或る正義の先に   作:Cross Alcanna

6 / 19
GW中は、2or3作品投稿出来ればと思ってます。


言葉のロゴス

「あれ?ここら辺では見ない子だね。」

 

 

今日も今日とて、ふらりと思うがままにしていた。すると、シャーレの先生と邂逅した。様々な事件や事態を収束してきたという割には、しゃんとしていない印象。この前の戦闘時とは、打って変わって。

 

そんな彼は、ビニール袋をぶら下げていた。買い物帰りだろうか。だとするなら、無防備ではないか?キヴォトスの住人は身体が強いが、外の世界から来た先生は、脆いはず。大丈夫なのだろうか。

 

……シャーレに属していないので、この心配も無意味ではあるのだが。

 

 

「……旅を、してるので。」

 

 

「旅かぁ……良いなぁ。」

 

 

等と言い、羨ましそうな表情を浮かべる。まぁ、一人でフラつけない世界だろうし、窮屈ではあるのだろう。皮肉にも、大人の……いや、先生としての責務に囚われてしまっている。ただ、彼の顔にそれらを彷彿とさせるモノは、無くて。

 

まるで、子どもを見てるようだ。あまりに無知で、あまりに実直。……誰か、懐かしい人物を、見ている気分になる。

 

 

「そうだ、名前は?」

 

 

思い出したかのように、私に尋ねる。

 

 

「……分かりません。強いて言うなら、リンネと言うかもしれないらしいです。」

 

 

私の言葉に、彼は困惑する。無理もない。

 

何処かで聞いた事がある、「名前を聞いても分からない」とかいう現実では有り得ない事が、現実に露見したのだ。自分の名前を知らない人なんて、殆どいる事が無い。結果、こうなる。

 

 

「……一つ、質問したいんだけど…良いかな?」

 

 

先程のふにゃっとした雰囲気とは裏腹に、真剣な雰囲気を纏いながら、私に言う。

 

静かに、頷いておく。その意図を察知したのか、彼は話を続けた。

 

 

「……君、トリニティにいたんだよね?」

 

 

「…………そうですね。」

 

 

随分と、踏み込んできたものだ。大人とは、デリカシーやプライバシーを何処かに置いてきた生き物なのだろうか。黒服といい、彼といい。

 

ただ、特段隠す必要も無い事実なので、肯定はしておく。段階というものがあるだろう、という言い分は飲み込んで。

 

 

「…………大丈夫、なの?」

 

 

「………………はい?」

 

 

おっと、いけない。つい零れ落ちてしまった。それだけ踏み込んで、大丈夫、とは何なのか。読解問題なのだとしたら、相当な難問であるが。

 

大丈夫も何も、今こうして生きてるんだから、大丈夫なのではないか。

 

 

「今、こうして、生きてますが。」

 

 

「ううん、心の事。」

 

 

どうやら、精神について問うてきたらしい。最初からそう言って欲しいものだ。足りない、主語が。

 

甚だ、遅過ぎる質問だ。

 

 

「……さぁ。私は、どうやら基準がおかしい、ようなので。何とも。」

 

 

こうとしか返せない。だって、()()使()()()()()()()()()()()()()()のだから。持ってない物を使えと言われても、「無理だ。」としか。

 

……こういう外れ物を、人は"異端"と言うのだろうか。だとすれば、私は"異端"なのだろうか。巫山戯た世界だ事。()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

何が、奇跡か。何が、正義か。

 

 

「……そろそろ、行くので。」

 

 

居心地が悪い。……いや、心持ちが、悪い。彼には申し訳ないが、ここを後にしよう。

 

……彼の正義は。それを聞きそびれた事が、唯一の心残りだった。

 

 

 

──────

 

 

 

「あっ、先生!何処に行ってたんですか!休憩時間、とっくに過ぎてますよ!」

 

 

「ゴメンゴメン、ちょっとね。」

 

 

彼女が立ち去って数刻、私もシャーレに戻っていた。どうやら思っていたより時間が経っていたようで、今日の担当であるユウカに怒られてしまった。

 

 

「……ねぇ、ユウカ。」

 

 

「何ですか!」

 

 

「…リンネって子、知ってる?」

 

 

それまで私に対して怒り心頭だったユウカは、私の一言によって一変した。顔のパーツを、取り替えたかのように。そして、考え込む。

 

そうして少し経ち、ユウカはこう言った。

 

何でも、時折指名依頼をしていたらしい。最初こそ不安だったが、依頼は確実にこなす上、口も堅い。契約内容を違える事も無く、成功率が100%だったとの事。

 

それに、当時はそれなりに仲良くしていたとも言う。私が今の彼女の性格を伝えると、「…嘘、ですよね?」と、表情に曇りが見えた。ユウカからすれば、その変わり様は受け入れ難いらしい。

 

……どうにか、してあげたい。何故あんな表情をしていたのか、何故学園で顔を見ないのか。

 

 

─何故、あれ程絶望していたのか。

 

 

 

──────

 

 

 

「……これは。」

 

 

ある書物を、拾った。私が散策していた、ある裏道で。

 

広げてみる。この書物は、果たしてどのようなテクストであるのか。どのような記号が、羅列されているのか。それらは、どのように作用しているのか。

 

 

「…………ッ」

 

 

捨てた。こんなテクスト、あまりに巫山戯ている。

 

何だ、アレは。あれ程、不快なテクストが存在するとは。我々が見知る言葉が、ここまでの不快を生成しうるとは。

 

()()()()()()()()()。あまりに、合理性が無い。奇跡という記号は、都度生み出せる好都合な事柄を含まない。それは、世界の何よりもタチが悪い。"世界の行く末は、既に決定している"と言われているのと、何ら差異が無い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あまりに、特異。我々が想定し得ない中でも、特に意味の分からない程に、特異。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それでは、まるで。この世界が、造られた箱庭と変わらないでは、ないか。

 

あの大事件も、彼の帰還も、その他事象も。全てが、出来レースだと言いたいのか。この、異物は。

 

気付けば、ソレを燃やし尽くしていた。二度と、この様なものを見てたまるか。

 

 

 

──────

 

 

 

─このようにして生成されたソレを、私は()()の願器と呼ぶ事にした。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。