失敗したなぁ……。
浮かない気持ちを引き摺るまま、夜を迎えた今現在。ため息交じりに自宅のリビングを歩き進めていくと、ソファに座る寝間着ラミアと目が合った。
ヘアバンドでおでこを出し、美顔器のスチームを浴びていく様子。付近には美容液やパックが用意されており、相変わらずである美意識の高さをうかがわせる。
そんなラミアが可憐に振り向いてくると、いつもの淡々とした調子で声を掛けてきたものだった。
「あー、カンキさん。どーもー」
「やぁ。隣座ってもいい?」
「構いませんよー」
「ありがとう」
重い足取りでソファに近付き、ラミアの隣に腰を下ろしていく。それから前屈みになって脳裏に巡る景色を思い浮かべていると、ラミアは小動物のように首を傾げながらそれを訊ね掛けてきた。
「カンキさんの浮かないカオ、初めて見ました。どーかされました??」
「あぁいや、今日、出先でヘマかましてさ。結構こっぴどく叱られたもんだから、あの場面どうにかならなかったもんかなって、後悔のような、反省のような、そんなのがずっと頭ん中で回り続けて」
「そーですか。災難でしたね」
興味無さげな、すごくどうでも良さそうな声音。
他人事らしく冷たいほどに淡泊なラミアの返答に、自分は俯き気味に耽ってしまう。だが、隣にいるラミアは美顔器を止めていくと、次にもそんなことを提案してきたのだ。
「じゃー、ラミアちゃん成分でも摂取します??」
「え?」
「脚、開いてください」
言われるままに、座った状態で両脚を開いていく。
共にしてラミアは立ち上がると、こちらの前まで歩いてくるなり「ちょっとお邪魔しますよー」と口にしながら、その隙間に収まるように座り込んできたものだった。
ちょこん、と背を向けて腰を下ろしたラミア。彼女の小柄で華奢な体が密着すると同時にして、自分は半ば思考停止に近い驚きで言葉を投げ掛ける。
「ら、ラミア?」
「どーぞ。アタマを撫でるなり、カラダを抱き締めるなり、スキなよーにラミアちゃん成分を摂取してください」
「でもこれ、セクハラにならない?」
「同意の上ナンですから、お気になさらずー。それとも、カンキさんがイヤなのでしたらお退きしますけど」
「いや! このままでいいよ!」
「急に必死になるじゃないですか。まー、イイですけど」
そう言って、ラミアはこちらに寄り掛かってくる。
彼女の体温や感触が伝わることで、自分は変に緊張してしまいながらも両手をラミアの体に回していく。それから、失礼にならない程度にやんわり抱き締めると、彼女の後頭部に顔を埋めながら、自分は目を閉じて視界の情報を遮断したものであった。
……ラミアの温もり。ラミアのニオイ。なんだか、とても落ち着くな……。
昼間の失敗で疲労した精神。その擦り減り続ける感覚を、消耗という形でずっと体内に留まり続けていた。
だが、ラミアの優しさに包み込まれたことで、自分は穏やかな心持ちで暫し彼女を抱き締めることができていた。
少なからずの色欲も混じるものの、それを上回る安心の感情。彼女の後頭部から首元へと顔を移していく中で、ラミアは全く動じない調子で訊ね掛けてくる。
「少しは癒されました??」
「うん、すごく癒される。もう少しこのままでもいい?」
「まー、イイですよ。カンキさんにはお世話になってますから、コレくらい大したコトじゃありませんし」
「ありがとう。ラミアの成分が疲れた体にすごく効くんだ」
「まー、ラミアちゃんは可愛いですからねー。そーいうワケですから、ラミアちゃん成分でいっぱいゲンキになって、ウチのためにたくさん頑張ってください」
「あぁ、頑張るよ俺。こんなところで挫けてなんかいられないな」
なんか、しれっと丸め込まれたような気分を覚えたものだったけど、もはやそれも些細な気掛かりに過ぎない。
今はラミアの体温や存在感、声や匂いを堪能していたい。
むぎゅうっ……と、一層とラミアを抱き締めていく自分。それでもなおラミアは動じることなくお人形のように収まり続けていき、これが10分ほど続いた頃だろうか、自分は十分に元気を補えた面持ちで顔を上げながら、彼女にお礼を告げたものだった。
「ありがとう。おかげでだいぶ立ち直れたよ」
「もー、イイんですか??」
「え?」
「まだラミアちゃん成分を摂取されたいのなら、もー少しだけ抱いてくれても構いませんけど??」
「あー……そう言われたら、じゃあお言葉に甘えて……」
「しょーがないヒトですねー。あと10分だけですよー」
手の平で踊らされているような感覚を覚えたものだが、それも今更どうだっていい。
自分は今、猫吸いならぬラミア吸いで癒されたい。ただその一心だ……。
ぎゅうっとラミアを抱き締めて、自分は全神経に意識を集中させていく。
途中、安心感からか眠気に
ラミアから顔を離し、付き合ってくれた彼女にお礼を口にする。
「ありがとう、ラミア。すごく癒された。またお願いしてもいいかな……?」
「まー、カンキさんでしたら構いませんよ。可愛い可愛いラミアちゃんをごひいきにどーぞ」
「生き甲斐だよ。あぁ、本当に良かった……至福のひと時だった」
ラミアの両脇に手を入れて、猫を移動させるような感覚で持ち上げようとする。
だが、その際にも彼女から更なる誘惑を持ち掛けられたものでもあった。
「もー、イイんですか??」
「え?」
「あと10分ほど、ラミアちゃん成分を摂取してもらっても構いませんけど??」
「でも、これ以上ラミアに付き合ってもらうのは申し訳ないというか……」
「お気になさらずー。そーいう気分なので特別サービスです。もし摂取されるのでしたら、ウチの気が変わらない内にどーぞ」
「…………じゃあ、あと10分だけ……」