或る正義の先に   作:Cross Alcanna

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懺悔のレクイエムを貴女に

「……そう、だったんだね。」

 

 

あれから。ナギサが私の所に来て、私が気になっていたあの事について、教えてくれた。ウロボロスが、誰なのか。その人物に対する、想いを。

 

貫繋 リンネ。伝統とお淑やかさを重んじる、学園らしくない学園の、被害者。加害者たりうる因を持ちえなかった、悲しい被害者。私に語る中も、ナギサは心苦しそうにしていた。吐きこそしなかったものの、嗚咽を何度繰り返したか。

 

何も出来なかった自分が情けない。今の自分が当時の生徒会長と同じで許せない。何度も何度も、噛み締めるように零していた。……辛かっただろうに。

 

ハスミも同じ様な反応をしていた事を考えると、ハスミもナギサと似た心境だったのだろう。正義実現委員会に属していたようだし、面識が深かったのだろうか。あの時の直感に従って、正解だった。

 

 

─あの人は、元に戻らないのですか!?

 

 

─保証出来ないですね。何分、あれ程の能力行使をしてる訳ですから。

 

 

あの後、黒服の胸倉を掴まんとする勢いのナギサと、至って冷静な黒服との間にこんな一悶着があった。黒服と彼女は面識がないので、冷静でいられるのは当たり前ではあるが、それでも、黒服が冷酷に見える程にその時のナギサが可哀想に見えた。

 

どうしても諦めきれない、子どものような。

 

 

「……ナギサ。戦える?」

 

 

こんな思いを背負っていると知って、尚無慈悲に戦火に放る事は出来ない。本人が望むなら、戦線から離脱して貰った方が良いだろう。私としては、これ以上苦しい思いをして欲しくなかった。

 

 

「……戦えます。戦わなくては、いけないので。」

 

 

覚悟の眼であった。その眼には、尋常でない程滾った覚悟と苦悩を灯していた。贖罪の為なのか。決別の為なのか。いずれにせよ、何とも残酷な事か。

 

 

─こんな血塗れの運命に、奇跡など感じるものか。

 

 

 

──────

 

 

 

「これが、ウロボロスに効力を有するアタッチメントです。現状では一人しか付ける事が出来ませんが、デカルコマニーに頼んでいるので、少しずつ数は増やせるでしょう。」

 

 

戦火に飛び入る前、黒服がそう言って渡してきたのは、一つのアタッチメント。曰く、神秘特攻のアタッチメントに改良を加えたモノだとか。

 

一応、誰の武器にでも付けられるらしく、私は誰に任せるかを考えていた。

 

 

「先生、私にやらせて下さい。」

 

 

数瞬も経たぬうちに、ハスミがそう訴えてきた。その眼は、ナギサと同じモノを宿している。

 

……勝手ながら、任せるのは正解なのか、ずっと考えていた。決着を付ける為にと言うのであれば、自分の手でと思うのは自然だ。けれど、"自分がやってしまった"という罪悪感に今後駆られてしまう可能性だってある。

 

生徒たちが強いのは、分かっている。しかし、それ程あの人物に入れ込んでいる子にそんな十字架を課せられる程、私は鬼にはなれなかった。

 

 

「ハスミ。もしここで請け負ったとしたら、君は罪悪感に苛まれ続けるかもしれない。」

 

 

「……はい。」

 

 

「それでも、やるの?」

 

 

「はい。」

 

 

即答、であった。どうやら、その事は自身の内で決断したようだ。

 

ならば。

 

 

「…任せるね、ハスミ。」

 

 

「…!はい!」

 

 

いつも以上に凛とした、けれども覚悟の固まったような声で応えるハスミ。そんな姿に、私は感慨深くなる。

 

私よりも、ずっと立派だ。

 

 

「皆!恐らく、今まで以上に熾烈な一戦になると思う!だけど……」

 

 

「生きて、帰ってきてくれ!」

 

 

─彼女に、鎮魂の詩を。縁ある者に、決別の時を。

 

 

 

──────

 

 

 

「……本当に、不出来な後輩でゴメンなさい。」

 

 

ウロボロス(リンネ先輩)に向け、謝罪する。これから、数の暴力を以てウロボロスを落とす。そうする他無い運命と自分に、こびり付いて離れない嫌悪を抱いて。

 

あの人の背中から、私は数え切れない程の事を教わった。人の諌め方や統率の方法、寄り添う姿に上に立つ者の在り方……数え始めれば、本当にキリがない位には。

 

計り知れない程の恩を、これから有り得ない程膨れ上がった仇で返す。トリニティの存続の為に、キヴォトスの為に、先生の為に。

 

その背中から教えて貰った事とは相反する事だと、分かっています。血も涙もない人間だと、分かっています。貴女を救えない私は情けないと、分かっています。

 

 

「……自身を戒めながら。私は、進みます。」

 

 

これからを生きる私は、ソレらを背負う覚悟が出来ています。弱音など、上げません。

 

……最後に。

 

私は、前に進みます。皆さんと共に。貴女の言う正義は分からずじまいでしたが、私は私の正義を以て、先を行きます。

 

こんな薄汚れた正義を、どうか。

 

 

─私が進む事を、お許し下さい。

 

 

 

「……先輩。」

 

 

空を見る。激戦を繰り広げた時とはまるで違う程に、ただ静かに佇むウロボロス(先輩)。終ぞ、先輩の言う正義の正体は分からなかった。けれど、自身の正義に向かって進む先輩の姿がとても輝かしく見えていたのを、今でも覚えている。

 

…あの時の私は、無力でした。先輩の追放を止める事において、ではなくて。単に、実力が足りませんでした。そんな時に見た先輩の背中は、私の憧れでした。あの背中があったからこそ、私はここまで来れました。

 

出来ることならば。先輩と話がしたかった。先輩と共闘したかった。先輩に、褒められたかった。

 

……先輩。私は、貴女の先を行きます。先輩が守れなかったものを、今度は私が守ります。

 

貴女より上手く出来る自信は、未だありません。貴女以上に強くなれる日が、とても遠く感じます。貴女の背中は、届くかどうかも怪しいです。

 

…………ですが、成し遂げてみせます。貴女を、超えてみせます。

 

 

─ゴメンなさい。そして、ありがとうございました。

 

 

 

──────

 

 

 

戦場が、揺れる。鉛と光の雨が、大地を抉る。

 

そんな光景の始まりが、激戦の狼煙を上げたのだった。

 

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