インフィニティダンガンロンパ6 ようこそぼくらのコロシアイ強化合宿 作:M.T.
ラウンジに駆けつけた俺達がそこで見たのは…
「う、ぅぐぅ…!がはっ…!」
『ガッハッハ!!粉砕!玉砕!大喝采!』
ボロボロになって倒れている内闘と、内闘の前で腕を組みながらドヤ顔をしているモノクマだった。
内闘が倒れている場所のソファーは吹き飛び、内闘は口から血を流していた。
「内闘!!」
俺は、思わず内闘に駆け寄った。
おいおい、何でこんな事になってるんだよ…!?
「んだようるっせぇなぁ…」
「な!ラウンジの方からじゃねえか?」
「静かにしてよ全く…」
「何事だ?」
「今し方、大きな音がしたのですが…何かあったのですか?」
俺が内闘に駆け寄ったちょうどその時、酒蔵、樺戸、消灯寺、神風、梶野の5人も部屋から出てくる。
5人は、ボロボロの内闘を見るなり血相を変えて駆け寄った。
「って、リキヤ!?オメー、何でこんな事に…!?」
「大怪我をされているではありませんか!すぐに手当てを…」
「うるっせぇ…触んじゃ…ねぇ……」
「喋らないで下さい、口から血が出ているではありませんか」
樺戸と梶野が駆け寄って応急手当てをしようとすると、内闘は二人を払い除けようとした。
神風は、内闘の近くでドヤ顔をしているモノクマを睨みつけて口を開く。
「おいモノクマ。こいつは何故こんな目に遭っている?説明しろ」
「テメェ…まさかテメェがリキヤを…!」
『ふん!ボクはただ、内闘クンがいきなりボクに殴りかかろうとしてきたから身の程をわからせてあげただけだよ!まぁったく、これだから戦闘民族は!ホンット野蛮で困っちゃうよ』
「クソッ…何で一度も攻撃が当たらねぇんだよ…!」
モノクマにボロボロにやられた内闘は、忌々しそうにモノクマを睨んでいた。
モノクマは、腹を掻きながら内闘を嘲笑っていた。
『うぷぷ。この攻撃で死ななかったのはオマエが初めてだよ、内闘クン。そのタフネスを称えて特別にこの辺で許してあげるけど、次やったらおしおきだからね?』
そう言ってモノクマは、どこかへと去っていった。
と、とりあえず応急処置しねえと…
クソッ、こんな時薬師寺がいてくれれば…!
「とりあえずまずは消毒と止血だ。それから誰か、拭くものと冷やすもの持ってこい」
「お、おじさん行ってくるよ」
「オレも!」
「あと薬が足りん。誰か売店で買ってこい」
「僕行ってくるよ」
「ボクも…」
神風は、持っていた救急箱で応急処置をしながら迅速に指示を出した。
酒蔵と樺戸は頼まれたものを取りに行き、消灯寺と的凪は売店に薬を買いに行った。
俺と梶野は、神風と一緒に内闘の応急処置をした。
一応応急処置のやり方習っといて良かった…
俺達の応急処置の甲斐あって、内闘はだいぶ回復した。
こいつ、あれだけやられといてここまで回復するとか、どんだけタフなんだよ…
「…ふぅ。とりあえず、これで傷口が塞がれば大丈夫なはずだ。後で療香にも診てもらおう」
「ああ」
主に神風と梶野の適切な応急処置のおかげで、大事に至る前に治せたが…
…それにしても神風、何で救急セットなんて持ってたんだ?
「…神風。お前、よく救急セットなんて持ってたな」
「仲間が窮地の時にいつでも救けられるよう備えるのは、リーダーとして当然の務めだ」
…当然の務め、か。
そう思えるあたり、神風は誰よりもリーダーとしての素質があるんだろうな。
これで一件落着…そう思った、その時だった。
「あれ?皆どうしたの?ひ、ひい!?内闘君、どうしたのさその怪我!?」
今更になって、暗野がラウンジに顔を出した。
あのさ、いくら何でも遅すぎるよ暗野…
「…悪い、暗野。もう全部終わっちまった」
「え、終わったって何が…?」
俺がため息をつきながら言うと、暗野はキョトンとした。
おいおい…こんな大惨事だったってのに、今までずっと何やってたんだよ。
あれだけデカい音もしたんだから気付けよ…
俺がそう思っていると、樺戸が暗野を問い詰める。
「キラ!オメー、リキヤがやばかったって時に何してたんだよ?」
「え、やばかったって…どういう事?ごめん、僕、何も知らなくて…」
何も知らない…?
…ああ、そっか。
そういえば暗野の部屋は、防音性に優れた豪華な客室だった。
そりゃあモノクマと内闘がバトルしてる音に気付かなくても無理ないわな。
「ま、まあ、気付かなかったのであれば仕方ありませんね。とりあえず、一度薬師寺様に診ていただきましょう」
「えっと…じゃ、じゃあ僕、担架持ってくるね…」
梶野が言うと、暗野は担架を持ってこようとする。
すると内闘が暗野の腕を掴んで止めた。
「…いい。自分で…歩けらぁ…」
「無理をするな。傷口が開く。今は痛み止めで痛みを抑えている状態なんだ。動き回れるわけがないだろう」
「うるっせぇ…こうなったのは、オレが勝手にバカやったせいだ…てめぇのケツは…てめぇで、拭かせろ…」
神風が内闘を止めようとすると、内闘は息が途切れ途切れになりながらも自分の足で中央棟に行こうとする。
すると神風が内闘の肩を貸した。
「だったら俺の肩を使え」
「…あ?」
「無茶をして俺達に迷惑をかけた自覚があるなら、これ以上一人で突っ走るな。お前一人の責任じゃないんだぞ」
そう言って神風は、内闘の右肩を担いだ。
お前一人の責任じゃない、か…
神風らしいと言えば神風らしいな。
「梶野、悪いが右肩を貸してやってくれ」
「畏まりました」
神風が声をかけると、梶野も内闘の肩を担いだ。
それにしても内闘の奴、何でいきなりモノクマに殴りかかったりなんかしたんだ?
心配だな…
◇◇◇
《チュウオウトウ ラウンジ》
神風と梶野は、内闘を中央棟のラウンジまで運んだ。
ラウンジには、既にチャットで神風から連絡を受けた薬師寺が医療器具を持ってスタンバイしていた。
薬師寺は、内闘の容態を確認するとふぅとため息をつきながら医療器具を箱にしまった。
「うん、今のところバイタルは安定してるわ。このまま様子見で大丈夫そう」
「そうか……」
「良かったぁ…!」
薬師寺が容態を伝えると、神風と樺戸が安堵の表情を浮かべる。
すると薬師寺は、内闘を真っ直ぐ見据えながら尋ねる。
「内闘君。どうしてモノクマに突っ込んでいくなんて無茶をしたのかしら?」
「………」
薬師寺が尋ねると、内闘は黙り込んだまま俯く。
するとリーゼが内闘の前に立ち、涙目でキッと内闘を睨みながら口を開いた。
「ご自分が何をなさったのか、わかっていらっしゃるのですか?あなたも一歩間違っていれば、殉前さんのようになってしまっていたのですよ!?」
「リーゼ…」
リーゼは、涙ながらに内闘に説教をした。
今回の事でどれほど怒っているのか伝わってくる。
「お願いですから、ご自分を大切にして下さい。大切なお友達がこんなにボロボロに傷つくところなんて…わたくし、もう見たくありません!」
「私も…内闘くん…には…傷ついて…ほしくない…内闘くんは…本当は…優しい人…だから…」
リーゼが説教をすると、山脇も率直な自分の気持ちを伝えた。
『優しい』と言われたのが意外だったのか、内闘は僅かに目を見開いていた。
すると薬師寺も、念押しするように内闘に説教をする。
「二人の言う通りよ。あなたの怪我はあなただけの責任じゃないのよ」
三人に説教をされた内闘は、ようやく反省したのか深く俯いた。
すると薬師寺は、ため息をついてソファーから立ち上がった。
「さて、説教はここまで。今日は絶対安静。わかった?」
「………おう」
薬師寺が言うと、内闘は俯きながら頷いた。
しばらくすると、皆がラウンジに内闘を残して各自探索の続きをしに行った。
その場に残ったのは、俺、暗野、山脇の三人だけだった。
…さて、本題に移るか。
こいつも、樺戸やリーゼの前じゃ話しにくいだろうからな。
俺は、内闘にどうしてこんな事をしたのか尋ねた。
「内闘。俺達は、何の理由もなくお前がモノクマに喧嘩を仕掛けたとは思っちゃいない。何か理由があったんだよな?」
「………」
「……もしかして…ここから…出たい理由と…関係ある…?」
山脇が尋ねると、内闘は俯いたまま話し始める。
俺達も、並んで反対側のソファーに座って話を聞いた。
「オレは…絶対に生きて帰らなきゃいけないんだ。帰って、会わなきゃいけねえ人がいるんだよ」
「会わなきゃいけない人?」
「…師匠だよ。オレの家は貧乏で、オレは昔そのせいでいじめられてたんだ。
「そっか…」
「でも師匠は病気になっちまって、もう永くねえんだ。だからオレは、ヒールになる事にしたんだ。悪名だろうが何だろうが轟かせて、大金稼いで、師匠を治してやりたかった。オレは、ここから生きて出て、師匠に会わなきゃいけねえんだよ…!」
俺は、内闘の話を聞いて納得した事があった。
内闘が悪役になったのは、恩人を助ける為だった。
根は優しくて良い奴だからこそ、自分を救ってくれた人に恩返しをする為に自ら嫌われ役を買って出ていたんだ。
「じゃあ、モノクマに喧嘩売ったのは…」
「ここから出る為だ。あのクマを全部潰して黒幕をぶっ潰せば、ここから出られるかもって思ったんだよ。…でもそれだけじゃねえ。オレ達をここに閉じ込めやがったクソを痛い目に遭わせようと思ったんだ」
「え?」
「オレは、殺されるのが怖くてここに来た奴等を信用できなかった。師匠に鍛えられて強くなった気でいたけど、根っこの部分は弱いままだった。こんな状況でもオレなんかに構ってくれる奴に会って、初めて気付いた。オレは、ここにいる誰よりも弱え」
ここにいる誰よりも弱い、か。
『強い』っていうのは、単純に馬力の強さだけじゃない。
神風や薬師寺のどんな状況でも動じない冷静さだって『強さ』だし、樺戸やリーゼみたいに初対面の相手でも臆せずに仲良くなれるのも『強さ』だ。
内闘は、ここで皆と出会って、それを痛いほど実感したんだろうな。
「…けど、オレだって負けたままじゃいられねえんだよ。オレはあのクマ共をぶっ潰して、オレァバカだから、それくらいしかあいつらに報いる方法が思いつかなくてよ」
なるほどな…
内闘は、皆に借りを返す為にモノクマを倒そうとしていたのか。
俺達も、皆も、そんなの全然気にしてなかったのに…
「内闘。話してくれてありがとな。お前の事、知れて良かった。お前が何も言わないままだったら、俺はお前を自己中で嫌な奴だと思い込むところだった」
俺は、思ってる事をそのまま内闘に伝えた。
すると内闘が顔を上げたので、俺は内闘に笑いかけながら言った。
「俺達は、お前が困ってる時に助けたいだけなんだよ。だからお前も、俺達が困ってたら助けてくれよ。借りを返したいっていうなら、それでいいんじゃないのか?」
「ぼ、僕もごめんね…内闘君の事、怖い人だって決めつけてた。弱いっていうなら…僕も同じだよ。僕も、皆みたいに強くなりたい。だからさ、強くなろうよ。一緒にさ」
俺に続けて、暗野も内闘に本心を打ち明けた。
すると山脇も、本を抱きかかえながら内闘に微笑みかけた。
「大丈夫…内闘くんは…優しい人だから…皆…わかってくれる…と思う…」
山脇が優しく微笑みながら言うと、内闘は何だか少しすっとしたような表情を浮かべた。
まるで憑き物が取れたみたいだ。
「……ありがとな。お前ら。…それと、今まで悪かったよ」
内闘は、深々と頭を下げながら言った。
別にそこまで気にする事なかったのに…
…でも、少し内闘と仲良くなれたみたいだ。
◇◇◇
《バイテン》
俺達は、ラウンジで内闘と話した後、三人で一緒に売店に向かった。
的凪と一緒に日用品を買い揃えていた時にモノクマメダルを拾ったので、二人へのプレゼントを買ってやった。
山脇には野鳥のブレスレットを、暗野にはクマのペンダントを買った。
「わああ…ありがとう、東野君!大切にするね!」
「ありがとう…東野くん…」
プレゼントを受け取った暗野は、とても喜んでいた。
山脇も、ほとんど表情が変わっていなかったが、喜んでいるのが伝わってくる。
その後、俺達は三人で横並びにベンチに座りながら話をした。
暗野は、売店で買った缶コーヒーを飲みながら尋ねてくる。
「あの…東野君と山脇さんは、小学校が同じだったんだよね…?その頃から仲が良かったの?」
「まあ、同じクラスだったのは一回だけだけどな。山脇が教室の端で絵を描いてるのを俺が見つけて、そんで話しかけたのがきっかけだったかな。メチャクチャ上手かったから、俺が話考えるから絵を描いてくれって話になって、そっから二人で絵本作るようになったんだよな」
「私…最初は、画家になるつもりだったんだ…でも、東野くんが、物語を考える楽しさを教えてくれたから…絵本作家になろうって決めたの」
山脇は、いつも持ち歩いている本を胸の前で抱えながら話した。
そういやその本、確か俺が昔誕生日プレゼントに買ってやったやつだよな?
まだ持ってたのか…
俺が山脇との思い出話をしていると、暗野は少し哀しそうに微笑んだ。
「…いいなぁ。二人には、絆があって。僕は…記憶がないから…」
「暗野…」
「僕は、何も思い出せないんだ。僕を大切に思ってくれている人の事も、僕にとって大切な人の事も。それで、時々悲しくなるんだ。皆にはそれぞれに大切なものがあるけど、僕は才能を取ったら何が残るんだろうって…」
暗野は、俯きながらポツポツと語った。
俺は、今の暗野を見て、かつての自分を重ねた。
暗野は、才能を見い出す前の、生きる意味さえ見い出せなかった頃の俺によく似ていた。
気がつくと俺は、暗野に向かって話していた。
「大切なものが思い出せないなら、これから作っていけばいいんじゃないのか?」
「え…?」
「暗野が何もなくて不安なら、ここから出る理由をこれから見つけていけばいいんだよ。大丈夫、俺達も手伝うからさ。俺達、もう友達だろ?」
気休めかもしれない。
それでも、かつての俺によく似ている暗野を放っておけなかった。
俺が暗野を励まそうとすると、暗野は微笑みながら顔を上げた。
「……ありがとう。東野君。僕は、君と出会えて本当に良かった」
東野は、弱々しく、それでもハッキリと言った。
どうやら、東野と山脇と仲良くなれたみたいだ。
俺がそう思っていると、山脇が話しかけてくる。
「東野くん…そろそろ…ご飯…」
「あっ、そうだった。じゃあ行こっか」
「うん…」
俺達は、慌てて話を切り上げて、三人で一緒に食堂に向かった。
◇◇◇
《ショクドウ》
俺達が食堂に行くと、薬師寺とリーゼが夕食を席に並べていた。
夕食は、ハンバーグとポテトサラダ、ミネストローネといったメニューだった。
俺達が席につくと、他のメンバーも食堂に集まってくる。
打田も食堂に顔を出しはしたものの、自分の分の食事だけ自分で用意していた。
「打田、お前さぁ…」
「何よ。来てやっただけありがたいと思ってよね」
うーん…
打田は手強そうだな…
しばらくすると全員が食堂に集まり、全員で夕食を食べた。
…うん、どれも美味いな。
薬師寺もリーゼも、料理できたんだな。
「美味しいね、六道さん」
「ぐぅぐぅ」
的凪は、隣の席の六道に話しかけていた。
そういや出会った当初から六道の事気にかけてたし、もしかして的凪って六道の事…
…いや、流石に考えすぎかな。
「あ…このスープおいしい…」
「あら、良かったわね内闘君」
暗野がポツリと呟くと、薬師寺がそれを聞いて内闘に話しかける。
するとそれを聞いたほぼ全員が内闘の方を一斉に見る。
どういう事だ…?
「は?どういう事?」
「今日の夕食作りは、内闘さんも手伝ってくださいましたの」
「…ババアが家の事何もしやがらねえからよ。家事はオレがやってたんだよ」
神無月が尋ねると、内闘はぶっきらぼうに答えた。
俺は、それを聞いて少し嬉しくなった。
内闘も、皆に歩み寄る気になってくれたんだな。
「内闘…お前…」
「勘違いすんなよ。オレなりに借りを返そうと思っただけだ」
俺が内闘を見ると、内闘は照れくさそうに言った。
やっぱり山脇の言う通り、根はいい奴なんだな。
俺達は、内闘の意外な特技に驚きつつ、談笑しながら食事を食べた。
食事が終わった後、リーゼが手を挙げて発案する。
「あの、わたくしから提案なのですが…これから女子の皆さんで一緒にお風呂に入りません?」
リーゼが目を輝かせながら提案すると、女子皆がキョトンとする。
皆の疑問を代表するように、薬師寺がリーゼに尋ねる。
「お風呂?どうしてまた…」
「ほら、こういう状況だからこそ、皆さんで親睦を深める事が大事だと思うのです。せっかくの広いお風呂ですし、大勢で一緒に入った方が楽しいと思いませんか?」
薬師寺が尋ねると、リーゼは少し気合が入った様子で言った。
すると他の女子達も納得する。
「確かに…一理あるかもね」
「魔界の覇者たる俺様が貴様らに真の姿を晒すだと…!?フハハハハ、いいだろう!せいぜい石化せぬよう用心する事だな!」
「………」
「ちはるはゆっくり寝れればなんでもいいよ…すやぁ」
「にゃはは!おっきいお風呂楽しみー!みるくちゃんも行こーよ!」
「は、はい…」
「ありがとうございます。実は言い出しっぺはわたくしではないんですけどね…」
薬師寺、安室、山脇、六道、神無月、氷川の6人はリーゼと一緒に風呂に入る事にしたみたいだ。
だがそんな中、打田だけは賛同しなかった。
「あたしはパス。くっだらない」
そう言って打田は、食堂を後にしてしまった。
あいつも頑固だなぁ…
俺がそんな事を思っていると、酒蔵がニヤニヤと悪い笑みを浮かべていた。
…何か企んでないだろうな。
その後、打田以外の女子は皆で大浴場に向かった。
俺も席を立とうとしたその時、誰かがクイっと俺を服を引いた。
振り向いてみると、後ろには酒蔵が立っていた。
「東野クン。これから一緒に風呂に入りに行かねえかい?」
酒蔵は、鼻血を垂らしながら気持ち悪い笑みを浮かべていた。
…あー、こいつが何を考えてるか大体わかっちまったかも。
もう、わかっちまった自分が憎い。
「悪いけど俺は…「そうかそうかわかってくれるか東野クン!嬉しいよ!それじゃあ一緒に野郎同士で裸の付き合いをしようじゃねえか!」
ええ…
俺、行くって言ってねえんだけど…
俺は、結局酒蔵に無理矢理引っ張られて一緒に風呂に入る事になった。
◇◇◇
《ダンシトウ ダイヨクジョウ》
「ふっふっふ…待っていたよ東野クン」
「あ…東野君…」
「おー、ジュン!来たか!」
「………あれ?」
ちょっと待て。
酒蔵はわかる。
何で暗野と樺戸までいるんだ?
「…ひょっとして、お前らも酒蔵に誘われたのか?」
「うん…すごい勢いで誘われて、断れなくて…」
「オレはフツーに楽しそうだからついてきた!」
「他の男子も誘ったんだがな…どいつもこいつも付き合いが悪くて困っちゃうね。的凪クンに至ってはおじさんと目が合う前に逃げちゃったよ。『用事があるから』ってどっか行っちゃってさ」
いや、そりゃああんな気色悪い笑みで誘われたら誰だって断るだろ…
というか的凪は逃げたのか。
俺もそうすれば良かった…
俺は、服を脱いで浴室の扉を開けようとした。
…んだが。
すっごい酒蔵が見てくる。
「くっくっく、東野クンは女子みたいでカァイイねぇ」
うるせえ言うな。
割と気にしてんだぞ。
酒蔵は、暗野と樺戸の事もジロジロと品定めするように凝視していた。
酒蔵お前…そんなことばっかりやってたら、女子だけじゃなくて男子にもそのうち嫌われるぞ。
「女顔に引き締まったボディのギャップが魅力の暗野クンに、将来性の塊の樺戸クン…今年の入学生は粒揃いだねェ」
「うぅ…見ないでよぉ…」
「そっか!?っしし、カバディで鍛えてっからな!!」
おい、やめてやれ。
暗野が嫌がってるだろ。
樺戸はあんまり気にしてないみたいだけど。
「よーし、入るぞー!」
樺戸が上機嫌で浴室に突っ走ったので、俺達も釣られるように浴室に入った。
《ダンシトウ ヨクシツ》
「……ふぅ」
……気持ちいい。
身体だけじゃなくて、心が洗われるようだ。
酒蔵に無理矢理連れて来られたけど、来てよかったな。
「気持ちいいねぇ…東野君…」
「広っれぇーーーー!!泳ぐぞーーーー!!」
暗野も、見るからに満足げだ。
樺戸、浴槽で泳ぐのはやめろ。
こっちにも飛沫が来る。
一方で、言い出しっぺの酒蔵はというと、仕切りの前に仁王立ちしていた。
「ふっふっふ…やっぱりおじさんの読み通りだ。この仕切りの向こうには、桃源郷が広がっている…!」
「一人で何言ってるの酒蔵君…」
酒蔵が何かをブツブツ言っていると、暗野がツッコミを入れる。
すると酒蔵は、鼻血を垂らしながらクルッと振り向いてビシッと指を差した。
「いいかい、チェリー共。この板一枚超えた先には、パラダイスが待ってるんだぜ?想像した事あるか?あの子やあの子の胸や腰つき…その曲線美を!」
「はわわ…」
「………!」
酒蔵がドヤ顔で言うと、暗野は顔を真っ赤にして狼狽え、樺戸も顔を赤くして生唾を飲んだ。
なるほど、あの仕切りの向こうが女子風呂になってるのか。
確かに健全な男子高校生なら、誰もが少しは興味が湧くものだろう。
だがやっていい事とやっちゃいけない事とあるだろ。
人として。
「やめろ酒蔵。それはもうダメだぞお前」
「黙らっしゃい!俺は征くぜ!!壁とは越える為にある!!プルスウルトラァ!!」
「某少年誌の名言を汚すな」
俺の注意も虚しく、酒蔵はすごい速さで仕切りを登り始めた。
何つー速さだオイ。
「ぐへへへ、楽しみだなぁ…薬師寺ちゃんのダイナマイトボディ!リーゼちゃんのエレガントボディ!氷川ちゃんのムキムキボディ!神無月ちゃんのロリ!山脇ちゃんのぽっちゃりボディ!六道ちゃんの意外おっぱぁあああああああ」
ザクッ
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
突然、仕切りから細い鎖が飛んできて、酒蔵の目に突き刺さった。
酒蔵は仕切りから綺麗に吹き飛び、そのまま勢いよく浴槽にダイブした。
…あーあ、俺、知ーらね。
◆◆◆
side AM
俺様達は、リーゼロッテの提案で穢れを清めし泉へと訪れ、各々の真の姿を晒していた。
…のだが。
「日本のお風呂は気持ちいいですね、安室さん!」
「悪くないわね」
「うん……」
「ぐぅぐぅ」
貴様ら…何だその身体は…!?
どいつもこいつも、歳に見合わぬ豊満な双丘をぶら下げおってからに…!
くっ、悔しくなどないからな別に!
「にゃはは!みるくちゃんは臭くて汚いメスオーガだから、椛が洗いっこしてあげるー!」
「臭くて汚いメスオーガでごめんなさぁぁぁぁい!」
神無月と氷川は…仲が良いのか?あれは。
…むっ、何やらあの壁から邪気を感じるな。
まさか…
ええい、俺様の聖なる鎖の餌食となるが良い!!
変態には死を、地獄の業火に焼かれろォ!!
『ぐへへへ、楽しみだなぁ…薬師寺ちゃんのダイナマイトボディ!リーゼちゃんのエレガントボディ!氷川ちゃんのムキムキボディ!神無月ちゃんのロリ!山脇ちゃんのぽっちゃりボディ!六道ちゃんの意外おっぱぁあああああああ』
ザクッ
『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!』
俺様は、仕切りを登って深淵を覗こうとしていた不届者に我が鎖で鉄槌を下してやった。
覚えておくが良い、不埒者よ。
深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ。
「うわ、変態ヒロキの声じゃん!あいつ隣にいたの!?」
「というか、隣は男子風呂だったんですね…」
「安室さん…その鎖、お風呂の時もつけてるの?」
ふん、俺様を誰と心得る。
俺様は魔界騎士団の団長だぞ、俺様の寝首をかかんと画策する命知らずを返り討ちにできるよう備えておくのは当然の事だろう。
…というかさっき、俺様だけ何も言われてなかったのはどういう事だ。
◆◆◆
side HG
《チュウオウトウ ラウンジ》
ふぅ…
気持ち良かった。
酒蔵が馬鹿をやらかして制裁されたが、俺の知ったこっちゃない。
俺がラウンジに顔を出すと、打田がラウンジで銃を分解して手入れをしていた。
「打田、お前もしかしてずっとそこにいたのか?」
「話しかけるな。集中できない」
「あ、ごめん…」
相変わらず棘があるなぁ…
しゃーねえ、本でも読んで暇潰すか。
俺は、しばらくの間ラウンジにあった本を読んで時間を潰した。
するとその時だった。
「うわぁあああああああああん!!!」
「「!?」」
突然、神無月が大泣きしながらラウンジに駆け込んできた。
何があったんだ一体…?
すると、他の女子達も一斉にラウンジに駆け込んでくる。
その声を聞きつけて、中央棟にいた他の奴等もラウンジに来た。
「み、皆さん、大変ですわ!これを…!」
リーゼは、顔を真っ青にして一枚の紙切れを見せてきた。
そこには、『要警戒 ジェノサイダー翔が今夜お前の命を奪いに来る』と書かれていた。
何だこれは…!?
「これは…!?」
「えっと…お風呂から戻ってきたら、わたくしの部屋の前に置いてあって…」
「えっと…犯行予告、だよね…?」
「ひぃいいいいい!!?」
的凪が恐る恐る言うと、暗野が悲鳴を上げる。
すると六道が眠そうに言った。
「でも変だな…ジェノサイダー翔はこんな犯行予告なんて書かないはず…」
「今そこは重要じゃないわよ。問題は、この中の誰かが、殺意を持ってこの犯行予告の紙を置いていった可能性があるって事よ。一応聞くけど、他に犯行予告の紙を貰った人は?」
「ひっぐ…ぐすっ……」
「………」
薬師寺が尋ねると、神無月が泣きながら手を挙げ、山脇も無表情で手を挙げた。
すると神風がため息をつきながら状況を整理した。
「…なるほどな。犯行予告を渡されたのはその3人だけか」
「チッ…!ジェノサイダーだかインサイダーだか知らねえが、見つけ出してオレがボッコボコにしてやる…!」
「やめろ。むしろ状況を悪化させるだけだ。…とりあえず、リーゼロッテ、神無月、山脇。お前ら3人は、今晩は部屋の鍵をかけて、何があっても決して部屋から出るな。それから他の女子は、外で3人の番をしてやれ」
「あたしらがこいつらの為に寝ずの番をしろと?嫌なんだけど」
「いいからやれ。人の命がかかってるかもしれないんだぞ」
神風は、怒りに打ち震える内闘を宥めてから指示を出した。
打田は嫌がっていたが、神風が睨みつけて言う事を聞かせた。
結局、山脇の部屋の番を薬師寺と六道が、神無月の部屋の番を氷川と打田が、リーゼの部屋の番を安室がする事になった。
そして俺達男子も、一応夜時間中の不要不急の外出を控え警戒態勢を万全にして寝るよう言われ、今日はそのまま解散となった。
《マトナギ ト ヒガシノ ノ キャクシツ》
くそっ、何なんだよ…
やっと皆が一つになってきたところだったってのに…
誰がこんな事を…
「東野くん」
俺が考え事をしていると、的凪が声をかけてきた。
的凪は、不安そうに水筒を抱えながらちゃぶ台の前に正座していた。
「あの…心配だよね」
「……ああ」
「誰かのイタズラとかだったらいいのにね…」
誰かのイタズラ、か…
…そうだな。
これは誰かのイタズラで、事件なんて起こりやしない。
そうに決まってる。
「あ、あのさ…お茶、いらない?」
「え?」
「えっと…さっき、氷川さんに淹れ方教えてもらったんだ。東野くんの気分が落ち着くようにって…」
「的凪…」
「ボク、こんな事しかできないけど、それでも東野くんの役に立ちたいんだ」
的凪…
お前はホント良い奴だよ。
こんな状況でも、俺の事を気遣ってくれるなんてよ。
「ありがとな、的凪。じゃあ、もらおっかな」
俺は、的凪から水筒のお茶を受け取って飲んだ。
…うん、良い香りだ。
気分が落ち着いてくる。
………あれ?
何だか、頭が重く………視界もぐらついて……………
………のくん!東野君!!」
…はっ!?
…あれっ?
気がつくと俺は、ちゃぶ台に突っ伏していた。
俺、いつの間にか寝ちまった…?
確か、的凪と話してて、その最中に…
…クソ、人の話の途中に寝るなんて、どんだけ疲れてたんだよ俺…
「東野くん!!大変だよ、今すぐラウンジに来て!!」
的凪は、冷静さを失った様子で俺の肩を必死に揺すってくる。
俺がぼんやりと時計を見つめると、時刻は夜の0時前だった。
何なんだよこんな時間に…
俺は、寝ぼけてうまく動かない身体を動かして、的凪と一緒にラウンジに向かった。
ラウンジには、既に他の皆が集まっていた。
俺と的凪がラウンジに駆けつけると、神風が俺を睨みつけてくる。
「遅いぞ東野。貴様、今まで何をしていた」
「わ、悪い…なあ、それより、何があったんだ?」
俺は、恐る恐る神風に尋ねる。
すると神風は悔しそうに制帽で目元を隠し、梶野も珍しく真顔で言った。
「……東野様。ご覧になるのなら、ご覚悟を」
「クソッ…何で、何で…!!」
「ウソだろ…!?こんなのウソだぁ!!」
「……酷い」
「うっ、うぅっ……」
酒蔵は悔しがっていて、樺戸は大泣きしていて、消灯寺は前髪で目が隠れていてもわかるほど嫌悪感を剥き出しにしていて、暗野はその場に蹲って泣いていた。
俺は、何となく嫌な予感がした。
でもそんなわけはないと自分の中で言い聞かせながら、ラウンジを覗く。
「ッーーーーーーーーーーーーー!!!!」
………嘘だ。
こんなの嘘だ。
そんなわけない。
おい、何やってんだよ…
早く起きろよ…
お前、生きて帰るって言ってただろ…?
会わなきゃいけない人がいるんだろ…!?
なんで、なんで……!!
頭ではわかっていた。
でも、わかりたくなかった。
そいつは、絶望に染まった表情を浮かべ、床に倒れていた。
…いや、
まるで虫でも標本にするみたいに、手足を鋭い鋏で刺されて。
頭上に『チミドロフィーバー』の血文字を遺して。
胸元は、赤く染まっていた。
そこにあったもの、それは……
【超高校級のプロレスラー】内闘力也の遺体だった。
◆◆◆
side YK
私は、今晩現れるというジェノサイダー翔を警戒して、山脇さんの部屋の前で寝ずの番をしていた。
私のすぐ近くでは、六道さんが扉にもたれかかって寝ていた。
神無月さんの部屋の番をしている打田さんも、扉の前で座り込んで仮眠を取っていた。
…なるほど、物理的に身体で扉を閉めてしまえば、寝ていても殺人鬼の侵入を防ぐ事ができるって寸法ね。
一応3人には30分おきにチャットで生存報告をするよう言ってあるし、対策は万全なはず…
時刻は23時30分。
そろそろチャットが来る筈なのだけれど…
あ、今神無月さんとリーゼロッテさんからチャットが来たわね。
『うっせー起きてんだよハゲ!!』
…神無月さんは相変わらず口が悪いわね。
神無月さんの部屋は何かガタガタうるさいし、大丈夫そうね。
……問題は山脇さんの方ね。
音が全く漏れない豪華な客室だし、彼女自身声が大きくないから異変があっても私達が気付いてあげられない。
だからチャットで生存報告をするという方法を取る事にしたのだけれど…
◇◇◇
…流石に遅いわね。
今は23時45分。
もう最終報告から45分経ってるわよ。
流石に報告の遅さに違和感を覚えていると、六道さんがリュックを漁って二本の針金を取り出し、部屋の鍵穴に差し込んでカチャカチャといじっていた。
「…あなた、何してるのよ」
「ピッキング」
「それって犯ざ…「今はやまわきが心配。違う?」
…仕方ないわね。
山脇さんには後で怒られましょう。
今は彼女の安否の方が大事、よね。
「ふふふふ、ロイヤルグレーの脳細胞を持つちはる様の前ではこんなガラパゴスな錠前など雑魚中の雑魚キャラですぞ」
六道さんは、ほんの少し調子に乗りながらピッキングをしていた。
…本当に普段はやってないでしょうね。
「よし、あいた」
六道さんが鍵を開けてくれたので、私は勢いよく部屋のドアを開けた。
その瞬間、部屋の光景が目に飛び込んでくる。
「ッーーーーーーーーーー!!!!」
……嘘よ。
そんな、嘘…!
こんな事にならないよう、万全の態勢で過ごしていたはず。
誰も入る事なんてできなかった。
なのに、何でこんな事になってるのよ…!
部屋の中心にあったのは、粉々に砕けたシャンデリア。
その下からは、じわじわと血が滲み出ていた。
シャンデリアの下からは、小さな手が覗いていた。
誰の手かは、顔を見なくてもわかる。
…私にはわかる。
この出血量、この手の血色…彼女はもう既に、この世の人ではない。
どうしてあなたが…!
【超高校級の絵本作家】山脇ゆかは、シャンデリアの下敷きになって息絶えていた。
ーーー 生存メンバー ーーー
【超高校級の小説家】
【超高校級の???】
【超高校級の司令官】
【超高校級の軍医】
【超高校級のオルガニスト】リーゼロッテ・ベルゲングリューン
【超高校級の原型師】
【超高校級の心霊学者】
【超高校級のディーラー】
【超高校級のカルタ師】
【超高校級のグラシエール】
【超高校級のソムリエ】
【超高校級のカバディ選手】
【超高校級の狙撃手】
【超高校級の幸運】
【超高校級のゲームプログラマー】
ノコリ15人
ーーー 死亡メンバー ーーー
【超高校級のギャル】
【超高校級のプロレスラー】
【超高校級の絵本作家】
以上3人
はーい、人気キャラを初っ端から殺す性格の悪さで定評のある作者でございます。
本来論破作品であれば2〜3章かけてやる展開を、1章に、しかもたった一日に詰め込みました。
最速で駆け抜けろ!
推しがいたら教えてくんなまし
-
東野潤_小説家
-
暗野斬良_???
-
殉前詩乃子_ギャル
-
神風大和_司令官
-
薬師寺療香_軍医
-
リーゼロッテ_オルガニスト
-
安室明日奈_原型師
-
消灯寺霊庵_心霊学者
-
山脇ゆか_絵本作家
-
梶野運命_ディーラー
-
神無月椛_カルタ師
-
氷川みるく_グラシエール
-
酒蔵飛露喜_ソムリエ
-
樺戸ラムジ_カバディ選手
-
内闘力也_プロレスラー
-
打田清美_狙撃手
-
的凪梢_幸運
-
六道千春_ゲームプログラマー
-
モノルナ_引率教師