思ったより筆が進んだので、投稿します。そして、長めです。
「……黒服。」
「おや、デカルコマニー。何か用事でも?」
先生達が大聖堂に向かった後。一人考察を続けていた私の所へ、ゴルコンダとデカルコマニーがやって来た。ベアトリーチェとは違い、比較的感情的に物事を進める人物でない為、話の馬が合う。
そんな彼等が、私に用があるとは。一体どのような事情か。彼等は非常に聡明である。故に、相談事で私の元に来る事はそう無いのですが。
「……あの天使、どう思う。」
「おや、貴方からそのような話題を持ち込まれるとは。して、どうしてまた?」
神妙な面持ちでそのように聞いてくる。どうか、と聞かれても。それが、今の私の心境ではあるのですが。
強いて言うなら、歪である、位でしょうかね。
「何とも言えない、のが現状ですかね。強いて言えるとすれば、歪だとは。」
「歪……言い得て妙とは、こういった場面の時に用いるのでしょうね。」
私の意見に、何やら肯定を示しているが。その口振、
……いえ、きっと彼の事です。何らかは掴んでいるのでしょう。正体までとは言わずとも、それに至る手掛かりを。
「…………これを。」
「これは……書物ですか?」
「……非常に不快な、書物です。取っておくのも嫌悪に潰されそうでしたが、何らかの鍵になるかと思ったので、燃やした後に復元しました。」
大変不本意ながら、ではありますがと付け足す辺り、彼にとって相当不快であったのだろう。私としても、彼がそこまでの酷評を下す書物を読むのは、気が進まないのですが。
捲る。すると、私の目に映ったモノは、信じられない仮説の羅列であった。
奇跡の生成、神秘と恐怖の定義、崇高の願器。他にも、色々な未知が記されていた。著者を見るが、私が知り得た者ではなかった。本当の無名か、はたまた、我々と同類か。
「……これが本当ならば、我々の見解を大いに見つめ直す必要がありそうですね。」
「…非常に思慮したくないのですが、一個人がその異物を使ったとすれば……合点が行くのではないでしょうか。」
成程。彼が伝えたかったのは、そういう事でしたか。
私達の会話を聴き、自身が集めた
そうですか。彼の証拠が事実と仮定すれば、先生の疑問も解決することでしょう。彼等には、感謝せねばなりませんね。
……それはさて置き。この際です、ついでに聞いてみるとしましょうか。
「アレを落とすのに、手頃なモノを作る事は可能で?」
「……コレを基に作れば良いのであれば、作れるでしょう。」
「頼めますか?アレは、落とさないといけないのでね。」
コクリと、彼は頷いたように見えた。首は無いのですが。
──────
─トリ、ニティ……!
初めて、感情を顕にした。少なくとも、私が対峙していた数刻のうち、こうして何らかの感情を読み取れうる言動を取ったのは、初めてだ。
いよいよ、生命味を帯びている様にしか感じない。機械が感情的な言動を取る事は、有り得ない話じゃない。ましてや、このキヴォトスでは。
しかし、あの天使は、妙に自然であった。言い方こそおかしいかもしれないが、もっと分かりやすく言うなら、人間味があった。今まで隠し通せていたのが凄いと思う程、先程の声が人間らしかった。
黒服は、0から生まれた存在だと仮定していた。しかし、いよいよ信ずる事は出来そうもない。
あの天使は、人だ。
「くっ…攻撃が激しくなってきてます!」
「大きな損傷を与えたいんだけど……出来そう!?」
「……やってみる!」
ミカの一言により、皆の攻撃が激しさを増す。それに呼応する様に、天使の攻撃も増す。まるで、光の雨である。
幾度と攻撃を重ねるも、挙句は大損害には繋がらない。あの弾幕を浴びているとは思えない程に、損傷軽微であった。頑丈にしろ、何らかのアクションはあると思うのだが。
しかし、何も無傷という訳ではない。神秘に対して有効な攻撃が出来る生徒の攻撃が、効いている。今までの敵に比べて、極めて微量ではあるが。
途方も無い。そう、感じざるを得なかった。
─私の…正義ハ………!
一言。先程までとは違う、か細い声が一つ。正義。天使は、そう言いのけた。何故か、引っかかる。
「…嘘、ですよね……?」
紛れもない、ナギサが。確かにそう言ったのを、私は聞き逃さなかった。振り向けば、ハスミも同じ様な表情を晒していた。かつての友を敵に回したような、そんな表情を。
今、聞く訳にはいかない。恐らく、深堀りするのは今じゃないとは、察しの悪いと言われる私でも、理解出来た。士気が下がりかねないのは勿論、
……それよりも。今は天使の撃退が先だ。生徒頼みではあるが、私も出来る事をこなさなくては。
──────
「…嘘、ですよね……?」
嘘で、あって欲しかった。嘘だと、誰かに言って欲しかった。先生が私の方を見やっていたのも知らぬまま、私は顔を蒼白に染めていた。そして、感情は絶望の淵に。
しかし、本能と理性共々が受け入れない。受け入れる努力すら、放棄しているようにも思える。アレは敵だ。見知らぬ、新たな脅威だと。暗示されているような、洗脳を受け始めているような。
……私以外にも、正義実現委員会の一人は気付いたような反応を示す。恐らく、縁を結んでいたのだろう。こんな形で、廻り来るとは思わなかったが。
つくづく、運命の残酷さを思い知らされる。
「……先生!急いで撤退の準備を!」
激しい攻防の中で、私はあの人の攻撃の手が緩み始めているのを、見逃さなかった。先程よりも、大聖堂から距離を置いてるようにも見える。
今しかない。今のままでは、恐らく押し切られる。まだ各地域のボス討伐に向かった生徒達も帰ってくる気配が無い。せめて、もっと手数を増やしてから挑まなくては。
─あの人の強さは、私もよく知っていたから。
──────
「お疲れ様です、先生。」
「……皮肉と取っていいのか?」
「おやおや。単に労ってるだけですよ。こちらも情報収集をしておりましたので。」
一部生徒の様子が変だったので、その生徒達を保健室に連れてゆき、残った生徒は先程と同じ部屋に。そこには、何やら情報収集をしていたらしい黒服の姿が。飄々としているその姿を見ると、無性に殴り飛ばしたくなる。
そんな激情を抑え、黒服へ情報を共有するよう促す。そう焦らずとも、と黒服は言うが、そうも言ってられない。頭の回る黒服なら、分からない話でもあるまいに。
「あの生命体の呼称、及び能力が判明しました。確定事項、とまではいきませんが。」
確定では無い、か。態々濁す必要も場面なので、一応ちゃんとした情報を掴んだのかもしれない。……あまりに突飛な情報であれば、信ずるには値しないだろうが。
「アレは、ウロボロスです。正確に言えば、M.Type Ouroborosでしょうか。」
ウロボロス。それが、あの天使の名前だった。
何でも、何らかの複数偶然が重なり、一人の人間があの姿に至ったとの事。その偶然が一体何なのかについては、黒服の口から明かされることは無く。「メカニズムが余りにも突飛なものなので。」と言っていたが、そっちが流用したらたまったものではないのだが。
曰く、発生する奇跡には種類があるのだそう。今回の分類が黒服の言う、M.Type Ouroborosなのだとか。
ウロボロス……あっちの世界では、”再生と死”とか”不老不死”の象徴とかだったかな……。元の人の経緯等が鮮明でないので、考察も奥深くまで進みそうにない。ナギサに聞けば何か掴めるかもしれないが、それは最終手段にしておきたい。
「……そういえば。能力って何なんだ?」
「嗚呼、すっかり忘れていました。」
忘れるな。かなり大事だろうが。
誰もがそう思ったに違いないそんな空気を置き去るように、淡々と黒服は言葉を続ける。
「望む物の顕現、とでも言いましょうか。とは言え、制約はあるみたいですが。」
何だそのチート能力は。どんな制約があるかまだ聞いていないが、そんな能力は最強格の類だろう。ましてや、科学が発展してるキヴォトスにおいても、そんなインチキ能力は確立していないし、確立出来る目処もない。
勝てるのか?そんな感情が、増すばかりである。
「その制約が恐ろしいものでしてね。何でも、神秘の後払いだそうですよ?」
何だそれと首を傾げる私達を見て、黒服が事細かに解説する。
物の顕現を行った後、その規模等によって自身の神秘が失われる(支払われる)らしい。つまり、大規模の物の顕現はそこまで高頻度に出来る訳ではない、と。
…………ん?待てよ?その言い方だとまるで……。
「……
「鋭いですね、先生。こちらに関しては確定ではありませんが……」
─ロスト。つまり、その生命の喪失を意味します。