─先日の事件について、桐藤ナギサさんは、『過去の頭首の行いは、大変に許し難い事でした。今後、このような事態に発展し得る事を身に刻み、生徒会長として努めて参ります。』と述べており、トリニティの運営に対して大いな見直しを図るようです!
あれから数日が経ち、キヴォトスでは例の事件で持ちきりだった。あの日から今日に至るまで、テレビやラジオ等のネット媒体で見聞きしない日は無い。そんな私も、シャーレから出られない日は、こうしてラジオでそのニュースについて聴いている。
結局、彼女は死んでしまった。あれだけ土地を荒めていた姿からは想像だに出来ぬ程、最後は呆気なく。その場にいた誰もが、自然と落涙していたのを、今でも記憶に新しく覚えている。
誰かの為に。
喋る気力すら残っていない筈の彼女が、最期に遺した言葉。その声は確かに震えていた。けれど、不思議と鮮明に耳に残っている。さも普通に喋っていたかの如く、鮮やかに記憶されている。
あれから、彼女について事細かに事情を調べた。すると、彼女の追放が如何に理不尽なものだったかを知る事になった。
ナギサは、気風や生徒の視線が、と言っていた。事実、そういった要件もあったと思う。しかし、それ以上に"力を持ち謀反を起こされたら"と考えての追放であった事が、判明した。こんな巫山戯た動機を、誰かに教える事は出来なかった。
彼女は生涯を、誰かの為に尽くして終えた。死の際にも、自身の事でなく他者を思って、この世を去った。それが彼女自身の望んだ事だと言われればそれまでだが、あまりにも報われ無さ過ぎる、と思わざるを得なかった。
さぞ辛かっただろう。さぞ苦しかっただろう。さぞ、恨んだだろう。彼女の道が、どれ程渡るに難かった事か。
「…………悔しい、な。」
もういやしない彼女を、こうして夢想する日々。行き先を知らない懺悔を、吐き続ける毎日。生徒に何度慰められた事か。業務や指揮に身が入らない事が、一体何度あったろうか。空元気を見せる技術ばかりが、増す日々。
彼女に会ったあの時を、思い出す。あの時の彼女は、死の瀬戸際にいたように、今となっては感じる。眼はこれ以上に無いと言って差し支えない程に濁り切って、希望の二文字など、とうに失せたと言わんとせん表情。夢を追う事も諦め、何を導とするかも分からないままに、彷徨っていたのかもしれない。
……今なら、ワカモの気持ちが分かるかもしれない。どうにかしてあげたい。けれど、自分の力量では叶わない。だから、誰かに頼みたい、助けてもらいたい。
「…いや……今はそうも言ってられない…か。」
私は、先生だ。生徒の運命を、命を預かる大人。一生徒に傾倒し過ぎて全生徒が、なんて事態を起こしてはいけない。それこそ、本当に先生として失格になる。
彼女が、自分の死を枷にして欲しくないと思っている、と思って進むしか無い。もしそう思っていなかったら、なんて考えては、いよいよ私がもたない。現に今も尚、こうして罪悪感と無力感に苛まれているのが、立派な証拠なのだから。
…こんな、無力な先生でゴメンね。君一人を守ってあげられない、弱い大人で、ゴメンね。それでも私は、また非情な選択をするよ。残った皆を、守っていくね。
─君の正義、決して忘れないから。
──────
「…………来て、あげましたわよ。」
誰もいないココで、返事が返ってこないと分かっていながら、私はそう言う。
ココは、彼女の墓がある場所。彼女の後輩とやらが、彼女のお気に入りだと言っていた場所。せめて好きだった場所に、という計らいなのだとか。
……尽力して追い出されて、最終的にトリニティに骨を埋める事にならなくて、良かったですね。と、そんな皮肉は、挙句出てくる事は無かった。いつもなら、いつの間にか出てるものだが。
最後まで、私は無力だった。自分ではダメだからと先生に頼り、最後の最後に、私は彼女の傍にすらいれなかった。私が駆けつけた頃には、最早どうしようも無い段階であった。そうせざるを得なかったのは、理屈では理解している。けれど、本能が納得しなかった。あの時程自分が自分らしさを欠如していた時は、過去未来を除いても、無いのではないだろうか。
「……貴女と、もう話が出来ないのですね。」
貴女と話している時は、心地が良かった。はじめは単に馬が合う、或いは同じ程の賢さだったから、と思っていた。けれど、そうではなくて。言葉では言い表せないけれど、そうではなくて。
どうにも言い表せられないそんな感情と心地が、好きだったのだろう。この世界で、喧騒を忘れられる。喧騒を置き去り、ただ話を広げる。苦に感じないテンポで、気兼ねなく。
そんな貴女との時間が、好きだったのでしょう。酷く、気付くのが遅かったですが。
「結局、私の言う通りになってしまいましたね。」
いつかだか。私は、濁り切った貴女を見て、"果てにでも行くのか"と言った。皮肉では無い、率直な感想を言ったのだけれど。本当に、なってしまうなんて。
嗚呼、酷い人。貴女を救えなかった私も、私を置いて逝った貴女も。
後悔だけが、無限に押し寄せる。もっと気にかけていれば。もっと力があれば。もっと、もっと。闇雲に、止まらないままで。
「…………ごめん……なさい…」
─今日ばかりは、心も視界も、晴れそうにない。
今話を以て、本小説を完結とします。
要望や感想はチェックし続ける予定ですので、完結後も気ままにどうぞ。
御愛読、有難う御座いました。