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─ッ……鬱陶……しイ!
怒号、怒号、また怒号。何も嬉しくない喧騒は、とても止む気配は無い。寧ろ、時を経るにつれて勢いを増すばかり。誰も幸せにならぬ賑わいは、未だ消える事を知らない。
光を浴びせる。可視光や無害な類でなく、とてもとても有害な、目の前の虫達を潰さんとばかりの、殺意を込めた光。浴びせても浴びせても、その虫は立ち上がる。そして、鉛を浴びせる。
どちらに転べど、ハッピーエンドになり得ない闘い。不毛甚だしい、哀しき戦。そんな地獄に身を置く、憐れな天使。いつの間にか正義を見失い、憎しみが募り果てた、見るに堪えない天使。
天使は、かつての愛銃を取り出す。ARの類だろうか。自身の手で握り、守ろうとした景色を撃ち滅ぼさんとする。皮肉この上ない。
─……こんナ…事……。
それ以上、天使から次の言葉は出ない。誰に操られている訳でも無く、絶対悪に組している訳でも無い。弱い弱い一生徒に、ここまでの業は到底背負いきれない。
天使は、元々優しかった。助けてと言われれば手を差し伸べ、倒した敵にさえも助け舟を出す。頼まれた事は忠実にこなし、言わずとも口を固くする。助けを言えない者にも、自ずから駆け寄る。言わば、世間が言う模範生であった。
それが今では、世界を崩壊せしめんと彷徨い続ける厄災となり。素晴らしい人間の、環境による転落劇。御伽噺としては百点満点だろう。
しかし、本人らはそうは思わず。嘆き、苦しむ。怒り、唸る。泣き、諦める。天使は、それをその身一つで味わっている。苦しくない訳が無い。怒らない訳が無い。絶望しない訳が、無いのだ。
─…………
遂には、黙りこくる。正義は環境に殺されると、漸く真に認めたのか。或いは、あらためて痛感したのか。
ふと、天使は虫を見やる。苦しんでいる。心は折れていない。その眼は、何処か未来を見ている。
何故だ、と思う。自分程苦しんでいるかは捨て置き、今にも逃げ出したい程であるというのに。名も知らぬ誰かの為だと言うのか。隣の大事な人の為と言うのか。自分一人の為と言うのか。
─そんな努力、いとも容易く崩れ去るというのに。
──────
「!ウロボロスの攻撃が少し収まっています!先生!」
「ハスミ!ここから畳み掛け始めるよ!」
「はい!」
数えるのも億劫な光の雨を浴びながら、そんな掛け声が響く。手を止めた方が負ける、気の抜けない戦。
キヴォトスの命運がかかっている。生徒の思いがかかっている。そして何より、
消えると言われようとも。死に近づこうとも。私にとって、何の利得がなかろうとも。
あの話をナギサから聞いて、私は無力感に襲われた。私がキヴォトスに来る前の話だから、「彼女の件は無理だったじゃないか」と言われればそれまでかもしれない。
高度な論理から見て、大層稚拙に見えるかもしれない。世間一般から見て、違うと言われるかもしれない。でも、それでも。
「私は、先生だから。」
悔やむべきなのだ。己の事と思うべきなのだ。先生、なのだから。
先生は、単に教え導くのではない。生徒の運命を背負うんだ。先生という肩書きは、想像を絶する程荷が重い。
今日と同じ位の不安を感じた事が、何度もあった筈だ。
……それに、一番苦しいのは私じゃないだろう。紛れも無い、目の前の彼女だ。
─アァアァァァ!!
あんなに、苦しそうな声を上げて。あんなに、辛そうな顔をして。私がここに来るまでに、彼女はずっと辛い思いをしてきた。
黒服は嗚呼言っていたが、もしかしたら。彼女が報われる可能性もあるかもしれない。それがどのくらい低い確率なのかは分からない。でも、ゼロじゃないなら。やるまで。
─大丈夫、なんて言わない。待ってて。
──────
「ッ!」
強い。やっぱり、先輩だ。
ナギサちゃんも薄々気付いたかもしれないけど、ウロボロスは、先輩に違いない。
挫折しそうな私が、そう確信する。協力すれば勝てる、と思った敵は沢山見てきた。けれど、違う。
今回は仕方なく共闘してる黒服の秘策が無ければ、まともに傷すら付けられない。先輩を倒すのに、アイツの力を借りないといけないのは、とっても癪。でも、そうしないといけない。先輩が、強いから。
姿形が変わっても、先輩は強い。実際、あんなに怪物らしく豹変しているというのに、確固たる理性が残ってる。……いや、先輩の奥底の、僅かな正気なのかもしれない。
経験が違う。まるで、そう言われているような。
─アァアァァァ!!
雄叫びを上げる。先輩の左腕装甲に、
不可勝な闘いではない。そう思わせられる事で、より果てしない闘いに身を置いているのだと、実感させられる。勝てる可能性があると意気込める一方、とても永いと、感ぜられる。
でも、諦めない。皆が諦めていないから。私が諦めたくないから。先輩が苦しんでいるから。
─先輩。私、強くなったんだよ。