俺のハーレムは何かがおかしい   作:祐。

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からかい上手の小悪魔さん

 ラミアと共に歩く東京の街。昼下がりの本日も、自分達は手を繋ぎながらLe goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に向かっていた。

 

 繋いだ手を前後に振るラミアは、上下に体を揺らしながら歌を歌っていた。機嫌が良いのだろうか、とても愉快げにランラン歌う彼女の様子に、自分は癒しを得られたものだ。

 

 そんなひと時を過ごしていく内に、Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)に到着した。

 扉を開き、カランコロンと音を立てて入店する。そこでタキシード姿のユノに出迎えられた自分は、今日も凛々しく美しい彼女にその言葉を掛けられていく。

 

「ようこそ、柏島くん。貴方の来店を心より待ち望んでいたわ。さぁ、どうぞこちらへ。本日も貴方がお気に召すような食事を用意し、その胃袋を幸福で満たしてみせましょう」

 

「ど、どうも……。今日もご馳走になります……」

 

 初対面の頃から薄々と思っていたけれど、この人も相当、個性的だよな……。

 

 Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)で働く女性はみんなが個性的だと彼女は言っていたものの、本人も例外ではないような……。

 という内心を胸に秘めながらも、自分は軽く会釈しながらユノに2名席へ案内された。その間にもラミアは従業員用の扉へ姿を消していき、ユノはお手拭きやナプキンなど食事の用意を行ってから一礼してくる。

 

 それから、胸ポケットからメモ帳とペンを取り出してこちらのオーダーを待ち始めた。

 ユノさん……ちょっと、ちょっと気が早いかな……! と、自分は若干焦りながらメニュー表を開いていき、おろおろとしながらも目についた料理を指差しながら注文を行っていった。

 

「えっと、じゃあこちらの、ル・トゥル……」

 

「ル・トゥルヌド・ロッシーニ風。牛フィレのロッシーニ風、ジャガイモのピューレとジャガイモのドフィネ。ご注文は以上かしら」

 

「あ、はい……! 以上です……」

 

「遠慮なんてしないでちょうだい。Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の人間として、貴方という柏島の血筋を継ぎし特別な来客を唯一ともてなせる機会である以上は、貴方には心行くまでの至高なる満足感を堪能して頂かなければならない。貴方の気遣いは他者を思い遣る性分からなる一種の謙遜であることは承知しているわ。だからこそ、どうか気を許してもらいたい。柏島さんが我々に与えてくださった救済への敬意を込めて、最愛の息子さんへのおもてなしという最上級の感謝を彼へと捧げるため……」

 

「わ、分かりました……!! では~……ノンアルコールカクテルの、シャルドネ種、白グレープジュースをお願いします……!」

 

「いいセンスをしていらっしゃる。さすがは柏島の後継者、幻惑の奇術師二世は最高の選択でランチを彩ってみせるのね。……ご注文を承りました。10分前後の時間を要するため、料理が届くまでの間、ピアノを演奏できる者をこちらに寄越しましょう」

 

 さすがにそれはやりすぎだって……!

 

 色々と過剰であるユノの性質に、自分は1人であたふた焦りながら誤魔化していく。

 

「いえいえいえ! あの、そこまでして頂かなくてもいいかなぁ~、と……! あ、俺、なんかちょっと今から考え事をしないといけないような気がする……っ! だから、10分くらい1人で過ごせるお時間があると個人的に嬉しいなぁ~、なんて思ったりして……!」

 

「えぇ、承知したわ。それが貴方の意向であるのならば、私はただそれに従うのみ。貴方を苦悩へと(いざな)う課題は少々気掛かりに思うものの、それはきっと私が案ずるべき事柄ではないのかもしれない。柏島くん、貴方の救済はいつでも傍に在ることを忘れないでちょうだい。貴方が助けを求める時、私が貴方の救済者となりましょう」

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 この人の何が怖いって、こちらの適当な誤魔化しの言葉でさえ割と本気で受け止めているところだと思う。

 

 会話している自分が変な汗を流していく最中にも、ユノは「それでは、失礼するわ」と一礼してから従業員用の扉へ向かっていく。そして彼女は扉を開いてホールを後にし、ものの数分程度で戻ってくると他の女性客と会話をし始めた。

 

 凛々しく振る舞う姿は女神そのもの。同性すらも魅了するユノという存在は皆の憧れとも言えることから、ひっきりなしに客から呼び止められていたものだ。

 

 特に、女性と話している姿をよくうかがえる。

 ユノの横顔を眺めながら、何となくそう考えていた自分。すると、次の時にも勝気な声音で喋る“別のタキシード姿の女性”がオーダーした料理を運んできたのだ。

 

「あーい、お待たせしました~! ル・トゥルヌド・ロッシーニ風。牛フィレのロッシーニ風、ジャガイモのピューレとジャガイモのドフィネと、シャルドネ種、白グレープジュースでございま~す」

 

 ラミアやユノとは異なる雰囲気の喋り。ギャルを彷彿とさせる現代風なそれに自分は振り向いていくと、案の定とも言うべきだろう小悪魔風の女性が姿を現していた。

 

 165cmはあるだろう背丈の彼女は、クラブピンク色の長髪をリボンのように結って後ろに束ねてある織姫のような髪型が特徴的だった。

 ネイビー色の瞳をキラキラと輝かせ、悪戯が好きそうな得意げな笑みを浮かべながらこちらの顔をまじまじと眺めている。それは異性に見惚れているというよりは『新しい玩具を見つけた』と言わんばかりの吊り上がった目であり、長いまつ毛にハリのある頬がギャル特有の尖った印象を与えてきた。

 

 黒色のタキシードに、紺色のシャツを身に纏った女性。彼女は運んできた料理と飲み物をテーブルに置いていくと、ネイルをキメた右手の指でピースを作りながら、それを右目に添えつつチャラい自己紹介を行ってくる。

 

「君がウワサのカンキ君だね? こんちゃーす。私、“メー”って言いまーす。よろ~」

 

「あぁ、初めまして。もう知っているとは思うけど、俺は柏島歓喜。よろしく、メー」

 

「あは、真面目に挨拶返してくれんのフツーに嬉し~! 男ってこういうノリで行くと大体が口説き文句かドン引きのどっちかで始まるからさ~、カンキ君みたいな面食らわない常識人って逆に珍しかったりするんだよね~」

 

 常に悪戯な笑みを見せているためか、彼女の言葉が本心であるかどうかがイマイチ分かりにくい。

 

 もしかしたら、からかわれているのかもしれない。

 そう思わせる軽い調子が、メーという女性の性質とも考えられる。とにかく自分は怯まないよう向かい合っていくのだが、こちらの様子に対してメーは片脚で向かい側のイスを引き寄せていくと、彼女は流れる動作で腰を下ろし、からかうような様相で頬杖をつきながら喋り掛けてくる。

 

「さっきのやり取り見てたけどさ~、マジでチョー笑った。もしかしたら今年ん中で1番ウケたかも」

 

「さっきのやり取り?」

 

「注文する時の、ユノさんとの駆け引き。あの雑な理由なんなの? カンキ君ウソつくの下手すぎない? でもそれが私的に、逆に好感度上がったみたいな?」

 

「まぁ、その時はイケるかなって思ったんだけど、思い返してみたらさすがに無理あったよね」

 

「無理しかないって! マジでウケんだけど。……いいね。カンキ君、きみいいよホント。気に入った」

 

「ありがとう。俺もメーみたいな明るい子は好きだよ」

 

「あは、まさかの照れずに告白! 君、意外と積極的なんだ? ちょっと見直したかも。ただ……言葉のチョイス間違えたね~。それじゃあ軽い男に見られちゃうよ? ……だって私達、まだ知り合って間も無いじゃん? そんな相手にさ~……『好き』って言葉、簡単に使っちゃダメだぞ?」

 

 こちらの目を真っ直ぐと見つめ、控えめな甘い声を出しながらいじらしく微笑んだメー。ニッと悪戯な表情を見せた彼女は右手の人差し指を自身の口元に近付けると、まるでシーッと沈黙を促すようにしながら、色っぽい上目遣いでこちらを見遣ってくる。

 

 ……このアプローチには、さすがにドキッとしてしまった。

 頬を赤らめたこちらに気が付いたらしい。その反応に彼女はしてやったりな顔をしながら喋り出す。

 

「はい、私の勝ち~。詰めが甘かったね」

 

「一体なんの勝負って感じもするけど、なんだろうな、この謎の敗北感」

 

「経験の差で私に軍配が上がったカンジだよね~。カンキ君はもうちょっと場数踏まないとダメかな~」

 

「こりゃまた、痛いとこ突かれるなぁ……」

 

「何だったら、私が告白の練習相手になってあげよっか? ……プロポーズの練習をいっぱいして、私を落としてみようよ? ね?」

 

「本当に、人をその気にさせるのが上手いね……」

 

「名付けて~……カンキ君の恋愛大作戦~!」

 

「ちょ、だから追い打ちが過ぎるって!」

 

「あは、ウケる。カンキ君の反応おもしろ」

 

 完全に弄ばれていた。

 

 小悪魔な女性メーは、見た目通りのヤンチャな性格をした女の子だ。

 あまりにも振り回されたものだったから、自分は半ば強引に切り上げるように料理を口にしていく。これによって話題が断ち切られたかと思いきや、メーは食事するこちらを見つめながらそれを訊ね掛けてきた。

 

「ねぇ、カンキ君。今度さ、君のお家に行ってもいい?」

 

「え? あぁ、いいよ」

 

「マジ? やった! ありがとー! いやぁね、ラミアがそっちでお世話になってる話を聞いたもんだからさ~、ラミアのマブダチとして~? 私も見に行かなきゃ~? って思ってたところだったんだよね~!」

 

「いいよいいよ、親父も歓迎してくれるだろうから。まぁ、仕事が忙しいって言って最近帰ってこないから、親父に会えるかは分からないけれど」

 

「ん~? じゃあじゃあ、基本的にはカンキ君とラミアの2人だけってカンジなの?」

 

「そうなるね」

 

「っはぁ~! やらしっ」

 

「なんでだよ!!」

 

 やっぱり、メーには最後まで振り回されっぱなしだった。

 

 典型的なこちらの反応に、彼女はすごく満足げな微笑を見せてきたものだ。それでいて、以降も自分はメーと会話を行うことで彼女との親睦を深め合い、いつの間にか連絡先を交換し合う仲になってこの日は店を後にした。

 

 自分という特別な客をもてなしていたからという理由で、ユノから見過ごしてもらっていたメーのサボり。尤も、彼女はそれ狙いでこちらに関わってきたのだろうが、会話を行う中でメーは心なしか、初対面の時よりも自然体な笑みを見せてくれていたような気がした。

 

 まぁ、これもからかわれていただけなのかもしれないが。

 とにかく、この日はメーという新たな従業員と顔見知りになった。且つ、メーとは今後も長い付き合いとなっていく……。

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