俺のハーレムは何かがおかしい   作:祐。

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紫とのお出掛け。買い物を楽しむ

 扉越しに聞こえてくるシャワーの音。奥で人影が揺らめく様子を背にして、自分は洗面所の掃除を行っていた。

 

 ゴム手袋を着けて、ピカピカになったそれを眺めながら息をつく。

 とてもやりきった気持ちになったものだ。最近は特に、ラミアとメーの2人が移り住んできたがため、髪の毛などの抜け毛が大量に増えたから尚更……。

 

 親父は芸能と芸術の仕事で現地に泊まり込み、数週間は自宅に帰ってきていない。そんなものだから、部屋の掃除は自分が行う他なく、掃除をするとなると皆が羨む広い自宅はかえって仇となる。

 

 次はトイレを掃除しなきゃな。

 そう思って、洗面所から移動しようとした時のことだった。

 

 ガチャッ。

 普通に開かれた浴室の扉。そこから全裸のラミアが出てきて、鉢合わせしたこちらを何気無く見遣りながら言葉を掛けてくる。

 

「あー、カンキさんどーも。お掃除お疲れ様でーす」

 

「ちょ、うおっ! ラミアもお疲れ様……! その、いろんな意味で励みになるよ……!」

 

 真正面から堂々と眺めてしまいながらも、無意識に返事をした自分。もちろん、ラミアはこの視線に気付いているのだろうが、本人は一切と気にする様子を見せることなくヒタヒタ歩き進めてバスタオルを手にしていく。

 

 男がいる空間の中で、髪や全身を拭い始めた彼女。何も言ってこないことを理由に、自分は男の本能としてついつい静かに凝視してしまっていた最中にも、ラミアは可憐な瞳を向けつつ適当な調子で喋り出してきた。

 

「カンキさん、このあとご予定とかあります??」

 

「予定? 今日は家の掃除だけで1日費やすつもりだったけど」

 

「そーですか。なら、ウチと一緒にショッピングはムリそーですかねー」

 

「ショッピング?」

 

「今日発売のコスメを見に、デパートへお出掛けする予定でしたので。男性視点のアドバイスとか頂ければと思って、カンキさんを誘ってみたんですけど、まー、カンキさんもお忙しいですよねー」

 

 本日は休みであるラミアが、濡れた髪を拭いながら洗面所の前まで移っていく。そして、ドライヤーを手にしてゴーッと音を立てながら乾かし始めた光景を見遣りつつ、自分は少し考えてからそのように返答した。

 

「いや、せっかくのお誘いだから一緒に行きたいな。良い気晴らしにもなると思うし」

 

「そーですか。まー、気晴らし云々はどーでもイイですけど。ついてきてくださるなら好都合です。カンキさんがいらっしゃると、荷物の心配も要らなくなりますからねー」

 

「荷物の心配?」

 

「ウチの荷物をカンキさんに運んで頂けますので。出先に男手があると心強いですから」

 

「あぁ、そういうこと……」

 

 要は、荷物係として誘ったわけだ……。

 

 複雑な心境で汗を流してしまう。だが、ラミアと一緒にお出掛けできるという機会は悪い気がしないため、いつも頑張っている彼女の支えとなるのならばと、自分は前向きに意気込みながら外出の準備を始めたものだった。

 

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 ――――――――――

 

 いつものようにラミアと手を繋ぎ、東京の街を一緒に進んでいく。

 徒歩で20分ほどだろうか。真っ直ぐの道のりをひたすら辿り続けていくと、直にもビルの囲まれた駅前の広場に到着する。

 

 円を描くような道路に、車やバス、トラックや自転車などが四六時中と見受けられる交通の様子。人間も老若男女と様々な姿がうかがえて、油断するとはぐれてしまう程度には混み合っていた。

 

 まぁ、特に今日は休日という関係もあるのだろう。家族連れの団体もあちこちで見かけたりなど、非常に雑多とした光景に自分はラミアを気遣いながら声を掛けていった。

 

「すごい混んでるね。デパートの中とかお客さんで溢れ返っていそう。あ、足元気を付けて」

 

「お気遣いどーも。細かいトコにも気を払えるトコは、さすがChalkI(チョーキ)さんの息子さんだと思います」

 

「もしかして、お節介だった? だとしたらごめんね口うるさくて」

 

「いーえー、気にしてませんよー」

 

 淡々と喋るラミアは、首を横に振りながら適当な調子で答えてくる。

 猫耳付きの黒色キャスケットを被り、オシャレな格好を身に纏った可憐な乙女。彼女の存在は主に男性の視線を釘付けにしていく。中でも、ナンパ目的なのだろうチャラい雰囲気を醸し出す連中は、男であるこちらがラミアから離れる機会をうかがうように露骨な眼差しを送っていたものだ。

 

 ラミアが周囲を警戒する理由が、何となく分かった気がする。

 男である自分も、彼らからの視線が気味悪く思えた。だからこそ、ボディーガードと荷物運びを兼ねた自分という存在を連れ出したい彼女の心情に、心で納得することもできたというもの。

 

 Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)の女の子達みんな綺麗で可愛いから、ラミアに限らず全員が外で苦労していそうだ。

 この先、自分は彼女らに連れ出されそうだな。という何となく巡ってきた予感。それを胸に抱きつつ自分はデパートに到着したことから、想像通りの賑わいを見せるそちらにラミアと一緒に入店し、しばらくは彼女のショッピングに付き添うこととなる。

 

 ――――――――――

 

 

 

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 特有のフローラルな香りが広がる空間。キュートなパッケージからセクシーなパッケージまで、女性の彩りをサポートする様々な用品が置かれたコーナー。

 

 周囲と比べて落ち着いた雰囲気のここは、やはりとも言うべきか女性客が多く見受けられる。そこに紛れる男という耐え難い状況に自分は極度の緊張を抱きながらも、ラミアの付き添いという(てい)で精神を保ちつつ彼女と共に商品を眺めていた。

 

 本日は、グラデーションやアイシャドウ、リップといったメイクアップの化粧品を探しに来た様子。特にパレットを中心に見て回っていたラミアは、ベージュ色のそれを手に取ってはこちらに見せてきた。

 

「コチラのアイシャドウとか、ウチに似合いますかね?? 桜のよーに可愛らしいピンク色のカラーとか、ラミアちゃんの可愛さを更に引き立たせてくれると思うのですが」

 

「へぇ、4種類の色が入ったパレットか。人の肌に近い薄橙色と、桜の花びらみたいに可愛いピンク色、ミルクティーみたいなベージュに、チョコレートっぽい焦げ茶色か」

 

「入れ物の上品さはモチロンとして、ラメのカンジや立体感、キラキラの揺れるカンジですとか、光を反射した際の色合いですとか、すごくキレイじゃないですか?? コチラ、今日発売されたラミアちゃんイチオシブランドの新作なんですよ!! ……わー。もー、一目惚れですよ。イイですねー、こーやってしばらくは眺めていられます」

 

 とてもウキウキとしたラミアの、宝石のような瞳を輝かせながら心を躍らせているその姿。

 

 ……可愛いな。

 コスメよりもラミアに注目してしまう自分。可憐でいたいけな容貌と、淡々と大人びた中身が特徴的とも言える彼女に淡い気持ちを抱いていると、次にもラミアはこちらと向かい合い、首を傾げながら上目遣いでそれを問い掛けてきた。

 

「どーされました?? ウチ、まだ試し塗りしてませんからナニも変わってませんよ??」

 

「え? あぁいや……」

 

「おや?? おやおや?? それとも、アレですか?? このラミアちゃんの可愛い可愛いおカオに見惚れちゃっておりました??」

 

 ラミアの自意識ばかりは、他人も認めざるを得ない。

 実際にそうであることはもちろんとして、やっぱり自分に自信を持つ人間というのは活き活きとしていて魅力的だ。それらの要因がラミアという少女に集束することで、一層ものキュートな存在感を醸し出していたことは否定のしようがない。

 

 得意げに笑むラミアが、いじらしくこちらを見遣ってくる。それもまた可愛い彼女に対して、自分ははぐらかすような面持ちで返答を行っていく。

 

「あ、まぁ、その……! そう、だね……。ラミアが可愛くてつい……」

 

「カンキさんはショージキ者ですねー。まー、しょーがないコトですよ。だってラミアちゃんは可愛いので」

 

「その通りだと思う。本当に」

 

「で、コチラのコスメ、ウチにお似合いだと思いません?? 男性からの視点としてナニかアドバイスをもらえますと、ウチとしては嬉しいコトこの上ナイのですが??」

 

「そうだね……。俺、あまりそういうものに詳しくないから、参考になるかは分からないけれど……。何て言うのかな、美味しそう、だよね」

 

「おいしそう??」

 

「ほら、薄橙がナッツで、ピンク色がイチゴ、ベージュがミルクで、焦げ茶色はビター」

 

「…………あの、もしかしてコチラをチョコレートかナニかと勘違いしてません??」

 

「パレットの感じとか、板チョコみたいで可愛いよね」

 

「……もー、イイです。カンキさんに聞いたのが間違いでした」

 

 ダメだ、女心への理解度が壊滅的すぎる。

 

 我ながら返答を間違ったことを自覚し、ただただ申し訳ない気持ちで「ごめん……」と謝っていく。その間にもラミアは不機嫌そうな顔をしながら踵を返し、コスメを持ったままレジカウンターへと向かい出す。

 

 だが、数歩と歩き出してからラミアは振り返ってきた。

 上半身を下げ、覗き込むような視線で可憐に見つめてきた彼女。そして次にも、いつもの淡々とした調子からそのセリフを放ってきたのだ。

 

「まー、イイんじゃないですか?? そーいう視点も面白いと思いますので。……ジューブン、参考になりましたよ?? あとはウデの見せ所です。アナタの感想通り、コチラのコスメを使用して、カンキさんがついついパクッとカジりたくなってしまうよーな、チョコレートみたいに甘くて可愛いオンナに変身してみせますから。期待しておいてくださいね??」

 

 ニッと微笑み、再び歩き出していったラミア。

 彼女が遠ざかる様子を、自分はその場に立ち尽くすよう眺め遣ってしまっていた。無論、ラミアに心を奪われた故の呆然を伴いながら……。

 

 ――――――――――

 

 

 

 ――――――――――

 

 1番の目的だったラミアのコスメを購入し、せっかくデパートに来たからという理由で化粧品売り場以外も見て回った自分ら。彼女の荷物を自分が持ち、もう片方の手をラミアと繋ぎながら一通り巡っていく。

 

 その最中にも、地下に広がっていた食品売り場で大量の食料品を買い込んだ。

 如何せん、住人が3人となった分だけ食材を買い足さなければならず、度重なる食費と増加した荷物の量に自分は悲鳴を上げていく。ラミアとメーからは食費込みの家賃を貰っていたものだが、やはり物理的に負担が増えると自分の体にも負荷が圧し掛かるというもので……。

 

 ……癖はあるけど美人に囲まれて、自分はとんだ幸せ者だ。

 ただ、両手に提げた買い物袋には男だろうと弱音を吐いてしまう。そんな泣き言を呟くこちらの脇では、荷物持ちを手伝わないラミアが「可愛いラミアちゃんに、カンキさんのかっこいいトコ見せてくださーい」と適当に言い放ちながら、無慈悲にも先を歩き出していく。

 

 ラミアを追い掛ける形で、自分は駅前の広場に出てきた。そこで彼女に追い付いて一緒に帰路を辿り出していくのだが……。

 

 ふと、ラミアは目についた屋台をじっと見つめていった。

 行列をつくるクレープ屋。主に家族連れや女子高校生に笑顔をもたらしていた甘美なスイーツに、ラミアは指を差しながらそれを伝えてくる。

 

「カンキさん!! クレープ!!」

 

「俺はクレープじゃないよ」

 

「クレープ食べたいです!! お店に寄っていきましょー!!」

 

「え、ええぇ……! 荷物が重いから早く帰りたいんだけど……」

 

「イイから行きますよ!! ホラ急いでください!!」

 

「うおぉ、重労働っ!」

 

 クレープ屋へと走り出したラミアを前に、自分は絞り出すような返答をしながら少女の背中を追い掛ける。

 

 そこから、10分ほど並んだだろうか。両腕に限界が来ていた中で無我の境地に達していた自分は、イチゴクレープを購入するラミアの様子を遠い意識で見守りながらも、ようやく自宅を目指し始めた彼女に安堵しながら歩き出していく。

 

 こりゃあ、明日は筋肉痛だな。

 肩から落ちてしまいそうな腕の感覚に、ヘトヘトな顔を浮かべた自分が内心でそれをボヤいていく。そうして心身ともに限界を迎えた体が悲鳴のような震えを起こし始めたその時にも、ふと視界の隅からは食べかけのクレープが差し出された。

 

「カンキさん、一口どーぞ」

 

「え、いいの?」

 

「イイですよ?? ナンでしたら、二口でもイイです」

 

「なんか、男の俺が女の子の食べ物に口をつけるのは憚られるな」

 

「ナニを気にしてるんですか。コチラは、ウチからの慰労です。せっかく、可愛い可愛いラミアちゃんがカンキさんを労わってあげているんですから、ウチからのご厚意をありがたく受け取るくらいの気概を見せて頂いてもイイんじゃないでしょーか??」

 

「ラミアが良いのなら、それじゃあ遠慮なく……」

 

 ラミアにそそのかされるまま、パクッと一口、クレープを口にした。

 

 クリームの甘さとイチゴのフルーティーな味わいが実に美味だ。しかし、それ以上に意識してしまうのが、ラミアと食べ物をシェアしてしまったという結果である。

 

 ラミアの唇と、間接的に触れてしまった。

 なんだか、イチゴとは異なる甘酸っぱさが口内に巡ってくる。そんな、青春の時には味わえなかった心地に疲れも忘れていく中で、彼女はクレープを差し出したまま再び進めてきた。

 

「二口め、イっときます??」

 

「それじゃあ、頂こうかな……。あむっ」

 

「ホントに遠慮しませんね。実はお腹空かせてました??」

 

「お腹も空いているけれど、今のはそういう気分じゃないというか」

 

「よく分かんないです。まー、どーでもイイですけど」

 

「ラミアはさ、俺とクレープをシェアすることは嫌じゃないの?」

 

「イヤかどーか、ですか?? さー、どーでしょーねー、ソコまで深く考えてませんでした」

 

 淡々と、適当な調子で言い切るラミア。彼女は視線を前方に向けながら涼しげに微笑むと、差し出していたクレープをそのまま自身の口へと運び、こちらが口を付けた部分を躊躇いなく丸かじりしてみせたものだった。

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