俺のハーレムは何かがおかしい   作:祐。

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帰宅! みんなのパパの帰還よ!

 ビーフシチューやハンバーグ、モッツァレラチーズたっぷりのサラダにシャンパンなど、豪勢な料理がローテーブルに並べられた光景。

 

 照明で照らされた暖色の空間。休日の夜を彩る特別なそれを眺め遣り、自分は満足感を覚えながらも追加で丸テーブルを持ってくる。

 

 “6人分”の食事が必要であるため、いつものローテーブルでは料理が乗り切らなかった。

 余程のことが無い限りは出番が無かった丸テーブルを置いていく中で、ふと顔を上げた先に映った景色を確認していく。

 

 ダイニングキッチンで鍋をかき混ぜる私服姿のレダと、食器棚から全員分の食器を運んでくる寝間着姿のメー。洗面所に続く廊下からはお風呂上がりの寝間着ラミアが歩いていて、調理器具の洗浄を私服ユノが担当している。

 

 直にも、ラミアから始まり彼女らは声掛けを行っていったものだ。

 

「お風呂上がりましたー。お次はレダさんの番ですよー」

 

「入りたい気持ちは山々だけど、もう5分ばかしで“ChalkI(チョーキ)さん”が到着するみたいだから後にするわ! ユノさん、わたし達もそろそろ区切りでもつけましょう?」

 

「えぇ、レダの判断に私も同意見よ。メー、配膳の進捗について詳しくうかがおうかしら」

 

「それ分かってて聞いてますよね~!? ハイそうですよ! ずっとサボって音ゲーしてたから何にも進んでませんよー!! ごめんなさーい!!」

 

 重ねた皿を慌ててテーブルに運ぶメー。その危なっかしい姿に自分も助太刀として加わることで、何とか6人分の食卓の準備が整った。

 

 お風呂後のポカポカした湯気を立てながら、ヘアバンドで髪をまとめたラミア。同じく一番風呂を済ませたメーも結った髪を下ろしたラフな格好で過ごしており、レダとユノ、そして自分は私服を纏った状態でその時を迎えていく……。

 

 ガチャッ。

 扉が開く音。これに一同は敏感に反応して駆け寄っていくと、次にも扉が開かれては、全員にとって馴染みのある“人物”が久方の帰宅と共に姿を現した。

 

 化粧を纏い、毛先にツヤがかかった黒髪のウルフカット。彼から見た右目を前髪で隠し、髪質もヴィジュアル系の遊び心を含めたウェーブが特徴的。また、素で長いまつ毛にカラーコンタクトを入れた黒色の瞳と、コスメで煌めく頬に紅色の唇という非常に魅惑的な容貌は、男女を問わず世間的に幅広く受け入れられていた。

 

 加えて、183cmという長身に黒色のヒールを合わせた外見も特筆すべきだろう。

 なびかせた黒髪や黒色のトレンチコートは艶めかしく、赤色や青色、黄色や灰色など様々な色や柄が入り混じるようなシャツと、裾にスリットが入った黒色のボトムスという格好。その立ち姿はまさに妖艶と呼ぶに相応しく、息子である自分も“彼”は生粋の美人だなと思えてしまえたものだ。

 

 だが、蓋を開いてみればただの面白おじさん。

 出迎えた一同を見渡すようにして、“彼”はわぁっと両手を開きながらニコやかにセリフを口にしてきた。

 

「こんばんみ~! そして、あぁ~ん! ただいま愛しの我が子達~っ!! みんなのパパ、ChalkI(チョーキ)がとうとう帰還したわよ~! さぁ! 最初は誰がおかえりのハグをしてくれるのかしら!? お土産も持ち帰ってきたから、ハグしてくれた順に中身を選ばせてあげちゃ~う!」

 

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 すっごいニッコニコな笑みを見せてくるこの人物は、紛うことなき自分の親父だ。

 ChalkI(チョーキ)。芸術と音楽の双方で世界的な実績を収めたアーティスト。その独自性の高い画風や曲調に加えて、彼が手掛ける芸術に必ずと言っても組み込まれる、常識を覆す……のではなく、常識を掻き乱すかのような、悪戯に且つ不規則に乱立したタッチや変拍子などの味わい深さは、メディアなどではChalkI(チョーキ)節と呼ばれて親しまれている。

 

 だが、真に癖が強いのは、それら芸術を生み出す本人だろう。

 男性とも女性とも見て取れる中性的な容貌。それは、男らしい骨格と女らしい顔立ちが織り成す奇跡の融合体であり、両立した性別は風貌だけに留まらず、恋愛対象にまで至っている。

 

 それらを売りにメディア露出すると、この魅惑と背徳の権化を目の当たりにした人間はたちまち謎の中毒性を患うことから、素顔を公開以降、ChalkI(チョーキ)は瞬く間にお茶の間の顔として芸能活動にも勤しんでいた。

 

 彼が既婚であることも周知の事実であり、その際には一途なファンを始めとして芸術家や音楽家、バイセクシュアルの関係から実に様々な業界から多大な反応を受けたことだろう。

 

 もはや、日本で活動する芸能人代表格の1人とまで謳われる有名人へと上り詰めた彼。だが、その本質は芸術に取り憑かれた亡霊そのものであり、美術でも音楽でもどちらかに着手すれば、己の感性が納得するまで永遠に作業へと取り組み続ける。

 

 時には平然と3徹なんてかますものだったから、その度に自分は安眠効果のあるホットミルクやフレグランスなどで眠りへと誘い、親父を無理やり寝かせることで強引に休ませたりしていたものだ。

 

 で、今回の帰宅が遅くなった理由も、十中八九、芸術に没頭してしまっていたから。2泊3日で宿泊したホテルにも結局、1カ月ほど滞在し続けるという倫理観の無いぶっ飛んだ行動を平然とこなしながらも、仕上げた絵画に納得した上で美術展に展示。今度、息子の自分がそれを見に行くという約束までをワンセットに仕事を終えた親父は、結果として久方ぶりの帰還を果たしたものであった。

 

 ――――――――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 3日後に帰ってくるという仕事で、家を2カ月空けたこともある。そんな過去を経験していれば、もはや1カ月なんて造作もない。

 

 尤も、この期間は自分にとっても非常に特別なものとなっていた。

 ラミアとメー、レダとユノ。彼女らとの出会いから始まり、今では自宅で同棲するシェアハウスの住人という間柄。常に誰かが傍に居てくれたため、珍しく寂しい思いをすることなく、今日まで穏やかな心持ちで過ごすことができていた。

 

 で、ハグをねだるChalkI(チョーキ)が両腕を広げていくと、真っ先に飛び付いてきたのが案の定とも言えるメー。加えて、彼女は「うわっほ~い! 私のパパぴっぴ~!」とかいう意味不明な声を上げながら彼とハグを行い、親父を満足させていたものだ。

 

 次に、ラミアだった。それも、かなり意外なことに甘えるような声で「おとうさーん」と言葉を口にしながら親父とハグを交わしていく。

 以前に拾われた経緯を聞かされた身として、心底から信頼しているんだなと内心で納得することができた自分。

 

 その間にも、レダが「仕事に熱中するのもいいけれど、息子さんを家に放置したままじゃあ可哀想よぉ?」とこちらを気に掛ける言葉を口にして親父とハグを交わしていき、最後にユノが「おかえりなさい。柏島さんのご帰宅をこの上なく喜ばしく存じます」とすごく丁寧に喋りつつも、親父とは頬を重ね合わせる海外式の挨拶で上品にハグを交わしたものだった。

 

 みんなの挨拶が終わったな。

 それと共にして、自分は親父をリビングへ招こうとする。だが、同時にして視界には、今も腕を広げて真っ直ぐと見つめてくる親父と、女性陣から熱烈に注がれた視線という非常に圧力がかかった光景が広がっており……。

 

 ……空気を読まないわけにはいかないだろう。

 自分も渋々といった具合に親父へと近付いてから、じっと間近で見つめ合いつつもそう言葉を交わしていく。

 

「親父、おかえり」

 

「カンキ、ただいまぁ~! あとはカンキだけよ~?? さ、ほら! 父親の胸にドーンッとかかってきなさい! どんなに力強くってもカンキの体なら絶対に受け止めてあげる!」

 

「そう言って、反抗期の時は本気でタックルした時あったよな。そうしたら親父、俺の全力をマジで受け止めてきてさ、あれはさすがにビックリしたわ……」

 

「パパもね、伊達に鍛えてないんだから! アイデアが浮かばない時は筋トレをしながら必死の思いでネタを模索するの! それを繰り返している内に、まだまだ若いカンキにも負けないくらいのムキムキな体、手に入っちゃったぁ~! いやぁん、もう、これじゃあみんなにネタにされちゃうわねぇ! ムキムキのオカマ、今日も公園で子供に喋り掛けて不審者と間違われる! ってカンジに!」

 

「いやそれ実話じゃん。最初はマジで逮捕されたと思って本気で心配したんだからな……」

 

「でも結局は逮捕されなかったじゃな~い! 今じゃあバラエティ番組でみんなを笑わせるためのネタとして優秀な体験談なんですから!」

 

「親父さ、そんなに前向きで毎日疲れない?」

 

「私は毎日楽しいわよ~? カンキこそ、人のことは言えないんじゃないかしら?」

 

「俺は…………まぁ、ぼちぼちやってるから」

 

「そんなわけで、はい! おいで! 親父とハグし~ましょ!」

 

「どんなわけでそうなるかな……。まぁ、はい。おかえり……親父」

 

 もどかしく思っていたのだろうか。主にメーやレダ辺りから押し出されそうなほど周囲からは期待がかかっていたため、自分は口を尖らせた渋々の顔で親父に抱き締められていく。

 

 だきっ、と交わされたハグ。これに彼女らが感動するように「おぉ~!」を声を上げていき、且つそれは前の4人よりも2倍、3倍と長く、複雑な気持ちに苛まれた自分は堪らず訊ね掛けてしまったものだ。

 

「親父、もういいってば」

 

「ダ~メ」

 

「なんで?」

 

「私がそういう気分なんだも~ん?」

 

「まぁ知ってるけど……」

 

「カンキ」

 

「なんだよ」

 

「いつもありがとうね? 私のお店とか、お店の女の子達と関わってくれたり、世話や面倒も見てくれてさ。こんな大役を任せられる相手、カンキぐらいしかいないんだから」

 

「別に……。イケメンのスタッフを雇うとか、カウンセリングの専門家をみんなにつけるとか、親父の財布から奮発してみんなが住める共同のシェアハウスを作るとか……。俺なんかに頼るよりも他に、もっと良い手段や方法くらいたくさんあっただろ」

 

「えぇ、お父さん全国的に顔が広いから、ちょっと探せばそれはもう優秀な人材や快適なシェアハウスの開業なんて簡単にできちゃうんだから」

 

「じゃあ、そうすればいいじゃん」

 

「それじゃダ~メ。……富も名声も地位も人気もいつの間にか手に入って、やりたいことは何でもできるようになった不自由ない人生を送っているもんではあるけれども。世の中にはね、そんな私では簡単に手に入れらんなくなった経験や体験があったりするわけなのよ」

 

「それって何なんだよ……」

 

「本物の友情と、本物の愛情よ」

 

 いじけていた自分の、照れ混じりの屁理屈。親父を試すかのようなそれに彼は真っ当から向き合ってくると、ハグをしていた腕を離し、こちらの両肩に両手を乗せながらセリフを続けてくる。

 

「世間から注目されるほどの有名人になった私だけど、金や名前、立場や評価なんかが常に付き纏うようになってからは、まともな友人……純粋な思いからなる本心で、私のことを友と呼んでくれる人間が1人もいなくなってしまった。……私と友人になりたいと願う人間の誰しもが何かしら、私利私欲にまみれた異なる目的を掲げて私に近付いてくる。だからここで白状しちゃうとね、私、外の世界や職場なんかでは、誰も信用せず、取り繕った仮面の笑顔で振る舞っているものなのよ」

 

「……それが何なんだよ」

 

「今のカンキは、仮面をつけた偽物のカンキ?」

 

「……違う。とは思うけど、周りから見たら多分、仮面をつけているように見えるかもしれない」

 

「この場にいる女の子達は誰も、今のカンキが仮面をつけた偽物だと疑う人はいないわ」

 

「え……?」

 

 つい、周囲を見遣ってしまう自分。

 その視界に映った彼女らは皆、可憐ながらも淡々とした視線を投げ掛けていたり、からかうように微笑む小悪魔な雰囲気を醸し出していたり、常にメスのフェロモンを放つ艶やかで魔性な妖しい目を向けていたり、女神が如き存在感で女帝と呼ぶに相応しい佇まいで真っ直ぐと見つめてきたり、などなど……。

 

 ……皆はいつも通りの調子で、決して懐疑的な眼差しを向けずにこちらを眺めていたものだ。

 

「カンキ。今ここにいる女の子達は、貴方に対して本物の友情と、本物の愛情を胸に秘めている、心の友、という存在達なの」

 

「……それが、何だよ」

 

「極論、これは貴方にしか成し得ない大手柄だった。……Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に勤める女の子達は皆、心と体に深い傷を負った、運命に翻弄されし悲劇のヒロイン達なのよ。そんな彼女達に対して下心を見せず、本心と無意識で人肌の優しい温もりを与え続けるカンキという存在は、今となっては彼女達の癒しに必要不可欠であることをどうか、自覚とまではいかなくても、理解だけしてもらえると嬉しいわ」

 

「…………」

 

「貴方は本当によく頑張ってくれている。これは、親父である私にも完全に成し遂げることができなかったくらいの、所謂、才能とも言えるでしょうねぇ。私が保護した子達を、貴方が根の優しさからなる温もりで包み込むことで、結果的に貴方は今、心の支えという、彼女達の人格や幸福を形成するにあたって絶対的な役割を担う中心人物になっているのだから」

 

「……親父の言っている意味が、よく分からないよ」

 

 と返答をしたものだが、本心では何となく理解することはできていた。

 

 要は、自分という存在がLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の彼女らを支えているらしい。

 自分としては、逆に思えて仕方が無い。自分こそが彼女らに囲まれることで精神的に支えられて、おかげで寂しさからなる苦悩や煩悩から解放されたように感じていたものだから……。

 

 色々と難しい話になり、空気は完全に冷え切ってしまった。

 それを悟った親父はこちらを優しく押し出すと、次にも胡散臭いほどのニッコニコな表情でその言葉を掛けてくれたものであった。

 

「久しぶりに会ったのに、お説教みたいなことしちゃってごめんなさいね! ま~たお節介な私の悪い癖が出ちゃったみたい! でもでもでもでも! さっきからず~~~~っと気になっていたのよね! 私の大好きなビーフシチューの香りがするの! あぁ~~ん! 私もうお腹ペコペコよぉ! そういうわけで早速、みんなが用意してくれた最っ高のディナーを頂こうかしら! もうね、今からでも分かる! 仕事の付き合いで入店した高級料理店のフルコースよりも、今、食卓に並んでいるお手製のお料理の方が絶対に美味しいことを、今までの人生経験で恐ろしいほど理解できちゃうんだから!」

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