或る正義の先に   作:Cross Alcanna

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災禍響めき、正義は堕ちる

「……痛い。」

 

 

頭痛が、止まない。今までは何回か睡眠を挟めば収まっていたのだが、今回のソレは、どうも止んでくれそうにない。寧ろ、時を重ねるにつれて痛みを増しているようにも感ずる。ズキッ、ズキッと。擬音でも可視化できるのではないかと疑う程、今では痛みは膨れ上がっていた。

 

痛みに翻弄されている証拠として、私は今、肩で息をしている。運動した訳でもないというのに。

 

歩くのもままならないのだが、何故か歩く脚は止まらない。止まって休みたいと思う自分の心すら、置き去りにしてしまって。宛てもなく、何処に行くでもなく、ただ歩む。そんな自分の身体に、次第に恐れを抱きながら。

 

正直、視界も朧気である。今ここで瞼を閉じてしまえば、すぐさま夢に落ちる事が出来るだろう。野外である事すら無視出来る程、無防備にその身を晒す事が、出来るだろう。だが、無意識がソレを許さない。どれ程自分が活動を止めようと信号を発しても、脚は止まらない。頭は鮮明なまま。視界は闇に落ちる寸前。

 

進み、進み、進む。そうして、かなりの時が経ったような気がしてきた頃。ふと、目を凝らして目の前の光景を見る。……どこか、既視感を感じる。ここに来るのは、初めてではないような、そんな気が。けれど、相変わらず記憶は蘇る気配もない。

 

……そう、思っていたのだが。

 

 

「…グアッ!?」

 

 

それは、あまりに急であった。

 

先程までとは比にならない程の痛み。銃弾を喰らった、程度ではなく。まるで、脳を直接叩かれているような。拷問だと言われても、そうかと言えてしまう程だと、苦痛の渦中で思う。

 

 

痛い。痛イ。イタイ。

 

 

そうして暫く。少しだけ、その痛みが治まってくる。まだ、痛みが消えた訳ではないのだが。そんな中で、私はふと思った。

 

 

「……ここ、あの時の…。」

 

 

()()()()()()

 

先程まで…いや、今まで全く思い出す事もままならず、諦めてしまおうかとすら思っていた記憶が、呆気なく、私の中に蘇ってきたのであった。

 

正義実現委員会で委員長を務めていた事、トリニティから追放された経緯とその瞬間、私の、名前。重要でありそうな事からどうでもいいような事細かい記憶まで全て。この瞬間を以て、私の頭の中は記憶で満たされていた。

 

ナギサちゃんは元気かしら(トリニティが憎い)ハスミちゃんは元気かしら(トリニティが憎い)。心の中を占めるのは、可愛い後輩の事(あの憎きトリニティ)心配だ(許せない)今すぐにでも様子を見たい(今すぐにでも叩きに行きたい)。身体さえ、ボロボロでなければ。

 

そんな心配事(恨みつらみ)のみを持って、激痛に耐えながら歩き続ける。

 

 

 

──────

 

 

 

気付けば、その建造物の内部にいた。しかも、割と深層にまで。その間に敵は見受けられず、私の歩く速度を以てしても、危険ではなかったのは、大層驚きである。

 

そうして、辿り着く。ソコは、この建造物の心臓とも呼べうる場所だった。そして、私が"古の遺物"を見つけた場所でもあった。私がソレの元あった場所を見ると、嵌っていたモノちょうど一つ分の窪みが空いていた。

 

身体が、"古の遺物"を取り出す。改めて見ると、大層神秘的に見える。私はコレを使って来たのかという謎の追憶と共に、ただソレについて、まじまじと考えていた。

 

"古の遺物"を、その窪みに嵌める。暫くして、機械でも動き出したのか、起動したらしい音と光が発せられる。

 

 

─崇高の願器の接続を確認。パスワードを音声にて出力して下さい。

 

 

そのような、無機質な声が響いた。少し時間が経つと、「パスワードを出力して下さい。」というメッセージが繰り返される。私は、そんなパスワード等知らないというのに。

 

……知らない、筈なのに。

 

 

─私は望む、安寧の箱庭(箱庭の破滅)を。

 

 

知らない文字列を、口ずさむ。少なくとも、私は聞き覚えの無いモノだ。しかし、口はそれを発するのを止めようとしない。

 

 

─私は覚えている、(正義)の嘆きを。

 

 

 

─パスワードを確認……認証成功しました。これより、個別奇跡実行処理を開始します。

 

 

 

─M.Type Ouroboros、適合。従い、同システムの実行、スタート。

 

 

 

気付けば、私は意識を手放していた。

 

 

 

──────

 

 

 

「先生!敵個体の装甲に大きな損傷を与えました!」

 

 

「よくやった!そこに重点的に火力を集中してくれ!」

 

 

ビナーの装甲を、シロコ達が損害させた。その隙を逃す理由もなく、私は生徒に集中砲火を指示する。装甲が剥がれされしまえば、少なからず形勢はこちらに傾く。

 

相手がコイツだけならまだしも、他の地域にもいる。それを考えると、正確に、そして迅速に撃破しなければならない。生徒の命を預かっているのと同時に、キヴォトスの存続という重責も同時に伸し掛る。

 

怖い。今までと同じ位に。或いは、それ以上に。けれど、根は上げられない。私が根を上げてしまえば、生徒の士気も下がるし、そんな姿を皆は望まない。

 

そんな事を思えば、ビナーは大破している。撃破とは言えずとも、万全の体勢で戦闘を行う事は熾烈を極めるだろう。後少し戦闘が続けば、ビナーが撃破される筈だ。

 

 

「先生、他の子達の所に行ってあげて〜。私達は、大丈夫だから。」

 

 

「ホシノ……でも…。」

 

 

自分の内でも、ソレはあった。確かに、油断しなければ撃破は確実な敵に対し、指揮官をいつまでも拘束し続けるのは得策ではない。それに、ホシノ達だって戦闘に長けている。私がいなくても、きっと戦闘に異常な支障はきたさないだろう。

 

けれど、心配で仕方無い。先生として、生徒をその身一つで敵前に放るのは、許せないしその選択は取りたくない。大人として、子どもを見捨てる選択肢は取れない。

 

 

「行きなさい!私達だって、他の地域が大変な事くらい分かるわよ!」

 

 

「ん、先生は別の所で指揮を執るべき。私達は、大丈夫。」

 

 

生徒は、私の思う以上に強かった。見せかけの強さなのかもしれないけれど、それを言えるだけの強さが、生徒達にはあった。

 

……とても、苦渋の決断ではあるけれど。未だに、決断しきれていないけれど。行かなければ。生徒が行ってきてと言っているのだから。覚悟を持って、そう言ってくれているのだから。

 

 

「……ありがとう!…生きて帰ってきてくれ!」

 

 

「任せて下さい〜。」

 

 

「はい!先生も……どうかご無事で!」

 

 

私は、奔る。背負ったモノを、零さないように。()に彼女を託された、あの時のように。

 

─私は、大人だから。

 




ボスのオールスター。なんだか、最終決戦前夜感がありますね。

2022.5.5
ケセドと書いていた箇所をビナーに変更。ミスです。申し訳ありませんでした。
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