俺のハーレムは何かがおかしい   作:祐。

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家の住人が増え……ませんでした。

 用事で飲み会に参加してきた自分は、知人と別れることにより1人で夜の東京の街を歩いていた。

 

 いつもの駅前に到着し、そろそろ営業を終えるLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)で彼女らとの合流を目指していく。そうしてほろ酔いの自分が店の建物まで足を運ぶと、既にこちらを待っていたのだろうか、透明なカップのドリンクをストローで飲んでいた私服姿のラミアが手を振ってきた。

 

「どーもー、カンキさん。お疲れ様でーす」

 

「ラミアもお疲れ様。他のみんなは?」

 

「軽いミーティング中です。直に出てくるんじゃないですか??」

 

「じゃあ、2人で待ってよっか」

 

 建物の前に2人で並び、店の中のメーとレダを待ち始める。その間にも、ラミアからはカップを差し出されながら「口直しに飲みます??」と訊ね掛けられるのだが、自分は水腹だったため「いや、また今度頂くよ」と答えたりなどの会話を交わしたものだ。

 

 隣にいるラミアの、チューッと吸いながらスマートフォンをいじる横顔を眺めていく。そんな風に時間を潰していると、店の裏口からだろうか、建物の裏側から私服姿のメーとレダが揃って歩いてきた。

 

「おー、カンキ君いるじゃーん! やほー、おっつー」

 

「カンキくんいいわねぇ。今日はわたしも飲んじゃおうかしら?」

 

「メー、レダ。お疲れ様」

 

 近付いてきた2人。特にレダは自然な流れでこちらにすり寄ってくると、両手でこの体をまさぐりながら、服越しにニオイを嗅ぎつつ色っぽく喋り出してきたものだ。

 

「んぅ……お酒とオスのニオイが入り混じったこの香り……わたし大好き……」

 

「ちょっと、レダ……!」

 

「うふふ、そんなに照れないでちょうだぁい? 大丈夫よぉ、ちゃんと優しく扱うから……」

 

「なんかすごくいかがわしく聞こえるけど!? というかナニを扱うの!?」

 

 艶めかしい表情で抱き付いてくるレダに、ひどく動揺してしまう。だが、畳みかけるように続けてメーがそのセリフを口にしてきた。

 

「乳首当てゲーム!!!」

 

 !?

 

 両手の人差し指を突き出してきたメー。その指をクルクル回しながら、からかうような眼差しでこちらを見遣ってくる。

 

「さて今回も始まりました第1919回男女混合乳首当てゲーム! 今回の挑戦者は期待の新人柏島カンキ君だ~!!」

 

「いやいやいやいや待って待って待って待って!! ここ外だからもうちょっと声のボリューム落としてもらわないと恥ずかし……」

 

「なんという不運でしょう! 今回の相手はなななんと! 乳首当てゲーム百戦錬磨のメー選手だ~~!! 果たしてカンキ君は、ラスボスクラスの強敵を相手に勝利を収めることができるのかぁぁ~~~!!?」

 

 これの何が怖いって、メーもレダもお酒が1ミリも入っていないシラフの状態でこれらのノリを繰り出してくるということ。

 

 レダがさり気無く、後ろから組み付いてこちらの動きを封じてきた。同時にして迫るメーは、小悪魔のように微笑しながら、ものすごく期待する目でジ~ッとこちらを見つめてきている。

 

 これって、つまり……やるのか!? 外で!? 俺が!?

 満更ではないものの、こういうテンションの“余興”はもっと人の目が無い場所で行うべきなのでは……!? という内心をよぎらせながらも、欲望に負けた自分は意を決するように両手を出していく。

 

 ……これはメーから持ち掛けてきたお遊戯なのだ。つまり、公衆の面前だろうと俺は悪くない……! 俺は悪くない……! これは同意の上、よってセクハラではない……!

 覚悟を決めるように、人差し指を伸ばしていく。そして自分は、今も勿体ぶるような面持ちで佇んでいたメーへと、それをゆっくり突き出していき……。

 

 という瞬間にも、眼前のメーが両手を突き出してきた。

 

「メー選手! タイミングを見計らって刹那の一閃突きを繰り出したぁ~~!!!」

 

「はひっ」

 

 って俺がやられる側かい!!!

 

 メーに突起を突かれて、思わず変な声を出してしまう。共にしてフニャッと腰を抜かしてしまい、敢え無く陥落したこちらの様子にメーは両手を掲げながら「WINNER メーッ!!」と高らかに声を上げてみせた。

 

 どこからともなく、ゴングの音が鳴り響く。

 幻聴が聞こえてくる空間の中、ラミアのドリンクを吸う音のみがチューッと響いてくる。この言い知れない状況で自分はレダに体を起こしてもらうと、間もなくとして店の裏側から私服姿のユノが現れたものだった。

 

 一同が揃って「お疲れ様でーす」と言葉を掛けていく中、ユノも凛々しい声音でそう答えてきた。

 

「ご苦労様。明日の業務に備え、夜更かしすることなく入念な休息を心掛けなさい。柏島くん、こんばんは。明日、私は休暇で店を不在にするものの、こちらの事情に気を遣うことなく、いつも通りLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に来店して食事を堪能して頂けると嬉しいわ」

 

「ありがとうございます。ユノさんも、しっかりお休みください」

 

「えぇ、貴方の配慮に心からの感謝を。どうもありがとう」

 

 穏やかに喋るユノだが、ふと腕時計に意識を向けるなり彼女は足早と歩き出していく。

 

「ラミア、メー、レダ。明日の業務もぬかりなく、細心の注意を払いながら徹するように。柏島くん、貴方と会話ができて本当に良かった。本来ならば、貴方に最大限もの敬意を込めた奉仕を施すべきであることは承知しているものの、人を待たせている以上は先約を優先するべきでしょう。口惜しいけれど、また後日、再会した際に改めておもてなしできるよう計らうことを約束するわ」

 

「いえ、そんな……! 取り敢えず今は、先約の方を優先してください」

 

「ありがとう。それでは、また」

 

 以前と比べて、少しだけ吹っ切れたような様子でユノは駆け出していった。

 

 とても身軽で、駆け抜けるサマも絵になる美しい人物。彼女の背に見惚れるように自分は見送っていると、こちらの肩に腕を乗せて寄り掛かってきたメーがその説明を加えてきた。

 

「ユノさん、これから女の子のお友達と会うみたいなんだよね~」

 

「ご友人さんと?」

 

「あは、そんなお上品な関係性の相手じゃないってば」

 

「それって……?」

 

「大人な関係の友人関係。日本語に直せば、一夜限りの愛。鈍感なカンキ君のために、もっとハッキリと言っちゃえば~……エッチなことをするだけのお友達、ってカンジ?」

 

「あー…………そういう感じね」

 

 ワンナイトのラブ。要はそういうことなのだろう。

 

 察するように何度か頷いた自分。こちらの様子にラミアが言葉を続けてくる。

 

「お付き合いしていたパートナーさんともお別れして、今日から1人暮らしを始めたらしいんですよねー。なので、新たな一歩を踏み出した記念すべき1日目を、長らくお会いしていなかった“夜のパートナーさん”と一緒に過ごすのだそうです」

 

「まぁ、ユノさんなりに前を向けているのなら良かったよ。安心した」

 

「一時はどーなるかと思いましたけど、ナンとか持ち直しましたねー。まー、1日目からハッスルしている様子から、イマ思えば余計な心配だったなーとも思いますけど」

 

「余計ではないと思うよ。ラミア達の心配や配慮があったからこそ、ユノさんは気持ちを切り替えられて新しい一歩を踏み出せたのかもしれない、とも考えることができるし」

 

「カンキさんって考え方がいちいちポジティブですよね。ソレ、生きてて疲れません??」

 

「意識したことがないから、きっと親父譲りの思考回路なんだろうね」

 

「納得です。あのヒトはお節介を通り越して一心同体レベルで干渉してきますから」

 

「そういうこと。じゃあ、俺らも帰ろうか。なんだか、飲み直したい気分になってきた」

 

 それを口にして、自分は歩き出していく。その動作に合わせてラミアやメー、レダも肩を並べるように足を進めたことで、自分らもまた爽やかな心持ちで帰路を辿り始めたものであった。

 

 尤も、最後にレダからこんな言葉を掛けられたものだったが。

 

「それにしても~、カンキくん残念だったわねぇ? ユノさんも迎え入れるつもり満々だったんでしょうから、1人暮らしと聞いてガッカリしたんじゃない?」

 

「正直に打ち明けると、ちょっとショックだったかな……。個室、綺麗に掃除しておいたんだけど……」

 

「ウフフ、やっぱり。ただ……1人暮らしを選んだユノさんの選択は、わたし達に対するあの人なりの気遣いだったんじゃないかしらねぇ?」

 

「そうだと思う。レダ達からしたら、ユノさんは会社の取締役のような上層部の人間だろうからね。同棲するとなったら多分、レダ達を緊張させてしまうかもしれないというプライベートの面で気を配ってくれたのかなって、ちょっと思えてきたよ」

 

「あ~ん、そんな落胆しないでちょうだ~い? カンキくんには、わたし達がついているんだからぁ」

 

「もちろん、俺はラミアとメー、レダと一緒に過ごせる今の暮らしを十分楽しんでいるからね。……このあと飲み直すけど、3人には俺の酒にちょっとだけ付き合ってもらうつもりでいるから、その辺よろしく」

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