な、なんだか飲み過ぎたようで二日酔いに悩まされていた自分。
迎えた早朝。
普段とは異なる体調の変化に記憶を巡らせながらも、自分は1階へと続く階段を下りてリビングを見遣っていった。
そこには、随分と早起きである寝間着姿のラミアとメーの2人。
……と、私服姿のレダの姿がうかがえる。
仰天という言葉に相応しい驚きの声を上げ、自分は遠くにいる3人へと声を掛けていった。
「お、おはよう……そしてどういうこと!? なんでレダがここにいるんだ!?」
ラミアとメーが、平然とした様子で「どーも、カンキさん」や「おっはーカンキ君」と答えてくる。その中でレダはソファから立ち上がると、私服を見せ付けるように両腕を後ろにやりながら、彼女は艶やかな笑みと共にこちらへと歩み寄ってきたものだ。
服装は、丈が短くかなり際どい浅紫のワンピースと、腹部に巻いた黒色のウエストベルトでワンピースにメリハリをつけたシルエットが印象的だ。それと、ワンピースと同じ丈である黒色のコートに、玄関には編み上げが可愛らしい黒色のレースアップミドルブーツが置かれている。
黒色のオーバーニーは、スタイルの良い豊満ボディを有するレダの太ももに少しだけ乗っかっており、一部のフェチに刺さりそうな色っぽさを演出している。
そして何と言っても、ワンピースのベルト上部から主張する巨乳にミニワンピを着こなす褐色魔女という属性盛りだくさんな存在感を前にして、自分は言葉を失うような衝撃を受けながら階段で立ち止まってしまった。
自分の近くへとレダは歩み寄り、少し前屈みになることで乳を強調してくる。だが、先日の露骨なほどに艶やかな印象とは異なる、色っぽくも健気な様子で手を振りながら彼女は喋り出してきた。
「カンキく~ん! うふふ、おはよう。よく眠れたぁ?」
「眠れたには眠れたけれど、なんか頭が痛いんだ……」
「それもそうでしょうねぇ。だってあなた、帰宅したあとの宴会で酔い潰れてしまったんですもの。あなたはきっと、あまり記憶に残っていないでしょうけどねぇ?」
「言われてから、こう……薄らぼんやりと、景色が頭ん中に思い浮かんでくるというか……っ」
レダに言われた言葉を参照し、靄がかかった記憶の隅々まで場面を捜索する。
共にして、“何かのキッカケ”でチューハイを3缶も潰した一場面を蘇らせていくのだが……。
「あぁ、そうだ……。なんか、なにかでチューハイをがぶ飲みしたんだけど……まずお酒を日常的に飲まないもんだから慣れていなくって、それで意識が無くなるくらいに酔い潰れたと……」
「そうよぉ? 少しずつと思い出せて、えらいわぁ。それでぇ~……カンキくん? 思い出したのはそれだけ? もっと、も~っと……大切なこと、まさか覚えてないわけがないでしょう?」
「もっと大切なこと……? なんだろう……」
「あぁ~ん! やっぱり覚えてな~い! ラミアとメーが見届けてくれてたっていうのにぃ。……わたしとあなたが親睦を深めた“友情の儀式”、そんなせっかくの記念日も忘れちゃうなんて~……わたし、とっても悲しいかもぉ?」
「えっ…………」
その時ばかりは、全身の血の気が引く感覚を覚えたものだ。
反射的に股間を押さえていく。それから“消耗具合”などを必死に確認していくのだが、普段と変わらないコンディションに「いや痛みなどの変化は特にないけど」といった具合の余計な疑問も浮かんできたことから、少々パニック気味な反応を晒してしまったものだった。
で、こちらの過剰な様子に少し申し訳なくなったのだろうか。次にもレダは落ち着けるような両手の仕草を交えつつ、割と真面目な調子で謝ってきた。
「あぁごめんなさぁい。ウソよウソ。ちょっとだけ、寝起きのカンキくんをからかってみたかっただけなの」
「ぁ、あぁ……っ! 良かったぁぁ……!! いやいや、別にレダと“儀式”したことが嫌とかじゃなくて、酒の勢いで手を出しちゃったのかと本気で焦っただけなんだ……! そうなったらもう、俺は男失格だ。しかも、相手も酔っていたらなおのこと。俺の、男としての生き方に反するものだから……っ」
「まさか、そこまで本気にするなんて思ってもいなかったし、あなたの尊厳を踏みにじってしまったようなら、ごめんなさいね。……うふふ、カンキくんのウブな反応が面白くて、悪戯の度が少し過ぎたみたい。こればかりは反省ねぇ。失敗、失敗」
ユノがレダのことを『常識人であることを保証するわ』と口にしていた。
そして今、こちらの安堵に対して本気っぽい謝罪を行ってきたレダの姿から、自分は少しだけ彼女を見直すような心境の変化がよぎってきたものだ。
もしかしたら、ラミアやメー、ユノさんといったメンツよりは話が通じる人なのかも。
主にヤバいのが、獲物の欲を煽る魔性の誘惑のみだけという、比較的マシな部類。いや、何を以てして常識と判断するかの感覚が狂ってきている感じも否めないが……。
色々と思考を巡らせていた間にも、レダは誘惑とは反する穏やかで柔らかい面持ちでこちらを捉えてくる。それから色っぽい手つきで手招きを行い、
「二日酔いになっていることを見越して、もうお薬と水を用意してあるわよ~? それと、もし食べられそうなら朝食も摂りなさ~い? 冷蔵庫にある分で、適当なの作っておいたから。あと、もしも吐き気が我慢できなかった時用の桶をソファに用意してあるし、ソファで休めるように毛布も用意しておいたから、具合に合わせて使い分けてちょうだい?」
「た、助かるぅ~……!!! ありがとうレダぁ……! マジで恩に着るよ……!」
何なら、お嫁に来てほしいくらいの完璧な手際だ……!
自分は救済というものを実感しながら、ダイニングキッチンで薬を飲んでいく。その間にも私服姿のラミアは大きな猫のぬいぐるみを抱えながらソファから身を乗り出し、マウンテンパーカーを脱ぎ捨てた私服姿のメーも、リビングの床で腹筋を行いながらそれぞれが喋り出してくる。
「いやー、カンキさん良かったですねー。レダさんというお助け役の登場で、今後のカンキさんの負担がかなり減るんじゃないですか?? 知りませんけど」
「ふっ、ふッ……! 本当、私達はな~んもしてなかったからね~。この、ふっ、不自由ない暮らしと、フッ、料理から掃除の何から何まで、全部カンキ君がやってくれる夢みたいな生活に、ふっ、ついつい甘えちゃって~みたいな? ふっ、ほッ」
とても呑気に会話するラミアとメーの様子に、レダは困り顔を浮かべながら腕を組んだ佇まいで喋り出す。
「あんた達ねぇ、確かにわたし達は苦しい経験を今までしてきた苦労人であることは確かだけど、だからと言って今の暮らしを自分勝手に過ごしていたら、
「わー、レダさんの正論パンチが飛んできました……。やっぱ、ウチらも家事のお手伝いしないとダメですかー……?? なんか、すごくメンドクサイんですよね……」
「フゥ~……。腹筋終了。次はスクワット……! ……っで、今何について話してたんだっけ? てかさ聞いてみんな! 駅前のスターボックスで新作フラペチーノ出るんだって! メロンに違うメロンを乗せて、更に違うメロンを乗せた3断層メロンスペシャルフラペチーノ! 今日
「わー!! メロンフラペチーノ、イイですねー!! ウチも飲みたいので賛成です!! ホラ、カンキさん。一刻を争いますから、イタいのか気持ちワルいのかよく分かりませんけど、とにかくさっさと二日酔い治してください!!」
な、なんだこの、なんなんだこの状況は……!
ウキウキとするラミアとメー。一方で頭を抱えたレダが「んもう、あんた達はねぇ……」と味方してくれていた辺りに救いを感じる。
確かに、ユノの言っていた通りだった。
致命的な個性の持ち主ではあるものだが……こう、レダには安心して何かを任せられるような信頼感が、徐々に込み上げていたのもまた事実。
尤も、次のラミアとレダの会話を聞いて、自分はまたしても血の気が引く感覚を覚えることになるのだが……。
「スペシャルフラペチーノなんて、レダさんの“転居祝い”に相応しいドリンクだと思いません?? ですから、レダさんも一緒に向かいますよ!! あーモチロン、レダさんは飲まれないと思いますので、その分のフラペチーノはウチが頂きますからご安心ください」
「あのねぇラミアねぇ、確かにわたし甘い飲み物は得意じゃないけれど、そのメロンスペシャルフラペチーノはラミアに譲るつもりないから。祝われる身としてちゃんと頂きます」
「えー、レダさんってそーいうトコ、ケチですよね」
「ケチじゃなくてラミアが打算的なだけなの。……でもまぁ~、うふふ。“転居祝い”というもの自体は気分的に悪くないわよね」
その、先ほどから出てくる“転居祝い”という言葉に、自分は会話を見計らうようにして訊ね掛けていく。
「さっきから気になっていたんだけどさ、その“転居祝い”って何なの……?」
一同が一斉に振り返る。そこで最初にメーが、次にラミアが、最後にレダが言葉を口にし始めた。
「マジ!? カンキ君昨日の夜のことガチで覚えてないカンジ? 周りの女の子を差し置いてお酒に弱いのホントウケるんだけど! さてはカンキ君、お酒よわよわだな??」
「カンキさん、お家に残ってたチューハイを昨夜だけで全制覇しましたからねー。まー、いつもはご覧になれない一面を拝見できて、とても新鮮に感じられはしましたけど」
「うふふ、それならぁ~……サプラ~イズ! カンキくん、実は~……わたし、ここに移り住むことになりましたぁ~!! フゥーッ!!」
…………は!?
天から雷が落ちたかのような衝撃。今も視界の中では、喜びのあまりにラミアやメーとハイタッチするレダの姿がうかがえる。
……いや、違う。これは俺をからかうための冗談だ。
「はは、あービックリした。さっきの冗談がちょっと強すぎる右ストレートだったもんだから、次は弱めのパンチで攻めてきた感じだよね。あー良かった。レダのジャブに慣れてきた感じがするよ」
「なに言ってるの? ホントのことよ~?」
もう、あまりにもすごく自然な訂正が本人から加えられたことにより、自分は再度と雷が落ちるような衝撃を受けて立ち尽くしてしまった。
……二日酔いの頭痛などが全部吹き飛んだ。
というか、いつ、どこでそんな許可を得たんだ!? 自分は焦りで思考を巡らせて、記憶の隅々まで引っ張りこんでくる勢いで断片的なそれらを掻き分けていく。
で、それっぽい記憶がふと降りてきたため、自分はまるでカセットテープかCDか、はたまた.mp3か.mp4で再生するように、当時のやり取りと思われる音声をゆっくり思い出したものだった……。
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『いいわよー!! 大歓迎!! カンキのことよろしくねー!!』
「本当ですかぁ! ありがとうございま~す! ラミアとメー共々、これからお世話になりますね! はい、ユノさんにもよろしくお伝えしておきます! では失礼いたしま……あ、どうか健康にお気を付けてお過ごしください。何か病気やケガを患った際にはわたしが無償で診ますので、はい、は~い! では失礼いたしま……あ、カンキくんに代わりますか? 分かりました~!」
昨夜の記憶。
レダと初対面を果たしたあの日、仕事終わりのラミアとメーを待っていた自分の下へと現れたのが、真っ先に帰宅の準備を済ませた私服姿のレダだった。
以前から自宅の話を聞き及んでおり、
チューハイの缶を右手に持ち、それをぷらぷら揺らしながらソファで頬杖をつくレダ。ほろ酔い気味な彼女が褐色の頬を若干赤らめていると、次にも尖らせた口で、いじらしい声音を発しながらそう呟いてみせたのだ。
「あーあ、いいなぁ~……。わたしもここで暮らしてみたい。……見た目が卑しいからって理由で、オトコからはいかがわしい目で見られ続けて、オンナからは嫉妬でヒドイ目に遭わされ続けて、今までろくな人生を歩んでこなかった。医者を目指して勉強頑張ってきたのに、大学でカレシに冤罪なすり付けられて退学させられて、医者になる夢は途絶えるわ、家族には絶縁を言い渡されるわで本当に最悪。それで借金して保健室の先生になったけど、次は生徒との淫行を疑われて辞職しろって迫られて……もう散々よ、こんな人生……っ」
これまで抱え込んできた感情を爆発させ、レダは号泣してしまった。
ラミアとメーと自分の3人でレダを慰めていく。だが、こちらの声が届かないほどに塞ぎ込んでしまった彼女の様子を見て、この時ばかりは自分からそれを提案したことを思い出した。
「レダ、俺の親父と電話でもする? それでだけどさ、もしレダが良ければなんだけど……ここに住みたいことを伝えてみてもいいんじゃないかなって。親父は、みんなのそういう過去を知っているからこそ、ラミアやメーを家に受け入れているんだろうし、きっとレダもここに住むことを許可してくれると思うよ」
スマートフォンを手渡し、涙でぐしゃぐしゃになったレダを3人の手で綺麗にしていく。その最中にも電話が繋がったことで親父の声が響き出したことから、レダは暫しの間、親父との談話に花を咲かせていた。
この流れで、先のやり取りが交わされたものだ。
レダは歓迎され、ここに住むことを許可してくれた。これにレダは心から喜び、彼女からスマートフォンを受け取った後は、ラミアと抱擁を交わしたり、メーと乾杯したりなどして元気を取り戻した様子を見せていた。
で、自分は端末越しの親父と会話を交わしていく。
「親父? 俺だけど」
『ウフフ、短期間でだいぶ賑やかになったわね?』
「おかげさまで。最初は親父の考えていることがよく分からなかったんだけれど、みんなと一緒に過ごして、みんなを近くで見ている内に、家で養いたいと思える理由が何となく分かってきた気がするんだ」
『貴方は今まで、家を1人で過ごすことが多かったものですからねぇ。……本当なら、父親の私が貴方の傍に居てあげるべきなんでしょうけれども、本業の関係でどうしても家を空けてしまう日が続いた結果、最も大切な時期を過ごす貴方に寂しい思いをさせてしまったものですから』
「親父のおかげで、こうして家で暮らすことができて、学校にも通えて、友人にも恵まれたんだ。親父が謝ることじゃないよ」
『カンキ、成長したわね』
「むしろ、そういう環境が俺を成長に導いてくれたんだと思うよ。……わがままを言うなら、その時期に母さんも居てくれた方が嬉しかったんだけどね」
『お母さんは、命懸けで貴方を産んでくれた。……悔やまれる結果となってしまったけれども、お母さんから託された想いの分だけ、貴方には強く生きてもらいたいのよ。産まれてきてくれた喜びと、強く、たくましく、そして……生きる喜びというものに意味を見出してもらいたいと、そう願ったものですから』
「俺の名前の由来、でもあるもんね。名は体を表すとはよく言ったもんだよね。そりゃあ大変なことも多いけどさ……俺、今、生きててめっちゃ楽しいよ」
脇では大盛り上がりではしゃぐ3人の姿。彼女らはどこから持ってきたのか分からないクラッカーを鳴らしたりなどして、その勢いに自分は思わず苦笑してしまう。
こちらの雰囲気が伝わってきたのだろうか。親父もまた鼻を鳴らすように軽く微笑んでみせると、電話を切る前に最後、そんな会話を交わしたものでもあった。
「親父、また電話する」
『えぇ、いつでもかけてきてちょうだい。あと、こんな毎回のように、律儀に許可を取ろうとしなくてもいいわよ~? 全部、貴方の判断に任せるわ』
「いや、それはさすがに……」
『あと~、ここだけの話……カンキはどの子が好みかしら? もしも将来のお嫁さん候補が決まった時は、都合とか気にせずすぐ連絡を寄越しなさい!』
「親父、またそんなこと言ってる……」
『私はいつだって真剣よ! カンキには幸せになってもらわなきゃだもの! 私、カンキの晴れ舞台を今から楽しみにしているんだからね!』
「はいはい分かったって。じゃあ電話切るよ」
『また、家の子達の声でも聞かせてちょうだいねぇ? 連絡待ってるわ~。それじゃあまたねカンキ。おやすみバイビ~』
「なにその挨拶……」