インフィニティダンガンロンパ6 ようこそぼくらのコロシアイ強化合宿   作:M.T.

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非日常編④(おしおき編)

side YM

 

私は、薬師寺さんに今日はこの部屋の中で過ごすように言われて、今は部屋の机で絵日記を描いている。

今日はジェノサイダー翔が現れるかもしれないから、徹夜で見張りか…

私の為に丸一日寝ずの番なんて…皆には何だか申し訳ないな。

今の時間は…11時26分か。

そろそろチャットを確認しておかなきゃ。

 

大丈夫、事件なんて…起こるわけないよね。

今日何も無かったら、騒がせちゃった事を明日皆に謝らなきゃ。

私は、チャットを確認しようと電子生徒手帳を手に取った。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

side N

 

オレは、ある目的の為に暗野をラウンジに呼び出した。

そりゃあ、あんな話されちゃあよ……

…オレだって、あいつのあんな話、信じたくねえよ。

けど、ここまで来たらもう後戻りはできねえんだよ…!

 

「あの…内闘君。ごめんね。待った?」

 

「……いや、待っちゃいねェよ」

 

「えっと、それで…話って何?」

 

「ああ、それなんだがよ………」

 

……悪い、暗野。

師匠が外で待ってんだ。

オレは…すぐにここから出なきゃいけねぇんだよ!!

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

side AN

 

僕は、夜中に突然内闘君に呼び出された。

今日はジェノサイダー翔が出るかもしれないから外に出るなって神風君に言われてたはずだけど…

内闘君がどうしても困ってるっていうなら、僕なんかでも力になりたい。

 

「あの…内闘君。ごめんね。待った?」

 

「……いや、待っちゃいねェよ」

 

「えっと、それで…話って何?」

 

「ああ、それなんだがよ………」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

VOTE

 

暗野斬良 12票

 

的凪梢 2票

 

氷川みるく 1票

 

 

 

『うぷぷぷぷ、お見事大正解ー!!【超高校級の絵本作家】山脇ゆかサンは事故死、そして【超高校級のプロレスラー】内闘力也クンを殺したのは【超高校級のヒットマン】暗野斬良クンでした!』

 

『キャハハハ、まあゆかチャンの死因と梢クンの殺人未遂に関しては別に当てなくても良かったんだけどね!初めての裁判で二人も死んだのにどっちも当てちゃうなんて、アンタ達やるぅ〜!』

 

「うっ、うぅっ…うぁああぁあああああぁあああああああ…!!」

 

モノクマとモノルナが俺達を嘲笑うかのように答え合わせをする中、暗野は証言台の前で膝をついて泣き崩れていた。

俺は……

暗野に投票した。

自分が死にたくなかったから。

皆を死なせたくなかったから。

…だから、暗野を見殺しにした。

 

……最低じゃないか、俺って。

 

『うぷぷ、ひどいよね!みーんな暗野クンに投票するんだもん!友情なんて無かったんだね!…ああ、でも、的凪クンに投票した樺戸クンと自分に投票した氷川サンはどういうつもりなの?』

 

「だって…だって…!ゆかもリキヤも、コズエが殺したようなもんだろうが…!」

 

「てめぇ、何自分に投票してんだよ!!自分が何したか分かってんのかよ!?それで椛達がおしおきになっちゃったらどうしてくれるつもりだったわけ!?聞いてんのかオイ!!」

 

「うぅっ…ひぐっ、ぇぐっ…ごっ、ごめっ…ごめんなざい…わたし……ごめんなざい……!」

 

モノクマが嘲笑いながら投票結果を蒸し返す中、樺戸が的凪を睨みながら悔しそうに言い、神無月が氷川を指差しながら罵倒していた。

神無月に責められている氷川は、しきりに涙を拭い嗚咽を漏らしながら何度も謝罪の言葉を口にしていた。

神無月は、氷川を涙目で睨みながら感情のままに罵声を浴びせた。

 

「捜査中に気ぃ失うわ、怖気付いて自分に投票するわ、てめぇの思考停止に人巻き込んでんじゃねーよバーーーカ!!そんなに死にたきゃ一人で勝手に死んでろ!!」

 

「やめろ神無月。もう終わった事だ」

 

「っ…!!うぅっ……」

 

いつまでも罵倒をやめない神無月を、神風が静かに威圧して黙らせた。

神風に叱られた神無月は、唇を噛み締めながら大人しく黙り込んだ。

肩を震わせながら目に涙を溜めている神無月は、泣くのを堪えているように見えた。

 

俺は、この時初めて神無月の気持ちがわかった気がした。

神無月は、怒鳴りたくて怒鳴っていたわけじゃない。

爆発しそうになった感情をぶつけなきゃ、正気じゃいられなかったんだ。

きっとあいつは、犯人決めの投票で誰よりも苦しんだんだ。

どうしたって誰かを見殺しにしなきゃいけなくて、その罪を背負う覚悟で暗野に投票した。

あいつは、人を殺す覚悟を決めてまで明日を生きようとした。

だからこそ、自分に投票して業から逃れようとした氷川を卑怯だと感じたのだろう。

打田も、神無月と同じ事を思っていたのか、暗野に投票しなかった二人を殺気立った目で睨んでいた。

 

俺は…神無月に『氷川が泣いてるからやめろ』とは言えなかった。

俺はどこまでも最低だ。

神無月が声を荒げた時、ほんの少しだけ、胸が軽くなった自分が確かにいたんだ。

 

氷川を責めていた神無月が黙った事で、裁判場が静寂に包まれた。

そんな中、梶野と薬師寺が口を開く。

 

「あの、お言葉ですが暗野様は本当に的凪様に唆されて内闘様を殺害してしまったのでしょうか?上手く言い表せないのですが、私にはどうしても何か別の事情があったように思えてならないのですが」

 

「それに今、【超高校級のヒットマン】って言ったわよね。どういう事なの?」

 

『キャハハ!一個ずつ順番に説明してくから、ちょっと待っててね!まず潤クン。キミの推理だけど、甘めに採点して85点ってところかにゃ?』

 

「え……?」

 

『あのねぇ、そもそも斬良クンは梢クンに唆されてなんかいないし、二人は共犯関係でも何でもなかったのよ!』

 

どういう事だ…?

あの事件は、的凪と暗野が共犯じゃなきゃ成立しないはず…

だったらどうして……

 

『うぷぷぷ…確かにあの事件は的凪クンが誰かを唆したせいで起きた事件だけど、何も唆されたのは暗野クンじゃなかったんだよ』

 

「まさか…!」

 

『そうです!的凪クンが唆したのは、内闘クンの方だったのです!内闘クンが、暗野クンを殺そうとしたんだよ!』

 

「……!!」

 

嫌な予感が的中してしまった。

あの事件の口火を切ったのは、暗野じゃない。

内闘の方だったんだ。

そう考えれば、全ての辻褄が合う。

 

まず、花瓶を盗んだのは暗野じゃなくて的凪だった。

的凪は、内闘を唆して23時半にラウンジで暗野を殺すように誘導し、事件を撹乱する為に食堂から花瓶を盗んでラウンジの花瓶とすり替えておいたんだ。

23時半、暗野は内闘に呼び出されてラウンジに行き、そこで内闘に襲われた。

その時に暗野が抵抗したせいでテーブルの上の花瓶が割れ、暗野は咄嗟に割れた花瓶の破片を手に取って内闘を刺した。

我に返り、自分のしでかした事の重大さに気付いてしまった暗野は、錯乱してその場から逃げ出した。

そのタイミングを見計らって、近くで隠れていた的凪が死体に細工をし、ついでに割れた花瓶を回収して代わりに元々ラウンジにあった花瓶を元の場所に戻し、その時出てきたゴミはまとめてゴミ箱に捨てた。

その時、慌てて男子棟から逃げてしまった暗野が部屋に帰ろうとしたが、的凪がラウンジに居座って死体の偽装工作をし、さらに樺戸まで出てきてしまったせいで自分の部屋に帰る事ができなくなってしまった。

今思えば、暗野の不自然な言動は、死体から目を離した隙に的凪にわけのわからない事をされて気が動転していたからだった。

これが事件の真相だったんだ。

今思えば、神風がラウンジで寝ると言い出した時に的凪がジャンケンにしようと提案したのは、俺達をラウンジに寝させない為だった。

あいつは、あの時には既にラウンジで内闘に暗野を殺させるつもりでいたんだ。

 

『いやー、しっかしあんな罠に嵌まるなんて、内闘クンも間抜けだよね!』

 

「は……?」

 

『仲間を信じるって言ってたくせに、的凪クンが暗野クンの才能をバラしただけで、簡単に暗野クンが裏切り者だって信じ込んじゃったんだもん!』

 

「暗野の才能…?」

 

「はっはは、まさか自分から墓穴を掘るとはね。滑稽だなぁ。そうでしょ?【超高校級のヒットマン】『リカオン』さん」

 

「っ…!!君、どこでそれを…!?」

 

「ファイナルデッドルームの特典だよ。何か面白そうな資料があったからさ、読んでみたら76期生の才能が事細かに書いてあったんだよね。気になって、つい拝借しちゃった」

 

どういう事だ…?

暗野がリカオン…?

そんなわけない。

暗野は、死体を見ただけで泣いちまうような奴なんだぞ?

そんな奴が殺し屋なわけ……

 

『キャハハ!斬良クンは、生まれながらに人殺しの才能を持っていたのです!だからその才能を悪い大人達に買われて、言われるがままに人を殺してたんだよ!でも困った事に、斬良クンの才能は人を殺す事にしか活かせなかったんだよね!』

 

『暗野クンは、重度の記憶障害を持っていたのです!彼の殺し屋としての才能は土壇場でしか発動しなくて、しかも発動した時の記憶がスッポリ抜け落ちてしまうという厄介なものだったのです。そりゃあ自分の才能を覚えてなくて当然だよね!だって、自分のやらかした事全部忘れちゃってるんだもん!』

 

「やっぱり…リカオンもジェノサイダー翔も、精神障害を持ってるんじゃないかって思ってたけど…その通りだったんだな」

 

「千春ちゃん知ってた?リカオンにはこういう話があるんだよ。リカオンは、ドジで小心者で何をやらせてもてんでダメ。そんな調子だから、今まできちんと任務を遂行した試しが無い。それどころか、毎回ターゲットを怒らせて逆に自分が殺されそうになるんだ。でも、ターゲットに殺されそうになった途端に本来の才能を発揮して、相手の心臓を一撃で貫いて殺す。追い詰められた時に敵を殺す生存本能こそ、暗野クンの才能だったんだよ」

 

的凪は、ヘラヘラ笑いながら暗野の才能をバラした。

的凪は、内闘を排除したがっていたからこそ、内闘を唆した。

暗野に確実に内闘を殺してもらう為に。

暗野が毎回必ず被害者の心臓を貫いて殺すのは、別に殺し屋としての美学でも何でもなくて、ただの条件反射だったんだ。

 

『ちなみにどうして内闘クンがまんまと的凪クンに騙されたのかは、こちらのVTRをご覧下さい!』

 

そう言ってモノクマは、映像を再生し始めた。

モニターには、男子トイレで話し合う二人の姿が映っていた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

17時半、夕食の時間まであと数十分になった頃。

的凪は、若干オドオドした口調で内闘に話しかける。

 

「あの…内闘くん。キミにどうしても話しておかなくちゃいけない事があって…ボク、知っちゃったんだ。暗野くんの正体」

 

「ああ?あいつの正体?」

 

「これ見て」

 

いまいち的凪の話についていけていない様子の内闘に、的凪は手元のファイルを見せた。

ファイルには、リカオンについて書かれた書類が挟んであった。

おそらく、的凪がファイナルデッドルームから拝借したものだ。

 

「何だよこりゃあ…あいつが…殺し屋…?てめぇ、この資料どこで…!?」

 

「えっと…ファイナルデッドルームをクリアしたんだ。あの後、好奇心に逆らえなくて、つい入っちゃったんだけど…そしたらたまたまクリアしちゃって…中を見てみたら、そのファイルが置いてあって…」

 

的凪が言うと、内闘は手元のファイルを読み込む。

普通なら、特に何の才能もない的凪がたまたまファイナルデッドルームをクリアしたなんて話、信じられるわけがなかった。

だが、『何の害も無い的凪に自分を騙す度胸があるわけがない』、内闘もそう思っていたんだろう。

的凪の話に疑問を抱きつつも、疑う事はなかった。

すると的凪は、言いにくそうに本題を持ち出す。

 

「あの…本題はここからなんだけど…暗野くんが、何か良くない事を企んでるみたいなんだ」

 

「ああ?」

 

的凪が言うと、内闘は的凪を睨みつける。

的凪は、ビクッと肩を跳ね上がらせて怖がる演技をした。

この的凪は、どう見ても自分より強い相手に怯えている小心者だ。

内闘にの眼にも、きっと最期までそう映っていたんだろうな。

 

「も、もちろん何の根拠もなく言ってるわけじゃないよ!ボク、暗野くんが『次は誰を殺す』とか物騒な事を言ってるのを聴いちゃって…」

 

「てめぇ、何でそんなにあいつに詳しいんだよ」

 

「…ボク、実は暗野くんが怪しいんじゃないかって思って、ずっと暗野くんを観察してたんだよ。だって、変だと思わない?一人だけ自分の才能を言わなかったり、あれだけ大きい音がしてたのにすぐにラウンジに来なかったりさ…」

 

的凪は、オドオドした様子で自身の考察を内闘に話した。

無論、暗野を悪者に見せる為の嘘だ。

だが、自分からは何も話さない暗野と、凡人の域を超えない的凪、どちらの方が本当の事を言っている可能性が高いかは考えるまでもなかった。

内闘は、的凪の話を聞く気になったのか、ため息をつきながら腕を組んだ。

 

「で?さっきから何が言いてえんだてめぇ」

 

「ボク、暗野くんが何を考えてるのか、ちゃんと知りたいんだ。でも凡人のボクにできる事なんてたかが知れてる。これは【超高校級のプロレスラー】のキミにしか頼めない事なんだけど…暗野くんの隙をついて捕獲してほしいんだ」

 

「てめぇ…何でそんな事オレに話したんだ」

 

「えっと…多分、ボクが直接聞いたところで暗野くんは何も教えてくれないと思うんだ。ここから皆で出る為には、どうしても情報が欲しいんだ。その為には、手段を選んでる場合じゃない…とボクは思う。も、もちろん、ボクの思い過ごしだったら後で暗野くんには謝るよ」

 

「………」

 

「それで、どうかな?協力…してくれる?」

 

「…チッ、わぁったよ。やりゃあいいんだろ」

 

「あ、ありがとう…あの、この事は誰にも言わないでね?」

 

的凪は、あくまで暗野を捕まえて知っている事を洗いざらい吐いて欲しいだけだと内闘に伝えた。

それを聴いた内闘は、『外から出る為には手段を選んでる場合じゃない』という言葉に共感したのか、的凪の暗野捕獲作戦に協力する事にしたようだ。

その後は、具体的な作戦の内容を二人で話し合い、二人で作戦を決行したーーーーー。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『と、いうわけだったのです!』

 

VTRが終わり、モノクマが満足げに笑った。

でも、おかしい。

今の話だと、内闘には暗野を殺す理由がないはずだ。

俺がそう思っていると、神風がモノクマに話しかける。

 

「待て。貴様はさっき、内闘が暗野を殺そうとしたと言ったな?今の話だと、内闘が暗野を殺す理由になっていないぞ」

 

『キャハハ、ここからはアタシ達が話しますね!実は力也クンは、梢クンと作戦を話し合ってた時点で梢クンを騙して斬良クンを殺すつもりだったのです!』

 

「殺すつもりだったって…どういう事ですか?」

 

『力也クンは、梢クンに作戦を持ちかけられた時、こう考えたのよ!『もしあいつが本当に殺し屋で、誰かの命を狙っているんだとしたら、殺られる前に殺るべきなんじゃないか』って!力也クンは、コロシアイを生き抜く為に梢クンを出し抜いて斬良クンを殺そうとしたのです!力也クンには、そこまでしてでも生きて帰らなきゃいけない理由があったんだよね〜!』

 

「理由って…?」

 

『それについては、こちらのVTRをご覧ください!』

 

そう言ってモノクマは、別の映像を再生し始める。

モニターには、幼い少年と女性が映し出された。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

昔々、あるところに内闘力也という少年がいました。

力也クンは、頭の悪い両親が考えなしに作った子供で、母親は毎日働きもせずに遊んでばかり。そのせいで彼の家は非常に貧乏でした。

当時の彼は、身体が弱く、その上貧乏だったので、近所の子供達からもいじめられていました。

とうとうその生活に耐えられなくなった力也クンは、家を飛び出しました。

路頭に迷っていた彼の前に、彼の師匠と呼べる人物がやって来ました。

彼は大病で引退した元プロレスラーで、力也クンの話を聞くと、飢えていた彼に温かい食事を与えて、周りにいじめられないように格闘技を教え込みました。

幼かった少年にとって、その人物は命の恩人でした。

しかし、その男は病気で先が永くありませんでした。

力也クンは、恩人の病気の手術費用を稼いで恩返しをする為に、教わった格闘技でトップを取る事にしたのでした。

師匠に恩返しをする事、それが彼の生きてここから出なければならない理由だったのです。

ま、その人、既に末期ガンでついこの前ポックリ逝っちゃったんですけどね!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

『うぷぷ…『恩人に会いたい』、何とも陳腐でくだらない動機だよね!そんな動機、こっちはもう見飽きたんだっつーの!』

 

「あーあ、ボクは別に内闘くんに暗野くんを殺して欲しかったわけじゃなかったのになぁ。ボクの言う事を聞かないからこうなるんだよ。生きて外に出る為に殺そうとしたのに逆に殺されるなんて皮肉だよねぇ」

 

映像が終わると、モノクマとモノルナは腹を抱えながら笑う。

モノクマが笑いながら言うと、的凪はわざとらしく言った。

…こいつ、わかってたんだ。

内闘が自分の指示を無視して暗野を殺そうとする事を。

その上でわざと泳がせて暗野に内闘を殺させる、初めからそのつもりだったんだ。

 

 

 

「僕は…『普通』が欲しかっただけなんだ…なのに何で僕が…僕ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだよぉ!!」

 

「暗野……」

 

モノクマから真実を聞かされて、全てを思い出した暗野は、その場に膝をついて泣いていた。

顔は涙でぐちゃぐちゃになっていて、目も当てられない程悲痛だった。

こいつは、望まない才能に人生をメチャクチャにされた。

暗野の才能の一番の被害者は、他の誰でもない、暗野(こいつ)自身だったんだ。

俺は、暗野に何て言葉をかけてやればいいのかわからなかった。

友達なのに、気付いてやれなかった。

気付こうともしなかった。

俺は、その事を今になって後悔した。

今更、もう遅いっていうのに……

 

 

 

「はぁー…この期に及んで被害者面しないでくれる?キミがボク達の仲間を殺した、それはもう起こってしまった事実なんだからさ」

 

的凪は、ため息をつきながら冷淡に言い放った。

こいつ、本当に六道以外ただの踏み台としか思ってないんだな…

俺が的凪に呆れていると、モノクマとモノルナが笑い声を上げた。

 

『うぷぷ、確かにその通りですね!どんな理由があろうと殺人は殺人!じゃあもう尺がないので、そろそろアレいっちゃいましょっか!』

 

「アレってまさか…!?」

 

『キャハハ!皆さんお待ちかね、脳汁500%エクストリームなおしおきの時間だよ!』

 

「いやっ…いやだ!!いやだいやだいやだ!!死にたくない!!ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ゆるして…ゆるしてよぉ!!」

 

「お願いですモノクマさん!暗野さんを殺さないで下さいまし!!」

 

モノクマとモノルナが処刑宣告と言わんばかりに告げると、暗野は泣いて暴れた。

リーゼは、泣きながらモノクマとモノルナに訴えかけた。

俺は…いや俺達は、暗野に投票してしまった。

でも、決して暗野に死んでほしかったわけじゃない。

俺達が暗野に哀れみと後ろめたさのこもった目を向ける中、的凪は冷ややかな視線を向けていた。

 

「どうせ今までも死にたくない人達に理不尽を強いて、そのくせ自分は理不尽から逃げてきたんでしょ?だったら最期くらい逃げるなよ」

 

「うっ…うぅ…うぁあああぁああああああああああ…!!!」

 

的凪が冷酷に言い放つと、暗野は証言台にしがみついて大声で泣いた。

死という逃げられない理不尽に絶望し、子供のように泣き喚く暗野には、裁判で明晰な頭脳を披露していた頃の面影はどこにもなかった。

その姿を見て、神風は制帽で目元を隠し、樺戸と酒蔵は悔しそうに拳を握りしめた。

そんな中、モノクマとモノルナの処刑を告げる声が裁判場に響き渡る。

 

『今回は、【超高校級のヒットマン】暗野斬良クンのために!!スペシャルな!!おしおきを!!ご用意しました!!!』

 

『それでは張り切っていきましょう!!』

 

『『おしおきターイム!!!』』

 

「死にたくない…死にたくない死にたくない!!いやだぁあああああああああああああ!!!」

 

モノクマとモノルナの声が響く中、暗野は泣き喚いていた。

モノクマはピコピコハンマーを取り出して、一緒に出てきた赤いボタンをハンマーで押した。

ボタンに付いている画面に、ドット絵の暗野をモノクマとモノルナが連れ去る様子が映っていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

GAME OVER

 

アンノくんがクロにきまりました。

 

おしおきをかいしします。

 

ーーー

 

 

 

暗野は、首に首輪をつけられると、そのままチェーンでどこかへと引き摺られた。

俺は、咄嗟に暗野に手を伸ばした。

だがその手は、届かなかった。

暗野はそのまま、フェンスで区切られた処刑場へ連れて行かれる。

暗野が処刑場に連れて行かれると、鋼鉄製の扉が閉まり、『処刑中』と書かれたランプが点灯する。

そこで画面上に文字が現れる。

 

 

 

ーーー

 

リカオン被害者の会

 

【超高校級のヒットマン】暗野斬良 処刑執行

 

ーーー

 

 

 

処刑場に連れてこられた暗野は、不安そうに周囲をキョロキョロと見渡していた。

暗野が不安そうに頬から汗を流していると、背後からガコン、という音が聴こえる。

振り向くと、鋼鉄製の扉が上へスライドし、その奥からモノルナが操縦するブルドーザーが迫ってくる。

モノルナは嬉々とした表情でブルドーザーを操縦しており、ブルドーザーには鉄球やガトリングガン、丸鋸などの物騒な武器が装備されていた。

巻き込まれれば助からないのは確実だった。

暗野は、慌てて前を向き直して走り出した。

 

暗野の目の前には、鋭い棘が一面に敷き詰められた道が続いている。

暗野は引き返そうとしたが、後ろからはモノルナの操縦するブルドーザーが迫っていた。

暗野は、覚悟を決めて一歩踏み出した。

すると暗野の靴底に棘が貫通し、足の裏に棘が刺さる。

足からは血が流れ、暗野はあまりの激痛に泣き喚く。

その後ろでは、棘のせいで上手く進めないのか、モノルナがガタガタと揺れるブルドーザーを操縦しながら若干苛ついていた。

だがモノルナは、暗野を痛めつけようと武器を伸ばしてくる。

暗野は、何とか生き残ろうと泣きながら棘だらけの道を進む。

 

暗野が激痛に顔を歪めながら数歩歩いた頃、ギャアギャアと喧しい声が聴こえてくる。

道の両側には、観客席が設置されていた。

観客席には、暗野が殺した人達のコスプレをしたモノクマがいた。

よく見るとモノクマは、自分がコスプレをしている人物の死因となった凶器を手に握っていた。

モノクマは、泣きながら棘だらけの道を歩いている暗野に狙いを定めると、左眼を光らせてニヤリと笑う。

そして次の瞬間…

 

投げた。

一匹目のモノクマの投げたナイフが、暗野の肩を抉る。

ナイフを投げられた暗野は、泣き叫びながら許しを乞う。

だが一匹目のモノクマがナイフを投げたのを皮切りに、他のモノクマも次々と暗野を攻撃し始める。

主に刃物で殺されたモノクマは自分が殺されたのと同じ刃物を投げ、銃で心臓を撃ち抜かれたモノクマは自分が撃たれたのと同じ銃で狙撃した。

モノクマが攻撃する度に、暗野は泣き叫びながら血飛沫を上げる。

 

次から次へとモノクマの攻撃を喰らった暗野は、胸には槍が刺さり、満身創痍で、もはや叫ぶ気力すらなかった。

大量の血が剣山の道を赤く染め、もはや生きているのが不思議なくらいだった。

ようやく棘の無い場所まで辿り着いた暗野は、地面を這いつくばりながら助けを求めるように前へと手を伸ばす。

だがその手は、誰にも届かなかった。

 

暗野がゴールまであと少しという所まで辿り着いたその時、ペンダントが落ちて転がっていく。

そのペンダントは、俺が昼間にプレゼントしたペンダントだった。

暗野は、最後の力を振り絞って落としたペンダントの元へと這いずっていく。

暗野は、ペンダントを拾い上げると、それを眺めながら静かに涙を流した。

暗野が胸元でペンダントを握りしめた、次の瞬間。

 

 

 

グシャッ

 

 

 

ブルドーザーが、暗野の身体を叩き潰した。

モノルナは、退屈そうにあくびをしながらブルドーザーを前へと操縦する。

するとその途中で、ブルドーザーがガクッと大きく揺れる。

だがモノルナは、ブルドーザーの揺れもさほど気に留めずに操縦を続けた。

そのままブルドーザーはゴールへと辿り着き、ブルドーザーが通った後には潰して引き摺ったような血痕が一直線に残っていた。

 

 

 

 

 

『『エクストリィィィイイイイイイイイイイム!!!!』』

 

モノクマとモノルナは、暗野が殺されたのを笑いながら見ていた。

 

「キャアアアアアアアアッ!!!」

 

「うわぁあああぁあああああん!!もう嫌ぁあああ!!」

 

「マジかよ…うぅっ、うげぇっ…」

 

「キラァアアアアアア!!!」

 

「下衆め…っ」

 

「何という事でしょう……」

 

リーゼは顔を真っ青にして叫び、神無月は大泣きしていた。

酒蔵は顔を青くして吐き気を催し、樺戸は涙を流しながら叫んだ。

安室は顔色を悪くしつつもモノクマとモノルナを睨み、梶野は珍しくポーカーフェイスを崩して呆然としていた。

 

「趣味悪すぎ…」

 

「酷い事するわね」

 

「こいつら…暗野の死を見せ物にしてるな」

 

「こんなんじゃ成仏できないよ」

 

「あんの……」

 

打田、薬師寺、神風はモノクマとモノルナを睨み、消灯寺や六道もおしおきに嫌悪感を示していた。

氷川は、気分を悪くして今にも失神しそうになっていた。

俺は…ただ黙って暗野が殺されるのを見ている事しかできなかった。

俺は…どうすれば良かったんだろう。

 

『いやー、スッキリした。やっぱりビールとアレとおしおきは生に限るね!』

 

「お前ら…何もここまでする事なかっただろ!?」

 

『うぷぷ…ボクは言ったはずだよ?学級裁判に負けたらおしおきだって。暗野クンはゲームに負けたからおしおきしました!それだけです!』

 

モノクマは、悪びれずに笑いながら言った。

これは、殺人を犯したクロへの断罪なんかじゃない。

ゲームの敗者への罰、俺達への見せしめなんだ。

 

『キャハハハ!無事学級裁判を生き残ったアンタ達には、モノクマメダルを差し上げますので、お好きに使いやがってください!じゃ〜ね〜!』

 

そう言ってモノルナがステッキを振ると、モノクマとモノルナが星になって消える。

すると、奴が退屈そうに口を開く。

 

「ふぅ、やっと終わった。それじゃあ帰ろっか、千春ちゃん」

 

的凪は、薄ら笑いを浮かべながら六道に声をかけた。

すると酒蔵が的凪を睨みつけながら声を荒げた。

 

「ふざけんな!!てめぇも処刑だ!!」

 

「ん?ボクはおしおきされないよ?だって、ボクは誰も殺してなかったんだもん」

 

酒蔵が声を荒げると、的凪は飄々とした態度で言った。

悪びれずに言う的凪に対して、樺戸は涙を流しながら怒鳴りつける。

 

「こんちくしょうが…!ゆかとリキヤとキラを返せよぉ!!」

 

「いやいや無理だって。死んじゃったし。それにしてもホント間抜けだよね。充電ケーブルで感電して死んじゃうなんてさ。まあ、そのおかげでボクがクロにならずに済んだんだけどさ」

 

「てめぇ…」

 

「いやぁ、本当にラッキーだなぁ!千春ちゃんの為に消したい奴等を全員排除できて、その上その死に様をこの目で見られるなんて…願ってもない幸運だよぉ!」

 

的凪は、恍惚とした表情を浮かべながら言った。

山脇が事故死した事で的凪がおしおきを免れたのは、的凪にとっては想定外だった。

的凪が排除しようとしていた山脇、内闘、暗野の三人は全員死んで、的凪だけが生き残った。

あいつにとって最高の結末になってしまった。

ホント、何なんだよあいつ…!

 

「ねえ千春ちゃん、キミの為に部屋を開けといてあげたからさ。今日は綺麗な客室でゆっくり休みなね」

 

「うるさいだまれちはるおまえきらい」

 

的凪が恍惚とした表情で六道に話しかけると、六道はぎゅむっと眉間に皺を寄せながら的凪を罵倒した。

すると的凪はさらに上機嫌になった。

 

「ふふっ、不機嫌なキミもかわいいよぉ千春ちゃん!じゃあボクはお邪魔みたいだから先に帰るね。ああ、そうそう東野くん。空き部屋できたし好きに使っていいよ」

 

そう言って的凪は、ヒラヒラと手を振りながらエレベーターに乗り込んだ。

するとしばらくして、打田もエレベーターに乗り込んで帰って行った。

 

「あたしも帰る」

 

的凪と打田が去り、俺達だけが残った。

六道は、暗野の証言台の前で立ち止まっていた。

 

俺は、湧き上がりそうになる感情を必死に抑えていた。

六道は何も悪くない。

全部、的凪がやった事だ。

だから…山脇や内闘、暗野が死んだのは…六道のせいじゃないんだ。

 

「お、お前のせいじゃないからな…」

 

俺は、沸き立つ感情を抑えながら、六道に声をかけた。

六道は、自分に興味を持った的凪があんな事をした事に対して責任を感じているのかもしれない。

だったら俺が慰めてやらなきゃならない、そう思った。

だが……

 

「しってる」

 

「!」

 

「もう死んだ奴の事気にしてる暇があったら前だけ見てろ。蟻を踏み潰す事を躊躇って立ち止まってたら、前に進めないだろ」

 

六道は、珍しく真剣な表情を浮かべながら言い放った。

六道もエレベーターに乗り込み、他の皆もエレベーターに乗り始めた。

俺は、遺影に向かって成仏できるように祈っている消灯寺に話しかけた。

 

「あのさ、消灯寺。あいつらが何を考えてるのか…教えてくれないか?」

 

「……いいけど」

 

消灯寺は、三人の証言台をじっと見つめた。

俺は今まで、幽霊や呪いの類を信じた事はなかった。

ただ、どういう手段であれ、あいつらがどういう思いで死んでいったのか、それを知りたいと思った。

三人の霊が見えたのか、ポツポツと話し始める。

 

「山脇さんは、まだ自分が死んだ事を受け入れられていないみたい。自分の証言台の前で悲しそうな顔をしてる」

 

「……そっか」

 

「暗野君と内闘君は……僕達を裏切った事を後悔してる。何度も『ごめん』って謝ってる」

 

「………暗野。俺は…」

 

「東野君、暗野君こっち」

 

「あ、ああ悪い」

 

俺は、改めて暗野に声をかけようとした。

でもいざ言おうと思うと、何て言葉をかけて良いのかわからなかった。

俺は…どうすれば皆を助ける事ができたんだろう。

 

…あれ?

何か、頬を伝うものが…

これは…涙……?

……そっか。

友達を失うって、こんな気持ちになるんだな。

 

山脇、内闘、暗野…

ごめん、止められなくて。

 

俺、生きるよ。

お前らの分まで生きるから…

だから、もう少しだけ見守っていてくれ。

 

 

 

 

 

Chapter.1 いけにえと雪のカルテット ー完ー

 

Next ➡︎ Chapter.2 希望のためなら死ねる

 

 

 

《アイテムを入手した!》

 

『クマのペンダント』

 

Chapter1クリアの証。

暗野の遺品。

東野が彼に渡した最期のプレゼント。

暗野にとっては、友達と過ごした最初で最後の思い出となった。

 

 

 

 

 


 

 

 

ーーー 生存メンバー ーーー

 

【超高校級の小説家】東野(ヒガシノ)(ジュン)

 

【超高校級の司令官】神風(カミカゼ)大和(ヤマト)

 

【超高校級の軍医】薬師寺(ヤクシジ)療香(リョウカ)

 

【超高校級のオルガニスト】リーゼロッテ・ベルゲングリューン

 

【超高校級の原型師】安室(アムロ)明日奈(アスナ)

 

【超高校級の心霊学者】消灯寺(ショウトウジ)霊庵(レイアン)

 

【超高校級のディーラー】梶野(カジノ)運命(サダメ)

 

【超高校級のカルタ師】神無月(カンナヅキ)(モミジ)

 

【超高校級のグラシエール】氷川(ヒカワ)みるく

 

【超高校級のソムリエ】酒蔵(サカグラ)飛露喜(ヒロキ)

 

【超高校級のカバディ選手】樺戸(カバド)ラムジ

 

【超高校級の狙撃手】打田(ウチダ)清美(キヨミ)

 

【超高校級の幸運】的凪(マトナギ)(コズエ)

 

【超高校級のゲームプログラマー】六道(ロクドウ)千春(チハル)

 

ノコリ14人

 

 

 

ーーー 死亡メンバー ーーー

 

【超高校級のギャル】殉前(ジュンマエ)詩乃子(シノコ) Prologue 見せしめ

 

【超高校級のプロレスラー】内闘(ナイトウ)力也(リキヤ) Chapter.1 シロ

 

【超高校級の絵本作家】山脇(ヤマワキ)ゆか Chapter.1 シロ

 

【超高校級のヒットマン】暗野(アンノ)斬良(キラ) Chapter.1 クロ

 

以上4人

 

 

 

 

 

推しがいたら教えてくんなまし

  • 東野潤_小説家
  • 暗野斬良_???
  • 殉前詩乃子_ギャル
  • 神風大和_司令官
  • 薬師寺療香_軍医
  • リーゼロッテ_オルガニスト
  • 安室明日奈_原型師
  • 消灯寺霊庵_心霊学者
  • 山脇ゆか_絵本作家
  • 梶野運命_ディーラー
  • 神無月椛_カルタ師
  • 氷川みるく_グラシエール
  • 酒蔵飛露喜_ソムリエ
  • 樺戸ラムジ_カバディ選手
  • 内闘力也_プロレスラー
  • 打田清美_狙撃手
  • 的凪梢_幸運
  • 六道千春_ゲームプログラマー
  • モノルナ_引率教師
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