撃を仕掛けて来るなんて!化け物が!」
「化け物はお前だよ」
「ギャー!!」
無事、キングオオトカゲは討伐されました。やったぜ、これで食える。
「なぁ」
「ん?」
「あんま気にすんなよ、裏切りもんがどうとかって」
「別に気にしてねぇよ、てか、お前が1番気にしてるじゃねぇか」
「それは・・・」
ガロウは少しバツが悪そうに言い淀んだ。最終的には利害の一致とは言え、最初は確かに強制だったからだろう。でも、モンスターだって共食いや殺し合いが無いわけじゃない。今更裏切り者と言われたところで何も響きはしない。それに、モンスターに喋るほどの知能があるやつの方が少ない。そうそう言われる機会なんてない。
「気にすんなよガロウ。とにかくこれで任務達成、さっさと帰ってこいつ食おうぜ」
「おう、それもそうだな。さっさと飯にしよう!」
ガロウは何かを振り払うように頭を振り、キングオオトカゲを引っ張り始めた。
「手伝ってやるよ」
俺もキングオオトカゲを引っ張り、街へと帰った。その日、街では宴が始まった。俺達はちょっとした英雄みたいな感じだった。料理人が捌き、真っ先に俺達に振る舞われた。オオトカゲよりもジュシーで匂いも凄い。脂も乗ってて最高に美味い!こいつはやって良かったぜ、この仕事をこなさなきゃ味わえなかった味だ。俺達はキングオオトカゲを肴に飲み明かした。
最近、誰かに見られている気がする。冒険に行く時や、林檎を買いに街を歩いている時・・・そんな気配がするのだ。怖いなぁ〜怖いなぁ〜って思ってたそんなある日、超美形の青年が声をかけてきた。
「ねぇ、ちょっと。そこのお姉さん。少しだけお話いいかな?」
青年はちょいちょいっと手招きをして路地裏に誘っている。これはナンパですか?それともそういうやべーやつですか?まぁ、レベルもそこそこあるしなんとかなるだろとついて行った。でもなんか引っかかるんだよなぁ・・・何かこの青年、どっかで見たことあるというかなんというかぁ・・・路地裏に着いてから俺はようやく気がついた。気が付いてしまった。このお方が一体誰なのかを。
「あの〜、すみません。もしかしてなんですけどぉ〜、ま、魔王様・・・やってたり、しません?」
青年は振り返り満面の笑みを浮かべると頷いた。
「うん、そうだよ。よく分かったね、というか覚えてたね。モンスター達には1度しか顔見せてないのに」
マジだった。いや、マジか。困ったなぁ、困るなぁ、超困る。いや、本当にマジで。てか、なんで魔王がこんなとこにいんの!?ここ人間の街!魔王城じゃないよ!?なんで出歩いてんの!?
「いやぁ、人間観察してたら馴染んじゃってね。今ではここで生活してるんだ〜」
してるんだ〜じゃないよ!してちゃダメでしょ!魔王は玉座でふんぞり返ってないとダメでしょ!?
「ところでさ、君、なんでそんなことになってるの?スライムボーンなんてモンスター初めて見たよ」
「いや、分かんないっす。思い当たる節と言えば、スキルで合体取ってたからこんなんなってたというか、なんというか」
「へぇ〜面白いね!ということはさ!僕が知らないだけで君みたいな個体が沢山いたりするのかな!?」
「いやぁ、それはどうっすかね・・・自分以外で見たことないんで・・・」
「そっかぁ、それは残念だなぁ。まぁ、いっか!そのうち見れるかもだし」
「ところで魔王様。こんなところにいていいんですか?ほら、勇者とかと戦うっていう仕事があったりーーー」
「いや、ないよ。僕何も悪いことしてないし、勇者が襲ってくる理由ないし。というかそもそも勇者死んでるし」
「え、勇者死んだんすか!?」
「死んでるよ〜、あっ、僕は殺してないからね?道半ば?志半ば?で死んだっぽいよ。ま、あくまでも風の噂だけどね〜」
「新たな勇者待ちってことですか?」
「まぁ、そんな感じかなぁ・・・勇者と戯れたかったけど人間は簡単に死ぬもんだからねぇどうしようもないよねこれに関しては。」
人間って本当に弱い生き物だなぁとつくづく思った。
「んじゃ、僕はそろそろ行こうかな。また機会があったら話そうよ、林檎好きなモンスターさん」
「あ、はい。ははは・・・」
俺の事見てたのこの方だったのか・・・魔王様は手を振りながら人の群れの中へと姿を消した。
「寿命かぁ・・・考えたこともなかったなぁ・・・」
いや、勇者が寿命で死んだかどうかは知らんけれども。あ、てか、そんなことよりもガロウから買い出し頼まれてるんだった!まずいまずい!もうこんな時間だ!あいつすーぐ文句垂れるからなぁ・・・。夕暮れを背に俺は家へと走り出した。けど、手ぶらなのに気付いて目的の物を買ってから家へと帰った。もちろん文句は言われた。
「ゴホッゴホッ・・・すまねぇ、どうやら風邪引いちまったみてぇだ・・・」
「人間ってすぐ病気にかかるんだなぁ・・・大変だな」
「あぁ、そういう生き物だからな。悪いがしばらくは冒険もナシだ」
「は?ということは収入も?」
「ナシだ、ゴホッゴホッ」
ガーンッだな・・・これは由々しき事態だ。林檎が食えなくなるのはまずい・・・非常にまずい!何とか出来ないものか・・・そこで閃く天才モンスター。治癒魔法があるじゃん!・・・と、スキルを見てみたところ、戦闘向きなスキルばっかで治癒がゴミみたいなものしかない。正確に言えば、超初期からあるような治癒魔法しかない。というか、あっただけ凄い。焼け石に水かも知れんがこれをガロウにかけよう。すぐさま治癒魔法を取り、ガロウにかける。
「お前、治癒魔法なんか使えたのか・・・ビックリだわ」
「おう、俺もびっくりだ。でも、安心するのはまだ早い。何せこの治癒魔法、初級も初級、超初級の治癒魔法だからな。風邪に効くかも怪しい」
「でも、少し楽にはなった気がするぜ?プラシーボ効果かも知れねぇけどよ」
「まぁ、念の為休んどけよ」
「あぁ、そうさせてもらうよ」
ガロウは疲れてたのか、すぐに眠ってしまった。まだ少し顔が赤い。看病のやり方はよく分からんが、とりあえずビッチョビチョに濡らしたタオルを顔に乗せとくといいということは知っている。そんなわけで、顔に乗せてみたが、ガロウは寝苦しそうにしている。・・・何か間違えたか?とりあえず、このビッチョビチョのタオルを絞ってみることにした。絞って帰ってくるとガロウは顔以外も濡れていた。頭とかもビッチョビチョになっている。さては、塗れたタオルよりも乾いたタオルの方がいるな?すぐさまもう1つタオルを取り出し拭いてやる。体とかも拭いてやった。俺はなんて優しいモンスターなんだろう。プルプル震えてた頃が懐かしいぜまったくよぉ。ガロウの顔を見てみると少しはマシな顔になっていた。どうやら効果があったらしい。こんな七面倒なことをしないと良くならないなんて本当に人間ってやつは弱いなぁ・・・むしろモンスターが頑丈すぎるのか?とも思ったが、モンスターでも眠りや毒、麻痺とか色々かかったりするなと今思った。
「モンスターも似たようなもんか・・・」
そんなことを口にしながら、気が付くとすっかり暗くなっていた。
「何か今のこいつが食えそうな飯用意してやらねぇとなぁ・・・何があんだ?」
病人食ってやつがよく分からない。だが、俺には多少の知識がある。粥とかいうのも作ればいい。米を何かお湯でベチャベチャにしたやつ!作ってやろうじゃあないの。とりあえず炊き上げた米をお湯にぶち込んでじっくりコトコトやってみた。すると、何かそれっぽくなった。まぁ、こんなもんか、やってみるもんだな!案外簡単に出来たわ、流石は俺。ガロウのところに持っていってやると丁度目を覚ましていた。
「ん、粥か・・・すまんな」
「いいんだよ、これくれぇなんてこたねぇ。あと、ほれ。」
ドンッ!っと林檎を粥の横に1個置く。俺の大事な林檎ちゃん。
「大切に食えよな・・・」
「・・・くれるのはありがてぇんだがよ、せめて皮剥いて切ってくれねぇかな・・・」
「丸かじりが美味いんだろうがよ、四の五の言わずに食え」
「へいへい」
ガロウは粥を少しづつ食べながら笑っていた。
本来はガロウと行くはずだった依頼を念の為、ガロウを残して一人で行くことになった。その依頼は、沼地のダンジョンの最深部にあの勇者の装備が隠されているから取ってきて欲しいとのことだった。
「あまり無茶するんじゃねぇぞ?無理そうならすぐ帰ってこい」
「大丈夫だって、安心しろよ、俺は今レベル80もあるんだぜ?こんなのちょちょいのちょいだっての」
「いいから、あんま無茶すんな」
「はぁ、分かったよ。無理そうなら帰ってきますよ〜っと。んじゃ行ってくるわ」
「おう、行ってこい」
ガロウに軽く手を振りながら我らが故郷、そしてダンジョンの奥深くへと潜っていくのだった。
「うっわ〜このジメジメ感超懐かしい〜」
思い返せば俺はこういう場所で暮らしてたんだよなぁ・・・懐かしい。こういう場所で冒険者に怯えてプルプルと・・・いや、ガクガクとだったか?今となっちゃ記憶が混ざりすぎてよく分からなくなってる。まぁ、そんな昔のことは今はいいだろう!今は勇者の遺品探しだ!高レベルだからか、それとも同じモンスターだからか一向にモンスターが襲ってくる気配はない。スルスルと奥深くへと下って行ける。
「いやぁ、楽なもんだなぁ・・・これが強者の、いや最強のオーラってやつですか」
そんなことを言っているといつの間にか最下層へ辿り着いていた。
「ありゃ?もう最下層か。案外早かったなぁ・・・」
「ようこそ裏切り者。そしてさようならだ」
いきなり振り下ろされた鎌を軽快に避け、後ろに下がる。
「現れたな?スケルトン界最強のモンスター、スケルトンキング!」
闇の中からゆっくりとその姿を現す。・・・超かっけぇ・・・俺もやりたいそのヌッって出てくるやつ。
「さて、裏切り者がなんの用かな?死にに来る以外には考えられんが。」
「いやいやまさかそんな。ここは1つ話でもしようや」
「話?話だと?笑わせるな、貴様と何を話すというのだ?」
「勇者の遺品について」
その時、スケルトンキングの様子が変わった。先程までの殺気は消え、こちらのアクションを待っている。
「その様子からして、何か知ってるな?」
「知っていたとして貴様に何の意味がある」
「おおありさ、なんてったって、依頼だからな。」
「依頼、だと?」
「そう。俺はその勇者の物なんかには興味はねぇ。だが、人間はそうはいかねぇらしい。一子相伝とか家宝とか何かそういう感じのやつだよ。次生まれ来る勇者の為に回収しときたいんだとさ」
「次の勇者、か・・・」
スケルトンキングは闇に手を突っ込むと、装備品らしき物を取り出し俺に投げつけてきた。
「それが勇者の遺品だ」
「案外素直に渡してくれるじゃねぇか」
「・・・私には価値のない物だからな。持っていても仕方がない。それに、それを求めて人間達がわんさかと押し寄せてくるのも煩わしい。ただそれだけだ。」
「あっそ、んじゃ有難く頂戴していくぜ」
「待て」
「んだよ」
「貴様は今、人間と共に行動していると聞いた。何故だ?」
「ただの利害の一致、だだそれだけ」
「本当にそうか?」
「何が言いたいんだよ」
「いや、何も。さぁ、とっととそれを持ってここを出ていけ」
「言われなくてもそうしますよ〜っと」
持ってきていた袋に装備品を詰め込んで出口を目指して走っていく。スケルトンキングはその背を見つめながら昔を思い出していた。
「(ぉ〜い、お〜い!ケストン!こっちだこっち!!さぁ早く行こうぜ!)」
「・・・本当に短い間だったな、人間」
スケルトンキングはそう呟くと再び闇の中へと姿を消した。
ある日、ガロウに連れられ山を登り始めた。
「一体なんだってんだよ、急に山登るぞなんて言い出してよぉ」
「まぁまぁ、それよりちゃんと飯は持ってきたんだろうな」
「あぁ、林檎を今回は奮発して20個もな」
「持ってきすぎじゃないかそれ」
「飯持って来いって言ったのはお前だろガロウ」
「そりゃそうだが・・・お、そろそろ見えてきたぞ」
どうやら山の山頂に着いたらしい。ガロウは持ってきていた椅子設置し、テントを張りながら言った。
「おい、見てみろよ周りの景色をよ。そんなに高くない山だから景観はそこまで良くないかも知れんがな」
辺りを見渡しても何一つ思うことは無い。おそらく、これが人間の言う綺麗、美しいという光景なのだろうか?だが、モンスターの俺には分からなかった。
「今日はここに1泊しようと思う。夜になるとまた違った景色が見れるからいいぞ」
「お前、こんな趣味を持ってたんだな」
「そりゃ1つや2つくらいあるさ。ま、これに関してはここ最近出来た趣味だがな」
「度々1人で何処かに行っていると思ったらそういう事だったのか」
「まぁな。こういうのを見たくなるのは歳だからかねぇ、街を抜け出して度々大自然に触れたくなるものなのさ」
「自然は触れられる物なのか?」
「触れられるものもあればこうやって見るものもある。楽しみ方は人それぞれってやつだ」
「ふぅ〜ん・・・」
ガロウの用意した椅子に腰掛け、景色を見る。やっぱり何も感じるものは無い。だが、ガロウは微笑みを浮かべて茶を飲んでいる。楽しいことかのか?これは。そう思いつつも林檎を1つ袋から取り出して飲み込んだ。
「ここは大草原だから敵も弱いし寄ってこない、それに登りやすい。絶景のビューポイントってやつだ。あんしんしてゆっくり出来るぜ?」
「何言ってんだ、最近はゆっくりしてばっかだったろ?」
「あれ?そうだったか?いや、そう言われればそうかハハハッ!」
「・・・お前は今楽しいのか?」
「あぁ、最高に楽しいぜ。お前と一緒に、自分の趣味を堪能できてよ」
「そうか、ならいい」
こいつがそう思うならそれでいい。そんなふうに思った。・・・昔の俺だったらそうは思わなかったのだろうか?俺も少しは変わったのかもしれない。そう思いながらボーッとしているといつの間にか日が暮れ、星が輝きだした。
「この星空もいい感じだろ?」
「ただ光ってるだけにしか見えないが?」
「まぁ、いずれお前にも分かる日が来るさ」
「そうか」
分かる日が来るのだろうか、景色を見て美しいと、綺麗だと分かる日が来るようになるのだろうか。そうなった時、俺は人間のようになるのだろうか?見た目だけではなく、中身も・・・
「さて、そろそろ寝るとしようぜ相棒」
「ハハッ、お前が俺を相棒と呼ぶなんてな。今日は初めてのことだらけだ」
「良かったじゃねぇか、初めてなことは新鮮みがあっていい慣れちまったらもう二度と感じられないからな」
「そういうもんかね」
「そういうもんだよ」
ガロウのテントに入り、雑魚寝しながら目を閉じた。本当に今日は初めての経験ばかりだった。
「たまにはこういうのも悪くはないかもな・・・」
そう呟いて眠りについた。
山から帰って数日が経った。そんな時ふと新しい経験をしてみたいと思い、大図書館へと足を運んだ。知識をつければよりガロウの役にも立てると思ったからだ。大図書館には多くの人間が本を手に学んでいた。受付に話しかけ、人間についての本と魔術に関しての本のある場所を教えて貰い、本を読んでみることにした。知識があると言っても吸収した人間の数は両手で事足りる程度。欠落している部分ももちろんある、これを機に学ぶのもいいだろうと思ったからだ。椅子に腰掛け、テーブルに本を置き人間についての本から読んでみることにした。
「え〜と何々?人間には様々な重要な器官があり・・・これはどうでもいいな。え〜、人間には寿命が存在する。モンスターと違い、人間は平均で80代程で寿命を迎える。寿命で死を迎えた人間は蘇生魔術でも甦らせることは出来ない。へぇ・・・」
アンデッドとしての蘇生などは可能とその本には書いてあった。人間ってやつはどうしてこうも複雑なんだ。あとは心がどうのと色々書いてあったが飽きてしまい、魔術の本を読むことにした。
「林檎を増やす魔法とかないのか」
そんな魔法はなかったが、木の育成を早める魔術なら存在した。しかし、膨大な魔力が必要となるため、現実的ではなかった。
「そう甘くはいかないってか・・・林檎はこんなにあめぇのに」
そして、先程見た蘇生魔術のことも書いてあった。寿命を全うした人間は蘇生出来ないこと。そして、不慮な事故や殺害など道長ばで息絶えた者には使えるということ。あとは、特殊な例として長時間放置されて腐敗、もしくは骨になってしまった遺体は蘇生出来ないということ。
「魔術ってのは便利ではあるが、万能ではないってことだな」
あとは、モンスターの隷属魔術やモンスター召喚魔法や悪魔との契約の仕方などなど色々なことが書いてあった。毛ほども興味が無いのでページを飛ばして読んだが。
「結構ためになったな。林檎の複製が出来ないことには驚いたが・・・まぁ、複製出来たとしても劣化するだけかも知れんしな」
本を元あった場所に戻し、受付に軽く挨拶してから大図書館を後にした。そして、何気なくまた山に足を運んだ。スライムボーンになる前もこうやって沼地でボーッとしていたっけな・・・確かにあそこと比べればここはのどかでくつろげる気がする。あいつはこれを楽しんでたのだろうか?
「っと、もうこんな時間か。そろそろ帰らねぇとな・・・あいつ、俺がいねぇとろくに動けやしないんだし」
暗くなっていく空を見ながら俺は家へと帰って行った。
それは唐突に起こった。ガロウがいくら呼びかけても返事をしないどころか目覚めもしないのだ。そして、体は冷たく氷のよう。肌も青白くなっている。丁度本で見たのと同じだった。そう、これは・・・死だ。
「・・・蘇生魔術・・・」
そう思って、覚えた蘇生魔術をかけてみるがガロウは目覚めることは無い。そう、彼は天寿を全うしたのだ。
「ガロウ・・・幸せそうな寝顔しやがって・・・」
少し笑みを浮かべたまま彼は今でも起きるのではないかと思うくらい静かに眠っていた。・・・モンスターと人間では時間の感覚が違う。それを忘れていた。俺にとっての数日は人間にとっての数年だったのだろう。通りでガロウが少しづつ衰えていたわけだ。人間は歳をとるとどうしても機能が低下するのだと言う。それは冒険者や勇者でも例外ではない。
「ガロウ、すまねぇな。俺はもっとお前といれるもんだと思ってたよ」
この感情はなんだろうか、寂しい?悲しい?虚しい?いや、きっと後悔だ。もっと話しておけばよかったこうしておけばよかったと頭の中でグルグルと思考が巡っている。その時、何かが頬から滑り落ちていった。
「・・・ハハッ、モンスターも泣くのか」
涙だった。たった一滴の涙。それでも泣いていると言うには十分だった。しばらく、俺はガロウを見つめたままでいた。しばらくしてようやく動き始める気になった。教会へ彼の遺体を持って行き、彼が安らかに眠れるようにと頼んだ。後のことは教会がすべてやってくれるとのことだったのであとは任せて教会を去った。この後、どうするか考えた。魔術師として登録してあるから容姿については何か言われることは無いだろう、このまま冒険者として続けるのもありかもしれない。だが、そこで真っ先に思ったのだ。
「ガロウがいなければ何も面白くない」
俺はガロウといることが楽しかったんだとそこで初めて気が付いた。だから俺が取った行動は自然だったのだろう。俺の足は沼地へと向かっていた。沼地に辿り着いてから一体何日が過ぎたのだろう。冒険者が来ることもなく、同族のモンスターが姿を現すこともない。1人で、独りだった。昔を思い返す。始まりの出会い、そこから始まった2匹と1人の冒険。色々なことを知って、色々なことを学んだ。
「・・・林檎、食いてぇなぁ・・・」
誰もいない場所で俺はそう呟いた。