俺のハーレムは何かがおかしい   作:祐。

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俺のハーレムは、ここから始まった

 ローテーブルには空になった2人分の皿が置かれており、ソファには少し間隔を空けた距離に2人の人間が座っている。

 

 内の1人は自分であり、もう1人はこの家に突然訪れたラミアという少女だった。

 Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)というレストランのスタッフである彼女。その店は親父がプロデュースする店舗ということもあり、少なからずの関係性をうかがえるものではあるが……?

 

 ――――――――――

 

 

 

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 ソファに置いてあった、まん丸でぶっとい大きな猫のぬいぐるみ。自分のお気に入りでもあるそれをラミアは抱え込み、両脚を持て余すように振りながら喋り出してくる。

 

「広くて暖かいお家に住めて、金銭面を気にするコトなくご飯が食べられる環境。イイですよね~カンキさんは。ナニも心配せずに、不自由無い暮らしで気ままに生きられるんですから。悩みとか無さそうですよね」

 

「まぁ、周囲から見れば確かに恵まれているように映るよね。俺もそう思う」

 

「そのお言葉は慰めですか?? それとも謙遜だったりします?? 少なくとも、先ほどのお言葉は本心によるモノじゃないコトは分かります」

 

「それはどういう意味?」

 

「声に迷いがありました。悩みくらいあるんでしょー?? 例えば……すぐ思い当たるフシで言えば、おとーさんに対するコンプレックスとか、でしょーか??」

 

「ラミアには関係ない事だから」

 

「名の知れた芸能人を親に持つ息子さんですからねー。そりゃー、ご自身と比べてしまうのもトーゼンかと。……お悩みの解決はさすがにできませんけど、ご相談くらいでしたらウチが乗れますよー?? 今夜の宿泊代として、どーですか??」

 

「なるほどね、宿泊代の交渉か。カウンセリングで支払う料金と考えれば妥当かもしれない。逆にだけど、キャバクラでもないのにこんな可愛い子とお話ができるのなら、むしろお得とも考えられるかも」

 

「ハナシの呑み込みが早いヒト、ウチ大好きですよー。そーいうワケで、どーですか?? ナンでしたら、毎日コチラにお訪ねしてお悩み聞きますけど」

 

「毎日泊まる気満々じゃん。……そこまでしなくても、親父の知り合いなら泊めることくらい構わないから大丈夫だよ。ただ……いくつか訊きたいことがあるから、それだけ答えてもらえると助かるんだけど」

 

「それくらいならお安い御用です。このラミアちゃんにナンでもお訊ねください」

 

 そう言って、猫耳付きのキャスケットを被っていた彼女は、猫のぬいぐるみに寄り掛かりながらこちらをいじらしい瞳で見つめてくる。

 

 この子、自身の魅力を完全に理解しているな……。

 なかなかのやり手だとうかがえる。そんな、男を陥落させるテクニックを存分に披露するラミアに自分は惑わされながらも、平静さと共に3つほど浮かんでいた疑問を投げ掛けることにした。

 

「……まず、俺はラミアのことを心配している。これは君自身の身を案じている意味での言葉ではあるし、君を心配する身内に対する意味での言葉でもある。何が言いたいのかと言うと、ラミアのような女の子が、男が住む家に1人で訪れるなんて、常識的に考えたら普通に危ないものだからさ。ラミアの身内はきっと、君のことを心配しているんじゃないかと思うんだ」

 

 顔見知り程度の男の家に、娘が泊まりに行った。この事実はきっと、身内の人間はひどく不安に思うことだろう。

 

 真っ先に思い浮かんだのは、ラミアの心配だった。

 親御さんとかは特に心配に思うはずだ。自分は彼女の身内について訊ね掛けていくと、対するラミアはケロッとした調子でその返答を行ってくる。

 

「わざわざお気遣いどーも。その心配なら要りませんからダイジョーブですよー」

 

「ラミアが大丈夫だとしても、身内の人はラミアを心配しているかもしれないからさ」

 

「ハイ、それも問題ないです。と言いますかウチ、天涯孤独なんで」

 

「え?」

 

「もー、ウチを心配する家族や親戚もいませんから、そこら辺の心配は要りません。ただ、ウチのコト気に掛けてくださったのは素直に嬉しかったですよ?? ご心配いただき、ありがとーございました」

 

「あ、えっと。まぁ、うん。……取り敢えず、ゆっくりしていってね」

 

「それではお言葉に甘えて、自宅のよーに過ごさせてもらいまーす」

 

 なんだか、手のひらで踊らされているような気分だった。

 

 ただ、ラミアは天涯孤独であることは本当なのだと思う。その時の彼女からは本気であるサマがうかがえて、とても嘘をついているようには感じられなかった。

 

 ならば、せめて此処が心の拠り所になってくれると嬉しいんだけど……。

 という思いを胸によぎらせながら、次の質問を行っていく。

 

「ところで、どうしてこの家が分かったの? 具体的には、お店をプロデュースした俺の親父……幻惑の奇術師ChalkI(チョーキ)の自宅を、ラミアがどうやって知ったのかを教えてほしい。別に君を疑うわけではないんだけど、一応、富裕層が住む地域の関係でよく強盗に狙われたりもするから、防犯的な意味合いも兼ねてその辺を知りたいんだ」

 

「それでしたら、カンタンなハナシですよ。アナタのおとーさん、ChalkI(チョーキ)さんからコチラの所在を教えてもらったんです」

 

「親父から? どうして?」

 

「ナニかあったら、ココに訪問してほしいと仰せつかっておりますので。コレはウチだけに限らず、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)のスタッフ全員に伝えられています」

 

「プライバシーに厳しい親父が、そんなことを……? とてもじゃないけど、信じられないな……」

 

「まー、疑問に思うよーでありましたら電話なりで本人に直接うかがってください。ラミアちゃんという可愛いオンナのコが押しかけてきましたーとでも伝えてくだされば、本人も納得されると思いますので」

 

「そこまで言うのなら、まぁ……。一応、後で確認を取るつもりではあったし」

 

「ナンでしたら、ウチも電話に出ましょーか?? 最近、ChalkI(チョーキ)さんとお会いできていませんでしたので、ウチの生存報告やお店の近況報告も兼ねて少しお話ししたいです」

 

「分かった。それじゃあ後で親父に電話しようか」

 

 ここまで言うのなら、たぶん心配は要らないのかもしれない。

 

 淡々としたラミアの態度がまた、とても嘘をついているように見えないものだ。

 両脚を畳むようにして座る彼女は、猫のぬいぐるみを一層と抱き締めながら見つめ遣ってくる。その、己のチャームポイントを熟知した魅せる可憐さに、自分は内心で「可愛い……」と呟きながらも最後の質問を行っていった。

 

「一旦、最後の質問ね。そもそもとして、ラミアは親父とどこで出会ったの? 聞いてる感じだと、2人に接点が無いように聞こえるから、何となく不思議に思っていたんだよね。……親父のやつ、俺にお似合いな相手を探すことが好きみたいでさ。特に、ラミアのようなすごく可愛い子を見つけたら、真っ先に俺に勧めてくると思うんだよ」

 

「そのハナシでしたら、ウチも本人からうかがいましたよー。ウチはソッコーでお断りしましたけど」

 

「それはそれでちょっと傷付くわ……」

 

「で、ChalkI(チョーキ)さんとお会いした経緯ですよね?? でしたら、コチラは少しだけデリケートなお話になりますので、あまり詳しくお伝えするコトはできません」

 

「喋れる範囲で教えてもらうことはできるかな……?」

 

「構いませんよ?? まー、ChalkI(チョーキ)さんは全容を把握しておりますので、続きが気になったらカレから聞いてください」

 

 適当な調子で喋るラミアだったが、次にも彼女は視線を逸らしながら言葉を続けてくる。

 

「ウチはChalkI(チョーキ)さんに拾われたんですよ。時期は、2年くらい前でしょーか。当時のウチはちょっとしたいざこざで行き場を無くしておりまして、その頃から天涯孤独だったという事情も合わさって、実質ホームレスのよーな状況でした。……路上で生活して、その場しのぎの水商売でナンとかやり繰りをしていたんですけどねー。カンキさんも知るよーに、ラミアちゃんはとっても可愛い見た目をしてますから。トーゼン、ウチの下には変な輩もやってくるワケですよ」

 

 ……変な輩の候補としては、ラミアの可憐さに引き寄せられたチンピラだとか、自分達のシマで商売を行う彼女をシメに来たヤクザなどが考えられるだろう。

 

 中でも最悪なのが、“商売道具”としてラミアを攫おうとした“行商人”か……。

 日本はそこまで治安が悪くないと信じたいものだが、彼女の深刻そうな口ぶりからして、相当な苦労があったことはうかがえる。そんなラミアの説明を、自分は親身になって聞いていく。

 

「当時、ケッコー危ない目に遭わされたんですよねー。ホントに、ココで連中に従ったら他の国へ連行されると、イマまでの人生から何となく悟っていたワケです。ソレでウチも抵抗をするんですけど、ウチは見た目通りに非力なんで連中に敵わないワケですよ。……そんな時に現れたのが、ChalkI(チョーキ)さんでした」

 

「親父が? どうして?」

 

「なんか、路上の水商売をテーマにしたドラマで使用される作曲の仕事を引き受けていたみたいでして、着想を得るべくカレがたまたま通りかかったんですよ。ソコでChalkI(チョーキ)さんは連中を追っ払ってくれましてねー。その安心感でウチ、現在に至るまでの経緯を全てお話ししてしまったんです。……その際にですね、ウチのハナシをうかがったカレは、その場で思い付いたよーにスカウトしてきました」

 

Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)で働いてみないか……って感じかな?」

 

「ご名答です。最初はダメ元で引き受けてしまったお仕事ですけど、結果として、カレについていって正解でした。一ヶ月後にオープンを控えたLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)には、ウチのよーな表社会のはぐれ者が寄せ集められていたんです。どーやらカレ、ウチらみたいな、悪者というワケではないのに運命に翻弄された、ただただ可哀想な目に遭った人達を救いたいという意図があったみたいでして。そんなニンゲンが、イチから人生をやり直せる場所……救いとなれる再起の場所として、アチラのお店を創設されたよーなんですよね」

 

「そんな事情があったのか……」

 

 知らなかった……。

 息子である自分にも知らせることなく、胸に秘めていたのだろう真意を静かに形作った救済の場所。

 

 様々な事情によって、凄惨な人生を辿ってきた人間を集めてきたのかもしれない。親父は多分、そんなラミアのような人達の立場や名誉を考慮して、俺という息子にさえLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)を創設した目的について黙っていたのかもしれない。

 

 店を立ち上げたことさえ知らされていなかった事実から、俺はそう考える。

 親父はそういう人間なのだ。たとえそれが詐欺だとしても、親父は困り果てている他人を放っておくことができない。それで万が一にも騙されてお金を取られたとしても、親父はまるで他人事のように冗談めかしながらそのセリフを口にするからだ。

 

『じゃあ、あの人は最初から困っていなかった。ってことでしょう? つまり、最初から誰も損していなかったというわけだ。……なら、別にそれでいいじゃない! だって、困っている人がいなかったことに代わり無いのだから! それはそれでみんな幸せ、ハッピーってことなんだし? ホント、損したのが私だけで良かったわ~! 安心した!』

 

 ――――――――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 透明なグラスに注がれたお茶。2人分のそれは減少することなく、暖色の照明をキラキラと反射している。

 

 余裕のある空間に巡る沈黙は、しんみりとした空気を生み出していた。

 猫のぬいぐるみを抱えるラミアが、それに口元を埋めて遠くを見遣っている。そんな彼女の横顔を眺めていく中で、自分は思い付いたように言葉を口にした。

 

「ありがとう、ラミア。色々と聞いちゃってごめんね」

 

「別にイイですよー。少し釈明しただけで、ゴキブリが出るよーなオンボロアパートではなく高級なお宅にお泊まりできるんですから、コレくらい容易いモンです。他に訊きたいコトとかあります?? ナンでしたら、スリーサイズやカレシの有無もお答えしますけど??」

 

「なんともまぁ、返答しにくい事訊いてくるなぁ……。それじゃあ~……ついでに訊いてみるけど、彼氏とかいたりするの……?」

 

「おやおや?? 知りたいですか??」

 

「いやいや最初に訊いてきたのはラミアの方でしょ……」

 

 汗を流すこちらに対して、ラミアはからかうような微笑を見せながら顔を上げてくる。

 

 きっと、予想通りの食い付きだったのだろう。

 ラミアは分かり切ったような、得意げなしたり顔で見つめてきた。そのドヤ顔に自分は苦笑してしまいながらも、先の重い空気とは反する軽い調子で彼女と会話を交えていく。

 

「で、実のところはどうなんだ?」

 

「もー、そんなにラミアちゃんの恋愛事情を知りたいんですかー?? カンキさんもしょーがないヒトですねー。ただでさえお店の男性客やナンパしに来たオトコのヒトからも訊かれるので、本来でしたら適当に濁したりなどしてヒミツにするんですけどー……カンキさんにだけ特別ですよ?? …………ココだけのハナシ、カレシはいないです」

 

「え、本当? 意外」

 

「じゃー、もっと意外なコト教えましょーか??」

 

「教えて教えて」

 

「実はー……カレシ、できたコトないです」

 

「いや、それはさすがに嘘」

 

「ホントですよ!? カンキさん、ウチのコトをナンだと思ってるんですかー!!」

 

「うそうそ、冗談だって!」

 

 途端にしてコミカルな空気が訪れた。

 

 2人で冗談めかした微笑を交え、軽く笑い合っていく。その空間に心地良さを覚えながらも、自分は彼女へとその言葉を掛けていった。

 

「あっははは。あ、ラミア。お風呂入るよね。場所とか教えるからついてきてもらえるかな」

 

「お風呂も頂いてイイんですか??」

 

「もちろん。泊まりに来てくれたお客様だから、ちゃんとおもてなしするよ。それと、2階に客人用の部屋もあるから、そこにキャリーケースを置いたりしちゃおうか」

 

「わー!! ありがとうございますー!! もー、寝床にお食事にお風呂まで頂いちゃって、至れり尽くせりどころか極楽浄土ってカンジですよー!! ではではカンキさんのお言葉に甘えて、トコトン満喫させていただきますねー!! ……あー、お風呂場に案内いただく前に、持参したバスタオルだけ出しちゃいますね」

 

「元からお風呂入る気満々じゃん……」

 

 どうしても自分がツッコミに回ってしまう彼女の言動。これの何が性質(たち)悪いって、媚びの売り方とは異なり、ラミアは本気で天然のボケをかましている様子にうかがえたこと。

 

 キャリーケースをソファに置き、中身を開いていく。すると、そこにはパンパンに詰め込まれた寝間着やコスメ、スキンケア用品や生理用品に、ドライヤーやヘアアイロンといった機器などなど、これでもかと言うほどの日用品が姿を見せてきた。

 

 随分とまぁ、気合いを入れてここに来たんだなぁ……。

 ツッコむ気力も無くなった自分が、呆気にとられるよう様子を眺めていく。その間にもタオルや着替えを抱えたラミアは立ち上がると、自分よりも先に歩き出しながらセリフを口にしてきた。

 

「準備完了でーす。じゃー早速、お風呂場から行きましょー。……ナニしてるんですか。早く来てください。カンキさんがいらっしゃらないとウチ、お家の構造が分からず迷子になりますよ??」

 

「言うて、縦に長いだけの家だから迷子になるほどの広さじゃないけどね……。って、ツッコむポイントはここじゃないな。……とにかく俺も行くからちょっと待って!」

 

 慌てて立ち上がった自分。すぐにもラミアのキャリーケースを閉めて持ち上げていき、彼女に追い付くよう駆け足で合流してから家の中を案内したものだ。

 

 それからというもの、この日はラミアと共に過ごす一夜を満喫した。

 お風呂から上がった彼女とアイスを食べながら、何気無くリビングでテレビを鑑賞する。そうして時刻が深夜帯になると、自分はラミアを2階の部屋に案内していき、客人用の個室で就寝の挨拶を交わしてから電気を消していく。

 

 ……あまりにも急な訪問だったけれど、彼女が一緒に居てくれたひと時は心からの充実感を得ることができた。

 夢のような時間を過ごせたなぁ。という実感を胸に就寝した自分。できるならば、このまま夢から覚めたくないという気持ちで朝を迎えていくと、リビングには既に起床していた彼女がソファでくつろいでいたことから、自分はどこか安堵した面持ちで朝の挨拶を投げ掛けたものだった。

 

 そして、この唐突な訪問以来、ラミアは毎日のようにここへ訪れては宿泊するようになった。

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