福音の風を帆に   作:ミヤフジ1945

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第6話 次世代帆装船

 

 

「見た事ねぇ艤装(リグ)が多いな。キャラベルでもキャラックでも、コグでもねぇ。それにこの縦帆はなんだ、オーブリー。三角帆(ラテンセイル)じゃないがやけに機能的だ。」

 

 

 俺が出した3枚の羊皮紙に目を通したギルド長がそう漏らした。そりゃそうだ。俺が描いた帆船はこの世界で使われている帆船のそのどれとも全く違う。俺達プレイヤーから見れば一般的な帆装でも、この世界の住人から見れば未知の船と言って良かった。

 

 

「1枚目の1本マストの小型帆船はカッターと言って、主に沿海域での運用を想定した快速軽快性を主眼に置いて考えた帆船です。」

 

 

 俺はそう言ってカッターと呼んだ小型帆船の絵に指を指す。カッター。日本では一時期コットル船とも呼ばれたこの帆船は船首に取り外し可能な半固定式のバウスプリットと呼ばれるマストを持ち、船体中央に1本のマストを持つ。

 時代や国によって帆装、つまり(セイル)の種類や数は違うが、俺が描いたカッターにはバウスプリットとメインマストの間に2枚のジブセイルと呼ばれる縦帆を持ち、メインマストにマスト一番上の横帆(メインロイヤルセイル)が1枚とスパンカーと呼ばれる縦帆が1枚ある。

 

 この世界で縦帆と言えば、三角の形をした三角帆(ラテンセイル)と呼ばれる縦帆しかない。ラテンセイルはキャラベルやキャラックにも使われているが、17~18世紀辺りになると沿海域は兎も角、遠洋航海では展帆の手間が問題でスパンカーと呼ばれる正方形の縦帆にとって代わられた

 

 カッターは操船人員が少なくてすむ縦帆を主体とした帆装で、横帆は1枚しかない。また港が込み合っている場合にはバウスプリットを取り外してコンパクトにすることも出来る利点があった。全長はバウスプリット込みで20~30mが多く、俺も全長30mほど、乗員40人で考えていた。

 

 

「2枚目の帆船はブリック・スループ。こちらは主に横帆を基本とした帆装で舷側もカッターより高く、中距離輸送や追い風での高速航行が可能です。」

 

 

 そう言って俺は2枚目の羊皮紙を1枚目の上に置いた。羊皮紙には2本のマストを備えたカッターよりやや大きめの帆船の絵が描かれている。

 

 

「ジブセイルは2枚、1番前のフォアマストは全て横帆の4セイル造り。後ろのメインマストはメインロイヤルセイルと上から2番目の横帆(メイントゲンセイル)の横帆2枚にスパンカー1枚。またフォアマストとメインマストの間に2枚の支持索帆(ステイスル)を持ち、風に対してある程度の切り上がり性能を発揮可能です。

 交易船仕様の場合は貨物は最大で75tを積載可能と考えています。」

 

 

「75tですか!?今までのキャラベルやキャラックから考えれば倍以上の積載量とは…………凄い船だ。」

 

 

 ギルド長の隣で商会のお偉いさんが驚いた表情をする中、指で絵の中の帆船の各部分を指しながら俺はギルド長に伝える。このブリック・スループ、一般的にはブリックと呼ばれるが、その使い勝手の良さからかつての海賊達から良く愛用されていた船種でもあった。某海賊映画でも主人公の海賊が海軍から奪ったのもこのブリックであったし、某アサシンゲームの4作目でも、主人公が愛用していたのはブリックであったほどだ。

 ブリック自体の全長は25~50mと船によって幅があるが、乗員は交易船で大体60人ほど、満員では160人くらいまで行けるらしいが、そうなると完全に戦闘用になってしまうだろう。

 俺の描いたブリックは中間サイズの40mほどで乗員は60人。大きすぎても使い勝手が悪くなるし、これくらいがちょうどいいだろうという個人的判断だった。

 

 そして3枚目…………こちらが俺の大本命、今の俺が描ける全力で描いた帆船。

 ブリックよりも更に大型、マストは3本で舷側も更に高い。帆の1枚1枚もブリックより大型で、少し細長くスリムでありながらどっしりとした船体はどんな荒波でも乗り越えて行けそうなほど。

 

 

「こちらが俺の本命、フリゲートになります。帆装はメインマストの前にフォアマストを追加した3本マストのシップ帆装形式。フォアマストとメインマストの横帆は4セイル造りで、ミズンマストにも横帆を2枚装備しています。追い風での速度は完成すれば世界1、どの国の帆船もこの船に追いつける事はありません。

 ジブセイルは3枚、ステイスルも各マスト間に3枚ずつの計6枚。ミズンマストにはブリックより大型のスパンカーを持ち、操舵の補助は勿論のこと既存帆船よりも高い切り上がり角を持っています。」

 

 

 一般的なフリゲートのサイズはブリックサイズの小型から超大型までサイズはマチマチだが、今回、俺はこのフリゲートだけはかなりの大型帆船として描いた。

 その理由は大きく別けて2つ。このフリゲート艦を一種の共通規格として、様々な帆船が雑多に運用されている現状を一新したかった事。その為のモデルシップに出来るだけインパクトを持たせたかったから。

 このサイズを交易船として運用出来れば、積載量は軽く400トンを超えるだろう。

 そして2つ目にして最大の理由、それは俺が乗りたかったから。これに限る…………何だよ。文句あるんか?

 

 モデルにしたのは現存して航行可能な最古の現役艦、アメリカ海軍のスーパーフリゲート『USS Constitution(コンスティチューション)』。イギリスの戦列艦ヴィクトリー号や日本の戦艦三笠と共に世界三大記念艦として名高い武勲艦である。

 

 全長  62m

 

 排水量 2200t

 

 速力  13Kt以上

 

 乗員  450名

 

 フリゲートとしてはバカでかい上に海面からマストの天辺まではなんと67mもある。

 船体形状や細部の艤装なんかはかなり変えているが…………文字通り、この世界で完成すれば世界最大最速の巨艦になる。

 

 そんな事を淡々と、しかし相手に良く分かるように解りやすく。ついつい熱を持ってプレゼンしてしまう。正直、プレゼンなんて1度もやったことが無い俺にしては頑張っている方だと思う。

 

 

「今回紹介した3隻の帆船はどれも竜骨(キール)に通常より多くの肋材(フレーム)を使用し、外板の張り板は端を斜めに切って揃えた、今までの板同士を重ね張りしたクリンカー造りとは全く違うカーヴェル造り。またフリゲートは海面下の張り板の外側に薄い銅板を張りフナクイムシによる沈没を阻止、海水の抵抗を抑えフジツボによる速力低下を最低限にしつつ、スリム化しつつ下膨れのどっしりとした船体はどんな荒波でも航行可能です。」

 

 

「凄い船です。ブリック1隻あるだけでも商会にとっては大発明ですよ!」

 

 

 興奮したように喋る商会のお偉いさん。そりゃもう1度言うが、この世界からすりゃガレオン船とか諸々すっ飛ばして100年ほど未来の技術の船になるからね。

 

 

「確かに完成出来りゃ今運航している連合王国内全ての帆船が廃船行きのシロモンだ。しかしなぁ…………」

 

 

 俺の説明を聞き終わった後、ギルド長は渋い顔しつつ口籠った。俺の説明に何か不備でもあっただろうか…………初めてのプレゼンだった事もあり、そう内心不安になる俺を余所に、ギルド長は再び口を開いた。

 

 

「カッターやブリックは兎も角、このフリゲートだったか?コイツはデカすぎて建造だけで幾ら費用が掛かるか分からんぞ?

 船底に銅板を張るのは良いアイデアだしこれで特許も取れるかもしれんが、それを差し引いても金が足りん。」

 

 

 ポンポンと、フリゲートの絵が描かれた羊皮紙を軽く叩きながら、そうギルド長は言った。確かに、幾らモデルシップとは言えデカすぎた。ギルド長曰く、造船設備的には問題無いし、造船官に依頼すればキチンとした設計図に清書しても貰えるだろうとの事。しかしやはり費用が少なくとも目算で従来の帆船の数倍は掛かってしまうらしい。

 

 

「ああ…………やはり無理ですかね。」

 

 

 思わずそう言ってしまった俺の言葉に、何故か渋面のギルド長では無く商会のお偉いさんが笑顔で返してきた。

 

 

「オーブリーさんは異界の旅人と聞いていますが、次こちらに戻って来るのは何時になりますか?」

 

 

「え?そうですね、大体1週間後くらいかと。」

 

 

「ふむ、だったら何とかなるか…………ではオーブリーさん。また1週間後にお会い出来ますか?」

 

 

 食いつき気味にそう話しかけるお偉いさんに俺はちょっと引き気味に頷くことしか出来なかった。

 

 

「ギルド長、1週間後に造船所の親方を呼べます?まあ、親方的にもきっとこの話に食いつくと思いますが。」

 

 

「呼べる。が、何するつもりだ?」

 

 

「それは1週間後のお楽しみ、という事で。もう時間も大分過ぎてしまった事ですし今日はここまでにしましょう。」

 

 

 妙に張り切ったお偉いさんは簡単に別れの挨拶を済ませると、足早に応接室から去って行った。

 置いてけぼりの俺とギルド長。出て行った扉が閉まるのに合わせて、思わず2人で顔を見合わせてしまった。

 

 

「取りあえず、今日はこれで終わりだ。長く時間を取らせてしまってすまなかったな。」

 

 

「いえ、大丈夫です。お話を聞いていただきありがとうございました。」

 

 

 そう言って俺はギルド長に頭を下げる。バツが悪そうに頭を搔くギルド長に少しだけ苦笑が漏れてしまう。

 

 

「まあなんだ、アイツが何考えているか分からんがオーブリーの悪いようにはならんはずだ。期待しろとは言わんが気軽に構えておけ。」

 

 

「そうします。」

 

 

 そう言って、俺はギルド長に挨拶をして応接室から出た。色々な事があり過ぎて随分と長い1日だった様に感じる。さっさと宿屋に行ってログアウトするとしよう。

 そうして俺は、船舶ギルドから出て夕闇に染まった街並みを歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ、商会の人の名前聞いて無かったわ。」

 

 

 あのおっさん誰だろ?

 

 

 

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