自宅にて、1階に続く階段を下りた自分は何気無くリビングを見遣っていく。そうして広大な空間を視界いっぱいに収めていくと、その中央にあるソファにはテレビを観ているメーの後ろ姿が映ったものだった。
背もたれに左腕を掛けて、くつろいでいる様子をうかがわせた上半身。共にして右手で何かを口に運んでいる様子だったことから、自分は特に深く考えず、彼女の顔を覗きに歩を進めていく。
撮り溜めしてあったのだろう、ゴールデンタイムのバラエティ番組。それが流れるテレビを横目にソファからチラッと覗き込んでいくと、既に気配に気が付いていたらしいメーはポッキーを咥えたお茶目な姿でこちらに振り返ってきた。
組んだ脚の上にお菓子の箱を乗せている、ちょっとだらしない彼女の様子。そんなところもメーのチャームポイントなのかなと思いながら、自分は他愛ない言葉を掛けていった。
「おっ、良い物食べてるね」
「ウェ~イ、どやどや~。メー様がポッキーを嗜む姿だぞ~? なかなかお目にかかれないポッキーの神様を
「はは~、ご降臨なされたチョコレート菓子の神を崇拝せよ~」
とか言って、自分はひれ伏すような動作を見せていく。このツッコミ不在の冗談10割な空間に2人は苦笑交じりで向き合うと、次にもメーは、ソファに寄り掛かった左腕の手で頬杖をつきながらもポッキーを一本咥えつつ、それらが入った箱を右手でこちらに差し出しては「ん!」と催促してきた。
「貰っていいの?」
コクコク。
ポッキーを咥えたメーは、ギャル感満載な煌びやかな目を見開きながらも、何やら勝気な笑みを浮かべて何度か頷いてくる。
……何か仕掛けてくるな。メーお得意のからかい大作戦。
今日こそは自分が勝つぞ。という謎の意気込みで気合いを入れながら、自分は差し出された箱へと手を伸ばしていく……。
という寸前にも、メーは差し出していた箱を引き下げてしまったのだ。
? 彼女の意図がまだ読めない。これに自分は次なるアプローチに警戒していくと、直にも目についたメーからの“牽制”に、思わずドキッと動揺することで先手を打たれたものだった。
メーはアゴを突き出し、顔を上げるようにして咥えたポッキーを見せ付ける。それから、彼女は挑発的な表情でこちらを自信満々に見遣りながら、右手の人差し指で咥えたポッキーを指差してきたのだ。
…………つまり、『メー様から取ってみせなさい』という挑戦状を突き付けられたようなものだろう。
自分はちょっとムキになりつつ、ソファに膝をついてメーに接近する。それから彼女と真正面から向かい合うと、メーは挑発的に咥えたポッキーを上下に揺らすものだったから、自分はアイコンタクトで許可を取るなり、動揺混じりの震える口先でメーのポッキーを咥えてみせたのだ。
ポッキーの長さ分の間しかない超至近距離。両者のスタンバイが完了すると、暗黙の了解でゲームが開始されていく。
先手で仕掛けてきたのはメーだった。
無邪気な気持ちで相手を煽る微笑。不愉快とは正反対となる明るめな表情は、むしろギャル特有の陽キャなハツラツさをうかがわせており、存在感は眩しくありながらも人懐っこい性格の補正が乗ることで、結果的に悪戯好きなやんちゃギャルという印象を与えてくる。
吊り上がった目尻で見開いて、メーは一口、二口とポッキーを食べ進める。それを終えると彼女はジーッと視線を送ってきたものだったから、次の番を催促するそれを受けて自分も一口、二口、そして三口という強気の姿勢でメーを目で煽ってから順番を促した。
食べ進めるにあたって、2人はじりじりと距離を詰めていく。
いつ、鼻先が触れてもおかしくない。そんな近距離まで来ると、メーは目を細めながら愉快げに微笑を見せ付けることで、『まだ全然、余裕アリアリなんですけど~?』と訴え掛けるアイコンタクトを送ってきたものだ。
さすがに余裕はあるか。
自分は気圧されながらも向かい合っていく。この攻めの気質を感じ取ったメーはニッと笑んでくると、一口、二口、三口……いや、それ以上か!? とにかくハムスターのように細かく刻むようパクパクにじり寄ってきては、なんと唇が触れ合う寸前の位置でピタッと止めてきたのだ。
チラッ、そしてニタァッ。
勝ちを確信したメーの小悪魔な表情。唇も膨らませるように先端を伸ばしたりして、何ならいつでも接吻できるよう露骨な挑発を見せ付けてくる。
……しかし、ここで退いてなどいられない!
勝負時だ……!
一口進めて、メーの顔を見る。そこには得意げに笑うメーが映っており、自分は意地になってもう一口進めていく。
あともう二口で、互いの唇が触れ合うだろう。
迫るメーの魅惑的な部位に、心臓がバクバクと跳ね始めた。
……寸前で止めて、メーに降参を促すべきなのだろうか。いや、ここまで来た以上は男として堂々とメーの唇に到達するべきなのだろうか。
意識が、メーの唇に向いてしまう。
厚みこそは、上下の唇共に薄い方だろう。だから、プルンッとしたボリューミーな弾力というよりは、薄いが故に触れる面積が少ない分、ディープキスした際のフィット感は最高に気持ち良いかもしれない。
キス……キス……! という煩悩がよぎるよぎる。
このままメーと初キスを迎えるべきかどうか。特にそんな関係でもないのに……という葛藤も脳裏に存在することから、今、頭の中では葛藤vs煩悩によるボクシング対決が行われている。
この場面、男ならばどちらを選択するべきなんだ……!?
最適解を探るがあまりに、思考がぐちゃぐちゃになり始めた自分。それが様相にでも表れていたのだろうか、次にもメーは1つの催促を行ってきたのだ。
僅かとなったポッキーを咥えながら、何度も唇を突き出しては引っ込めてを繰り返すジェスチャー。
チュッ、チュッ、と、あたかもキスをねだるようなそれ。加えて、メーは先までの挑戦的な顔とは異なって、小悪魔ながらも切なそうに見つめる甘い眼差しを向けてきたものであったから、彼女にとってほぼ思惑通りなのだろうその行動を、自分は勇気を振り絞って実行してしまったのだ。
一口、二口食べ進める。その距離はもう一口分で、リーチがかかった。
あと一口を食べたら、自然とメーの唇に触れてしまうだろう。その状況でよぎった一瞬の躊躇いを振り切り、メーとのキスを選んだ自分は最後の一口へと進めていった。
……瞬間、メーは喉を鳴らすように喋り出してくる。
「
死角から伸ばされた右手。それは向かい合うこちらの脇腹に滑り込み、指先がツーッ……と沿い始める。
あっ、くすぐったいっ。
直後、自分は「あふんっっ」とかいう盛大に情けない声を上げながら、いとも簡単にポッキーから口を離してしまったのだ。
番外戦術とは、なんて姑息な……!
ソファに寄り掛かって力尽きた自分が、メーへと向いていく。するとそこには、短くなった残りのポッキーを口の中へと運んでいく、なんとも悪戯で得意げな笑みを浮かべた彼女が映り込み、今もモグモグ口を動かしながらギャルのピースで勝ち誇ってきたものであった。
「はい、カンキ君の負け~。メー様とのキスチャンスは失敗。だから、ご褒美のチューは今回おあずけね。……残念だったね~? お次こそは私と熱烈なちゅっちゅができるように、日々精進したまえよ??」
「くぅ……っ! 無念……!」