寝不足だ……。
自宅のリビングで、やつれた顔をテレビの画面に反射させていく。その電源がついていない真っ暗な鏡に冴えない表情を映し出していくと、今も睡魔によって朦朧とした意識のまま、ソファにゴロンッと寝転がっていった。
仮眠するなら、3階にある自室のベッドにしないと……。という謎の使命感を抱きながらも、既に眠りへと
と、その時にも通りかかった私服姿のレダがソファを覗き込み、こちらを捉えながら喋り出してきたものだ。
「あらぁ、カンキくんがここで寝てるなんて珍しいじゃない? いつもはラミアとメーが占領してるから、すごく新鮮」
「あぁ、レダ……。俺、少しだけ寝るからよろしく……」
「寝不足? 作業が溜まっているとは言ってたけれど、まさか夜通しで取り組んだとか言わないでしょうねぇ?」
「その通りです……」
「もう、無理しちゃって。20代になったら徹夜も厳しくなってくるんだから、体調管理は怠らないようにしなさ~い?」
医者の道を志していただけはあり、レダは健康に関する事柄についてはとても手厳しい。
ただ、彼女のありがたいお言葉も、意識が既にシャットアウトしてしまっていた。
今の時点で夢を見ていた気がする。
人肌のように温かくて、なんだか良い匂いがする。とても落ち着くけれど、ちょっとドキドキしてくるような、そんな高揚感が全身に巡る夢だ。
後頭部の温もりと、頭を撫で掛けてくる手。
自分の手も握られているような、臨場感のある感覚。そして視界に映った、真下から覗いた衣類越しの巨乳という光景…………。
……?!
思わず目を覚ました。ギョッと静かに驚きながら見開くと、こちらを膝枕するレダの姿がうかがえたものであり……。
「レダ……っ?!」
「あらぁ、起こしちゃったかしらぁ? ウフフ、ごめんなさいねぇ? 寝顔があまりに可愛かったものですから、母性本能が掻き立てられて膝枕してみちゃった」
「いや、うん。それはいいというか、むしろ嬉しいんだけど……!」
後頭部にある枕代わりの太ももが、今すぐ安眠できそうな程に心地良い。
また、レダから香る、桃のようなフルーティーな香水のそれ。加えて、女性特有のフェロモンも入り混じることで、非常に刺激的ながらも心が穏やかになってしまう。
何よりも、目の前の乳がすごかった。
本人曰く、『バストは99』とのこと。驚異のHカップは伊達ではなく、視界を覆うボリューミーな双頭は男として見過ごすことができない。
まさか、レダに膝枕をしてもらえるなんて思わなかった。
今ならば、悔いなく天に昇れそうだ。そんな一種の極楽を堪能するようじっとしているこちらに対して、レダは確信めいた笑みを浮かべながらも穏やかに喋り出してくる。
「わたしのことは気にしないで、カンキくんは仮眠に集中しなさぁい? ほらほらぁ……早くしないと、夕食を作る時間が無くなっちゃうわよぉ?」
とか言いながら、レダは上半身を横に揺さぶることで露骨に乳を揺らしてみせたものだから、自分は興奮で余計に目を覚ましてしまいながら、何かに焦るよう返答してしまう。
「わ、分かった分かった! ありがとう! もう大丈夫だから!」
「そう? じゃあ、膝枕はここまで……」
「ああぁぁ膝枕の方じゃなくて! むしろこのままでいい! というかお願いします!」
「アフフフフ、ちょっとカンキくん面白すぎ。反応が良いから余計にイジワルしたくなっちゃうじゃな~い」
妖艶に微笑むレダが、獲物を見据えるような眼差しで見つめてくる。それも、オッドアイである瞳には段々と輝きが溢れ出し、どことなく息遣いも視認できるような、高揚としたものを感じ取れる。
眠る男性の夢に現れるという淫魔。
サキュバスという名で知られるファンタジーな種族を想起させる存在感は、レダが持つ唯一無二の個性とも言えたのかもしれない。尤も、その第一印象などが原因で過去に傷付いた本人からすれば、むしろ忌々しく思える先天性の個性だったのかもしれないが。
現在は、自身に付き纏う印象や魅惑の体つきを受け入れているようにうかがえる。
が、それらを鑑みるとやはり、レダをそういう目で見ることに躊躇いが生まれてしまうものだ。
もう、レダには興奮しないぞ。彼女に失礼を働くことと同義になるだろうから。
固く決意した心持ちを胸に、自分はふんすっと意気込んだ。そして、キリッとした面持ちでレダを捉えながら、揺るぎない意志で言葉を掛けていく。
「レダ、10分ばかしこうしてもらえると嬉しいな。今なら、体も心も休められそうなんだ」
「ならじゃあ、10分経過したら声を掛けてあ・げ・る。……寝付けそうかしらぁ? 何なら、アイマスクを貸してあげましょうか?」
「アイマスク! いいね。どこにあるの? 取りに行ってくるよ」
「その必要は無いわよ。だって~……もう、“ここ”にあるんですもの」
次の瞬間にも、目の前の乳がこちらの顔面に下ろされた。
隠し切れない動揺と、声にならない驚愕の音。
前のめりになったレダによる“アイマスク”は、この体に有り余る元気をもたらす。主に股間に集中した意識が張り詰める中で、自分はレダの半身を優しく押し退けながら喋り出す。
「れ、レダ!! レダっ!!!」
「すっごく良い反応~~っ! アフフ、ウブなカンキくんがおっぱいでうろたえる姿が最高に堪らないわぁ~! もうこのまま、誰もいない内に食べちゃおうかしら……っ。あぁん、想像しただけでビリビリゾクゾクしてきちゃったぁ! あとで下着を替えなきゃ」
「待って待って待って待って! これじゃあ俺ずっと寝付けないって!! レダが魅惑的すぎるっ。どんどん目が覚めちゃって、もう、昼寝どころじゃないから!!」
完全に動揺し切っていた。
勢いで体を起こし、冷めやらぬ興奮でレダを見つめていく。この様子に彼女は呆気にとられる顔を見せてくると、次にも少し申し訳無さそうに苦笑しながら言葉を口にしてきた。
「ちょっと度が過ぎたかしら? カンキくん、ごめんなさい。別に悪気があったわけじゃないの」
「あぁいや、俺もその、ごめん……」
「カンキくんは謝らないでちょうだい。ほら、寝転がって。今度は普通に膝枕してあげるから」
ポンポン、と膝を叩くレダ。彼女の催促に自分は若干訝しむような視線を向けながらも、この半身をゆっくりと倒していって、レダの膝にぽふっと頭を乗せたものだ。
……やっぱり落ち着く。レダの香りも相まって、すごく穏やかな気持ちになってくる。
安らぐこちらの様子に、彼女も感化されるように穏やかな笑みを見せてきた。それでいて、言葉通り普通に膝枕をしてくれたレダは、こちらの頭を撫で掛けながら、子守歌を歌い始める。
色気を帯びた艶やかな声音から繰り出される、空間に透き通るような彼女の歌声。腹の底から流れ出るような鮮やかな音色が、聞いた者を眠りへと
……わけでもなく、むしろ美しい歌声過ぎてそちらに意識が向いてしまう。
え? ウマない? という静かなる動揺。想定外の方向から刺されたような感覚を覚えてしまうものの、直にも自分は遠のく意識に身を任せ、レダの計らいによっていとも容易く眠りに落ちたものであった。